斯くて少女は、新たな一歩を踏み出す

takosuke3

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三章 ~静寂にして不穏な一夜~

作戦会議──あるいは悪巧み?

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「まずは、手札の確認だな。お前は何が出来る?」
「‥‥‥私ハ、法術は」
「てんでダメな出来ない事なんざ、とりあえず置いとけ。出来ることは何だ?」
「ソレハ、剣」
「毎朝稽古してるから、それは知ってる。後は? どんな小さなことでも良い」
「アト‥‥‥」
 あるにはある──というか、今思いつくのはそれしかない。
「錬成ナラ‥‥‥」
 言ってるうちに、萎んでいく。羞恥心が、声を抑えつけていた。
「錬成、のう‥‥‥」
 燐耀は、何やら思案し、袖の中から小指大の小石を出した。
「ならば、これの複製は出来るかの?」
 差し出されたそれを手に取ったアレクシアは、高密度の魔力を帯びていることに気づいた。燐耀の膨大すぎる魔力に隠れていただけで、強力な魔石らしい。
「‥‥‥お前、そいつは」
「出来るのじゃろう?」
 目を剥いて口を挟む蒼真には目もくれず、燐耀はアレクシアを促す。
 蒼真の態度は気になるが、アレクシアは魔石を持つ左手を握りしめ、法力を送り込む。それを受けた石の魔力が干渉し、反発し、しかし徐々に馴染み、そこから石の構造や材質を読み取り、次いで同じものを頭の中で投影し、それを法力でもって再現、右手の中に構築する。
 時間にして数分を経て、アレクシアが右手を開くと、大きさ、形、重さ──左手のそれと全く同じ魔石が乗せられていた。
「ふむ」
 燐耀は、複製した方の魔石を手に取り、魔力を送り込む。それに反応したのか、複製魔石は赤い光を放つ。送り込む量が大きくなると、比例して放つ光も大きくなっていき、
「!」
 音を立てて無数の亀裂が走り、石は砕けてしまった。燐耀が砕けた破片を摘まむと、さらに細かい砂になって零れ落ちる。
「純度や強度は真に及ばず、しかし特性は同じ、か」
「いやいやいやいやっ!」
 蒼真が──あの蒼真が、である──驚愕の文字を張りつけたような顔で言った。
「特性が同じってのがあり得ねえだろっ! 日緋色金ヒヒイロカネだぞ日緋色金っ!」
 蒼真の口ぶりを見る限りでは、かなり価値の高いモノらしいが、聞いたことのない魔石では、今一つピンと来ない。
 しかし、燐耀の次の言葉で、否が応でも理解した。
「希少価値としては、オリハルコンにも相当するじゃて」
「‥‥‥え」
 オリハルコン──ミスリルやアダマンタイトなどの〝神造鉱〟と呼ばれる稀少鉱物の中でも、最高級のとされる法力結晶石。〝神の血〟とも称されるほどの法力を秘めており、これを素材にした武具は、魔王をも討ち滅ぼすとまで言われる。
 それと同等の魔石を複製するなど──アレクシアが、半信半疑で左手に乗ったままだった魔石を凝視していると、
「いや、正直さ、全~然期待してなかったんだけどさ」
 蒼真は、満足そうに頷き、
「こりゃ思った以上にいけるか‥‥‥いや、いけるぞ」
 これまでの乗り気の無さが嘘のように笑った──アレクシアの背中に悪寒が走るくらいの、恐ろしく悪い笑みだった。思えば、この男がこんなはっきりした感情を見せるなど初めてだったと、どこか逃避するようにアレクシアは思った。
「こりゃ蒼真、アレクシアを怯えさせるでない」
 と、呆れたように諌める燐耀だが、彼女も似たような悪い笑みを浮かべたい。ただでさえ強大な存在がそんな顔するものだから、アレクシアは危うく失禁しかけた。

