屍人の陰陽師

うてな

文字の大きさ
52 / 69
ヨスガ編

052 残されたものは

しおりを挟む
魂が一つ残らずいなくなると、龍の身体は優しく光る。するとみるみる小さくなっていき、翔太郎の手のひらにその光は乗った。翔太郎はそれを微笑んで見ていた。

(龍の姿が…変わって…)

そして光が消えると、手の上にいたのは小さなナメクジだった。黄色いナメクジは点とした目を持ち、背に可愛らしい翼を持っている。マスコットの様な、何とも言えない表情をしている。
しかしそのナメクジを見た途端、翔太郎は顔を青ざめさせて硬直した。

(ナメクジ…!?)

どうやら翔太郎は、ナメクジが苦手のようだ。すると韻は言う。

「あ、兄貴は昆虫以外の節足動物とか軟体動物とか苦手なんだった。」

翔太郎は咄嗟にポケットにあった、父が作ったお守りを出した。そしてお守りの中から清めの塩を出すと、そのナメクジにかけてしまう。しかしナメクジは小さな羽を使って飛ぶと、その塩を避けた。翔太郎は腰を抜かして座り込むが、韻がやって来て呆れる。

「お守りの塩をバラまくって、兄貴バチ当たりだな。」

「だだだだってナメクジが手のひらに…!!」

ナメクジが飛んでいるのを見て、韻は笑顔で手を振った。

「よ!要の兄貴。なんでその姿なんだ?人間の姿でも良くね?」

「これが要くんのお兄さん…!?」

翔太郎が戸惑っていると、ナメクジは高い場所に降りた。そして大きく口を開ける。

「~!」

この掠れたような何とも言えない声が、このナメクジの鳴き声の様だ。さっきの龍や狼の悍ましい雄叫びと違い、かなり可愛らしかった。それを呆然と見つめる翔太郎。笑顔で見る韻に、真顔で見ている星夜。ケンはさり気なく近づくと、少し頬をピンクにして呟く。

「か、可愛い…。」

しかしそこで、空かさずポチは言った。

「まあ、僕の妖姿(ヨウシ)の次くらいにね。」

ポチの謎の発言はさておき、こうして事件の幕は閉じた。





それから数時間後、辺りは暗くなっていた。
場面は変わり、住宅街。夜道を買い物袋を持って歩く、一人の女子高生の姿があった。それは韻の同級生である尾崎まいであり、ポチ曰く妖が見える子。マイはアパートまで向かうと、アパートのインターホンを鳴らした。
暫くすると、やさぐれた女性が扉から出てきた。四十代ほどの年齢で、元気のない様子の女性。マイは女性を見ると、優しい笑みを浮かべて言う。

