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ロートス王国への道のり~それぞれの旅路と事件編~

悪いやつ

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 マルコムは魔石を取り出すと、火の魔力では赤い塊を焼き始めた。

 焼肉のような匂いか?と思ったが、火力が強い。



 というよりも一瞬で消し炭にしている気がする。

 ミナミは火の魔力を持っていないのでよくわからないが、マルコムの火の魔力が大きいのはわかる。



『火の魔力の大きさもあるが、あれが魔獣の遺骸だからだ。

 魔力を含んでいる故、魔力で起こった火に大きく反応する。

 おおかた、あの魔獣の中に火の魔力を持っていた個体がおったのだろう…』

 ミナミの背負った鞄に入ったコロが説明するように言った。



 とても勉強になる。

 しかし、消し炭にしても火は消えない。



 マルコムとミナミの前に大きく火柱が立つ。



「魔獣って魔力だけでなく肉だからね…脂があってよく燃えるんだね…」

 マルコムはごうごうと燃える炎を見て他人事のように言った。



「そうなんだね…確かにお肉を焼く時って脂が落ちるとすごく燃え上がっているもんね。」

 ミナミもごうごうと燃える炎を見て言った。



 消し炭となった赤い塊の残骸が火柱とともに空高く舞い上がり、風に吹かれて漂っている。

 その様子を見てミナミは命の儚さを感じた。

「あの魔獣に食べられた人もいるんだね」

「そうだよ」

「お空に飛んで行ったかな?」

「残骸は飛んでいるね」

 マルコムも同じように思っているのかわからないが、燃え上がる灰を見上げている。



『お主らアホか!?早く消せ!!』

 コロの怒号のような声とギャニャアアアアという鳴き声が響いた。

 大きい炎は収まる気配が無く、地面の草を焼きジワリと広がっていた。



 ミナミはコロの声にハッとして、慌てて水の魔力を放った。

 慌てて放ったため大きな水の塊が凄まじい勢いで火に落ち、火を消すだけでなくバシャンとミナミとマルコムにもかかった。



 火は消えたが、ミナミもマルコムもびしょ濡れになった。



「…君さ」

 マルコムは呆れた様子でミナミを見た。

 とはいえ、大きい炎を発生させたマルコムにも責任の一端があると思ったのがそれ以上咎めなかった。



 ミナミは申し訳ないと思いながらも、何ともいえない気分で燃えた残骸を見た。



『もういや…こいつら…ご主人様…』

 びしょ濡れになった鞄の中でコロが消えいりそうにニャアア…と鳴きながら呟いた。











 村に来た時とは違い、今回はシューラと村長だけなので大きい道を歩いても怪しまれない。

 なので、来たときよりも早い移動ができる。



 シューラは歩きやすい道と周りを見てため息をついた。

「こちらへの気遣いはいらないですぞ。イシュ殿…」

 シューラの後ろについて歩く村長のレドはシューラに苦笑交じりで言った。



「こっちこそ、気遣いいらないよ。そっちは年寄りだし。」

「こう見えてあの農村で過ごしておりますし、何よりも昔鍛えておりました。」

 シューラの言葉にレドはカラカラと笑って言った。



「昔は昔でしょ?人間は衰えるものだし、僕は人体に詳しいからの配慮だよ。」



「そういわれると痛いですな…とはいえ、そちらへ気を遣わせっぱなしも苦しいもので、このくらいの強がりは目をつむっていただけないか?」

 レドはシューラを計るように見ている。

 彼はシューラがついてきた村人に苛立っているのを気付いているのだろう。

 確かにシューラはわかりやすかったかもしれないと思った。



「村長さんの手腕は認めるよ。でも僕は性質上どうしても苛立ってしまうものがあるんだよね。」



「力で生きてきたもので稀にそういうものがおります。村の衆は平和な国の村人で争いに無縁であった。

 故に、力を振るうことに実感が無いうえに他人事なのです。」



「村長さんは違うのが救いだよね。」



「儂は戦うための仕事に付いておりましたからな…」

 レドは遠い目をした。

 彼はかつて異国の海軍に属していたと言っていた。

 その名残が今の彼にもあるのだろう。

 軍での生活や習慣などは忘れられるものではない。シューラはそれをよくわかっている。



「まあ、その仕事の昔話が僕たちの報酬なんだけどね。」



「若い時の苦労はしてみるものですな」

 レドはまたカラカラと笑っている。



 しかし、年寄りだが歩みに異常が見られず、ここまでシューラについて来ているのは感心する。

 若い時鍛えていたというのは馬鹿にできないものだ。



「イシュ殿は貴族ではないのですね。ですが上流階級の匂いがしますね。」



「だとしても、僕は一介の兵士だったからね。」

 世間一般で言うならシューラは上流階級と言える生まれだろう。