                                  *****

 その恐怖が、良くも悪くも後押しになったらしい。
 日緋色金に始まり、手あたり次第を追い立てられるように複製した。そこから錬成を組み合わせ、更に細工を施しつつ、それを元にあれやこれやと策を考えながら細かい調整を重ね──気づけば夜空が白み始めていた。
「‥‥‥正直不安は残るが、さすがに時間切れかの」
 燐耀は肩をすくめながら、あれこれ書き連ねた手帳を閉じ、
「それに、これ以上手を加えるのも、かえって危ないやもしれん」
「や~れやれ、徹夜なんて初めてだぜ~」
 蒼真は体を伸ばし、思い出したように大きな欠伸などする。
 今の今まで、絵に描いたような悪人ぶりだったというのに、そんな気配は一瞬で消え去り、今一つやる気の無い元の蒼真に戻っていた。
 思えば、僥倖というか奇跡のような光景である。寝つきの良さは赤ん坊並の蒼真が、〝徹夜〟したのだから。
「ぼやくでないわ。そなたは、普段誰より怠けておるのだから、たまには人一倍働いてもバチは当たるまいて」
 そう言う燐耀は、さすがというべきか、全く疲労を感じさせない艶めいた顔のまま。
「にしてもさ~」
 蒼真は、部屋の隅に寝ぼけた目を向ける。アレクシアの力で複製された魔鉱石が、山積みにされていた。
「ここまでやれる奴が何で〝落ちこぼれ〟になっちまうんだ?」
「そなた、話を聞いておらんかったか? 一度に放出できる分が極めて少ない故に」
「そう、そこだ」
 燐耀の説明を、蒼真は指を突きつけて遮る。
「言い換えれば、放出される法力の密度や強弱を、細かく調整が出来るってことだろ。時間が無いから今は大雑把にやったが、もっと高度で精密な細工や錬成もできるぜ。そんな奴が、どうして濡れ衣を簡単に着せられるような〝落ちこぼれ〟だの〝底辺格〟だのなんだっつう話さ」
「‥‥‥錬成系や細工系の法術ハ、トテモ低級で低俗と呼ばれテル。才能に恵まれなかった術者が目指す系統ダッテ」
 故に、それを得意とするのは、決して誇れることではない。どころか、錬成系の適性は、〝無才非才の証明〟とまで言われていた。
「地妖精や単眼鬼の連中には、とても聞かせらんねえな。じゃあ、高貴で上級な系統は何でございますかね?」
「決まっておろう。戦闘攻撃法術じゃ」
 燐耀は、皮肉でも吐くように冷たい声で言った。
「神聖帝国の歴史は、突き詰めてしまえば〝戦争〟じゃて。戦いに次ぐ戦いで版図を広げ、数知れない敗北と勝利を経て大陸南部を統一。必然、〝勝者強者が偉い〟という価値観が固まっていく。当然、研鑽研究も戦争で使われることが前提で進められる。錬成細工のような、〝そういうものではない〟類も例外ではなかった。で、先も見た通り効率性の悪さばかりが浮き彫りになり、〝不要ではないが後回しでも良い〟という程度の認識になり、今では〝出世街道から零れ落ちた者の最後の滑り止め〟とまで言われとるようじゃな。加えて、フローブラン家は〝四大賢人〟の双璧という、由緒正しき法術師の家系‥‥‥ここまで言えば分かるじゃろう?」
「つまり、類稀な才能が御家の思い通りのモノじゃなかったってことだろ」
 口にするのも馬鹿らしいとばかりに、蒼真は吐き捨てる。
「しかも、類稀な才能も指折りの大貴族出身てのも悪目立ちってか。勿体ねえことしたもんだ」
「勿体ないという点は同意出来るが」
 燐耀は苦笑交じりに頷いて見せ、
「その認識は、陽出の目線・・・・・に過ぎんじゃろう」
「〝原生文化保護の精神〟ってヤツか。世の中は広くってタメになるぜ、ホントによ」
「何ナノ? その、原生文化ほひょ‥‥‥エット」
 言葉を噛んでしまい、耳ざとく聞きつけた蒼真が堪らず吹き出した。そんな蒼真をすかさず引っ叩きつつ、燐耀が補足する。
「そうじゃの‥‥‥アレクシアよ、陽出で暮らし始めた頃のそなたはどうじゃった? どのような心情じゃった?」
「‥‥‥驚イた、トテモ」
 よく思い返してみても、それ以外に言い様が無い。魔物との共存を始め、文化、文明、思想、価値観──いちいち挙げようとしたら、キリがないだろう。何かを目の当たりにするたびに、大なり小なり衝撃を受けていたのだから。
「そなたのように、個人単位の話なら良かろう。じゃが、これが国家単位となったら、どうなる?」
 想像もつかない──〝想像もつかない〟ような規模の大混乱になることは、間違いないだろう。決して、大げさな話ではなく。
「ツマリ、その国や土地ノ文化とか伝統ヲ大切にスルって考え?」
「凄ぇ簡単に‥‥‥というか、好意的に捉えればそんなところだな。実際は、いらない面倒をしょい込むから手を出したくないってのが本音だろうがね~っと」
 皮肉るように鼻を鳴らすと、蒼真は立ち上がり、勢いでもう一度背伸びと大欠伸などしながら、のそのそと部屋を後にした。
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