一羽の天使、悪魔の村にまい降りて。

うてな

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43　ドクダミ：自己犠牲

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パーヴェルとガリーナの家では、レギーナがリビングでボーッとしていた。
すると家にパーヴェルが慌てて帰ってくる。

「見つかんない！どこにもいない！」

レギーナは落ち着いた様子で言った。

「パーヴェルに見つかるくらいなら、今頃村人に捕まってるでしょ。
二人とも捕まってないってんなら、無事って事よ。」

パーヴェルは壁に寄りかかると、悔しそうに頭を抱える。

「なんだよ…せっかく元の生活が戻ってきたと思ったのに…！」

部屋が沈黙すると、レギーナも窓の外を見つめて呟いた。

「私達…とことんついてない。」

レギーナはそう呟くと、窓からガリーナが顔を出す。

「げっ！」

レギーナは驚くと、パーヴェルはレギーナが見る方向を見た。
ガリーナは窓から手を振るので、パーヴェルは目を大きく見開く。

「なあ…まさかあれ…！」

「ガリーナ…！」

レギーナがそう言うと、パーヴェルは急いで外に出た。

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三人はリビングの椅子に座っていた。
ガリーナの話を一通り聞いた二人は、難しい顔をする。
パーヴェルは言った。

「つまり兄様は、その腕の傷のせいで村に出る事は愚か、もう俺と交代できないって事？」

「うん。
村はきっと対策に傷跡があるか見てくるだろうし、そうしたらワレリーさんはもう村に出てこれないの。」

パーヴェルは衝撃のあまり大人しくなって黙り込むと、ガリーナは本題に入った。

「それでね？ワレリーさんが提案してくれた話があるんだ。」

「なになに！？」

パーヴェルは耳を傾けると、ガリーナは言う。

「私とパーヴェルくんとニコライは、パーヴェルくんの親に頼んで一緒に海外へ引っ越して欲しいって。
レギーナに関しては、レギーナの判断に任せるって…。
ちなみにワレリーさんは、村に残るみたい。」

パーヴェルは眉を潜め、レギーナも同じ顔をした。

「はぁ！？なんで俺達が村を出ないといけないんだ！？」

「ニコライの瞳を受け入れてくれる海外に行くのがいいんじゃないかって、ワレリーさんが。
私もパーヴェルくんも、ムリに気を遣う事がなくなるからだと思う…。」

ガリーナはそう答えると、レギーナは言う。

「私もついてってもいいってなら、その話は飲んでやってもいいわよ。
この村にいても、ずっとピリピリするだけよ私達。」

ガリーナはレギーナを見ると、パーヴェルは言った。

「俺は断る！」

二人は驚いた顔でパーヴェルを見ると、パーヴェルは拳を握っている。

「兄様はどうするんだよ…！
村に残るって今の兄様に何ができるんだよ！見つかったら死なんだぞ！」

するとガリーナは困った顔を見せる。
そして俯くと言った。

「わからないの…。
ワレリーさん、村に尽くしたいから残るって言ってて…。」

パーヴェルは眉を潜めると、腕を組んでそっぽ向いた。

「言っとくけど俺は出るつもりはない！
ここにはおばあ様がいて、兄様も残るんだろ！？
俺はな、俺を育ててくれたおばあ様や兄様に孝行する為、この村から出ないって決めてんだ！」

ガリーナはそれを聞くと、胸に手を当てる。

「ニコライの事はどうでもいいの…？」

「当たり前です！アイツはただの悪魔なんですから！」

パーヴェルはそう言い放つと、ガリーナは涙を溜めて怒った。

「酷い！
パーヴェルくんの馬鹿…！ニコライは悪魔じゃないのに！」

パーヴェルは弱りそうになるが、それでも意見を変えたがらない。
レギーナは仲違いしそうな二人を見て言った。

「おかしくない？
本当に村を出るべきは、傷がバレたら処刑されちゃうアイツの方でしょ。」

レギーナの言葉に、二人は大人しくなってレギーナを見る。
二人の急な視線にレギーナは少し驚きつつも続けた。

「村に尽くしたいって…アイツ馬鹿だよ。
今のアイツにできる事だなんて一つしかないじゃない？
村の憂いを晴らす為に、自ら処刑される事じゃない。」

ガリーナとパーヴェルは顔を引き攣って真っ青になると、レギーナは鼻で「フン」と言う。

「ガリーナが村からいなくなれば、少なくとも村の不祝儀は少なくなる。
私がやった事、村の不祝儀も含め、全部自分が儀式で起こした事にして、処刑されれば村の奴等も安心ってわけよ。
…あのお人好しなら考えそうじゃない？」

