あやとり

吉世大海(キッセイヒロミ)

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六本の糸~地球編~

16.手を取る

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大昔に感じるほど昔。まだ友達がいなかったときのことだ。



 珍しく父が他の大人と楽しそうに話していた。



 仕事の話をしている父はいつも気難しそうな顔をしている。だが、その人物には違った目を向けていた。友人なのだろう。そして、認めているのだろう。



「才能がもったいないぞ。お前の研究は俺も関わりたかった。」

 父の友人は父に笑いかけた。彼は青みがかかって見える海藻のような髪をしていた。父と違って髪は清潔に整えられている。髭も剃っていて爽やかだった。



「悪いな。シンヤ。だが、私なんかのパトロンをアスール財団は受けてくれるのか?」

 父は友人をシンヤと呼んで親しそうにしていた。下の名前で呼ぶなんて考えられなかった。



「それなら心配ない。シングルファザーを仕事なしで放り出すような真似はしないだろう。なにより、お前は天才だ。ギンジ。」

 シンヤと呼ばれた父の友人は私を見て微笑んだ。父が下の名前で呼んでいるのも驚いたが、シンヤさんも父を下の名前で呼んでいた。自分の中では一大事件だった。



「天才か。才能で金は稼げない。それに、私は堕ちた天才と言われている。人体実験もどきをしていたと有名で、どこも雇わないうえに関わろうとしない。」

 父は悲しそうに言った。



「俺はそう思わない。とんでもない高待遇でゼウス共和国は手を挙げていると聞いたが、お前はその話を蹴ったらしい。だからアスール財団も慌てたんだ。」



「・・・・そうか。だが、ゼウス共和国に私の研究しているものを隠すことは出来なかった。」

 父は少し残念そうだった。なにやら研究を隠したかったみたいだ。



「日常生活の活用を表に俺は提案した。アスール財団のトップは話が分かるやつだ。」

 シンヤさんは父の肩を叩いた。



「ここで地に足をつけて暮らそう。ギンジ。ユイちゃんも、俺には君と同い年の子供がいるんだ。いいお友達になってくれたら嬉しいな。」

 シンヤさんは次に私をみて微笑んだ。



 友達、幼かったのもあるけど私には違う世界の言葉のように思えたものだった。



「・・・できるの?友達?」

 私は父の腕を引っ張り聞いた。父は苦しそうな顔をしていた。私の質問が父を苦しめているのは分かった。



「そうだ。ユイちゃん。もう少しで帰ってくるだろう。」

 シンヤさんは窓の外を眺めて笑った。彼の視線の先は何やら騒がしかった。





 部屋の外、廊下の方から誰かが走ってくるような足音が響いた。



「ちょ・・・ちょっと!!シンヤさん!!」

 慌てたような女性の声だ。その声を聞いてシンヤさんは愉快そうに笑った。そして、その様子を見て父は苦笑いをしていた。



「聞いてください!!コウヤ君がまたうちのトイレットペーパーを包帯代わりに巻いていたんですよ!!」

 部屋に叫びながら一人の女性が飛び込んできた。



「キャメロン。久しぶりだな。」

 父は女性に気軽に話しかけた。どうやら知り合いのようだ。



 キャメロンと呼ばれた女性は父を見て驚いた表情をした。



「カ・・・カワカミ博士!!どうしてここに・・・」



「いや、今日からここの研究所でお世話になることになっているらしい。シンヤが話を進めてくれた。有難いことだ。」

 父は再びシンヤさんを見て言った。



「というわけだ。そして、コウヤは?」

 シンヤさんはコウヤという子を早く部屋に来させたいようだった。



「そうです!!シンヤさん!!あの悪ガキどうにか・・・・」

 キャメロンさんが困ったように怒った表情で呆れたように言っているとき



「キャーメーローン!!レッドカーペット!!」

 叫び声と共に部屋にレッドカーペットのように白い何かが投げ込まれた。



「ちょ・・・コウヤく・・・って!!これ包帯じゃないの!!」

 キャメロンさんは投げ込まれた包帯を見て、顔色を変えた。



「だって、キャメロンがトイレットペーパーはダメだって言うから。」

