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ライラック王国の姿~ライラック王国編~
嫁いだ元お姫様
しおりを挟むアズミには本当のことを話した。
国王を殺したのがホクトだということを…
ミナミの様子やオリオンから察していたようで、真実を聞いてもアズミは驚かなかった。
「…ホクト兄様は…潔癖だものね…」
アズミにはホクトが危ういというのが分かっていたようだ。
「…オリオン兄様は…何があってもホクト兄様もミナミも守る道を選ぶと思うわ…だから、ミナミを逃がすのよ。」
「それは知っているよ…けど、全部お兄様に任せてしまうのは…」
「でも、ミナミにとって一番いいのは、逃げることよ。」
アズミはミナミの手を握った。
街中を行く馬車は、ゆっくりと進み、郊外に差し掛かっている。
なるべく人目の無いところまで進むようだ。
「オリオン兄様は…帝国に逆らえないと思われているし、実際にホクト兄様を守るためと、彼の性格からして逆らうことはしない。…それが今の最善だとしても、よく思わない奴らはいるのよ。」
「知っているよ。でも、ホクトお兄様の再起は…不可能になっているし…有力貴族は早い段階で帝国に付いていい立場を維持しようとしているって…」
「だから、ミナミが危ないの。」
アズミはミナミを真っすぐ見て言った。
「私が…?」
「あなた…忘れていないの?あなたもオリオン兄様と同じ…前国王の子供で…王位継承権を持つ。継ぐ可能性のある存在だって…」
アズミは心配そうにミナミを見ていた。
彼女の言うことをミナミはわかっている。
だが、自分には関係ない現実味のないものだと思っていたし、今も関係ないと…
「帝国だけじゃないのよ。…あなたも、オリオン兄様も狙う存在は必ずこの国にいる。」
アズミはミナミの頭をそっと撫でた。
ミナミはアズミの言うことが分かるが、理解はできるが受け止められないでいた。
「…ホクト兄様の代わりを必要とする…そんな人たちもいるのよ。」
「私はそうならない!!」
ミナミはアズミに大声で叫んだ。
「あ…ごめんなさい…」
思った以上に大声で言ったことに、慌ててミナミは謝った。
「いいの。私もそれが嫌で…早くお嫁に行ったようなものだもの。」
「お姉さま…」
「ただ、私は幸い王族の魔力の特性である癒しがなかった。だから、お嫁にもすぐに行くことができたわ」
アズミは悲しそうに笑った。
彼女の言う通り、四兄弟の中でアズミだけが王族の特有の癒しの魔力を持っていなかった。
一番強いのは外見も併せてオリオンだろう。そしてその次にミナミが来る。
「ただ、これは帝国が来たせいじゃないはず。いつか、いつか絶対に起こる事だったのよ。そして、あなたやお兄様たちが狙われるのは避けられないのよ」
アズミは悲痛な顔をしていた。
ミナミは自分たち王族が持つ癒しの魔力の特性が貴重なのは何となくわかっていたが、アズミの口調からすると問題はかなり根深いようだ。
もしかして、父が帝国と友好的になろうとした背景には王族の力があるのではないか?
そして、それを狙う者が…
そこまで考えるとミナミは急な寒気に襲われた。
辻褄があってきたのだ。
父がミナミに魔力を使わせないようにしたのも…
結婚をしているのが四兄妹で、王族の力を受け継がなかったアズミだけなのも…
アズミはミナミの髪をなぞるように撫でた。
「ミナミ。お父様はあなたには見せないようにしてきたものがあるの。そして、それはお父様が帝国を招くのに友好的だったことにも大きく関わるのよ。」
「お父様が…」
やはり父は、何か理由があって帝国に友好的だったのだ。
「お城の人間皆が優しい人だとしても…皆がその優しさだけでお城にいるわけじゃないのよ、ミナミ。」
アズミは、ミナミのサラサラと垂れている金髪を指で掻くように遊んでいた。
「私は…どうすれば…」
ミナミは縋りつくような気持ちでアズミを見た。
ガタンと、馬車が止まった。
カーテンを開けると、郊外の人目のない場所に付いていた。
「考えてみて、ミナミ。」
アズミは諭すようにミナミの顔を自分に向けて優しく言った。
「何で、お父様がアロウさんの立ち位置の人を必要としたか…」
「お姉さまは、アロウさんのこと…」
アズミがアロウのことを知っているのがミナミは驚きだった。
いや、オリオンやルーイ、アロウがミナミをお城の手引きする際に何か連絡をしたのかもしれないが、それにしては彼女の口調はもっとよく知っているようなものだった。
「私がわかることは…あなたのためにも、オリオン兄様のためにも…あなたは隠れることよ…」
「オリオンお兄様のために…?」
「今のあなたは、私と違ってお嫁に行くという手段が取れないから、それしかないわ。」
アズミな自嘲的に笑った。
「お姉さま!!それはどういう…」
ミナミが聞こうとしたが、アズミはミナミの口に人差し指を当てて首を振った。
「それは、今度ね。」
アズミは優しく微笑んでいた。
そして、顎で馬車の外を指した。
ミナミは外を見た。
そこには、心配そうにしているアロウが立っていた。
「今度…ロートス王国に来なさい。」
アズミは優しく、だが、強い語調で言った。
「…うん」
ミナミの返事を聞くと、アズミはいつものように微笑んだ。
「…じゃあ、またね。」
アズミは笑顔だったが、目が潤んでいた。
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