「こんばんわ、お母さん。これ、良かったら貰って。」

買い物袋には、野菜類や魚類や肉類から何から何まで入っていた。それを見た女性、もといマイの母は思わず口を抑えて涙を浮かべる。

「ごめんねマイ…!私が不甲斐ないばかりで…!」

母にそう言われると、マイは首を横に振って眉を困らせた。

「謝らないでお母さん。お母さんは私を育てる為に、お仕事も育児も頑張ってきたじゃない。私、お母さんを誇りに思うよ。」

マイにそう言われ、涙を流し続ける母。やがて涙を拭き、買い物袋を貰うと母は笑みを浮かべた。

「ありがとう、マイ。学校は大丈夫?お化けが見える体質で、クラスの子にからかわれてない?」

「いいえ、見える事は隠してるの。」

「そう…それならいいのよ。お父さんとの暮らしには、もう慣れたかしら。」

「え、ええ…」

マイはそう返事をしたが、なんだか浮かない様子。それを見ると母は眉を困らせ、やがて呟く。

「何かあったら、絶対に戻ってくるのよ。お母さんの家はお父さんの家と違って裕福じゃないけど、マイの事は絶対に守るから。」

母の優しい言葉に思わず気を使ってしまうマイ。

「そんな、大丈夫だよ。お母さんはお義父さんのお世話で手一杯だもの、私がいたら荷物になっちゃうわ。」

「そんな事ない…!」

そう言った母の目は、真剣そのものだった。母はマイの肩を強く掴むと言う。

「帰りたかったら、いつでも帰ってきていいんだよ…!」

マイはそう言われると、目に涙を薄らと浮かべた。そして無理に笑顔を見せて言う。

「ありがとう、お母さん…。」

「さあ、今日は遅いから早くお家に帰りなさい。お父さんが迎えに来てるかも。」

「流石にそこまでしないよ。」

マイは笑っていたが、足音が近づいてくるのを聞いた。その足音を聞くと、マイの母は蒼白してしまう。マイも気づいた顔をすると、ふと真横を確認した。そこには一人の男性が立っている。
赤く短い髪を後ろで束ね、水色の瞳を持っている男性。見た目は若々しく、マイと同い年と言ってもわからないくらいの若い容姿。黄泉やレフに雰囲気がよく似ており、男性は思惑のある笑みを浮かべていた。

「マイ、遅いから迎えに来たよ。…【有咲(アリサ)】も、会えて嬉しい。」

そう言われると母もとい有咲の身体が震え、マイの腕を掴んだ。マイは有咲の方を見ると、有咲は男性を睨んで言う。

「マイに酷い事してないでしょうね…!」

「どうして?僕と君の子に、酷い事する訳ないじゃないか。」

すると有咲はアパートから飛び出し、男性に掴みかかって言い放つ。

「『ケン』の事は殺そうとした癖にッ…!!」

その言葉に、マイは目を丸くした。すると男性はニコリと笑み、有咲の手を優しく握った。

「『アレ』は僕の子供じゃないから。アイツと君の子でしょ。」

有咲は男性を憎悪の目で睨み続けていたが、やがてマイの視線に気づいてそれを抑える。男性は有咲の様子に関わらず、有咲を抱き寄せようとしたが剥がされた。

「触れないで…!」

「また、一緒に暮らせる日を待ってるよ有咲。」

有咲は男性から顔を背けるばかり。男性は微笑んで、マイの方を見て言う。

「帰ろうマイ、晩ご飯が冷めちゃう。」

「あ、はい。お父さん…。」

マイは有咲の様子を気にしながら、アパートを去った。有咲は涙を耐え忍び、悔しそうにしているのだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

下っ端宮女のひたむき後宮恋譚 ~前世の夢を追いかけていたらいつのまにか寵愛されていました~

紀本明
キャラ文芸
妃嬪から嫌がらせを受けつつも耐え忍んでいた下っ端宮女の鈴風(りんふぁ)はある日突然前世の記憶を取り戻す。料理人になるのが夢だった彼女は、今世でもその夢を叶えようと決意した矢先、ぼさぼさ頭の宦官・雲嵐(うんらん)と出会い、毎晩夕飯をつくることになる。料理人になるべく奮闘するも、妃嬪からの嫌がらせはひどくなる一方だった。そんなある日、事件が起こり、鈴風は窮地に立たされるが……――?

【完結】あやかし団地 管理人見習い日誌

双月ねむる
キャラ文芸
就活全滅で「自分には社会性がない」と思い込む凛は、遠縁の親戚に紹介され、昭和レトロな巨大団地・さくらヶ丘第一団地の『管理人見習い』として住み込みで働くことに。しかしその団地には、中庭の「靴鳴らし」、エレベーター表示盤に棲む狐など、団地限定あやかし達が当たり前のように暮らしていた。 最初は逃げ腰の凛だったが、すねた空き部屋や、ベランダの風鈴が告げるSOSなど、人とあやかしのトラブルに巻き込まれながら、少しずつ『共同体』に関わる勇気を取り戻していく。

処理中です...