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六本の糸~地球編~
15.雁字搦め
しおりを挟む敵を無事退けたコウヤは、戦艦の者達から大きく称えられた。
「すごい!!コウヤ!!何体倒したの?」
その中でひときわ大きくはしゃぐアリアの歓声が聞えた。
「いや・・・・機械がすごいだけだ。これでなきゃきっとやられていた。」
コウヤは謙虚に言ったが、その言葉にはどこか自信があふれていた。
「さっすがだね。階級は俺の方が上だけど腕はもう完全に抜かれちゃっているよ。」
彼等に合わせるようにキースはコウヤをおだてた。
「・・・・そんなこと・・・ハンプス少佐が後ろにいてくれるから動けるんですよ。」
コウヤは謙遜しながらもまんざらでない様子だった。
「すごいなコウヤ。きっといつかロッド中佐と肩を並べるんじゃない?」
リリーもコウヤを誉めた。
戦艦フィーネの中はコウヤを称える雰囲気でいっぱいだった。
ただ一部を除いては・・・・
褒められるコウヤの様子を見ながらモーガンは心配そうにハクトを見た。
「艦長・・・・なんかコウヤ変わったな。」
モーガンは休憩を取るハクトの後ろで寂しく言った。
「強くなったのはいいことだ。ただ、少し嫌な予感がする。」
「嫌な予感?・・・・何?」
「自惚れると死ぬ。・・・・あいつはまだゼウス軍のトップパイロットには勝てない。」
ハクトは確信を持った声で言った。ハクトの中にあったのは緑のドールだった。
「へー・・・でも来る敵全て倒しているしょ。艦長はわかるの?強さとか」
「さあな・・・だが、可能性を秘めているのは否定しないがな・・・油断は禁物だ。」
ハクトはそういうと立ち上がり再び艦長席に向かった。
「艦長休まないの?」
「もう休んだ。俺の取り柄はタフなところだ。」
「艦長がドールに乗ればもっと早く片が付くのに。」
モーガンはハクトを誉めた。
「・・・・今はハヤセ二等兵を乗せるべきだ。」
「・・・・艦長?・・・・言っていること噛み合っていないよ。」
「・・・・そうだな。」
「艦長はドールにコウヤ君が乗ることに不安を抱いているのに何で乗ることを薦めるの?上からの命令でも戦艦内だと艦長の権限が上だよ。やろうと思えばいつでも取り上げられるのを知っているからね。俺も、みんなも。それなのに・・・・何を期待しているの?」
「期待・・・・か。」
ハクトは皮肉そうに笑った。
「・・・・艦長。上に何を掴まれているんだ?俺おかしいと思っているんだ。言いなりの艦長が、上の言いなり過ぎるよ。」
「言いなり・・・か」
モーガンのその問いにハクトは答えずに立ち去った。
生存者を優先した救助の結果、市街地の救助及び避難は済み、救助の手はやっと破壊され尽くした地連軍訓練所に至った。だが、無残に潰れた遺体ばかりであり、生存者は絶望的だった。
「・・・・悲惨だな・・・・」
血の匂いが漂う霊安所でディアは顔を顰めた。
「そうですね・・・・たくさんの訓練兵が死んでいますね。変わっていなければ、ここは地連軍の中でも一番のドールパイロット養成所ですから。」
テイリーは手を合わせた。
「生存者は絶望的だな・・・・・。地連軍には連絡を取ったが、状況の説明をしたら余計に触るなと言われた。」
ディアはそういうと悲しそうな顔をした。
「地連の上なんてそんなものですよ。下の犠牲なんか気にしない。横の繋がりしか見ていない屑どもです。」
テイリーは嫌悪を露わにした。
「よく知っているな。」
ディアは横で拳を握りつぶすほど握る補佐を分析するように見た。
「・・・・有名です。」
テイリーは気まずそうだが、拳は握り続けていた。
「君の個人的な地連評価は非常に参考になる。・・・・新参者の我が国の存在も旧い体制の前だと無力なのかもしれないな。この兵たちの犠牲のように消耗されるものと思われているだろう。それに、ここはこれ以上地連軍が来ないと触れないというわけだ。」
ディアは瓦礫の山を見て悲しそうな顔をした。
「連絡なんかしないで全て明かせばよかったですね。総裁の行動を無意味にするようなことはあってはならない。」
テイリーはディアを励ました。
