俺と彼女とタイムスリップと

淳平

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30話「修学旅行」後編その3

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 唯と自由行動を共にした2日目の夜、ホテルにある大浴場で入浴を済ませた俺は一人、今日の出来事を思い返していた。
 近いようで遠い幼馴染。 生まれた時から何もするにも一緒で、でも今まで交わることがなかった関係。 それでも。 一歩、前に進んだんじゃないか? 右手の薬指を見るとそこには唯から貰ったおもちゃの指輪がはめられている。 自分の右手を見るたびに思わずニヤけてしまう。
 これからだってきっとそんな思い出ができるはずだ。 あれ……でも俺結局唯への気持ち、言葉にして伝えてないぞ……
 そんなことを考えていると携帯の着信音が鳴り出した。

「もしもし、どうした真柴」
「……淳一くん助けて……」
「は? どうしたんだよ真柴」
「……お願い……今すぐ部屋に来て」

 真柴はそう一方的に告げ通話を切った。
 これはただごとじゃないと思い、俺は真柴が泊まっている部屋へと向かった。

 ︎*

 真柴が泊まっている部屋のドアをノックすると、すぐに真柴の「どうぞ」という声が返ってきた。 俺はそれを確認し、ドアを開けた。
 すると、ドアを開けた途端、パアッンとクラッカーの破裂音が耳に響いた。
 その音に驚き一瞬目を瞑り、再び目を開けるとそこには真柴と石田が立っていた。

「淳一くんお誕生日おめでとう!」
「淳一おめでとう今年で何歳になったんだ? って何泣いてんだよ?」

 石田にそう言われ目元に触れてみると確かに俺は涙を流していた。 ああ、そうか俺は今心の底から嬉しいんだろうな。 この11年家族以外の人に誕生日を祝われることなんてなかった気がする。 

「淳一ちゃん泣いちゃってるんでちゅか~?」
「うるせえ、泣いてねえよ」
「本当かなぁ~」
「本当だ。 ……ありがとなお前ら」
「おうよ」
「いえいえ」

 真柴と石田はそう言って満面の笑みを見せた。 こいつらの笑顔を見ていると俺も自然と笑顔になってしまう。 こいつら二人に共通しているのはこういったところだ。 一緒にいる人を笑顔にしてしまう。 俺には到底できない。 俺は彼らのために何かできてるのだろうか。 誕生日を祝ってもらった嬉しさと共にそんなことを考えた。
 ただ今は、「ありがとう」とそんな当たり前のことを言いたい。

「ほんと、ありがとな」

 気がつくと再び俺の頬に涙が伝った。

「あ~、淳一くんまた泣いてる~」
「ほうほう、淳一って意外と泣き虫なんだな」
「うるせえ、泣いてねえって!」

 そう言って俺は涙を拭う。 ああ、泣いてるさ。 心の中では認めてやる。

「あ、そうだ! 誕生日プレゼントっていうのもなんだけどさ、淳一くん、目瞑って」

 真柴に言われた通り、俺は目を瞑る。 すると、耳にイヤホンをつけられた。
 しばらくすると音楽が聞こえてきた。 音質は良いとは言えないが、綺麗なメロディが聞こえてきた。 
 懐かしいような、新しいようないつの間にか俺は耳元から流れる音楽に夢中になり圧倒的な幸福感に包まれていた。

「どうかな? ちょっと作曲してみたんだけど、石田くんにはさっき聞かせたんだけど」
「この曲、真柴が作ったのか?」
「うん、まだ未完成だけどね」
「これ、完成してないのか? すっげえいい曲なのに」
「まだ歌詞をつけれてないんだよね、っと、そこで淳一くんにお願いがあります。 この曲に歌詞をつけてください」
「へ? 俺が?」
「勿論です。 ボーカルなんだからさ。 淳一くん、伝えたいことあるでしょ? この曲、淳一くんにプレゼントするよ」

 真柴は笑顔で俺にそう言って右手を差し出した。
 勿論、答えは決まっている。

「承りました。 なんてな。 任せとけ」

 そう言って俺たちは顔を見合わせ笑いあった。

 *

 真柴の泊まっている部屋から自分たちの部屋に戻った俺たちはベッドに横になりながら駄弁っていた。

「そういえばお前、唯ちゃんとどうだったんだ? 今日一緒にいただろ?」
「ああ、まあな」

 俺は石田に向かってガッツポーズをする。

「お、よかったじゃねえか! やっとお前ら付き合うんだな」
「……いや、付き合ってはない」
「は? そうなの? 俺はてっきり告白したのかと思ったんだが」
「告白は……してない」
「はあ……お前ら相変わらずだな……お互い肝心なことは言わないっつうか……まあ少しは成長してるが」

 昔から俺と唯のことを知っている石田だからこそ言えることだった。 それにこいつはちゃんと自分の手で自分の幸せを掴んだ。 そしてその幸せを11年後も掴んだまま離していない。 ちゃんと言葉にして告白したこいつに俺は頭が上がらない。

「まあ、後悔しないように頑張れよな」
「おう、ありがとな」
「それより聞いてくれよ、真由美がさ~」

 それから二時間ほど俺は石田の惚気話を聞かされたのだった。
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