一羽の天使、悪魔の村にまい降りて。

うてな

文字の大きさ
9 / 61

09 アリウム:深い悲しみ

しおりを挟む
教会の窓の裏から覗く光景。
その先に、窓を一直線に見つめるパーヴェル。
ガリーナはパーヴェルに見つめられている気がしてドキッとすると、パーヴェルは冷たい表情をしたまま言った。

「神様、俺はガリーナをワレリー兄様に渡したくはありません。
俺はガリーナを愛しています。
だけど…ワレリー兄様も大好きです。
…最近、ガリーナはワレリー兄様と一緒にいる事が多くなった様な…そんな気がします。」

次にパーヴェルは手を組んで願う。

「神様、どうか俺にも神の声を…!ワレリー兄様ばかりに語りかけるのではなく、俺にも声を…!お聞かせください…!」

ガリーナは呆然としていると、パーヴェルは呆れた様な顔をして組んだ手を下げた。
それから溜息をつくと、窓を見上げて言う。

「何度耳を傾けても聞こえない…。
そうだよな、俺は兄様みたいに頭も良くないし、ただ兄様の言う事に従っているだけの人間…神様が答えてくれないのも当たり前…。

それとも神様は俺が嫌いなんですか?嫌いだから、俺とガリーナの間に悪魔を産ませたんですか?
なんだよ…なんだよ…!」

パーヴェルは怒りの表情を浮かべると、ガリーナは背筋が凍った。

「あんな悪魔要らないんだよッ!
俺を陥れて神様は満足なのか!?俺が何したってんだよッ…!
あんなガキ愛せる訳ねえだろッ!
…早く、早く消えてしまえばいい…!」

ガリーナはパーヴェルの口から出てきた言葉に、恐怖を覚える。
どれほどニコライに冷たい事を言っていても、どこかでニコライを愛しているものだとガリーナは思っていた。
しかし、現実はそう甘くなかったのである。

「愛想もねえ…何言っても言う事聞かねえ…
何度ぶっても泣きやしねえ、なんだアイツ、痛みを知らねえのか…?気味悪い…!」

パーヴェルは正気と思えない目つきをしていた。
何かに強く怯え、また何かに強い憎悪を抱いている目。
ガリーナはパーヴェルのその表情より、気になる言葉を聞いた。

「何度ぶっても泣かない って…?」

ガリーナは、ニコライのアザだらけの体を思い出した。
外にいる時はいつも自分が一緒にいて、沢山アザができるほどニコライが怪我した覚えはなかった。
家でつけたものである事は薄々察してはいたが、パーヴェルの仕業なのかもしれないという事に気づく。

恐怖でガリーナは後すざりをすると、誰かに服を引っ張られて部屋から出された。
それはワレリーで、ワレリーは驚いた様子で言う。

「ガリーナ…どうやって鍵のかかったこの部屋に入ったのですか…!」

ガリーナはショックで目に涙を溜め、ワレリーの声が耳に入っていなかった。
ワレリーは眉を潜めて部屋の先の窓を覗くと、全てを察したのか黙り込む。
部屋の外に戻ってくると、部屋の扉を静かに閉じた。
そこでワレリーは壊れた鍵に気づく。

(ま、まさか鍵を壊して中に入ったのですか…!?
…とんだ怪力ですね…)

ワレリーは驚きたいのを抑えつつ、ガリーナの傍に向かった。

「教会の秘密を…知ってしまったのですね、ガリーナ。」

ガリーナは俯いて涙を流してしまうと、ワレリーに聞く。

「いつも見てたの…?ここの窓から…!」

歯を食いしばったガリーナ、それを見たワレリーは黙り込んでしまう。
ガリーナはワレリーの服を強く掴むと、ワレリーは言った。

「はい、ずっと…」

するとガリーナはワレリーの腕を掴む。
両手でワレリーの両腕を強く掴むので、ワレリーは覚悟を決めた顔でガリーナを見つめた。
ガリーナは嗚咽を我慢してワレリーの顔を見ると言った。

