シャ・ベ クル

うてな

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人間ドール開放編

第三十一話 今宵はパーティー。

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 その日の夜。
とあるレストランではパーティーが行われていた。
このパーティーは夢の島学園が開いたもので、夢の島学園の部活動で優秀な成績を収めた生徒が祝われるパーティーだ。
会場は洋風で、広く無駄に豪華である。
ちなみに白華と橙華とセオーネは一緒に行動している。

「夢の島学園パーティーなんですね。部活の打ち上げみたいなものでしょうか?」

セオーネが言うと、橙華は頷いた。

「そうよ!去年の部活動で優秀な成績を収めた生徒達を今頃祝っちゃうパーティー!
とは言いパーティー開くのに学園主席のロディオンの許可が必要だったから、開くの遅れただけなんだけどね。」

その言葉にセオーネは首を傾げると、橙華は更に言う。

「ロディオンは暇さえあればどっか遠くへ旅してるのよ。だから学園にいる方が実は珍しかったりするの。
今はここに居座ってる方よ?いつもは数週間でどっかに飛んじゃうんだから!」

セオーネは驚いた表情をすると、再び首を傾げた。

「ロディオンは十八から日本に来てますよね。
たった一年で学園主席になって…更には遠くを旅してるって、かなり器用というか…」

「アイツ天才だからね!高校生の時点で優秀だったから、大学生になった瞬間に主席入りだったわ。
付き合い長いから結構わかるわよ~ロディオンの事!」

橙華は得意気に話すので、セオーネは納得する。

「ロディオンは旅をするのが好きなんですね。」

セオーネは微笑むと、橙華は言った。

「まあね。ロディオンは同じ人と長く関われないみたいで。人から逃げる為によくどっかにに飛ぶんだって彼の別のセフレから聞いた事あるよ。」

「え…?」

セオーネは首を傾げると、橙華は笑う。

「おかしいよね。人と関わらないと気が済まないロディオンが、人から逃げる為に旅に出てるなんてさ。私にはわかんないなー!」

セオーネはロディオンを心配したのか、表情が浮かない。
橙華はパーティーテーブルの豪華な食事の内、一つをつまむと言った。

「ちょっと飲み物取ってくるー。白華もおいで!」

「うん…!」

白華は慌てて橙華を追いかけるので、セオーネはそれを微笑ましく見ていた。
会場の様子をセオーネは見ていると、なんと会場でロッキーを発見してしまう。
ロッキーは誰かを探している様子だった。
ちなみにロッキーの傍にはメイクで変装をしたラズベリーもおり、一緒に誰かを探している。

「アイツどこ行ったんや…!仕事中に仲間の迷子探しする事になるとは…!」

ブツブツと文句を言っていると、セオーネが視界に入るロッキー。

「げっ…!」

さり気なくその場を立ち去ろうとするが、セオーネに既にロックオンされていた。
セオーネはスイッチが入ったようにロッキーを追いかけ、ロッキーはセオーネから逃げるのであった。
ラズベリーは気づくと、ロッキーが立ち去っている事に気づき溜息をつく。

「ロッキーもどこに行くのよ…。ニコライを見つけたのかしら?」

白華と橙華は飲み物を受け取りに、ドリンクが提供されているテーブルまで移動する。
すると、そこにはニコライが立っていた。
どうやら興味があるらしいが、飲み物の名前が書いてある文字が読めない様子。
ニコライは着用していたサングラスを下にずらして読もうとしてはいるが、残念ながら片仮名や漢字はまだまだである。

「あの。」

と橙華が話しかけると、ニコライは「おお。」と言った。

「この飲み物はなに?」

その質問に橙華は目を丸くすると

「炭酸です。美味しいですよ。」

そう言ってまずは自分が炭酸ソーダを貰う。
それをニコライに渡し、ニコライは一口飲むと笑顔になる。

「これは凄い!日本は素晴らしい国!ご飯も美味しいです!」

橙華はその言葉に首を傾げた。

(言葉がちょっと不自由ね…海外の人かな?)

橙華は改めてニコライの容姿を見て、息を呑む。

(かっこいいかも…!)

しかし、白華はこれまでにないくらいの怯えた顔で橙華の後ろに隠れてしまった。

「橙華!この人は嫌…!早く離れよう?」

「ちょ!失礼でしょ!
ごめんなさい!この子、人を見た目で判断しちゃうんですよー!男性が大の苦手で…!」

それを聞くとニコライは微笑む。

「邪魔なら退散します。」

ニコライはそう言って二人の前を通り過ぎると、白華にさり気なく言った。

「その顔、綺麗な顔が台無しだ。」

白華はその言葉に鳥肌を感じ、震えてしまう。
橙華はその様子に参ってしまうと言った。

「本当に大丈夫?白華?何か言われたの?」

白華は震えながら頷くと、橙華はニコライがお手洗いに行ったのを見てから白華に言う。

「ここで待ってて、少し話してくるから。」

「あ…!」と白華は止めようとしたが、既に橙華は小走りで向かっていた。
恐怖で足が動かないのを悔やみながら、白華は思う。

(あの人…凄く怖かった…。モノを見る様な目だった…!)