 口を尖らせながら一人の少年が入ってきた。



「どっちも遊ぶものじゃないのよ!!今シンヤさんに報告したからね!!覚悟しなさいよ。この悪ガキ!!」

 キャメロンさんの言葉を聞いて少年は顔色を変えてシンヤさんを見た。



「やあ、聞いたぞ。コウヤ。」

 シンヤさんは諭すように言うと、ゆっくりと少年を睨んだ。



「と・・・・父さん。」

 少年は怯えた表情になった。



「・・・・シンヤ。説教は少し後にして、彼をユイに紹介してくれないか?」

 父がシンヤさんを止めるというよりかは、たぶん時間がもったいないとか考えたんだろう。



「ああ、悪かった。コウヤ。こっちに来なさい。」

 シンヤさんは穏やかな口調で少年を呼んだ。少年は未だ怯えてキャメロンさんの膝にくっついている。



「コウヤ君。ほら。」

 キャメロンさんは少年を膝から引きはがし、シンヤさんの前に引きずった。



「・・・・今日からここの研究所で働く父さんの友達のギンジ・カワカミ博士だ。住む場所もお隣に決まっている。コウヤ、ご挨拶をしなさい。」

 シンヤさんは父を手で指して紹介した。



「・・・ど、どうも。」

 少し恥ずかしそうにしている。少し人見知りなのか、それとも全く知らない人間だから警戒しているのか少年は委縮していた。



「これからよろしく。」

 父はいつもとかわらない無感動な声で言った。もう少し優しく言ってもいいのではないかと思ったが、シンヤさんもキャメロンさんも父の特性を知っているようで慣れたように苦笑いしていた。



 少年は父を見た後私を見た。今度は私が委縮する番だった。



 同い年の子供というのは私にとって石を投げて来るか、嫌な言葉を言ってくるものだったからだ。



「・・・・俺、コウヤ・ムラサメ。お前は?」

 父の時とうって変わって、私の時ははきはきと言い、握手のためが手を差し出した。



「・・・私は・・・・ユイ。ユイ・カワカミ。」

 私は、おそるおそる差し出された手を握った。とても暖かい手だった。



 私が手を握るのを見て、少年、コウヤはニヤっと笑った。



「よし!!ユイ!!行くぞ!!」

 と私の手を引っ張り走り出した。



「え・・・待って!!」

 私は訳も分からずに彼に手を引かれた。



 部屋をすごい勢いで出て行くと、後ろから先ほどまで諭すような優しさを見せていたシンヤさんの怒声が聞こえた。



「父さんが怒っているから逃げるの付き合って。」

 私に初めて笑いかけてくれた友達。コウヤ・ムラサメとの出会いが、私の全てを変えた。









 研修の日程が組まれたアリアは、滞在中は戦艦か軍施設にいることが大半だった。



 結果、コウヤは暇でもほとんどは一人で過ごしていた。逃げているわけではないだろうが、ハクトはとても忙しそうで、アリア以上に話しかけられる余裕もなかったのだ。



 コウヤは町を一人で回っていた。ひどくつまらない気がした。アリアがいないことが寂しいわけじゃない。



 何か足りない・・・・



 そんな気がしていた。



 記憶を、忘れていたことを思い出したい。でも何も思い出せないでいる。



 コウヤは様々感情が入り混じった状態だった。起伏が激しく、自分の感情なのに自分の心がついていけていないような気がした。事実そうなのだろう。頭もついていっていないのだから質が悪い。



 正式に軍に志願してからは軍服ばかりかドール専用スーツしか着ていなかったため、私服が慣れないもののように感じていた。



 特に見たいものもなく、誰かと話したいと思えなかったため、何も考えずに歩いていた。



 しばらく歩くと景色のよい高台に着いた。



 今は近くに誰もいない。何も考えずに疑問を口に出すこともできる。



「こんな風に歩くのも久しぶりだな・・・」

 コウヤは何かを噛みしめるように景色を眺めた。ゆっくりと考えることもせず、ただ感情だけで走ってきたのだ。周りも見ていなかった。



 せわしない足音が聞こえた。後ろから誰か走ってきたのがわかった。大方アリアが研修の休憩時間に自分を探しているのだろう。少ない休憩時間を自分に割かずに別のことをすればいいのにと思い振り向くと



