六音一揮

うてな

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4章 奇想組曲

第61音 滅私奉公

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【滅私奉公】めっしほうこう
私利私欲を捨てて、
主人や公のために忠誠を尽くす事。

===============

数時間後、ダニエルは目覚めた。

「あ!ダニエル!」

とツウは嬉しそう。
ルカもそれに喜んだ。

「うっひょ~!」

空かさずユネイは言った。

「大丈夫かい?」

ダニエルはボーッとしながら呟く。

「あら…、懐かしい場所。ここは天国かしら…」

そう言って、再び目を閉じようとするダニエル。
それにルカがツッコミを入れようとすると、ダニエルは目を覚ました。

「天国なんてある訳ないでしょっ!
何言ってるのかしら私!あー怖いわ~…。」

いきなり起き上がるので、三人は驚く。
ユネイは「とにかく元気で良かった」と言うのであった。
そこにグランが部屋に入ってくる。

「目覚めたんだね、お昼できたよ。」

するとダニエルは飛び起きてきて、頭を下げた。

「食べますわ。ありがとう」

そう言って、他の三人も共に食堂へ向かうのであった。



ルネアは「アールさん!」と探している。
ルネアは空を見ていれば何かいるかなと見ると、なんと空からアールが物凄い速さで向かってくる。
黒い翼に赤い角、鋭く尖った爪のある鱗に覆われた手。
目の色は綺麗な程に真っ赤だった。

アールはニヤリと笑って爪を向けてくる。
ルネアは驚いて避けた。
ルネアは相変わらず、身体能力だけはいい。
ドーンと言う音にさっきルネアのいたところから砂埃が立ち、地面に少しヒビが入る。
ラムはいきなりの出来事に「なんだぁ!?」と声が裏返ると、砂埃の中からアールの影が見えてくる。
ルネアは固唾を飲み込む。
他の者は、角や翼や手の形でわからなかったが、アールの姿がハッキリ見えるとみんなは驚いた。

「アール!?」

ラムの顔色が一気に悪くなる。
リートも驚きで口を塞ぐ。
テナーは興味津々に見ていて、テノは腕を回して戦う気満々だった。
ノノは「ほう」と普通そうだ。
シナは呆然としていた。

「バリ…カン…?」

アールは手元を見て何も無い事を知ると、他のみんなの方を見た。

「…あ…みんなの…血を…貸して欲しいんだ。
今…必要で…血があれば…解ける気がして…。」

アールは少し控えめに言う。
その姿に不気味さを感じる者も多々。
頼み事のつもりなのかはわからないが、言っている事が無茶苦茶な気がした。
ルネアは冷や汗で言った。

「だからって僕を襲います!?」

それに対し、ラムは言った。

「そんな事言ってる場合かよっ!」

シナはアールを睨むと言う。

「どうやら敵陣のようね…」

すると、ノノが一歩前に出てきた。
テノがテナーの通訳で「女王?」と言うと、ノノは言った。

「ここは私が行こう。
アールは今飛行ができる。ならば私も飛ぼうではないか。」

そう言えばノノは、火の鳥だと言っていた。
しかし、テノは通訳で言った。

「でもどうやって戦うんだ?
魔法を使ったら死刑じゃねぇのか?」

「お主、今この状況をわかって言っているのか?
死刑など関係ない!今ここで皆がやられるくらいなら!
私はアールと戦い、喜んで死刑になろうぞ!」

テナーはその覇気に口を結ぶ。

テノはニッと笑うと、「よろしくな」と言った。

「おう!」

リートは焦った様子で言う。

「私達はどうすれば…」

それに対し、ルネアは考える。
そして思いついたのか言った。

「竜が言う事を聞くのは主さんです!
だから、主さんに頼んで止めてもらうの!」

それにみんなは名案だと拍手する。

「怖い人だけど…言えばわかる…はず!」

ルネアは言い、走っていった。
みんなもそれを追いかけて行ってしまった。
アールはみんなを追おうとしたが、ノノが邪魔をする。
そう言えばアールと二人で対面するのも小さい頃以来か。

「お主!…私と遊ぼうではないか!」

ノノは翼の形の炎を生やす。
更に手元に魔法をかけると、炎が集まり、
細長く伸びたと思うと、炎でできた両剣に変わってしまった。
ノノはニヤッとそれを構える。
アールもそれを見てニヤける。

「面白そうだ…。遊ぶのは嫌いじゃない。」

アールはそう言うと、ノノに襲いかかる。
ノノも一斉にかかるのであった。

両剣の刃と鋭い爪が何度も交わり、お互い譲らない。
両剣の炎で照らされる森奥。

「ここでは狭くて戦いにくな!上へ行くぞ!」

ノノはそう言って空へ飛び立った。
続いてアールも空に飛び立つ。
二人は空中でも激戦を繰り広げる。
ノノが目晦ましのため、炎の魔法、火炎球を飛ばし、アールは防御の壁で防いでいる。
そしてまた両剣と爪を使って戦っている。