するとパーヴェルは即答。

「しそう。」

同じくガリーナも言った。

「彼なら有り得なくないわ…。」

パーヴェルは頭をぐちゃぐちゃと両手で掻きながら言う。

「あの月兎め～ッ！んな事許せるか～ッ！」

パーヴェルは怒っているのか、頬杖をついて貧乏揺すりを始めた。
レギーナはそれを聞いて眉を潜めると、ガリーナに聞く。

「月兎って？」

「身を滅ぼしてまでも善行に尽くした兎の事よ。
きっとワレリーさんの事を言っているんだと思う。」

「へー…」

パーヴェルはムスっとするとガリーナに言った。

「ガリーナ！俺を兄様に合わせろ！
本性暴いてやるッ！」

「え…それは難しいというか…」

（教会の裏側にいる　だなんて言えない…！）

「なんで！」

「えぇっと…」

ガリーナはどう答えようか迷っていると、そこにニコライがやってくる。
ガリーナはニコライに気づくと、話を逸らす為にニコライを呼んだ。

「ニコライ！おいで！」

ニコライはガリーナを見ると、走ってガリーナの元へやってきた。

「ぱーん！」

そう言ってガリーナに噛み付くので、ガリーナは衝撃を受ける。
パーヴェルは慌ててニコライとガリーナを離した。

「コラ！噛み付くな！」

「ニコライ…？私はママよ？」

ガリーナはそう言うと、ニコライはママと聞いてレギーナを見た。
レギーナはニコライと目が合うと、顔を引き攣って首を横に振る。

「アンタのママはあっちよ！私じゃない！」

「マーマ！」

ニコライはレギーナに向かってそう言った。
ガリーナの方を見てくれないニコライ。
するとレギーナは呟く。

「まさか…髪切ったからわかんなくなった…？」

レギーナの言葉に、ガリーナは目に涙を溜める。

「嘘…」

ガリーナは涙をこらえると、再びニコライに言った。

「ニコライ！明日のおやつにアップルパイ作ってあげるよ！」

しかし、ニコライはガリーナを見て叫ぶ。

「ぱーんー！」

ガリーナはショックでこらえた涙も流してしまうと、パーヴェルは焦った。

「おいニコライ！お前自分を育ててくれた親の顔も忘れたのかよ！」

ガリーナは涙を流したまま沈黙すると、パーヴェルは頑張ってニコライに教えている。

「おい、こっちがママだって！」

しかしニコライはガリーナを食べようと口を開けるだけ。
ニコライにはやはり言葉は通じないのか、パーヴェルは遂に諦めて溜息をついた。

「駄目だ。この悪魔には何言ってもわかんない。」

「ニコライ……」

ガリーナはショックで呟く。
ニコライは名前を呼ばれてガリーナを見た。
すると、ニコライは言う。

「いーたーだーきーまーすぅー！」

そう言ってガリーナの方に再び向かうので、パーヴェルは服を掴んで止めた。
ガリーナは顔を上げてニコライを見ると、ニコライの元気な姿を見て微笑む。

「良かった…一人で『いただきます』って言えるようになったんだね…」

ガリーナはそれが限界で泣き崩れると、レギーナはパーヴェルを見た。
パーヴェルはニコライを止めるので精一杯な為、レギーナはガリーナの背中を摩ってあげた。
ガリーナは驚いてレギーナを見る。

「レギーナ…？」

レギーナは視線をパーヴェルに向けつつも言った。

「パーヴェルが忙しいから代わりにやってあげてるだけよ。」

ガリーナはレギーナにも微笑むと言う。

「ありがとう。」

レギーナはそう言われると、不機嫌な顔をした。
ガリーナはお礼を言ってから再び俯いて泣くので、レギーナはガリーナを見る。

（…その程度で泣くなんて…やっぱコイツも変。）

レギーナはそう思いつつ、乱暴にガリーナの頭を撫でてやるのであった。