 ただ、疎まれただけで教育はしっかりと受けている。



「儂もそうですな…気が合いそうですな」

 レドは何が同じなのか明言せずに言った。

 もしかしたら彼も上流階級の生まれなのかもしれない。

 ただ、ここでは全く関係ない話題だ。



「僕に年輪は無いよ。」



「話し相手になってくれている。もう一人の用心棒も教養がありますが、知恵は圧倒的にイシュ殿が上でありますな」



「詰め込まれたからね…ねえ、歩きながら話して苦しくないの?」

 シューラはペースを落とさずに話し続けるレドを見て少し心配になってきた。



 ぽっくり逝かれたら困るのだ。



「それはそうと、先に謝らないといけないことがあります。」

 レドはシューラの質問に答えずに急に謝罪を始めた。



「何?」



「ほぼ確実に町で不快な思いをします。

 彼らは一つの農村などどうでもいいのです。」

 レドは沈んだ声で言った。



「モニエルも言っていたでしょ?

 行動を起こしたって証拠づくりでもあるんだよ。

 それに、何のためにこれを持っていると思うの?」

 シューラは片手に持っていた、魔獣の頭を持ち上げて言った。

 本当なら持ちたくないが、仕方ないのだ。



 いくらシューラといえど、これを年寄りのレドに持たせるのは気が引けたのだ。



 シューラが持っているのは、先ほど村人たちの前で切り倒した魔獣の一匹だ。

 殺して時間が経っていないのでまだ血が滴っている。



「最悪はこれを投げ込んであげれば悲鳴くらい上げるでしょ。」



「それは愉快…いえ、とても楽しそうだ。ならば何としても役場までは行くべきですね。」

 シューラの言葉にレドは楽しそうに笑っている。



 その様子を見てシューラは自分の人選が間違っていなかったと確信した。

 シューラと町まで状況を訴えに行く者を選ぶとき、根性があって性根が多少悪い人間を選びたかったのだ。



 あの村の人間は良くも悪くも純朴で世間知らずで流されやすいのだ。

 ゴロツキになってしまったのも楽な方に流れた結果であるし、村長の手腕もあるが従っているのも反骨精神が少ないからだ。



 つまり、村の中で一番性格の悪い人間を選んだのだ。

 レドは文句なしに村で一番性格と性根が悪い。

 良くも悪くも人を動かす人間だ。



 それに、こういう人間でなければ、役人などに訴えられないだろう。

 他人を引きずり落とすくらいの根性が必要だ。



 あとは、他人を貶めるくらいの茶目っ気も必要だ。



「おや…楽しい会話をしているとあっという間ですな」

 レドは見えてきた町の門を見て言った。



 シューラはあの廃村の村人はあまり好きじゃない。だが、レドは嫌いじゃない。

 年より故の貫禄もあるのだろうが、彼から匂う武力の片鱗のせいでもあるだろう。



 もしかしたら、かつての自分の上司と重ねている部分もあるのかもしれない。

 マルコム達以外には懐いていないが、それ以前で一番尊敬していた上司と何となく似ているのだ。



 シューラがよく使う偽名の“イシュ”は、その上司の名前だ。

 ただし、それは、ほんのわずかな突っかかりであり、それを気にするほどシューラは感傷的じゃない。



 とはいえ、今でも彼が死んだ瞬間は思い浮かべることができる。

 きっとマルコムもその場面を見ていただろう。



 まだマルコムと敵同士だったころのことだ。

 イシュは多くの軍勢を率いて敵国の王城に攻め入った。

 その防衛線でマルコムは帝国騎士として戦っていたはずだ。

 イシュはそこで一人の帝国騎士に敗れ斃れた。



 強かった彼が敗れたのは衝撃だったが、復讐など考えるシューラではない。

 ただただ、相手に敬意を憶えた。

 それを冷たいと言われることが多いが、シューラは彼が自分よりも強かったから尊敬していた。



 だが、今考えるとシューラは彼の内面の強さも感じ取っていたのかもしれない。



 そこまで考えられるようになった自分は、変わったのだろうか?

 マルコムは変わったとは言わずに、シューラが育ったと言っている。

 まるで、シューラの情緒が未熟と言われているような感じだが、それは否めない。

 そこまで考えて、少し腹が立ってきた。



 マルコムにだけには言われたくない。



「表情が乏しいと思っておりましたが、イシュ殿は表情豊かですね。」

 口を尖らせ不満そうな顔をしているシューラを見てレドは微笑ましそうに言った。

 彼の言葉でシューラは自分が百面相をしていたことに気付いて、慌てて表情を引き締めた。



「気を引き締め過ぎてもよくないですよ。

 なにせ、これから楽しいことをするのですから…」

 シューラの顔を見て、レドはあくどい笑みを浮かべて言った。



 その顔を見て、シューラは改めて人選は間違っていなかったと自分を褒めた。
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