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二人の罪人~ライラック王国編~

閑話1~王城の話~

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 閑話 ミナミ逃亡劇時、オリオン、リラン不在の王城での雑談





 国王の葬儀を終え、他国の弔問客たちも一通り帰った王城の中は、大きな行事の後ということもあり、後片付けにせわしないながらも、各々気が抜けていた。



 ライラック王国自慢の、アクアブルーの美しい王城。

 王城自体は大きく、使っていない部屋も多くある。更に奥地には使っていない離宮のようなものもある。



 それは、かつての国王たちが持っていた側室や妾のためのものであった。しかし、しばらく国王が側室も妾も持たない時代が続いたため、それらは使われなくなった。今やそこはどう使うか悩みの種の場所である。壊すにももったいないが、普通に使うには豪華すぎる造りである。

 その使われていない所は、維持のために掃除も、防犯のために警備も必要だ。



 そのため、そこは、兵士や侍女たちの噂の場だった。



 今、掃除や管理のために来ている侍女二人が、見張りの兵がいる前で人目の無いことをいいことに談笑をしていた。



「やっぱり、オリオン王子が即位されるのよね…」

 侍女の一人が溜息をつきながら言った。



「ライラック王国の今までの国王の中で一番美形よねー…性格はアレだけど。」

 もう一人の侍女が、少しだけうっとりして言った。



「知らないのか?兵士の中だと有名だけど…オリオン王子、ホクト王子とミナミ姫のことで死神に逆らったらしいぜ。」

 兵士は二人の侍女の話を聞いて、耐え切れず口を挟んだ。



「「何それ?」」

 侍女たちは声を揃えて、兵士に掴みかかる勢いで近付いた。



 兵士は彼女たちの剣幕にたじろぎながらも、表情を凛とさせた。



「死神の言いなりなのも、二人の待遇を一番に考えた結果らしい…兵士の中だと有名だぞ。」

 兵士は少し誇らしげに言った。



「なにそれ…」



「予想外…嘘じゃないわよね…」



 二人の侍女は、驚きもあるが兵士に向けて疑惑のまなざしを向けていた。



 兵士は気まずそうに周りを見渡した。



「…誰にも言うなよ…」

 兵士は声を潜めて侍女二人にもっと近づくように言った。



 侍女二人は兵士に近寄り、彼と同じように周りを警戒するように見渡した。



「…オリオン王子…ホクト王子の死罪を避けるために死神に頭を下げたらしいぞ…」



「「嘘おおお!?」」



「これはまじだ…何せ…牢屋で憔悴したホクト王子が見張りに零したんだから…」

 兵士はホクトの名前を言うときにわずかに顔を歪ませた。それは彼に対していい感情を持っていないのがあるだろう。



「…嫌だわ。そんな熱い一面を持っていたなんて…」



「あれは仮の姿だったのね…本当の自分を隠すための…」

 侍女二人は、うっとりしていた。



 侍女の中で評判の悪いオリオンだが、実害があるわけではない。

 ただ、感じ悪くて人を寄せ付けないだけだ。

 感じ悪いのは実害と言えるのかもしれないが…



 そんな評判だが、容姿は逆の評価だ。



 それもあって、いい噂を聞いた侍女はころりと評価を変える。



 …外見がいいのは得だな…



 兵士は二人の侍女を見て思ったが、決して口には出さなかった。



「そういえば…姫様はどうしたのかしらね…私にはあのルーイ君と駆け落ちするとは思えないし…」

 侍女は、次は心配そうにミナミの話を始めた。



「そうよね…あれだけ国王陛下にべったりだったのに、何も言わずにいなくなるんて…」

 侍女たちは二人で困ったようにため息をついた。



「姫様は駆け落ちじゃない。」

 その二人を見て、また兵士は耐え切れないように口を出した。



 侍女たちはまた、兵士に詰め寄った。



「二人の名誉のために言うし、これから情報も公開されるだろう…けど…」

 兵士はまた二人に小声で、他には言うなよと言った。

 侍女たちは力強く頷くと、目をキラキラさせて兵士を見た。



 大変なことなのに、こんなに目を輝かせるのは、今まで暗い話題しかなく、それに加えて忙しかったからだろう。



「国王陛下の殺害現場を目撃したのが姫様だったらしい…」



「え?」



「そんな…姫様…とてもお辛いでしょうに…」

 侍女たちは顔を青くして、ミナミに同情を示した。



「ああ。そして、オリオン王子の命でルーイが姫様と一緒に逃げたらしい…一時的にだけど…」



「「きゃあああ!!オリオン王子ったら!!」」

 先ほどまでの青い顔が嘘のように、二人の侍女は黄色い声を上げてうっとりとしていた。



 …なんだ…こいつら…



 兵士は口には出せないが、純粋に思った。



「やっぱり、オリオン王子…家族思いなのね…」



「今まで中身オガ屑と思っていてごめんなさい。」



 二人の侍女はうっとりしながらオリオンに対する想いを述べ始めた。



 …オガ屑…ひでえ…



 兵士は侍女二人の思いよりも、かつての評価のひどさに感動した。



「はあ…姫様おいたわしい…」

 侍女の一人が何かに気付いたように、取ってつけたようなミナミの心配を口にした。



「そういえば…今日はここ見張りあなたなのね…」

 侍女の一人が何かに気付いたように兵士を見た。



「ああ。今日は、何か訓練とか打ち合わせがあるらしくて、ベテランの人たちがごっそり連れていかれた。だから今日の見張りの平均年齢は低いぞ。」

 兵士は又聞きなのか、曖昧な口調で言った。



「訓練?聞いている?」



「いいえ。打ち合わせも知らないわ。」



 侍女二人は不思議そうに首を傾げていた。



「そういえば…オリオン王子も見当たらないわね…」



「帝国の目障りな騎士団もいないわ…」



 侍女たちは意外と辛らつだった。



 ただ…



「死神って言われているけど、フロレンスさんって素敵よね。たまに笑いかけてくるときに人懐っこさが見えるのよね」



「騎士団にもかわいい子いるわよねー」



 彼女たちは外見が整っていれば、だいたいいいのだ。

 なにせ、自分達が世話をしないといけないのはしなびて魅力も無い初老以上か、太って触れたくないほど脂ぎっている貴族たちなのだから。しかも、軒並み性格が悪い。



 他人を寄せ付けず感じ悪いオリオンの評判など可愛いと思えるほど、彼女はそれらに辛らつだ。



 騎士団から容姿の話になり、次は嫌な貴族の話、最後は愚痴大会になっていた。

 その様子を見ていた兵士は溜息をついて



 …早く姫様帰ってこないかな…



 そんなことを思っていた。





 丁度その時、ミナミは船に乗っており、オリオンはリランに胸倉を掴まれていた。



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