「行動が意味を持つのは結果が得られてこそだ。行動が次につながるとしても、得られなかった結果の前では空しいだけなんだ。私のミスだ。下手に連絡を取ったせいでこれ以上助けられないのだから。」
ディアは一枚の紙を見つめていた。
「なんですか?それは?」
テイリーはディアの持っている紙を差した。
「この施設を利用していた訓練兵の名簿だよ。・・・・地連側から身元確認のためにもらった。全員とは思えないが、仕方ないだろう。だが・・・・」
ディアは握りつぶしそうなほどその紙を握りしめた。
「・・・・知り合いでもいたのですか・・・・?」
「・・・・・ハクトの戦艦に乗っていた少年の名前があった。君も私も面識のある子だ。まだ見つかっていない。」
ディアは歯を食いしばり、破壊され尽くした瓦礫の山を見た。
「総裁・・・・」
「私は何もできないのだな。私はあいつを悲しませることしかできない・・・・」
ディアが弱気で人間らしいことを言う時はたいてい一人の者について言う時だ。
「すまない・・・・また君の助けになれない」
人間らしい感情をあらわにするディアを見つめテイリーはやるせなさと悔しさをにじませた表情をした。
不思議なことだ。
あの時以来記憶は全く蘇らない。
ドールに乗るたびに蘇った記憶は、今は乗るたびに蘇る感覚すら忘れてきている。
コウヤは不安になっていた。
記憶によって裏付けされた憎しみが、記憶が蘇らないことによって正しいのかわからなくなっている。
目的地まであと少し、たくさんのドールを沈めた。戦艦もたくさん沈めた。
なのに、記憶は全く蘇らない。
ふと思い出した一人の少女。あのフィーネの前で会ったあの少女は自分のなんなのだろうか・・・?
コウヤはアリアと深い仲になりながらも彼女のことが気になっていた。
あの少女も写真の中にいた一人である。これは確信を持っていた。
名前も思い出せる。ただそれだけだ。
自分の持つ写真に写る者で会っていないのは、あと3人。
「ハクト、俺、ユイ・・・・」
それからコウヤは考えた。
このプラチナブロンドの髪をした大きなメガネをかけた少女が、彼女がディア・アスールなのではないか。彼女のことをディアと呼んでいた。
するとコウヤは一つの結論にたどり着いた。
「・・・・だから、彼女は俺とハクトを知っていた。」
分かっていたことだが、結果ハクトは確実にこの写真の少年である。
「・・・残るは・・・・」
コウヤは写真の中で優しく微笑む少女のような顔をした栗色のくせ毛が特徴的な赤い瞳の少年と、彼に腕を絡ませて笑う金髪の緑色の瞳を輝かせた少女を見た。
「・・・・この二人を捜すんだ・・・・」
コウヤは記憶を探った。
クロスとレイラ。名前は呼び合っていたのを覚えている。だが、今まで思い出したこと以外なにも蘇らなかった。
綺麗な夜空だ。これは第一ドームの空だ。
何だ、すべて夢だったのか。横を見ればコウヤがいるのだ。そして、しばらくしたらアリアが来て、どうでもいい話をして、親の目を気にして気付かれないように家に帰ればいい。
「シンタロウ。」
背後からかかった声に飛び上がりそうになった。家に帰る途中で見つかった。
急いで振り向く父と母がいた。
「・・・た、ただいま。」
気まずそうに笑顔で言うと二人は笑った。
そして、二人は互いに顔を見合わせて寂しそうにシンタロウを見た。
「さよなら。」
その場面に、挨拶にシンタロウは二人に手を伸ばした。
視界が暗転し、体の感覚が蘇った。
打ち付けられるような衝撃が、肩、背中、首、足に走った。衝撃の跡には熱の様な内側から響く痛みが浮かび上がり、額に殴られるよりも重量のある衝撃が走ると、思考を奪うように脳が揺れ、頭に生ぬるい液体が流れた。
暗転した世界に白い光が差し始めた。
それと同時に人の声が聞こえる。
「・・・・まったく、自分は雑用じゃないんだ。」
「悪い。だが、お前は医者でもあるだろ?」
「そうだけど、久しく手当てはしていない!!。」
二人いる。男と女の声だ。
「助かりそうか?」
「まあ、助かるだろう。俺が手当てしているんだから。けど、幸運だな。・・あんなひどい状態で助かったのだから。」
「・・・・そうだな。」
男が手当てをしてくれているようだ。女が自分を助けたのだろうか?
