シャ・ベ クル

うてな

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人間ドール開放編

第二十九話 部長は今日休みです。

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 ロディオン達は高等部の放課時間、橙華の姉である白華の元へ向かった。
二人は双子な為、同じ高等部の教室にいる。
彼女の教室前まで来ると、そこでは橙華が待っていてくれていた。

「やっほーロディオン!」

「やっほ!」

ロディオンが挨拶をすると、橙華と共に教室を覗く。

「どこ?」

ロディオンが聞くと、橙華は

「ここ~」

と目の前を指す。
ロディオンはすぐ手前の席を見ると、そこには白髪の少女が座っていた。
入口から一番手前の席にいる為、背の高いロディオンの視界に入らなかっただけの様だ。

アルビノ特有の白髪、ふわっとしたショーットヘア、
白い肌、赤い瞳。彼女はロディオンを見て萎縮しているのか、何も話さない。
そんな彼女を見かねたロディオンは優しく微笑み、白華と同じ視線までしゃがむと言った。

「はじめまして、俺はロディオンって言うんだ。君が橙華のお姉ちゃんの白華だね。」

白華は俯いてしまい、何も答えてくれない。
ロディオンは心配して

「大丈夫かい?」

と手を伸ばすが、その手を拒否されてしまう。
あまりの警戒心にロディオンは一歩下がって様子を見ていると、次はセオーネが前に出た。

「私達、シャ・ベ クルの部員です。妹さんから白華さんの悩みを解決して欲しいと依頼があったので、ここまで来ました。
…あまり人数がいるとお話ししにくいでしょうか?」

優しく話しかけるセオーネに、白華は顔を上げてセオーネを見た。

「シスターさん……?」

白華は震えた声でそう呟くと、セオーネは優しく笑いかける。

「はい。」

それを聞いた白華は、鞄に荷物をまとめて立ち上がった。
ロディオンは笑顔を見せると、白華はやはりロディオンと目を合わせたがらない。
ロディオンは苦笑してしまうと、善光は鼻で笑ったのだった。



