屍人の陰陽師

うてな

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ヨミ編

069 大物現る

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夜が近づき、夕暮れの空から辺りは暗くなってきている。
要の兄は、翔太郎の家へ帰ってきた。すると姿をナメクジに変え、ポチの頭に乗る。そしてポチはと言うと、蚕となったハアトを咥えて言った。

〔そう言えば君、一体何者なんだい?韻に霊力を与えたり、実験していると言っていたけど。〕

蚕は話せないでいたので、ナメクジは羽を動かして蚕の元へ。そして蚕に触れると、蚕はみるみる内に元のハアトに戻った。ハアトは目を丸くして驚いた様子。

「す、すごい…!戻った!」

〔さあ、話すんだ。〕

ポチがそう言うと、ハアトは胸を張った。そして小さなポチを見下して言う。

「ハッ!誰が教えるか!私の力を使えばな、君達なんて…!」

そこまで言うと、ポチは電気の力でハアトの全身を痺れさせた。ハアトは動けず立膝をついてしまうと、ポチは声色を暗くして言う。

〔話すんだ。〕

するとハアトは急にポチにゴマ擦る様に笑みを浮かべた。

「はい!仰せの通りに…!」

〔いいから話す。〕

ポチの圧から、ハアトは大人しくその場で正座をした。砂利のある地面で姿勢正しく、そして真面目な表情を見せて言う。

「私は噂の黄泉様の一味…だった屍人だ。」

〔だった?今は違うって事かい?〕

「ああ。私が医者だって事は君達も知っているだろう?だからか…私は生命を蹂躙する黄泉様の思想には、前々からついていけなかったんだ。」

〔屍人って自分の願いを叶える為に、他の屍人の霊力を集めているって聞いたけど…君は?〕

ポチに質問されると、ハアトはそんな事には微塵も興味が無いのか首を横に振る。

「あのねぇ、他の霊能者は生前から陰陽師修行をしてきた者達だ。対し私の一族は、霊能者である事をひた隠して真っ当に生きている一族なのだよ。そんな戦いにも精通していない一般の医者が…そんな危ない橋を渡ってでも願いを叶えるとでも?」

〔まあ無謀だね。〕

「そうなんだよ。…だから私は長い物に巻かれながらも、自分なりに黄泉様に尽くしてきたつもりだった。だけどヒビキくんを預かった時に気づいた、彼を犠牲にしてまで黄泉様に尽くす意味はあるのか…と。」

それでもポチは警戒を解かない。冷静な口調の中に、相手へ厚い壁を見せるポチ。

〔でも君、韻の事を実験体としか思ってないように見えるんだけど。〕

「あれほどの霊力を得て、生き残った人間は彼が初めてだったらしい。彼がいれば、私の本来の目的が達成出来ると思った。」

〔目的って?〕

ポチがそう聞いた時だった。ポチ達の背後に、人影が見える。その人影を見たハアトは、目を剥いて愕然とした。

「よ…黄泉様…」

ハアトはか細い声でそう呟くと、黄泉はハアトに攻撃をした。背に生えた悍ましい蜘蛛の脚で、ハアトを殴り飛ばしたのだ。ハアトは五メートルほど飛ばされ、身体を引きずって倒れ込んでしまう。
ポチは殺気を感じて背後を確認。背後には黄泉がおり、ポチは驚いた様子を見せた。

〔君はっ…!やはり綺瑠…君だったのか…!〕

どうやら黄泉は、綺瑠という名前の様でポチ達も知っているようだった。すると黄泉は笑みを浮かべて言う。

「韻くん…ここにいるんだね?」

そう言う黄泉に、ポチや要の兄は警戒を怠らなかった。





一方、家の中。
韻の部屋にはマイと星夜が来ており、海美も帰ってきていた。ちなみにレフもおり、韻の身を案じている様子だった。海美は泣きながら韻を見守っており、マイは韻の様子を見て目を剥いていた。

「嘘…。神木間くん、こんなに霊力を持っていたかしら…?」

「韻のクラスメイト、霊力を感じ取れるのか。」

「え、ええ…。」

星夜の質問に返事をするマイ。すると海美は星夜に言った。

「おい星夜!にーちゃんはどうやったら元に戻る!?てかお前治せるか!?」

「知るか。人間の身体は脆いのだ、私がどうこうできる代物ではない。」

「使えねぇな!」

「貴様な…」

星夜は怒りを覚えた表情。しかし星夜は、手に持っていたスマホを見つめた。

(要の兄上から連絡があった。韻の中に正体不明の霊力が蔓延り、韻の妖力と反発しているという話を。
私の力でなら救えると断言していたが…無茶なハードルを求めるものだな…。)

それから溜息を吐くと、心に決めたのか口を開く。

「一つだけ方法がある。問題の霊力を私が奪えば、韻が元に戻る可能性がある。」

「おぉ!それだ!!早速やれ星夜!」

海美は笑顔を見せると、星夜は拳で海美の頭上からを押し込みながら言った。

「我に命令するな。」

そう言いつつも、星夜は韻の前へ来る。そして韻の額に手を当てると、冷や汗を浮かべていた。

(問題の霊力を全部奪うにしても、難易度が高すぎる。
韻の中には『元ある霊力』、『妖力』、『問題の霊力』の三種類が混在しているはず。要の兄上の様に力を感じ取る事も出来ない私に、その三つの力をどう探し当てろと?
トランプの束から黒か赤のどちらかを、目を瞑りながら全て引き抜くのと同じだ。完璧に出来るわけがない。少なくとも、妖力も同時に奪ってしまう。
それに…)