それを地上から見上げ、ベスドマグは見ていた。

「アイツらも強そうで面白そうだなぁ…。
いやでも、関わったら面倒だからやめるか。」

と、またそんな理由で関わるのをやめていた。

ノノが攻撃をした後、アールは即座に後ろに回ってくる。
振り向こうとしたが、間に合わない。

終わった………と思った時、
アールの手に手裏剣が飛んできて、硬い鱗に僅かに刺さった。

アールはその手裏剣を取る。
その瞬間、ノノは隙を狙って両剣の刃が向かないところでアールの腕を思い切り殴る。
アールは手裏剣を手放してしまう。
空かさずノノはアールにかかと落としをした。
アールはそのまま勢いよく大地に落下。

そんなアールの前にレイが現れる。
ノノは息を荒くしつつもレイのところに来る。

「レイか。ありがとな。助かった。」

すると、レイは首を横に振る。
そして黙ってしまうので困ったものである。
ノノは気づいた顔をした。

「そう言えばみんなどこかへ行ってしまっての。
レイもアールは放っておいてこっちに来い」

それでもレイは首を再び横に振った。

「私、アールさんといる。行ってて」

ノノは眉を潜めた。

「そいつは今、危ないぞ?」

それでも聞かないので、ノノは先に行く事にした。

「そうか。死ぬなよ?」

ノノはそのまま翼をしまうと走って向かっていった。

レイは座ってアールを仰向けにして、膝枕をしてあげる。
そして彼をジッと見つめるのである。
大きく広がった翼に真っ黒な鱗。
僅かに開いた口の中から見える牙。立派な角。
変わってしまったと思いつつも、寝顔はいつもと変わらないので安心した。

そう言えば、さっきまでかけていた眼鏡はどこへ行ったのだろうと、
動ける範囲が限られる中探してみる。

すると、アールはゆっくり目を覚ます。
目の前にいるレイ。
彼はレイの頬に変わり果てた竜の手を伸ばした。
レイはアールが起きた事に気づいて彼を見た。

「…私が怖くないのか…?」

アールは聞いてくる。
それを聞いたレイは、笑顔で言う。

「怖い…けれど、寝顔見てたらわからなくなっちゃった。」

それを聞いたアールは起き上がる。
レイはアールを見ていると、青年の言葉をふと思い出す。

――彼が欲しいんでしょ?――

レイは背を向けるアールを呼び止めた。
アールが振り向くと、レイは言った。

「私と契約をして!…私のものになって…」

無理強いだが言ってみた。
他にどう言えばいいのか今はわからない。
アールは少し考える。

「いいぞ。」

レイは意外とあっさりとしているのでポカンとした。
アールはレイに近づきつつ、レイに言う。

「今の主は弱い。愚かで、無能だ。
事故でも契約したのが恥ずかしいくらいだ。
こんな者の気分には左右されたくはないものだ。」

アールはレイの間近に来て続けた。

「お前は奴より賢い。強い意思を持っていそうだ。
だから、欲しくなる。」

しかしレイは言う。

「私は強くないわ。ペルちゃんの契約を利用して貴方に近づいている節もあるし。」

それを聞いたアールはフッと笑う。

「そんなのお互いそうだろう?」

アールが言うと、レイは少し黙ってから言った。

「貴方には新しい主は必要?
主なんてあっても不自由しかなくないかしら?」

「今は必要な気がしている。
その後は…知らない。」

「そう…」

アールはレイを見て言った。

「さあ、どこから血を頂こうか。
女の肌を傷つけるのは、気が進まないな。」

「貴方ってそんな事言う人だった?」

「悪いか?」

それを聞いたレイはクスッと笑った。

「どこでもいいわ。治れば元に戻るわ。」

そう言って、苦無を持ってアールの頬を切った。
そこに口をつけて血をとろうとするレイ。
アールはレイの腕に噛み付いた。

レイは何かを感じた気がした。
でも正体はわからない。
しかし、契約ができた印なのかと思った。
アールは口を離し、レイを見つめた。
レイもアールを見つめる。
するとアールの瞳が青を帯び、紫色に戻っていく。
姿自体は変わらなかったが、瞳だけ元に戻ったのだった。
ペルドの不安定な意思にレイの堅い意思が加わって、アールに安定をもたらしたのだろうか。

「レイ様…。」

アールが呟くと、レイはアールの唇に人差し指を当てた。

「レイって呼んで。敬語も何も要らないわ」

アールは暫く黙っていた。
レイはアールに口づけをしようとした時、アールはふと思い出して言う。

「そうだ、みんながペルドのところへ。
このままでは怒り狂ったペルドにみんなは襲われてしまう。」

レイはそう言われると、アールに言った。

「行くのね?私も連れて行って」

「は……わかった。」

「はい」と言いかけたが、ギリギリで止めたアール。
そして、アールはレイを連れて飛び立つのであった。



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