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出会い~ライラック王国編~
不思議な関係の二人2
しおりを挟む「…どこの国も、似たようなものか…」
マルコムは建物の壁にもたれながら呟いた。
空は暗く、淀んでいる。
澄んだ星空を期待していたわけではないが、雲がかかった月明かりは、朧月夜というには空気が汚かった。
マルコムはアロウの顔と表情を思い出して舌打ちをした。
彼が、懐かしそうに目を細め、友との思い出に浸るような顔がマルコムは直視できなかった。
“友情”
そんな言葉がよぎるからだ。
色んなことがあって、信じられるものは自分の力だということに辿り着いた。
それでも、思い出すのは、振り払いたい存在だ。
不意に目を閉じると浮かぶ、かつての友の金色の髪。
こことは違う、海の向こうの大陸の大きなマルコムの母国。海が見えない大きな城のある大きな町を二人で歩いた思い出。
マルコムには実力で勝ち取った地位で、かつて、母国でもてはやされた時があった。
町を歩けば握手をせがまれることもあった。
頼れる仲間、親友と呼べる存在、尊敬できる先輩、頼りないが可愛がっている後輩。
そして居心地のいい唯一の場所。
今と全く違う生活をしていた。
町の若者に握手をせがまれた時、あまりに警戒をし過ぎていた。
それを見かねた彼女は呆れていた。
「マルコムさ…帝都には基本的に私たちに危害を加えるやつはいないって。警戒しすぎよ。」
彼女は作り笑顔で手を振る自分を横目で見ていた。
「警戒するに越したことは無いよ。」
笑顔で返した。
自分の顔を見ていた彼女は、グレーの瞳を細めて顔を顰めていた。
その顔を思い出した時、ふと懐かしさに微笑みそうになった。
マルコムは慌てて首を振った。
「…違う!!…俺は捨てたんだ…」
マルコムは何度も何度も首を振って浮かんだ感情も、浮かべようとした笑みも振り払った。
失った唯一の場所、理解者、仲間
全て捨てたのだから。
ピタリと、首筋に冷たい何かがあてられた。
マルコムは条件反射でそれを察知するとすぐに体を捻り、あてられた何かを掴んだ。
「…ちょっと!!力強いって…」
あてられた何かの持ち主は焦ったような声を上げた。
マルコムはそれを確認するとため息をついた。
だが、それでも手を放すことはない。
マルコムの首にあてられたのはシューラの手だった。
マルコムはそれを掴んだままシューラを見ていた。
「どうしたんだい?無様だね。」
シューラは掴まれたままの手を見て呆れたように笑った。
「笑いに来たのか?」
「何を?僕分からないなー」
シューラはマルコムの問いに、意地の悪い笑みを浮かべていた。
「…クソが」
マルコムはシューラの表情を見て舌打ちをした。
マルコムは苛立ちをぶつけるようにシューラを壁に押しつけた。
シューラは衝撃に呻きながらも特にマルコムを睨むことはなかった。
逆に、シューラはマルコムの顔を見て満足そうに笑っていた。
シューラはマルコムの右頬の傷を掴まれていない方の手で撫でた。
マルコムは眉をピクリと吊り上げる。
「ストレス溜まっているんじゃないの?懐かしむなんてさ」
シューラは変わらず満足そうに笑っている。
マルコムとシューラの関係は少し変わっていた。
お互い共に旅をするのに心は開かないと言っている。
だが、感情をぶつけ合う。
それは友人関係や親しい間柄の物ではなく、ただの八つ当たりに近いことが多い。
お互いを無機質な感情で割り切っていると言っている。
ただ、二人を結ぶのは価値観の共感であるのが、また矛盾をしていた。
いや、その価値観の共感があるからこそ、お互いを無機質な感情で接することに割り切れると思っているのかもしれない。
はたから見たらただの依存関係にしか見えなくても
実際マルコムはわかっている。
なぜなら彼は、自分がとても脆いと分かっているからだ。
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