シャ・ベ クル

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人間ドール開放編

第三十話 ダブル・デ・ストーカー

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 白華は一人で帰宅路を歩いていた。
セオーネは変装して白華の後をつけながら、ストーカーらしき人を探している。
橙華と善光は先回りで家に行っているらしい。
セオーネは白華を追いかけて電柱に身を隠そうとすると、一人の男性とぶつかる。

「あ、すいません!」

セオーネは言うと、相手の男性であるおじさんは

「あ、いえいえ。」

と言って電柱に留まる。
奇遇にもセオーネも電柱に留まっていたので、二人は顔を見合わせた。
お互いに愛想笑いをすると、白華が遠くに行ってしまうのが目に入る。
セオーネは慌てて次の電柱に身を潜めたが、また人の気配を感じた。
そう、ぶつかったおじさんが隣にいるのだ。
隣のおじさんは驚いた様子で、また二人で顔を見合わせてしまう。

(まさか彼女を狙っている不審者…?)

と思いつつ、セオーネはおじさんの見た目を確認する。
しかしおじさんは口にピアスをしていなければ、体つきがいいとも言えない。
刺青があるはずの肩は服の袖で見えないのだ。

(人違い……?)

だとしても、白華の後をつけているのは間違いないのだ。
すると、おじさんは言う。

「君も、あの白い子を追いかけているのかい?」

「え…」

セオーネは言うと、おじさんは微笑んだ。

「あの子可愛いよね。おじさんもつい追いかけてしまうんだ。」

それを聞いたセオーネは、口をへの字にしながらもおじさんの両腕を拘束した。

「な!?何をするんだね君!」

「つ、捕まえました…!」

セオーネの言葉に白華が駆けつけると、おじさんを見て首を傾げてしまう。

「この人…じゃないです。」

セオーネは「やはり。」と思わせる顔でおじさんを離すと、セオーネはおじさんに言った。

「彼女はストーカーされて困っているんです。今回は見逃すので、もうやめてもらってもいいですか…?」

おじさんは何度も頷くと

「わ、わかったよ!警察に突き出されるのだけは御免だから…!」

と言う。
そしておじさんを解放すると、おじさんは何度もお辞儀しながらも去っていった。
白華はセオーネに微笑むと言う。

「ありがとうございます。私の知っている人ではなかったけれど…こうして捕まえる事ができたのは、セオーネさんのお陰です。」

セオーネは照れて頬がピンク色になる。

「いえいえ!ですが、まだ犯人が捕まっていませんからね!極力外を出歩かない方がよろしいかと!」

白華はそれに対し、少し考えるとセオーネに言った。

「あの、今夜近くのレストランでパーティーがあるんです。是非セオーネさんも…来てくださると嬉しいです…!」

恥ずかしいのか顔を赤くして白華が言うと、セオーネは笑顔を見せて頷く。

「勿論です!精一杯お守りしましょう!」

白華はセオーネの頼もしさに安心すると共に、セオーネが来てくれるのが嬉しいのか笑顔になっていた。



 ニコライはスナックにて、ターゲットの情報をペラペラと見ている。
片手には焼肉のたれのカクテル、カクテルの傍には火の点いたタバコが細い煙を伸ばしていた。
ニコライは何枚か情報を間引くので、ラズベリーは目を丸くしてニコライを見ていた。

「何をしてるの?ニコライ。」

ニコライはラズベリーの方を見ると微笑み、間引いた情報にある写真を見せる。
どれも美しい容姿を持った人達だ。

「人形の材料にしたら面白い。殺すの勿体無いと思っただけ。」

ラズベリーはその話に首を傾げると、ニコライに聞く。

「そう言えば、ニコライは故郷では何の仕事をしていたの?」

ニコライは情報を一枚一枚確認しながらも言った。

「人間で人形を作る仕事。儲かる。」

するとラズベリーは驚いた顔を見せる。
ニコライはその顔に気づかずにいると、ラズベリーは言った。

「あなた、そんな仕事してたのね。
あなたが間引いたターゲット、全部人形の業者関係が捕まえるよう依頼してきたものよ。」

それにニコライは笑ってしまうと

「見る目のあるな、依頼主。」

と言って、間引いた情報に再び目を通す。

「殆どが誘拐依頼ばっかり、つまらない世の中ね。もっと派手にいかないと。」

ラズベリーの小言を、ニコライは情報を見ながら聞いている。
その時だ、スナックに一人の男性が入ってきた。
体つきの良い、口にピアスをした、肩に龍の刺青をした男性である。
彼はヤクザの一人だ。