いや、自分は死んで、これは別の、どこか死後の世界だ。
だが、それにしては無慈悲なほど体の痛みは感じる。
周りを見ようと意識すると、どうやら目を閉じていたことに気付いた。
辺りが明るくなったから視界に白い光が差したようだ。
恐る恐る目を開けるとそこには灰色の天井があり、一人の青年というべきか少年というべき男がシンタロウの怪我を診ていた。
「あ、起きた。」
シンタロウが目を開いたことに気付いた男は手当ての際にしていた手袋の血を拭ってからシンタロウの瞳を覗き込んだ。
「生きているのか?」
「まあ、生きている。自力で目を開いた。呼吸も正常で、外気用マスクをすぐに着けたお陰で肺の負担は怪我によるものだけで済んでいる。といっても暫くは血を吐くことになる。」
男は白衣を着ており、どうやら医者の様だ。
《随分若い医者だな。》
シンタロウの頭の中にあった医者のイメージよりもかなり若い。というよりかは幼い。元々童顔なのだろう。
男はシンタロウの肩から順に痛む場所を叩いた。
「って・・・」
痛みにシンタロウが呻くのを確認したようだ。
「うん。大丈夫だ。骨はあばらと肩が折れている程度で、後は打撲だろうな。あの様子で肺が潰れなかったのは幸運としか言えない。しかし、相当鍛え込んだ体だな。」
男は頷きながら感心していた。
男の評価通り、人体改造もどきのお陰で体は屈強なそれに近かった。健康だったかどうかは別だが。
「よかった。」
そばにいた女の方は緑色の瞳をした綺麗な自分と同じくらいの年齢の少女であった。
どこかで見たことがある少女だった。
起き上がるのが痛いため、寝っ転がりながら少女を見ていると彼女の方から顔を覗き込んできた。
彼女は綺麗な金色の髪を垂らしてシンタロウを覗き込んでいた。
「礼を言う。マーズ研究員。」
女が男に礼を言うと、男はため息をつきながら部屋から出て行った。
マーズという名に聞き覚えがあった。そして、彼女の外見の特徴はシンタロウの記憶に新しかった。
しかし、今は頭どころでなく体中が痛いため、深く考えられないでいた。
思考と体の感覚を切り離そうと深呼吸をしたとき、女の服装が目に入った。
「お前は?まさかここは天国とかか!!?・・・」
少しふざけた様子で訊くと少女は呆れたように首を傾げた。
「違う・・・・天国ではない。」
彼女はどこか育ちのよさそうな少女であった。ただ1点軍服であることを除けば舞踏会にでもいそうな人だ。彼女は赤と黒の軍服を身に付けていた。
「・・・お前は誰だ?」
シンタロウは警戒していた。なぜなら、その軍服はゼウス共和国の兵隊の者であったからだ。
彼女は人差し指を口に当て
「・・・・秘密。大丈夫。怪我が全部治ったらすぐに自由にする。」
と言い、安心したように笑うと部屋から出て行った。
開かれる扉の向こうを見ようと、シンタロウは体を起き上がらせようとしたが、体は思うように動かなかった。
持ち上げたはずの身体は静かに床に戻った。外で鍵のしまる音がした。
自分は閉じ込められている。
だが、怪我が治れば出してくれるらしい。シンタロウは考えた。
何でこんな手当てまでしてくれる扱いなのだろうか。そして、彼は少女の軍服を思い出した。
「・・・・そんなはずない・・・」
自分の頭に浮かんだことを即座に否定した。
気が進まないが、敵軍である以上、滞在する部屋に鍵をかける必要がある。
レイラは鍵を隠すように自分のポケットにいれると、目の前に道を阻むように立つ白衣の女を見つけて顔を顰めた。
「聞いたわよ。なんであんな死にぞこないを持って帰ってきたの?」