「苦しかったよね…?」

予想外の言葉に、ワレリーは口を開けてポカンとしてしまう。
ガリーナは涙を拭いながらも言った。

「私の泣き言も全部聞いていて、パーヴェルさんの怖い所も見てきた…
それだけじゃない、もっと沢山の人の…怖い所…弱い所…」

ガリーナはせっかく涙を拭ったのに、再び大粒の涙を流して言う。

「私っ…!パーヴェルさんの怖い所を見ただけで、心が壊れそうなのに…!」

泣き崩れてしまうガリーナ。
ワレリーはそれを聞いて、ガリーナの事を察したのか言った。

「馬鹿は止しなさい。あなたは愛する者の闇を見てしまったのです。
壊れそうになるのは当たり前なのです。
私の事は気にする必要はありません、もう少し自分の事を考えなさい。」

ガリーナはそれでも泣いているので、ワレリーは静かに目を閉じてどうするべきか考えていた。

その時だ、足元が不自然にグラつく。
地震だ。
そこそこ大きい地震で、ワレリーは驚く。

「ま、まさかガリーナの不祝儀が…!」

ガリーナも驚いてワレリーに抱きついてしまった。
ワレリーは抱きつかれたが、ガリーナから離れると建物中の扉を開きに歩き始める。
ガリーナは廊下に取り残されて震えているとワレリーは言った。

「安心なさいガリーナ、建物が潰れるほどのものではありません。」

それでも安心なんてできない。
ガリーナは地震が終わるまで震えていた。

暫くすると、地震は収まる。
ワレリーは収まった事を確認すると、ガリーナの元にやってくる。

「ガリーナ、あなたは保育園に行きなさい。
保育園の建物は丈夫にできていません、嫌な予感がします。」

「え!?」

ガリーナはそう言って立ち上がるが、さっきの地震で足が震えていた。
ワレリーは軽く溜息をつくと、ガリーナの体を支えて歩く。

「教会にいるパーヴェルと共に行きなさい。
私はパーヴェルの家を見に行きます、あの家もあまり丈夫ではないので…。」

「え…」

ガリーナはふと、先程のパーヴェルを思い出して沈黙。
会うのが怖い様だ。
ワレリーはガリーナが考えている事はお見通しなのか言った。

「平気ですよ。
彼は悪魔の子を持ってしまった事で闇を抱えているだけ。
別にあなたをどうしようとか考えていません、私と違って。」

安心しきれないガリーナ。
ワレリーはそのままガリーナを引き連れると、外に出た。

今まで居た建物は、どうやら教会の裏。
教会の裏は森に面していて、古びた扉が一つあるだけ。

(あ…いつも鍵がかかっていて、神様のみが入る事を許される扉…。
牧師様も含め、絶対に入っちゃいけない場所なのに…)

ガリーナは裏口を見てそう思うと、ワレリーは教会の正面に向かった。
教会の正面にはパーヴェルが教会から出ているところで、二人を見ると驚く。

「パーヴェル!それにガリーナ…!」

「ワレリー兄様、ガリーナをよろしくお願いします。
保育園にニコライが預けられているので、共に向かってあげてください。」

それを聞いたパーヴェルはポカンとしていると、ワレリーはガリーナをパーヴェルに託す。
ガリーナはパーヴェルに触れると、パーヴェルの顔を見た。
パーヴェルはいつも通りの表情をしており、教会で見せていた顔など浮かべていなかった。

「俺は家を見てきます。」

ワレリーはそう言って二人に微笑むと、小走りでパーヴェルの家に向かった。
二人は呆然とワレリーを見ていると、ガリーナはふと思い出して言う。

「ニコライを迎えに行かなきゃ!」

「うん、わかりました。」

パーヴェルはそう言って、ガリーナと手を繋いで保育園に向かった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

N -Revolution

フロイライン
ライト文芸
プロレスラーを目指す桐生珀は、何度も入門試験をクリアできず、ひょんな事からニューハーフプロレスの団体への参加を持ちかけられるが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...