「韻が従来持つ霊力は、微力と聞いたが…。韻の霊力だけは奪わん様に気をつけねばな…。」

するとマイは首を傾げる。

「人から霊力が全て奪われたら、どうなるんですか?」

「死んでも魂が残らん。魂が無ければ、あの世へ向かう事も、来世を辿る事も出来んだろう。」

「そんな…!」

マイは強いショックを受け、海美もショックで口を噤んだ。

「だから今から集中する。誰も私に話しかけるな。」

そう言って星夜は一つ深く息を吐いて集中した。海美は韻の事ならばと、その場で止まったまま韻を見守っていた。そしてレフは星夜の心を読んでいたのか、深く頷く。

(星夜さんのトランプの例え…、正に今の状況にピッタリでしょう。
トランプの数は全部で52枚、その内の25枚が黒、25枚が赤色のカード、そしてジョーカーが2枚…。
黒が問題の霊力で、赤が韻さんの妖力、ジョーカーが韻さんの元ある霊力。
星夜さんは目を閉じつつ、黒の25枚を引き抜かなければならない。しかしそんな事をすれば、必ず赤のカードも引き抜いてしまう…。それどころか、2枚しか存在しないジョーカーまでも引き抜く危険性がある。
ジョーカーを全て引き抜いてしまえば、韻さんの魂は救われない事になります。かなり…慎重になっているようですね…。)

レフも息を呑んで見守る中、星夜は韻の力を奪い始めた。

(まずは…少量ずつ……様子を見る…。)

そう思って星夜が力を奪うと、すぐさま星夜は違和感を感じる。背筋が凍る感覚を覚え、かざしている手から何かが登ってくる感覚がした。

その瞬間、星夜の目にだけ見えた。
かざしている韻の額から、霊体の様なものが伸びてくる。赤く長い髪を下ろした女性の霊体。その霊体は星夜の腕を伝い、そして星夜の顔の付近で睨みつけてきた。
星夜はその様子に、反射的に身体が固まってしまう。霊の表情は、狂気そのもの。

星夜が我に戻った途端に、女性の姿は消えた。それだけでなく、星夜が韻にかざしていた左腕が黒く朽ちてボロボロに落ちてしまったのだ。それらを見ていた海美とマイとレフは恐怖する。星夜は韻に触れるのを一度やめると、一歩後退して言う。

「なっ…なんだ今の力は…?」

「おい星夜!腕が…!」

海美が言うと、星夜は朽ちて消えてしまった腕を見ても動じない。

「案ずるな、二週間もすれば元に戻る。」

「それは逆に気持ち悪ぃよ!」

流石は人外と言ったところか。海美は恐怖を感じている様子だった。
星夜は痛みは感じてはいるはずだが、慣れているのか鈍いのか表情一つ変えない。

「気持ち悪いは余計だ。…しかし不味い状況だ、私の腕を腐らせたこの力は一体何なのだ?皆の者、何か感じなかったか?」

「え?海美は何も。」

星夜は海美には期待していないのか、マイやレフの方を見ていた。それに海美は怒りを感じていると、マイは首を横に振る。

「いいえ、私は何も…。」

続いてレフは、顔色が悪かった。星夜はそれを見逃さずに言う。

「貴様は何か知っていそうだな。」

その言葉にレフは反応すると、困った様子で言った。

「いいえ…ただ…あの一瞬だけ、力強い憎悪を韻さんから感じて…」

「…そうか。」

星夜はそう呟くと、韻を見つめる。韻は未だに、熱にうなされていた。

「すまん、私の力では…貴様を救えそうにない。」

(しかし…これほど恐ろしい怨念が韻の身体の中に留まっておると言うのに…。韻は大丈夫であろうか…?)

その時だ、部屋の外の廊下から騒がしく足音が聞こえる。
海美は気になって扉を開くと、正晃が急いで外へ向かっていた。海美は言う。

「とーちゃん?」

「海美か。寺に貼ってあった結界が何者かに破られた。韻と母さんを頼む。」

「え!?嘘だろ…」

そして正晃は外へ出て行ってしまう。それらを聞いていた星夜は、海美を見て言った。

「侵入者か。」

「そうみたいだ。でも、一体誰だ…?」

「海美の父上一人で向かうのか?」

「ああ見えても、結界の腕なら誰よりもいいんだ。大丈夫だと思う。」

海美はそうは言っていたが、どこか不安そう。星夜は外へ出ようとしたが、それをレフが止めた。

「無理をなさらないでください。私が偵察に行ってまいります。もし助力が必要であれば、星夜さんをお呼び致しますので。」

「すまん、よろしく頼む。」

「はい!」

そしてレフは外へと向かった。玄関をすり抜けて外へ出ると、寺の門まで浮遊して向かう。

するとその先に広がる光景に、愕然とした。

寺には炎が撒かれ、寺は燃えてはいなかったが地面に火の手が上がっていた。その中で、ポチと要の兄が傷ついて倒れており、その二人を正晃が結界で守っている。
正晃が睨む先には、黄泉がいた。レフは黄泉を見ると、絶望を浮かべた表情で呟いた。

「きぃくん…」
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