一羽の天使、悪魔の村にまい降りて。

うてな

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38 ナノハナ:快活

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数日後。
パーヴェル達の家ではガリーナの叫び声が響いた。

「痛ーっ!」

叫び声と言うより、悲痛の声か。

ガリーナはリビングにて、ニコライに手を抓られていた。
ガリーナは涙目になりつつも言う。

「私が離れていた間、ニコライは私を抓るになったし…一体どうしちゃったのかしら…
今までは一度も抓った事なんて…!」

レギーナはリビングにやってくると溜息をついた。

「そんな子供、引っ叩いちゃえばいいのに。」

それを聞いたガリーナは怒った顔をすると、レギーナに言う。

「な…レギーナはニコライに虐待してたの!?」

「してないわよ!変な玩具壊しただけ!」

ガリーナはそれを聞くと目を剥き、ムスっとした。

「ニコライが壊したわけじゃなかったの!?
酷い!ニコライの大事な大事な楽器だったのよ!?」

「そんなの私が知るわけないし!私は悪くないわ!」

レギーナとガリーナは睨み合うと、次に近くで新聞を読むパーヴェルに一斉に言う。

『パーヴェル!』
『パーヴェルくん!』

二人の剣幕に、パーヴェルは驚いた様子で新聞を読むのをやめた。

「え?仕方ない事じゃね?
て言うかうるさいよ二人とも。」

パーヴェルは困った顔をすると、二人はそれでも口喧嘩をやめない。
パーヴェルは呆れて溜息をついた。

(レギーナも加わって…姉妹で毎日喧嘩ばっかり…。
俺と兄様は喧嘩なんてした事なかったから騒がしいったらありゃしねぇ。)

ガリーナは更にレギーナに言う。

「も~昨日はこっそりパーヴェルくんと一緒に寝ようとしたでしょ!」

「いいじゃない別に。私はアンタからパーヴェルを奪う気なんだから。」

そんな二人の会話を見ると、パーヴェルは綻ぶ。

(ま、可愛い喧嘩の方が多いんだけど。)

「と、いう事で。」

ガリーナはそう言って、急に大きな鞄を出す。

「今日はみんなで遠くまでお出かけしましょう!」

パーヴェルはそれを聞くとポカンとした。

「え?なんでそうなった?」

するとレギーナが言う。

「たまにはいいでしょ。」

「で、どうやって出かけるの?」

パーヴェルが聞くと、レギーナは笑顔で答える。

「勿論パーヴェルがトラックで運んでくれるでしょ?」

「はぁー!?」

しかし二人は頷いた。
ガリーナはニコライを抱き上げると言う。

「ニコライ!外だよ!」

「そとー!」

ニコライは腕の中で暴れながら叫ぶ。
パーヴェルは参った顔を見せると言った。

「でも兄様が今日、村の外に用事があってトラック使うとかだったら使えないぞ。」

「じゃあワレリーも巻き込んじゃえばいいじゃない。」

「やったぜわかりました。」

パーヴェルは笑顔で即答すると、早速出かける準備をするのだった。

 ==========================

ワレリーは、畑の整備を村人と共にしていた。
村人は仕事よりも談笑をしている者が多く、あまり仕事が捗らない。

(怠惰ですね…しっかりして欲しいものです…)

ワレリーはそう思っていると、村人の会話が耳に入った。

「最近猛暑やらなんやらで、全く作物が育たないなぁ。」

「きっとこれも、村に魔女がいるからだ!早くレギーナを捕まえないと!
ってー、レギーナは本当に村にいるのか?ずっと探してても見つかんないし…。」

ワレリーはその会話を聞くと眉を潜める。

(レギーナが畑を荒らしたその後、猛暑の日が増えた為にレギーナは魔女扱い…。
これはどう説得しようと、見つかったら処刑は免れないですね…。)

