屍人の陰陽師

うてな

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ヨスガ編

050 怨霊をはらむ龍

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翔太郎が溜息を吐いた途端、翔太郎は謎の悪寒を感じ取った。
後ろを振り返って見たものは、白い世界に黒が徐々に広がっている光景。その漆黒は広がるように襲いかかってくる。所々、転々と赤い目の様なものが見えた。
翔太郎は緊迫した表情を見せる。

(何…?あの黒から、強い霊力を感じる…!)

耳に怨念の様なものが聞こえ、翔太郎はそれに圧倒される。耳の中を雑にかき乱され、視界が白と黒とで揺らいでいく。黒は白の世界を包み込み、やがて目の前が真っ暗になった。
一瞬の出来事だったので戸惑っていると、





翔太郎は元の世界へ帰ってきていた。
ケンと星夜に囲まれ、翔太郎は起き上がる。ケンは言った。

「部長!気づきましたか!」

「待て、ケン。」

そう言ったのは星夜。翔太郎も緊張した状態で、倒れこむ狼の巨体を見つめる。

すると次の瞬間、その巨体を覆うほどの黒の悍ましい柱が天へ登る。一同は距離を置き、呆然とそれを見上げた。翔太郎は青ざめて呟く。

「霊力が…要くんのお兄さんの身体から…!」

「一体何があった?」

星夜は聞いたが、この状況は理解できないのか翔太郎は首を横に振った。
そして柱が消え去ると、そこには漆黒の龍がいる。龍は瞳を真っ赤に染めて、血の涙を流して苦しそうな雄叫びを上げた。聞けば耳が壊れそうな雄叫びに、一同は耳を塞いだ。するとケンは言う。

「まさか…タイムリミットが来てその人の自我が失われたんじゃ…!」

「え?でもタイムリミットまであと…三十分もあるけど…」

翔太郎はそう言ったが、星夜は相手を睨んで言った。

「考えている場合か!こやつの足を止める方が先だ!」

しかしそこへ、龍の尻尾が三人を襲った。翔太郎は結界を貼ったが強力な一発で割られ、三人とも弾き飛ばされて壁に衝突する。翔太郎は一瞬気を失いそうになったが、なんとか意識を保った。自身の身体は建物の壁にめり込み、星夜とケンは両隣に同じようになっている。

「ケンくん…!琴爪くん!」

ケンは完全に気を失っており、星夜は傷以前に体調の悪さで苦しそうだった。翔太郎はそれを見て怯えたが、やがて真摯な表情を見せる。壁から剥がれて地に立った翔太郎の身体は、既に血液が滴っていた。

「僕がどうにかしないと…!」

そう言いつつも、痛みに耐える翔太郎。翔太郎が睨む先は、苦しみ悶えて周囲の建造物を破壊する龍。龍は食物を探している様子はなく、ただ苦痛に苛まれているように見えた。

するとそこへ、一人の青年の声が聞こえてくる。

「翔太郎さん!」

翔太郎は思わず振り返ると、近くの建物の上にその青年はいた。噴水事件の時に身体を再生してくれた、プラチナブロンドの青年だ。翔太郎は思わず驚く。

「君は…!」

すると青年は建物から飛び降りると、華麗に着地して翔太郎の隣へ来た。そして青年の手元は光り、翔太郎の怪我にかざす。そうするとみるみる翔太郎の身体は再生していくのだ。

「傷が治る…。君は一体何者…?」

翔太郎が思わず聞くと、青年は難しい顔を見せる。それから俯くと、次に翔太郎の顔を見て口を開いた。
しかしそこへ、韻が走ってやって来る。

「おーい兄貴ー!ポチも来てたのか!」

その言葉に、翔太郎も青年も振り返った。青年は韻を見ると言う。

「遅いよ韻、翔太郎さんは返り血を浴びて大変だったんだから。」

「ごめんごめんポチ!兄貴平気か?」

そう言われた翔太郎だが、翔太郎は目を丸くしていた。

「…ポチくん?」

その問いに、青年は恥ずかしそうに視線を逸らした。韻は頷いた。

「ああ、ポチだぜ。兄貴に言うの忘れたけど、俺とポチって生態と言うか…遺伝子をリンクさせててな。だからポチは人間の姿になれちゃうんだぜ?」

「え…」

翔太郎は呆然とポチを見つめた。ポチは照れくさいのか視線を逸らしたまま。翔太郎は思う。

(じゃあ最初から、僕が屍人である事を知っていて…。)