 橙華はお手洗いの方に向かうと、ニコライは男性用トイレと女性用トイレの前で考え事をしていた。

「どうしたの?」

橙華はその理由が気になってまず始めに聞いてしまうと、ニコライは言う。

「男のトイレはどちらですか?」

ここのトイレは少し特殊で、男性用と女性用のトイレのマークが書いておらず英語なのだ。

「こっちですよ。この文字は英語なんです。あなたは海外の方ですか?」

橙華が聞くと、ニコライは微笑む。

「はい、ソビエトから来ました。教えてくれてありがとう。」

そう言ってニコライは男性用トイレに向かうと、橙華も男性用トイレに入っていく。
ニコライは鏡の前に来ると、一度サングラスを外していた。
橙華が視界に入るので、ニコライは言う。

「あれ、君は男?」

ニコライは素で言ってしまうと、橙華は笑った。

「いいじゃない!女が男性のトイレに入ったって捕まんないし!」

「ふーん…」とニコライは髪型を整える。
橙華は

「オシャレさんなんですね。」

と聞くと、ニコライは答えた。

「お洒落にうるさい先輩がいた。」

橙華はニコライの隣まで来ると、鏡越しにニコライの目を見た。

「わお…綺麗。」

橙華は見とれてしまうと、ニコライは橙華の顔を見る。
橙華はニコライの目を直で見ると、更に感嘆の声を上げた。
黙って見つめ合っていると、ニコライは橙華の顎を持つ。
橙華はそれに小さく反応した。
それからなぞる様に頬を触られると、橙華は赤面してしまう。
次にニコライは橙華の手を持ち、肌を見つめた。

「…いい肌質。」

橙華はニコライの強い視線に惹かれて何も聞いていなかったが、ニコライはそう呟いた。
それからニコライはサングラスを再び着用。

(ファンになっちゃいそう…!)

そう橙華は思っていると、

「顔に化粧してると勿体無い、その肌。」

とニコライはトイレを立ち去っていった。
橙華は呆然とニコライの後ろ姿を見つめると、何かを思い出す。

「あれ、でもあの顔と言いあの後ろ姿、どっかで見た事ある気が…。うーん、そんなわけ無いわよね。」



 パーティー会場の廊下では、ロディオンが守衛と一緒に警備をしていた。
ちなみに付録に瑠璃もついている。

「中で参加しないのかロディオン。人と関われば、少しはロディオンの気分も変わるかもよ?」

守衛が言うと、ロディオンは笑った。

「もー!この賑やかな雰囲気で悪い気分吹っ飛んだよ~!」

「そうか?」

守衛はそう言って警備を続けていると、ロディオンは会場を覗く。

「よくもまあ学園長もこんな派手なパーティー開くのに資金回すなぁ。」

そう守衛が言うと、ロディオンは言った。

「学園長は懐が広く、夢に溢れた人さ。頑張った者には望む物を、それが学園長。このパーティーはその一つ。」

守衛は「へー。」と言ってしまうと、あまりの平穏なパーティーにボーッと警備をし始めるのであった。

会場ではニコライはラズベリーを見つける。

「トイレが広い。」

ニコライの第一声がそれなので、ラズベリーは眉を潜めた。

「トイレで迷子になるかしら?普通。」

「男のトイレを探すの、迷った。みかんが教えてくれた。」

ラズベリーは眉を潜めてから軽く溜息をつくと、次に得意気な顔をニコライに見せて言った。

「そう言えばターゲットの白い子ちゃんの飲み物に薬入れるのに成功したわよ~」

ニコライは無表情になってしまうと言う。

「は?人形は鮮度も大事。そして人の多い場所で…、騒ぎで運べない。」

「ブブー!睡眠薬でした。飲めば眠たくなって会場を出たくなる、その隙を見計らうのよ。私が失態すると思った?」

それに対しニコライは「そう。」と言う。
ラズベリーは白華の様子を暫く見ていた。
白華は自分の飲み物を手に持ったが、一瞬だけラズベリーの方に視線が言った。
ラズベリーには見渡すようにして視界に入った様に見えた為、気にならなかった。
それから白華は、なぜかラズベリーを気にしながらもトイレへ向かう。
するとラズベリーはポカンとして

「ルーシャ!」

と言うが、ニコライはちゃっかり会場の生徒に囲まれながら酒を飲んでいた。

「”湿気た顔すんなじれってえ!社会人は忙しいぞお前ら!今のうち青春しとけ青春!んーっ?”」

「ちょ!なに学生に馴染んでんのよ!」

生徒達はニコライにすっかり馴染み、いつの間にか人気者になってしまっているニコライ。

「ルーシャさんは生徒じゃないんだろ?講師とか?今度ルーシャさんの講義に出てもいい?」

「教えか…?俺の教えは厳しい。それでもいいヤツだけ、俺の話を聞け!」

生徒達は笑って返事をする。
ニコライの男前さか勢いか、生徒の気を引き付ける何かが彼にはあるようだ。
ラズベリーはニコライに追いつけず、白華の飲み物を回収する事に。

しかし、既に時は遅し。
白華の飲み物は、別の人が勝手に口をつけていた。
席が特別決まってない様なパーティーなので、こんな事は起こってしまっても仕方がない。

飲んでしまった本人はすぐに薬が効いたのか、その場でバッタリ倒れてしまう。
倒れる鈍い音に、会場の賑わいは一瞬にして白けてしまうのであった…。
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