深き安眠は終わり、始まるは道無き道

takosuke3

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三章 ~天災の領域~

2:虚空の回廊

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『現地の環境、状況を観測した結果、最も安全と判断される移動先がこちらになります』
 マオシスが表示した遺跡周囲の地図に、光点が重ねられる。遺跡から、北西約五百ラセクの位置だった。
『この一帯は、周囲約二十ラセクに渡って平坦な地形であり、大きな障害物も存在しません。現地時間で現在は深夜。この時間帯はほぼ無風状態であり、砂塵も許容範囲です』
「障壁も準備よし。いつでもいけるわよ」
「よろしい」
 マオシスとラヴィーネが告げると、サクラは視線を天井に上げる。
「十三番、そちらは?」
「準備出来ている……しかし」
 見張り台に出ていた十三番が、身をかがめて顔を覗かせた。
「可能とは言ったが、決して安全ではないことも事実。実行は推奨できない」
「そもそもこれから行くところが、〝自殺の名所〟だの〝天然の処刑場〟だのとか言われてる所ですからね。危険なのは変わらないなら、距離が縮まる方が良いでしょう」
「諦めろ」
 探知画面に絵を光らせながら、レイヤは鼻を鳴らす。
「それっぽいこと言ってるがな、危ねえ博打が好きなだけさ。言っても聞きやしねえ」
「ほらそこの聞かん坊、適当なことを喋ってないで仕事しなさい。十三番も、術に集中なさい」
「だとよ~」
「了解した。空間干渉を展開する」
 十三番の体が白い光を放ち、それは船の前方の空間に集まっていく。すると、その場が急激に歪んでいき、やがてスザンノーも入れそうな大きな穴が、黒い口を開けた。
「前方の空間を、目標地点と接合した」
『同意。当該地点に、空間特異点の発生を確認。空間の接合と判断します』
「よろしい。フィル、ラヴィ」
「かしこまりました」
「はいは~い」
 操舵を握るフィルが穴に向けてゆっくりと船を進め、ラヴィーネは手元の操作盤に指を走らせて障壁を起動──鈍く光り膜が、船の周囲を球状に張り巡らされる。
『船首側障壁、特異点に接触。導力干渉と反発が発生』
 鈍いとも甲高いとも言えない奇妙な音を断続的に響き、船の前進が一瞬止まるが、障壁と推進力の出力を上げて強引に壁を突き破り、ゆっくりと穴の中に入っていった。