「あらどうしたの?帰りが随分早いじゃない。」

とラズベリーは聞く。
するとその男性は、一枚の写真を出して言った。

「今日はターゲットに護衛がついててさ。しかもこれ、ロッキーが狙ってるセオーネってヤツじゃないか?ターゲットが二人も集まってる。」

そう言って男性は笑うと、ニコライはその写真を見た。
セオーネと白華が写っている写真である。
ラズベリーは微笑むと

「セオーネって女は強者らしいわ。ロッキーでも手こずるのよ、今日の引きは賢明な判断ね。」

と男性に言い、男性は笑った。

「だろ!」

するとニコライは呟いた。

「セオーネちゃん。」

「知り合い?」

と反応する男性に、ニコライは頷く。
ニコライは写真を持つと、口角を上げてラズベリー達の方を見た。

「弟と幼馴染。必要なら、近づける。」

その様子にラズベリーはポカンとして、男性は逆に喜ぶ。

「おう!これなら暗殺できそうだな?ラズベリーの毒薬さえあれば、あとは近づいて殺すだけだろ?」

ラズベリーは言った。

「ニコライ、自分の弟の幼馴染を殺せるの?」

ニコライはそれを聞くと首を傾げそうになる。

「弟ならできない、だけど、友達だ。セオーネちゃんは人形の素質があると思ってた。」

ラズベリーはその様子に笑ってしまい、それから言った。

「流石よニコライ。これでこそ私達が見込んだ男、きっと立派になれるわ。」

続けて男性も言う。

「ターゲットはこの白い女だ。この女、今夜パーティーに出席するんだと。
ニコライ、丁度いい機会だし試しに一緒に行ってみるか?」

それを聞いたニコライは真面目な顔をした。

「いいぞ。だけど、お前は今夜来るな。」

「はぁ!?」

と男性が言うと、ニコライはセオーネと白華が写っている写真を見せる。

「これは弟の仲間。つまり、女がいるのは依頼された可能性が高い。依頼内容はわからない。でも、こちらを知られてる可能性ある。だから、お前は来るな。」

男性はそれに黙ってしまうと、ラズベリーは言った。

「じゃあロッキーとニコライで行ってくる?いつも二人とも仲良くしてるじゃない?チームプレイといきましょうよ。」

ニコライは無表情になると

「ちーむぷれい…?」

と言うのだった。



 そして夕方、ロディオンは守衛の家に来ていた。
瑠璃も一緒にお邪魔していて、守衛である男性は冷蔵庫から飲み物を取り出した。

「ロディオンはいつも通りオレンジジュースでいいか?瑠璃ちゃんもどう?」

「水!」

瑠璃はそう言い、ロディオンは苦笑。

「守衛さん、瑠璃はジュースよりただの水の方が好きなんだ。水でもあげてくれ。」

守衛は笑うと

「わかったよ。今持ってくるから待っててね。」

と言って食器棚に向かった。
ロディオンは私服の守衛と、家の様子を見ると微笑んでしまう。
瑠璃はロディオンの顔を見ると言った。

「今夜は善光の家に帰らなくていいのか?」

それを聞くとロディオンは表情を暗くして呟く。

「善光には悪いけど…今日は無理。上手に笑えない気がする。」

お互いに沈黙が続くと、瑠璃は言った。

「お前、いっつも男でも女でも手を出して…そうやっていつも気を紛らしているのだろう、孤独を。」

それを言われると、ロディオンは瑠璃を嫌な人を見る目で見る。

「…なんでそんな事を言うんだ?」

瑠璃はそれに黙ってしまうと、守衛がやってきた。

「ロディオンは人肌が恋しいだけだよな?」

守衛がそう言うので、ロディオンは「えっ」と言った。

「違うの?」

と守衛は言いながら瑠璃とロディオンに飲み物を渡すと、ロディオンは微笑む。

「守衛さんは優しくて、本当のお父さんって感じがするから好き。」

「本当にそう思ってくれてるー?」

冗談交じりに守衛が笑うと、ロディオンは下手な笑顔を見せた。
守衛はそんなロディオンを見かねて「何かあった?」と聞こうとしたが、ここで守衛の家の電話が鳴る。
悪いタイミングな為、守衛は顔をしかめて電話に出た。

「もしもし」

と守衛が言うと、電話の内容を聞いて表情を変えた。

「え!?パーティー会場の警備を交代して欲しいって?学園主催のパーティーだから…?えぇ…」

そう言って守衛はロディオンの方に視線を向けた。
ロディオンは察したのか言う。

「いいよ、お仕事大事。俺の事は気にしないで。」

守衛は真剣な顔でロディオンを見た。

「でも俺…ロディオンと一緒に居たい…!」

ロディオンはそれを聞くと顔は微笑んでいたが、どこか虚しそうにしている。

「お仕事してる守衛さんを見るの、俺は好きだよ。
…あ!パーティー会場って言わなかった?俺も一緒に行くよ!守衛さんのお手伝いする!」

そうロディオンは笑顔で言うので、守衛は少し黙ってから再び電話に出た。

「わかった。出る準備が出来たから交代するよ。」

そう言って電話を切り、すぐに出発の準備を始める。
ロディオンもバッグを背負うので、瑠璃も水を飲み干すと立ち上がるのであった。
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