白衣を着た女はレイラの方を見て言った。
「だいたい、私の部下は便利屋じゃないのよ。あの子にはまだまだやってもらいたいことがあるんだし、彼の時間が奪われることがこの国のどれだけの損害になると思っているの?」
「・・・・うるさい。今回の行動は私の想定外だ。」
レイラは女を睨みつけながら言った。
「想定外?・・・・自分の行動なのにね。意志を持ってじゃなきゃドームなんか壊さないわよ。」
女は煙草に火をつけながら言った。
「・・・・・ここでは吸うな。」
レイラは女を睨みつけそう言うと、女から逃げるように来た道を引き返した。
レイラの後姿を見て、女は笑っていた。
「いい感じだわ・・・・・こんなに早く効果が表れるなんてね・・・・」
女は煙を吐いた。
「・・・これで、あの人が近くなる。」
女は気味の悪い笑みを浮かべた。
地球から月ドームへ到着した船は沢山の乗客を降ろし、再び沢山の乗客を乗せ地球に戻って行った。
月ドームの「天」に降りたロッド中佐とイジーは港に用意された軍属の車の前で、長い移動時間で固まった足と腰の筋肉をほぐすように伸びをし、体を慣れさせるように足踏みをしていた。
「久しぶりだな。地球から離れるのは・・・・」
感慨深くロッド中佐は言った。
「そういえば、中佐は月のドーム出身でしたね。」
イジーが言うと、ロッド中佐は一瞬口を引き締めた。
「そうだな」
「・・・・確かここ「天」でしたよね。」
イジーは何かを思い出すように言った。
「・・・よく覚えているなルーカス中尉。」
「上官のことは調べていますよ。経歴は特に。」
イジーは得意げに言った。
「そうか・・・・さすが有能な中尉殿だな・・・」
片頬を吊り上げて皮肉気に笑うと、ロッド中佐は歩き始めた。
「中佐はご実家に寄らないのですか?ご両親にご挨拶とか・・・・」
イジーは歩くロッド中佐を追いかけながら訊いた。
「寄る必要はないな。仕事をして地位を築けば何も言わない親だ。だいたい月にはいない。」
ロッド中佐は冷めたように言った。
イジーはそのロッド中佐の様子になぜかわからないが寂しくなった。
「そうですか、わかりました。」
そういうとイジーは一つのことを決めた。
何かを決意したような表情をするイジーの前をロッド中佐は口を歪めながら歩いていた。
あるドームに一つの戦艦が入港した。
その戦艦の中では任務を終えた後の激励なのか、艦長が前に立っていた。
「ご苦労であった。無事ドームに着くことができた。・・・・ここまで戦ってくれたハヤセ二等兵とハンプス少佐には礼が言いたい。」
そうハクトは並ぶ乗組員の中のコウヤとキースを見て言った。
「いえ・・・・俺も戦わせてくれたことのお礼が言いたかったんです。」
コウヤはどこか勝気に言った。ただ、言葉に嘘はない。
「そんな艦長殿が言うことはないぞ。艦長殿が戦えば一瞬で終わったものを俺に活躍の場を設けてくれたことに俺もお礼が言いたいね。」
正反対にキースはハクトを持ち上げて言った。
「・・・・いや、そんなことはない。君たちの力あってだ。では、これから私は仕事の方に行く。・・・他の乗組員は船の整備を分担して各自町を見に行ってもよい。」
そうハクトがいうと周りから歓声が上がった。
「・・・だが、くれぐれも油断はするな。この前も同じ状況であんな目に遭った。」
そう言うと歓声を上げた者たちは引き締まった表情なった。
「スーン二等兵は、俺と共に仕事の方に来てもらう。」
ハクトがアリアを名指しで指名すると
「何でですか?艦長。」
アリアは少し不満そうに言った。