「パーヴェルぅ、本当にレギーナの居場所知らないのか?
お前くらいだろ、アイツと仲がいいの。」

村人に言われると、ワレリーは溜息をついた。

「魔女を攫ったのは軍人でしょ?
もう、やめてくださいよ。じゃ、自分休憩入ります。」

ワレリーはそう言うと、一人の村人は笑う。

「そうだよな!」

すると、とある村人がヒソヒソ話を始めるので、ワレリーはよく耳を澄ませて聞いてみる。

「パーヴェルもガキの頃考えたら悪魔みたいなヤツだったし、何か隠してる可能性あるぞ。」

「てか、アイツのせいで魔女になったんだろ。」

その会話を聞いて、ワレリーは眉を潜める。
ワレリーは危機感を覚えるのだった。

 ============

一同はパーヴェルの家までやってきていた。
パーヴェルは牧師服のまま、ガリーナはいつも通り、レギーナは変装をしている。
話を聞いたワレリーは首を傾げる。

「それでどちらまで?」

「いいから乗れッ!」

レギーナは力づくでワレリーをトラックの助手席に乗せると、パーヴェルはノリノリで運転席に座った。

「さあお散歩だ~」

パーヴェルはそう言ってエンジンをかけると、レギーナは荷台に飛び乗る。
ガリーナもニコライを抱いて、ニコライを乗せてから自分も荷台に乗った。
三人が乗ったのを確認すると、トラックは発進。
ワレリーは無理矢理乗せられた為、微妙な反応を隠せない。

「で、どちらまで?私この後仕事があるんです。」

ワレリーが強めに聞くと、パーヴェルは笑顔。

「ダメですよ仕事中毒~!ちなみに行く場所はわかりませーん!」

「はい?」

ワレリーがそう言うと、レギーナは答えた。

「海行ってちょうだい!」

「海イ!?」

パーヴェルは驚く。

「あ!」

ガリーナが声を上げるので、ワレリーは後ろを振り返るとガリーナは言った。

「海で泳ぐ用に服持ってくるの忘れてきちゃった…」

「馬鹿ね。私はちゃんと持ってきたわよ。」

「え?私の分は?」

「持ってくるわけ無いでしょ!」

二人は再び口論が始まりそうになり、ワレリーもパーヴェルも溜息をついてしまう。
ワレリーはパーヴェルに言った。

「家での姉妹の様子はどうなのですか?」

「うん、毎日姉妹喧嘩してる。」

ワレリーは黙り込んでしまうと、こっそりニコライを見る。
ニコライはズボンと腰の間に挟んでおいた楽器を取り出すと振っていた。

「あ…」

ワレリーは壊れている事に気づくと、パーヴェルは言う。

「ああ、先日レギーナに壊されたんだと。
それで今朝また二人が喧嘩してさー」

それを聞くと、ワレリーは切ない表情でニコライを見つめた。

「ニコライは二人の区別はちゃんとつくのですか?」

「いーや全然。むしろわからなすぎて、安易にママって言わなくなったよ。」

「そうですか…」

ワレリーはそう呟くと、後ろを見ないで正面を向いた。

「にしても海って広大な水らしいですね兄様。
塩っぱいらしいですよ。」

パーヴェルの言葉に、ワレリーは答えた。

「一度も行った事がないですからね。」

それを聞くなりパーヴェルは笑顔。

「いやぁ!サケ釣りたいです兄様!イクライクラ~!」

「イクラはまだ先ですよ。」

「え~…」

パーヴェルが落ち込んだ様子になると、ワレリーは言った。

「日帰りとは言え、帰るのは夕方になりそうですね。
私、朝も食べていなければ昼も持ってきていませんよ。」

「大丈夫!ガリーナが沢山作ってくれたから!
ついでにマヨも持ってきた!」

それを聞くと、ワレリーは絶望の表情を見せる。

「ああ、それは安心ですね。」

ガリーナは景色を満喫しつつも、ニコライに話しかけた。

「ねぇニコライ、空は好き?」

ニコライは空を見上げると歌いだす。

「おーはな おーはな」

それを聞くと、ガリーナは目を輝かす。
ワレリーも反応して振り返ると、ガリーナはニコライを抱きしめた。

「歌えるようになったのね!賢いわニコライ!」

「マーマ。」

ニコライはガリーナを見上げると、ガリーナは笑顔を向ける。
ニコライは暫くガリーナの笑顔を見ると、一緒に笑顔になってくれた。
それを見たワレリーは心底安心すると、再び正面を向く。
すると、レギーナはワレリーを呼んだ。

「ねえワレリー」

「はい。」

ワレリーは窓から顔を出してレギーナの方を見ると、レギーナはニヤっと笑う。

「ちょっと貸してくんないかな?」


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