                                  *****

 完全な暗転と無音は数瞬で、視界に広がったのは地平まで続く灰色の地面と無数の光点。
 それまでいた日の差す雑草交じりの平原ではなく、星が見下ろす夜の砂漠だった。
『座標確認完了。予定地点より、西側に約三十ラセク移動した位置になります』
「……申し訳ない。大きくずれた」
 見張り台から降りた十三番が、マオシスの報告を聞いて頭を下げるが、
「何を言ってるんですか。二千ラセクの距離を強引に縮めた・・・・・・んですから、三十ラセクなんて、誤差ですよ誤差」
 と、サクラはむしろ嬉しそうに言った。
 今回実行したのは、空間の転移ではなく接合──目標の地点へ直接転移するのではなく、直通の〝近道〟を擬似的に作り出すというものだった。これならば、手間はかかるものの、物体同士の融合が起こらない分、比較的には・・・・・安全ということだった。
 あくまでも、〝比較的には〟だが。
「その代わり、障壁発生器がイかれちまったけどね」
 船の状態を確認し、ラヴィーネは肩をすくめた。
「直せます?」
「このくらいなら、すぐよ」
 サクラの問いに、ラヴィーネは自信満々の答えを返しながら、甲板に出る扉を開け、
「──っ」
 流れ込んできたのは、〝冷たい〟を通り越して〝痛い〟な空気。それをまともに受けたラヴィーネは、文字通り凍り付いた。扉を開け放ったままで。
「ラヴィ、早く扉を閉めなさい」
「っ! そそそそうだわわわねねねね」
 サクラに言われてようやく動きだしたラヴィーネは、がちがちと震えながら扉を閉めた。
『警告。現在、外気温は氷点下四十度を下回っています。防寒装備無しでの船外作業は、非常に危険です』
「ラヴィ様。砂漠は過去に経験しておられるでしょうに。気温差で体調を崩されたのをお忘れですか?」
 地形や地質、気象条件にもよるが、砂漠地帯の昼夜の気温差は非常に激しい。レヴェラにおいては、日中六十度まで上がる一方で、夜間は氷点下五十度以下まで下がることもあるという。この激しい気温差も、レヴェラが屈指の危険地帯とされる理由の一つである。
「……そうだったわね~」
 空調から吹き出される温風に当たりながら、ラヴィーネは分厚い防寒着を着こんでいく。
『周囲の地形地質を分析したところ、原因や原理は不明ですが、地表の砂は不規則に流動しています。船からの落下には、充分に注意してください』
「万が一落ちれば、二度と浮いてこれないでしょう。特に日中であれば、鉄板に乗せられたに肉の様に焼かれながら」
 フィルの言葉に、レイヤの脳裏に丸焼きになったマハルが浮かぶ。
「不味そうだが、食い甲斐はありそうだな」
 レイヤは、マハルを体を見据える──特に、豊か過ぎる胸のあたりを。
「……あ、アンタね~。そんな危ない上にいやらしいこと言ってると、逆に黒焦げにしてやるわよっ?」
「へぇ~そりゃ~大変だ~」
 マハルの怒声に、レイヤは獰猛に口の端を上げ、
「けどよ、炎でも雷でも人一人黒焦げにするのって、結構な威力だぜ。そんなのを何の用意もせずに船の中でぶっ放したら、どうなるだろうな~?」
「そんなの、やり様なんていくらでもあるわよ」
「そりゃ面白そうだ。さっそく見せてくれねえか?」
「良いわよ。そんなに見たければ喜んで見せてあげようじゃないのよ」
 姉弟は勢いよく立ち上がり、
「いい加減になさいっ!」
 二人の頭に、母の雷が落ちた──文字通り、蒼月精による雷撃が叩き落とされた。
「レイヤ、いらない挑発は時と場所を考えなさい。マハルも、いらない挑発にいちいち反応するんじゃありません。こんなところでドンパチしたら、船が壊れて砂海のと真ん中で立ち往生ですよ? 全くもう、二人とも誰に似たのか……」
 話が進むにつれ、説教ではなく愚痴とぼやきに変わっていた。
「とりあえず、マハルの方は間違いなく母親似よね~。外だけじゃなくて、中身も」
「サクラ様のお若いころなど、マハル様以上のお短気ぶりで、方々に迷惑をかけておられたものです。今となっては、お懐かしい」
「そこもっ! いらない茶々を入れないっ!」
 ラヴィーネとフィルの横槍に、サクラは思い切り噛みついた。そして、そんな自分がラヴィーネたちの言う通りだと自覚したのか、咳払いをして話を切り替える。
「それで、ラヴィ。一応訊きますけど、このままレヴェラを進んでも、この船は耐えられますか?」
「この私とマオシスが作ったのよ。心配なんて、欠片もぁいっ!」
 防寒着のせいで着膨れたラヴィーネが、胸を張って見せた。煌人母娘程でないにせよ、分厚い服を押し上げる程度には結構な代物である。
「……と言いたいとこだけどね~」
 それが、急に萎れた。
「船の全ての機能が万全ならの話よ。今のところ壊れたのは障壁だけだから、どうにかなるけどね。というわけで、さっさと行ってくるわ」
 と、ラヴィーネは早足に船橋を出ていった。今度は凍り付くことはない。
「そういうわけです。みんなも、持ち場に着きなさい。いらないことに無駄な力を使ってないで」
「かしこまりました」
「へ~へ~」
「は~い」
「了解した」
 他の皆も冷静に、程々に役目に取りかかり、
『お話し中失礼します。動体反応、多数接近を感知しました。警戒を』
 さっそくマオシスが、するべき仕事をし、
「お乗りの皆様は、激しい揺れにご注意ください」
 言ってる間にフィルが船を急発進させ、皆を背もたれに押し付けさせた。
「ラヴィ、聞いてましたね? 修理は中断して、こっちに戻ってください」
『中断も何も、今から手を付けようと工具持ったところだったのよ。全くもう……』
 内線越しに響いたラヴィーネのぼやきは、酷い苛立ちを含んでいた。
「その様子だと、思ったより壊れてるみたいですね?」
『細かい話は後でするけど、いつもの六割が良いところよ』
「それだけあれば充分です」
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