「本格的なオペレーターの訓練を受けてもらう。他の戦艦とも連絡を取り合う重要な仕事であるが故に実戦だけでは補えないマニュアル的な部分が大きい。」
そうハクトが言うとアリアは名残惜しそうに
「・・・・はい・・・・」といいコウヤの方を見た。
「頑張れよ。」
コウヤはアリアがそんな表情をしていることに全く気付かず声をかけた。
そんな現場を見ていたほかの乗組員たちは不審そうな顔をした。
シンタロウは考えていた。自分の身に起こったことを
考えた結果出たのは、人が来るのを待つことだけであった。
手当てをしてもらったとはいえ、牢屋のような部屋に一人置き去りにされたシンタロウは無性に友人が恋しくなった。
振り返ると、グスタフは本当にシンタロウに良くしてくれた。彼や教官に対しての読みが浅かったせいでいらない犠牲を出した気がした。だが、教官に追いかけられなかったら自分はドールに乗ることは無かっただろう。
結果、自分は助かっているのだから後悔だけはしていられなかった。
そう言えば自分は、遺言を残そうと思って助けに来た人にお願いした。
知ってしまった真実を親友に知らせないといけないのだ。
それに加え、死を悟ったために変わってしまったものがあった。
しかし、それを死ぬことはない状況で思い出すとシンタロウは複雑な気分になった。
「・・・・やっぱり憎い。」
シンタロウは以前より不確か声で言った。最も、ゼウス軍と地連上層部の話をグスタフから聞いた時点で、自分の憎しみが揺らぎ始め、誰に向ければいいのかわからなくなっていたのだ。
「・・・・最善の選択に最悪の手段・・・我ながら皮肉だ。」
憎しみが変わってしまったのは、自分が手を汚したのもあるのだろう。それまでに過ごしてきた生活も大きかったが、決定打は結局自分の行動だった。
シンタロウは右手を動かし、引き金を引いた指の感触を思い出して、自嘲的に笑った。
すると扉が開いた。
そこにはさっきいた少女が立っていた。
「お前か、ここはどこだ?」
シンタロウのその声に全く耳を貸す気配もなく少女は部屋の鍵を閉めて中に入った。
「逃げないって。そんなに警戒するってことは、ここは敵軍の陣地か?」
冗談半分のように笑顔で言ったのだが、少女は表情を固くして
「よくわかったな・・・・やはり私の制服か?」
あっさりと肯定されたことにシンタロウは首を傾げた。
グスタフの言葉から、訓練にはゼウス共和国が絡んでいる。それが公表されるのを隠すために施設を破壊したと思っていたからだ。
だとしたら、ここにいるのはグスタフ同様に地連に要請されたゼウス共和国の人間だと思っていた。よって、ここは地連である。と考えていた。
《・・・・考えすぎだな。》
助けられたことにお礼を言うべきなのに真っ先に出た言葉が
「どうして助けた?」
そんな言葉であった。
「わからない・・・・」
彼女は戸惑い、寂しそうな顔をした。
「地連の兵にはゼウス軍に恨みを持つものが多いことは知っているのか?」
シンタロウは彼女の反応を見て、何も知らないことを予想して聞いた。
「知っているに決まっている・・・・私は歴戦の兵士だ。」
少女はそういうとシンタロウよりもずっと先輩の兵士の顔になった。
「なら・・・・考えなかったのか?俺から憎まれ口を言われることを・・・」
「・・・・覚悟はしている・・・・それよりも、何も言われない方が苦しいからな」
少女はそういうとシンタロウにすまなそうな顔をした。
「予想外だな・・・・ゼウス兵と言ったら冷酷で人を殺しても何も感じない奴らの集団だと思っていた。」