すると翔太郎は、サトリに火傷を負わされた後の事を思い出した。あの時は火傷を負っていた身体が、家で目覚めた時にはなぜか治っていた。

(まさかあの時も、ポチくんが…!)

翔太郎は驚いた様子でいたが、やがて照れた様子になる。

(僕は守られていたんだ。…どうして会話した事もない僕を、守ってくれているかはわからないけれど…。)

するとポチは真面目な顔を翔太郎に向けた。

「驚いている場合じゃないよ、翔太郎さん。要の兄さんを止めないと…でしょ。」

「そ、そうだ…!それと星夜くんとケンくんが…!」

「僕が治しておくから、そっちは韻達に任せたよ。」

「おうよ!」

韻が返事をすると、ポチはさっさとケン達の治療へと向かう。翔太郎はまずは龍の方を見ると、韻も翔太郎に並んで苦虫を噛んだ様な表情を浮かべる。

「あれが要の兄貴…?一体どうしちまったんだ?」

「多分…沢山の魂がお兄さんを蝕んでいるんだと思う。」

「魂…?」

「要くんのお兄さんは、多くの人々を食してきた。霊魂は亡くなった場所に留まる性質があるから、亡くなった人々の霊魂が要くんのお兄さんに留まっている状態なんだ。霊魂同士は無念の死を遂げている事から、要くんのお兄さんに強い恨みを抱いている。その怨念が、要くんのお兄さんを苦しめているんだと思う。」

「なにそれ!?じゃあどうやって止めればいいんだ!?」

「魂を僕の力で鎮める…と言いたい所だけど、魂がこんな無数だと全員を鎮められるかどうか…!」

「でもやってみるしかねぇ!とりあえず、相手が怯みゃいいんだろ!?」

「そ、そうだね。」

翔太郎が答えると、韻は全身に電気を纏った。そして足元に大きな光の球を生成すると、それを強く蹴り上げて龍に当てる。龍は更に苦痛に雄叫びを上げると、韻は言った。

「要の兄貴は電気が苦手だからな、すぐ怯むと思うぜ。」

しかし龍は怯んだ様子にも関わらず、尻尾をこちらに振りかざしてきた。韻はその尻尾をかわすと、頭を抱える。

「はぁ!?今の怯んだろ!なんで動き回んだよ!」

「多分、霊魂が要くんのお兄さんの意に反して、身体を操っているんだと思う。」

「じゃあ俺はただ要の兄貴をボコしてるってだけ!?お化けにはノーダメージって事かよ!」

韻は青ざめてそう言うと、翔太郎は真面目な表情を浮かべる。

「…どうやらこれは、僕の力でどうにかしないといけないみたい。」

「でもどうやって?」

「それは…」

翔太郎が考えようとしたその時、龍は口を開いてこちらに向けた。そして口元が青白く光り、周囲に冷えた風が流れる。次の瞬間その光から翔太郎と韻に向けて、巨大な氷柱が無数に飛んできた。翔太郎は結界を空かさずかけたが、すぐにヒビが入る。隙間なく襲う氷柱に、韻は焦った。

「なんつー氷だよ…!」

「駄目だ…!もっと強力な結界を貼りたいのに…これ以上は…!!」

(でもここで結界が消えたら…!僕は良くても韻の命は…!!)

翔太郎はこれ以上耐え切れない様子でいたが、それでも集中して結界を展開していた。逃げようとも、結界から半径十メートルは氷柱攻撃の領域内。ヒビは徐々に深くなっていき、翔太郎の結界を今すぐにでも貫く勢いであった。
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