 それからシャ・ベ クルの部室へ招待すると、橙華は言った。

「白華がストーカーに遭ってるのは聞いたでしょ?警察に言おうとしても、白華は嫌がるのよね。」

ロディオンが「なぜ?」と白華に聞こうと歩み寄るが、セオーネがそれを止める。
ロディオンはセオーネを見ると、セオーネが代わりに言った。

「なぜ、警察の手を借りたくないのですか?」

「…人に…監視されるの嫌……」

白華はそう言ったが、すぐに怯えた顔を上げてセオーネに向けて言う。

「男はみんな私の事見てくるの…!嫌な目で…!怖くて……!」

すると善光はロディオンに

「だってよ、セクハラ部長。」

と言うと、ロディオンは苦笑した。

「善光?そう言う事は男嫌いな人の前で言う言葉じゃないぜ?」

白華はそれを聞いていたのかサラッと口にする。

「ここの部長は、橙華のセフレだったし…女をそうとしか見てないのよね…。」

ロディオンは難しい顔をしてしまうと、セオーネは白華と距離を詰めた。
白華はセオーネを見ると、セオーネは言う。

「男性が怖いのでしたら、私が護衛いたしますよ。これでも力には自信があります。」

その言葉に白華は目を輝かせると、橙華は笑顔になった。

「お!じゃあよろしくしてもいい?」

セオーネは頷くと、白華はやっと微笑んだ。

「セオーネさん…怖い感じがしません。そこの青い人もですけど、女性の怖さがないというか…。
あ、眼鏡の方も、男性特有の視線ではない感じがして、安心できます…。」

ロディオンは苦笑した顔が歪みかけると、その場から一歩引く。
橙華は笑ってしまうと言った。

「上郷先輩は女に興味ないからね。ロディオンは男女ともに興味津津だから怪しまれるのかな?」

ロディオンは涙目になって部室の端に移動してしまうと、

「あっ…今回俺の出番じゃないわ…」

とショックを受けた様子で縮こまる。

「いつもうるさすぎだからこのくらいが丁度いいな。」

と善光が素直な感想を言ってしまうので、ロディオンはショックを受けてしまう。
それに白華がクスクスと笑ってしまうので、ロディオンは更にショックを受けた。

「ストーカーの特徴は?」

善光が聞くので、白華はすぐに落ち着いて言った。

「男性です。体つきが良くて、口にピアスをつけて、肩に龍の刺青をして……とにかくとっても怖い容姿をした男性なんです…!」

セオーネは真面目な顔になり

「なんだか、裏のありそうなストーカーさんですね。」

と言うと、善光はロディオンに言う。

「おーい、人脈の広い部長さん?そういう男性と知り合いだったりするか?」

ロディオンも急に真面目な顔をして考えると言った。

「俺の知り合いでは居ないな。ただ、ガタイが良くて刺青となると、危ない組織についてる人である可能性が高い。刺青入れた知り合いの多くが暴力団関係だからな。」

善光はそれを聞くと顔を引き攣る。

「お前、八九三と仲良くしてんのか…?」

「アハー!殆どがセフ…」

と言ったところでロディオンは黙り込む。
白華の冷たい視線が刺さったため、ロディオンはそれ以上口に出す事はなかった。

「前々から言おうと思ってたけど、お前はあんまり売る行為はやめろよな。お前の兄貴も心配するぞ。」

ロディオンは善光の言葉に思い切り眉を潜めてしまうと、

「あーっ!」

と突然ではあるが声を上げてしまう。
一同が目を丸くしてロディオンを見ていると、ロディオンはムスっとした顔をして言った。

「ごめんムラムラが限界だ!俺今日はパスします!みんなあとはよろしくぅ!」

そう言って部室を後にするので、セオーネは戸惑って「え…?」と状況を掴めていない。
瑠璃は相変わらずな為、急いでロディオンを追いかけた。
善光は溜息をつくと

「ま、いいんじゃないか。アイツの出る幕ないのは確かだし、俺達でなんとかしよう。」

と言う。

「はい…。」

セオーネはロディオンを案じてか顔に不安を浮かべるので、橙華は笑顔を見せた。

「大丈夫よ!ロディオンには青い子がいるから大丈夫!早速白華を一人で帰宅させるから、ストーカーが来たら捕まえて頂戴!」

セオーネはそれに対し慌てて

「あっはい!」

と返事するので、白華は帰る準備を始めるのであった。



 ロディオンは学園の外に出ていて、そわそわした様子で学園の門前をウロウロしている。
瑠璃はロディオンの後ろをつけながらも

「どうしたラディオン。」

と聞くが、ロディオンは珍しく不機嫌な表情を浮かべる。

「なんでお前はいっつも俺についてくるんだよ。たまには一人にさせてくれ。」

「やだ、仲間外れにされて落ち込んでたくせによく言う。」

瑠璃の言葉にロディオンは深く溜息をつくと、門に寄りかかって黙り込んだ。
数秒後、瑠璃に言う。

「お前がついてくるだけで俺のプライベート台無し。
最初はあんま気になんなかったけど…誰に会おうとしてもいっつも傍にいて、正直自由が縛られて迷惑なんだよ…。」

それでも瑠璃は平気そうな顔をしており、ロディオンの後ろにいるのをやめない。
ロディオンは再び深い溜息をつくと、

「ポポフ?」

と若い男性がロディオンに声をかけてきた。
その男性はこの学園の守衛で、いつも学園を警備している。
ロディオンはその守衛を見ると、不機嫌な顔を変えて守衛に抱きついた。

「うおっ!ロディオン!人前でいきなり抱きつくな!」

ロディオンはそれでも離れない。

「守衛さん、お仕事終わったら用事無い?家に泊まりたい。」

守衛はその言葉に頬を赤くすると、戸惑った様子で言った。

「ろ、ロディオンから誘われるとは思わなかった…!いいよ、空いてるけど…」

守衛はそう言うと、ロディオンの顔色を伺う。
ロディオンは曇った顔をしており、守衛はそんなロディオンが心配になった。
守衛はロディオンの頭を優しく撫でると、抱きしめ返してくれる。

「ほらほら、大丈夫だから。帰ったら沢山愚痴でもなんでも聞いてやるから。」

ロディオンは守衛に下手な笑みを見せると、

「…ありがとう。」

と感謝した。
二人のムードに瑠璃は不機嫌な顔を見せると

「ラディオン!お前気持ちが悪いぞ!」

と文句を言うので、ロディオンは瑠璃に

「うるさい。どっかいけ。」

と冷たくあしらった。
瑠璃はムスっとしてロディオンを見つめると、守衛は言う。

「えっと…この子は?」

ロディオンはその問いに素っ気なく言った。

「宇宙人。」

「へ?」

守衛はポカンとするが、ロディオンはそれ以上何も言わないのであった。
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