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ライラック王国の姿~ライラック王国編~
兄想いのお姫様
しおりを挟むルーイは、いつも詰め所にいてミナミと話していた兵士たちがオリオンの命で、捜索とは別に動いている話をした。
そして、その捜索がこの宿に及んだということも…
「お兄様の…頼みで…」
「そうだ。だけど…帝国側にばれないように動いているらしい…」
ルーイは王国が帝国の武力に屈し、保身に走っていることや、正規の捜索隊は帝国に情報が筒抜けの可能性があることも話した。
それなら、オリオンの行動は危ない橋である。
ただ、一国の王子であり、ホクトと違い罪も犯していないオリオンはそんな変な扱いはされないはずだ。
まして彼は王族の魔力を強く持っている。
世界的に見ても存在価値は高い。
「まして…王国側が、帝国側の客人の暗殺に動いたのが弱みにもなったらしい…」
国王殺害の濡れ衣だけでなく、直接的に殺害を試みたらしい。
「え?」
それを聞いて、ミナミは血が凍る気がした。
「まあ、赤い死神は、三人の兵士を丸腰で押さえ込んだらしい…と、失敗に終わった。」
ルーイは少し残念そうに言った。
ただ、王国側があまりにも冷静さを欠いた行動をし過ぎではないかと思ってしまう。
どうやら、抵抗しているのは若い衆らしくて、経験豊富な老年層は早い段階で丸め込まれたらしい。
「今回…オリオン王子が捜索隊を別に動かしていた理由は…ミナミを国王陛下の葬儀に正式ではなくとも参加させたいと…いう意志の元だ。」
ルーイはオリオンがミナミに急いで城に戻って欲しいわけではなく、帝国の目があるのが分かっているが、父親と別れをして欲しいというのだ。
感情で魔力が変質する恐れなどいろいろあるのだろうが、そんな理由ではなく純粋にミナミの為を想っていると分かった。
更には、オリオンはそのままミナミには身を隠して欲しいと思っているらしい。
ルーイが続けて何かを言おうとした時
コンコンと、部屋がノックされた。
「俺だ…アロウだ。」
「と。僕だよ。イシュだよ。」
アロウとイシュが部屋の前にいるらしい。
ふと、モニエルは?
とミナミは考えたが、先ほどルーイに無理やり追い出された形の彼は入りにくいだろうと思うと、なぜかわからないが申し訳ない気持ちになった。
「どうぞ」
とルーイが言うと、予想通りアロウとイシュがいた。
部屋にはアロウだけが入ってきた。
イシュは外で見張りをするようだ。
入ってこないことも、いないこともわかっていたし、モニエルとミナミは何となく気まずい。
けれど、本のことや魔力について教えてもらったからか、いないのは少しだけ残念だ。
決して、彼の顔がいいから惜しんでいるわけじゃない。
目の保養などと、不謹慎なことを言うわけじゃない。
ミナミの姉のアズミなら絶対にそう言うだろうとミナミは思った。
異国に嫁いでから会っていない姉…
会いたい
ミナミは、ふと、そう思った。
「モニエル君には、来た兵士を見てもらっている。信用していないわけじゃないけど、警戒に越したことは無いから」
アロウは別にミナミの様子を察したわけではないが、必要事項と思ったようで、補足するように言った。
アロウが部屋に入り落ち着いたのを見ると、ルーイは続きを話し始めた。
「オリオン王子が言っていたことらしいが、二人は無理だ…と。今はホクト王子も牢に入れられて拘束されている。たぶん出ることは出来ないし、そんなこと許されない。けれど、それが帝国の支配の元であることが問題らしい…」
ルーイが言うには、オリオンはやはりホクトを庇っているらしい。
父親を殺したといえども、弟が大切らしい。
それ故に帝国に逆らえないらしい。
「…オリオン王子は、姫様を城に戻すことは考えていないようですね。むしろ…外に逃がそうとしているかもしれません…」
アロウは難しい顔をしていた。
「外に…って…どこに…」
「帝国の支配が無い…か。動くなら早い内ですね。帝国の勢力が進むのと同じ早さで支配権は広がると考えた方がいい。…ですよ」
アロウはミナミの逃げ場がなくなることを心配しているのだ。
彼の言う通り、ずっとこの宿にいるわけにはいかない。
アロウとルーイはこれからの動きについて話し始めていた。
二人の話はミナミにとっても大事なことだ。
だが、他人事のように感じてしまう。
逃げないといけないのだろうが、理由が漠然としている。
勿論、兄のために逃げたい。
だが、それよりも…
「…私、お父様とお別れもしたい…けど…」
「オリオンお兄様に…会いたい。」
ミナミはオリオンに会いたかった。
今までごめんなさいとも言いたい。
ありがとうとも言いたい。
彼を労いたい。
ミナミの言葉に、ルーイもアロウも優しく微笑んで頷いた。
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