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ライラック王国の姿~ライラック王国編~
心配するお姫様
しおりを挟む宿に戻ると、傷だらけのルーイが心配そうにミナミを出迎えた。
「…大丈夫だったか?」
ルーイは浮かないミナミの表情に目ざとく気付いた。
「大丈夫…」
ミナミは心配させないように笑顔で答えた。
考えることが多い上に、ミナミには受け止め難い現実だ。
それに…
「そっちこそ…大丈夫?」
ミナミはルーイの顔のあざや、腕などに見える擦り傷を指して訊いた。
「あ…うん。これは鍛錬した結果だから…」
ルーイは気まずそうに笑って言った。
だが、その言葉に嘘はないことがミナミはわかった。
「ならよかった。」
ミナミは笑顔で言ったが、彼女の横にいたアロウはルーイの後ろに立っているモニエルとイシュを見ていた。
なんとなくだが、以前よりもモニエルとルーイの距離が近い気がした。
部屋に戻ると、ミナミは小さい傷を鍛錬で作ったルーイを見た。
ルーイは首を傾げた。
「治してあげる」
ミナミは気軽な気持ちでルーイにふわふわとした魔力を当てた。
ルーイはぎょっとしたが、魔力によって傷が徐々に治ったのを確認すると申し訳なさそうな顔をしていた。
その様子を見ていたアロウが険しい顔をしていたが、癒しの魔力を持つものは結構いるのだ。
ライラック王国の王族は特殊というが、それ以外にも癒しの魔力を持つものはいる。
だから、ミナミは自分たちが何と違うのかわからなかったのだ。
ルーイの傷を治してから、お城でどう逃げたのか、何があったのかを含めてミナミは話した。
無関係の青年が連行されたことや、オリオンがどう動いたか、アズミが助けてくれたこともだ。
そして、帝国の人間が見当たる限りどれだけいたかもだ。
アロウは難しそうな顔をしていた。
ルーイもだ。
二人は連行された青年が帝国のお尋ね者の情報を持っているという話に引っかかったようだ。
「それは、俺も初耳だ。」
どうやら連行された青年はルーイたちが用意したようだ。
「…帝国側がそれに食いついたということですね…」
アロウは横目でモニエルを見ていた。
その視線から、手を加えたのはモニエルだと分かった。
モニエルは肯定するように頷いた。
「食いつくとしても、どうしてそんなことをしたんだ?」
ルーイはモニエルを睨んだ。
「僕ら年上だよ。」
ルーイを注意するようにイシュが言った。ただ、あまり気にしていないというか、揶揄うような口調だった。
「いいよ。こんなガキに目くじら立てるほど俺は興味はないから。」
モニエルはルーイの態度を責める様子はなかった。ただ、火に油を注ぐようなことを言っている。
ルーイは眉間に皺を深くした。
なんとなくだが、モニエルとルーイの距離は近くなかった気がした。
「それに…赤い死神が、彼がお尋ね者を追っているのは有名だよ。」
モニエルはルーイではなくアロウに目を向けて言った。
「…確かに、今回は帝国の目を背けられたからいいが…」
アロウは変わらず難しい顔をしていた。
お尋ね者を追っているのが有名…
赤い死神こと、フロレンスのことだろう。あのエミールという副団長も言っていたし、彼も同じような気がした。
「確かに…私もお城でそんな話を聞いたし…お兄様も知っていた。」
ミナミはオリオンがフロレンスから聞いていたらしいことや、エミールという帝国騎士団副団長も同じようなことを言っていたこと、そして、彼もお尋ね者を追っているようなことを言っていたことを話した。
エミールの名を聞いて全員が顔色を変えた。
「エミール…帝国騎士団副団長までこの国に来ているのかよ…」
ルーイもエミールのことを知っているようだ。
まあ、ミナミが知っているのだから当然だと言えば当然だ。
アロウも同じような反応だった。
イシュは、驚きはしたが、愉快そうに笑っている。何が愉快なのかわからないが、彼はルーイたちほど深刻に捉えていないようだ。
対してモニエルは、顔色は変えたが、そこまで驚いてはいなかった。ただ、彼も深刻には捉えていない。
この反応から二人がライラック王国の人間ではないことはわかる。元々察してはいたが、これでミナミは確信した。
だからといって、何かがあるわけではないが…
「…で、これからはどうするのですか?」
アロウの一声から話はこれからのことになった。
オリオンからの連絡を待つのは勿論だが、アズミから聞いた話を話した。
「…」
アロウはアズミの話を聞いて悲痛な顔をした。
ルーイは初耳だったらしくて驚いていた。
「お姉様のこと、アロウさん知っているの?」
ミナミの問いにアロウは頷いたが、その表情からとても聞けるものではないとミナミもわかった。
アズミの話は置いておいて、オリオンからの連絡を待つとともに、いつでも逃げられるようにアロウが準備に動くことが決まり、ミナミとルーイは変わらず待機になった。
オリオンのことは心配だが、フロレンスに抱いている想いは消えることはなかった。
ただ、アズミの話をしたお陰か、アロウとルーイが以前よりも帝国に対して、フロレンスに対して敵意をギラギラしなくなったのはミナミにとっても嬉しかった。
しかし、ミナミたち王族を狙う他の存在があるという事実が発覚し、事態が良くなっているとはとても言えなかった。
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