「やっぱりコウだ!!」

 そこには赤毛の空色の瞳をした、見覚えのある自分と同い年の可愛らしい少女が立っていた。



 第一ドームで会った少女だ。



「・・・・ユイ」

 コウヤはずっと会いたかった者の名を呼んだ。



「コウ!!久しぶり!!!」

 ユイはそういってコウヤに抱き着いてきた。前と同じような感じだ。



「ちょっと!!ユイ・・・・苦しい。」

 コウヤは照れを隠しながらユイを払おうとした。



「・・・・忘れちゃったの?コウ」

 ユイはそんなコウヤを悲しそうな目で見ていた。その目にコウヤは悲しさを感じた。



 彼女は間違いなく自分の過去を知っている。それは確実だ。自分の知りたいことを知っている。



「ユイ。教えてくれ。」

 コウヤはユイと向き合いしっかりした口調で聞いた。



 ユイはその様子を見て



「わかった・・・・何?」としっかりとした表情で答えた。



「ここじゃなんだから別のところに行くか・・・」

 とコウヤに移動することを薦めた。



「待って、コウ。あたし今は自由の身じゃないの。」

 と辺りを心配そうに見渡して、コウヤを寂しそうに見た。



「どうした?」



「・・・・あたし、コウに会えただけであと10年は生きていける。」

 ユイは悲しそうに笑った。そして、コウヤから手を離し、その場から去ろうとした。



「・・・ユイ。ハクトを知っているか・・・・・?」

 コウヤはついそんなことを口走ってしまった。



 するとユイは表情を変えた。



「知ってるも何も・・・ハクトはあなたの親友でしょ!!あたしたち6人仲良かったの忘れたの?」

 信じられないというような表情をした。



「そうなんだな・・・・やっぱり」

 コウヤはユイの方を再び見た。目が合うとユイは優しく微笑んだ。



 彼女のその顔にはアリアには感じない感情が湧いた。



「俺、ユイのこと好きだったんだな」

 コウヤがそういうとユイは微笑んだ。



「やっとわかった?・・・・すこし遅かったね。」と悪戯っぽい表情をした。



 その表情にコウヤは心癒された。



「ユイ。ハクトもいる。・・・一緒に行こう。」

 コウヤはユイの手を掴んだ。明確な記憶なんか戻っていない。しかし、ユイに感じる想いは確実であった。



「うれしい。・・・・けど、無理なんだよ。」

 ユイは嬉しそうな顔をしたが、悲しそうにもした。





 キイイン



 と嫌な金属音のような機械音が響いた。モスキート音か、虫よけの音のような不快な音だった。



「っるさ・・・」

 思わず耳を塞いで顔を顰めた。



 すると、目の前にいたユイは急に崩れ落ちるようにしゃがみこんだ。



「・・・・ユイ?ユイ?」

 コウヤは驚きユイの顔を覗き込んだ。ユイは顔を蒼白にし、苦しそうに息をしていた。



 音を不快に思ったにしては顔色がひどすぎる。



「・・・苦しい。・・・痛い。」

 ユイはコウヤの手を握った。握りつぶされるのではと思ったが、不思議と振り払う気持ちは全く湧かなかった。



「・・・大丈夫か?ユイ。」

 顔色が悪いからもしかしたら貧血や体調不良なのかもしれない。そう思い、コウヤはユイ抱えて、落ち着ける日陰を探し運んだ。



 ユイの呼吸は乱れていく一方であった。

「おい。大丈夫か?ユイ」

 コウヤは今までに感じたことのない不安を感じた。ユイの手が少しずつ冷たくなっていく。



 血の気が引いていくように冷たい手がとてつもなく恐ろしかった。



 以前にも、こんな冷たい手を握った。だが、それは思い出せない。



「会った時も、コウはあたしの手を握ったよね。」

 ユイはコウヤの手を見て嬉しそうに微笑んでいた。顔色は依然として悪いままだったが、その言葉は、心の奥底にあった何かが蓋を開いたようだ。





 あれは綺麗な庭で遊んでいた記憶だ。初めて会った時、手を引いて走って自分は父親の説教から逃げた。



 大切な幼馴染、いつも自分に笑顔を向けてくれる。隣の家に住んでいた、いつも遊んでいた少女。赤い髪をした綺麗な瞳の少女。



 手を引いて、走って疲れて、二人して庭に寝っ転がって何でもないのに笑った。



「あなたコウヤっていうんだね。・・・じゃあ、コウって呼んでいい?」

 彼女は自分に優しく笑っていた。



 初めて会ったときの緊張感、初めて会う可愛い女の子を前にして真っ赤になったのを覚えている。照れを誤魔化すために走ったのかもしれないし、本当に父親が怖くて逃げる仲間が欲しかったのかもしれない。彼女から自分の友達は始まった



