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ライラック王国~ダウスト村編~
不穏な青年
しおりを挟むマルコムとシューラが盗賊を片付けるのに動き、その間ミナミはイトに護衛してもらうという方針に決まった。
ただ、方針が決まっただけだ。
ガレリウスがどういう男なのかはわからない上に、まだ彼が完全に盗賊と繋がっているとは確定していない。
ガイオさんが無意識に不穏分子と思っており、シューラが怪しい薬物を所持していると確信し、彼を不審だと判断している状況だ。
「とりあえず、一度落ち着こう」
ガイオは淹れている途中のお茶の準備をし直し始めた。
やたら茶葉が多い。
あとお茶で見たことがない瓶がずらっと並んでいる。
「…僕が淹れるよ。というよりもなんで香辛料がこんなにあるの?」
シューラは呆れた様子で並ぶ瓶を指さした。
「いや、お茶の渋みをごまかすには他の味を混ぜるのが一番だろう?」
ガイオはシューラの疑問がわからない様子で、当然のことのように言った。
マルコムの顔が引きつっている。
ミナミもガイオがとんでもないことを言っているのはわかる。
シューラがせき込むほど不味いお茶だったのが納得だ。
「結構いいもんじゃん。うわーこれって北の大陸でとれる香辛料だし、普通に高級品だぞ。…茶に使うか?」
イトは並んでいる瓶の中身を見て感心し、そして引いている。
「確かに香辛料を使うお茶はあるけど、あくまでそれは体に対する作用を得るためだよ。味覚に対するものもあるけど、茶葉の味を誤魔化すためではないよ…毒を混ぜる気ならその理論はわかるけどね。」
マルコムは呆れたように皮肉を交えて言った。
「確かに毒は味でわかるから変な味がしたらすぐに吐き出しなさいってよく言われたな…。今は無味無臭の毒はほとんど無いからって…」
ミナミは幼いころから言われていることを思い出した。
もちろん毒見を重ねられているため、毒を盛られたことは無いが、王族であるが故に小さい頃が言われている。
「君たち物騒過ぎじゃない?モニエル君とイシュ君が物騒なのはわかったけどお嬢さん命狙われているの?」
ミナミの発言にイトが引いている。
「え…だって、ご飯食べる時に言われるんじゃ…」
ミナミは自分にとって一般的なことだったので、世間一般でも同じような会話が食卓で行われていると思っていた。
毒見はされないかもしれないが、毒に対して警戒を喚起することは一般的だと思っていた。
「普通の家庭は食卓でそんな会話しないって…」
イトは顔が引きつっている。
そのイトの発言を聞いて今の自分の発言が一般的じゃないことと、自分の感覚が一般的じゃないことに初めて気づいた。
「別に跡目争いのある家庭なら普通だよ。俺だって昔兄によく毒を盛られたし、兄の一人は毒殺されたし」
マルコムがミナミのフォローなのか、やたら物騒な発言をした。
作り話なのかわからないが、やたら物騒なフォローだった。
ただ、作り話には見えないのでマルコムはとんでもない兄がいたのだろう。
だが、そんな家庭で育ったらそりゃあ血縁に信頼なんか持たないな
とミナミは変に納得してしまった。
そして、イトとガイオが引いている。
毒談義に多少の盛り上がりが見えている間シューラは手早くお茶の用意をしていた。
よくお城で嗅いだようないいお茶の香りが漂ってきた。
お茶を淹れるシューラは真剣な目でお湯の中の茶葉を見ている。
そして抽出される薄茶色の液体の色を光に翳しながら観察している。
あと時たま鼻がピクピクしているのは匂いを嗅いでいるのだろう。
ちょっと小動物っぽくてかわいい。
そんなシューラの姿にミナミが癒されていると、イトとマルコムが急に表情を変えた。
何か変なことをしたのかとミナミは思ったが、すぐにその理由がわかった。
玄関からドタドタという足音が聞こえる。
今朝のように村人が入ってきたのだろう。
しかし、それにしては数が少ない。
複数人ではなく、一人っぽい。
「叔父さんー。お客さんが来ているんだって?」
とガイオさんを呼ぶ声が聞こえた。
彼を叔父と呼び、かなり気軽に訪ねてくる。
もしかしたら彼がガレリウスなのでは?