俺もだが、と内心呟いて、シンタロウは拍子抜けしたようにため息をついた。
少女はその様子を見ると不思議そうな顔をした。
「・・・恨みがあるのではないのか?憎いのだろう?」
少女は不思議そうな顔をした。
「人を殺したり、自分が死ぬと思ったりすると何かを悟ることってあるんだ・・・・」
真実を知って憎しみは消えたわけではない。方向が揺らいだだけだった。
手を汚し、自分の死も覚悟したときに、変わってしまったのだった。
「悟る?・・・・」
「そう、俺は両親をドームの破壊で殺された。」
そう言うと少女は苦しそうな表情をした。
「・・・・だから、ゼウス軍・・・・ゼウス共和国を、ドームの破壊をしたものを憎んだ。」
シンタロウはそんな少女の表情を横目で見ながら話を続けた。
「こう見えても俺は手を汚したんだ。そして、死ぬんだ・・・と思った時に考えたんだよ。・・・・憎むことじゃなくて・・・・残った友達を助けないといけないってな。だって俺は死ぬんだ。俺の意志があっても俺は死ぬんだ。そしたら、死人の意志よりも生きている友達だ。」
シンタロウはどこか別のところを見るように微笑みながら言った。
「・・・友達を助ける・・・?」
少女はシンタロウのその言葉に表情を変えた。
「あ・・・いや。幸せだな。人生的に助けることを考えた。決して自分の仇を討ってほしいとかじゃない。さっきも言った通り、死人の意志よりも生きている者だ。俺は大切な奴に呪いを残して死にたくなかったからな。」
シンタロウは少女を真っ直ぐ見た。
「・・・・そうなのかな・・・・」
少女はさっきまでの兵士の顔ではなくなっていた。
「そういうもんさ・・・・」
シンタロウは確信を持って言った。
少女はその場に座り込んだ。彼女の表情は幼かった。
「実は、ずっと気になっていたの。私の失くした大切な人は私がどうなることを望んでいたのか・・・・って」
少女はシンタロウの方を見て言った。口調は幼く、少女らしかった。どうやらこちらが素であって、今までは勇ましい軍人を演じていたのだと分かり、彼女の後ろのつらい過去が見えた気がした。
「そうか・・・・」
シンタロウはもう少女を責めるような言葉は言えなくなってしまった。
「場合に依るけど・・・基本は大切な人ほど幸せになってほしいって思うだろう」
シンタロウは友人を見るように少女を見た。
「そうなのかな。こんなこと同じ軍の人に言えないけど、私・・・・「希望」出身なの・・・」
シンタロウに敵意が無いことが分かったのか、少女は警戒を解いたように素の表情を見せた。物事を相談しやすいのは何も知らない第三者だと昔誰かが言っていたのを思い出した。
彼女という色眼鏡無しで、話を聞いてほしいのだろう。
シンタロウは話を聞くことを示すために彼女の目を見て頷いた。
少女はシンタロウが頷いたのを見ると、ゆっくりと服の中から1枚のボロボロになった写真を取り出した。
「・・・・特別な人と親友を失ったの・・・・」
と言って写真の中の二人の少年を指さした。シンタロウは写真を覗き込んだ。
「へー・・・・どれどれ・・・・」
そこに写っていた物を見たことがあるわけじゃないが、シンタロウは写真に見覚えがあった。まさか、ここで見るとは思っていなかったようで彼は言葉を失った。
写真がシンタロウの記憶を呼び覚ました。
《・・・・写真の子だ。》
「どうしたの?」
少女は緑色の瞳に疑問を浮かべシンタロウを見た。
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