「医者の真似事できるやつとか腕が立つって聞いたぞー」
声は近づいてくる。
マルコムとイトは完全に警戒をしている。
シューラは警戒は二人に任せているのか、カップにお茶を注いでいる。
いい香りがする。おそらくとても美味しく入ったと分かる香りにミナミはうっとりとした。
だが、すぐにミナミは体をマルコムの近くに引き寄せられた。
自分を守るためとわかっているが一瞬ドキリとした。
そして自分を引き寄せたマルコムの腕を見て、つくづく太いなーと改めて思っていると、左手に目がいった。
手のひらに大きな傷がある。
そして刃物による傷だと見てわかる。
そういえば、シューラがマルコムが心に決めた存在がいると言ったときに差していたのは左手と左肩だと言っていた。
もしかしてこの傷跡と関係があるのでは?と思った。
そして、傷を負ってから時間が経っているので、跡を治癒することはできないだろう。と考えていた。
マルコムはミナミが自分の手を見ていることに気付いているだろうが、彼は近づいてくる足音に警戒をしている。
「叔父さんここにいたのか?」
ミナミたちがいる台所に一人の長身の男が入ってきた。
なるほど、ガイオが優男というのがわかる。
凛々しい眉毛とやや釣り目だが形のいい目、瞳はガイオと同じく緑色で細い輪郭の顎は尖り気味だが、線の細さを感じさせると同時に神経質そうな感じもする。
そしてなによりも特徴的なのは、彼のひだり顎にあるほくろだろう。位置のせいか、不思議な色気を感じる。
ただ、ミナミのタイプではないので、モテそうだなーとしか思わなかった。
見た目からしてマルコム達と同い年かそのくらいだろう。若者だ。
子どものミナミが思うことではないが。
「あれ?お客さんもいたんだ。」
彼は優男で神経質そうな見た目にしては砕けたしゃべり方をする。
きっとこれもモテる要因になるだろうなーとミナミは他人事のように思っていた。
隣にいるマルコムは探るようにだが、にこやかな笑顔をしていた。
「叔父さんお客さんにお茶淹れさせているのかよー。まあ、叔父さんのお茶は独特だからな」
彼はガイオを見つけると気安く話しかけ始めた。
ガイオも少し戸惑っている様子が見えたが、これがいつもの調子のようで表情が徐々に平時のものに戻っている。
「あの白髪の子が医者の真似事ができる子で、そこの小柄な色男が腕がた…」
ガレリウスはお茶を淹れているシューラとマルコムと順に目を向け、ミナミにも目を向けた。
そういえば、彼は朝の村人たちの集団にはいなかったな。
とミナミは思った。
つまり、初対面なのだ。
これは挨拶をするべきでは?
と思ったが、ミナミの隣のマルコムが警戒をする気配を感じたのでミナミも姿勢を正して、彼に警戒の目を向けようと向き直したところ
「…」
ガレリウスは固まって黙っている。
ミナミはわけがわからず、マルコムを見た。
マルコムは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
その顔の意味がわからず、イトを見た。
イトは何やら考え込む様な険しい顔をしている。
訳がわからずミナミはまたガレリウスを見た。
「あの…」
ミナミは未だ固まっているガレリウスに声をかけた。
ミナミに声をかけられてガレリウスははっと我に戻ったのか慌てて姿勢を正した。
なにやら先ほどガイオさんに向けていた気安さは全くない。
まさか正体がバレたのか?
と過ったが
「…か…可憐だ」
と頬を赤らめて呟いていた。
ミナミは褒められたのかと思ったので
「ありがとうございます。」
と笑顔でお礼だけ言った。
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