 幼いころに恋心を抱いた相手



 彼女の名前は【ユイ・カワカミ】



 目の前で苦しんでいる少女と重なった。驚きと悲しさと苦しさで涙が出そうだった。



 自分は忘れてしまったのに、彼女が自分を想い続けてくれていたことに、苦しんでいるのに



 何もできない自分に。









 間違いなくユイは苦しんでいた。理由は分からないが、自分は助けられないのだろう。



「俺は、助けないと・・・・」

 コウヤはユイを病院に運ぶことにした。



 本当はフィーネの医務室に運ぼうかとも思ったが、できるだけ近い方がいいと思い、ドームに付いている病院に向かった。病院に着くとユイは表情を変えた。



「だめ。コウ・・・」

 コウヤの手を握り、必死に首を振った。



「ダメじゃない。このままだとユイは・・・」



「大丈夫。コウ。あたしは死なないから。」

 ユイはコウヤを必死に止めようとコウヤの腕を強く掴んだ。だが、コウヤはその言葉を無視し受付に行った。



 受付から戻ってくるとコウヤはユイの顔を見て



「大丈夫だ。ユイ。病院には体を直す機械があるはずだ。そうだ。よくなったら・・・・ユイも一緒に行こう。俺は今、ハクトと・・・・」

 コウヤはユイの手を握った。コウヤの手を強く握り返し、ユイは起き上がった。



「・・・・ユイ?そんな急に起き上がると・・・・・」

 ユイのことを心配して言った途端、ユイの顔が近づいた。



「また会おうね・・・」

 彼女はそういうとコウヤの唇に軽く唇を重ねた。



「・・・」

 予想外のことだが、想定したことのように、コウヤはユイをそっと抱きしめようとした。すると、ユイはコウヤの腕からすり抜けるように離れた。



 ユイを追おうと、病院の奥から大きな物音がした。そして、病院の奥から男たちが出てきた。



 ユイは大声で叫んだ。



「誰だ!!!お前は!!!」

 とコウヤに向かって言った。



 コウヤは何が起こっているのかわからなかった。



「・・・・・ユイ?」



 コウヤはユイに手を伸ばした。



「あなたなんか知らない・・・・」ユイは必死に叫んだ。



 すると病院の奥から出てきた男たちがユイを取り囲み捕まえた。



「おい!!お前等ユイをどうするつもりだ!!!」

 コウヤは表情を変えて言った。



「この少女は精神に異常を持っている・・・・・隔離しなければならない。」

 そう言い男たちはコウヤの手を払った。



 コウヤは頭に血が上った。



 身体能力の高いコウヤは男たちをユイから引きはがした。



「ユイ!!大丈夫か!!!!」



 ユイを取り戻したコウヤはユイを抱え訊いた。



 ユイはコウヤの方に顔を近づけ



「またね。」

 小さな声囁いた。





 男たちがコウヤに向かってきた。



 それを見計らったようにユイは叫びコウヤから離れた。



「近づくな!!!誰だ!!」

 ユイは男たちに連れて行かれた。コウヤは呆然とした。



 無力感がコウヤの心の中に立ち込めた。



「・・・・なんだよ。どうしてだよ。」

 ユイに握られていた手は、少し冷えていた。












 灰色の天井を見上げながらシンタロウは一人目を閉じていた。



「まさか・・・・こんなことになるなんてな・・・・・」

 シンタロウは鍵のかけられた扉を見つめていた。あの少女が見せた写真はコウヤが持っていたものとほぼ同じものであった。そして、彼女はコウヤの知り合いだ。



 シンタロウは友人の話をする少女をただ呆然と見つめることしかしなかった。



 彼女は地連に憎しみを抱いている。それはわかっていることだ。



 コウヤが地連の軍に行ったのかはわからないが、ハクトが軍にいるのは確実である。



 彼女を刺激しないで平和的に彼らと再会して欲しいし、そうしなければならないのだ。グスタフから聞いた鍵の話が本当なら、彼女もその該当である可能性が高い。



 だが、ゼウス共和国と地連上層部の繋がりというのがはっきりしない以上、大げさに騒げない。



 誰がどこまで知っているのかもわからない上に、自分はドールプログラム自体もわかっていない。どうすればいいのか、自分は何ができるのかを考えていた。



 人体実験が表沙汰になることは無いだろう。もし、地連側に戻ると訓練所の生き残りとすぐにバレる。



 《・・・・決まったな。》



 自分の決断に思わず笑ってしまった。





 扉が開いた。



 そこにはあの少女が立っていた。



「だいぶ良くなったみたいね。」

 そう言うと警戒心がないのか堅苦しい兵士の歩き方でなく年頃の少女のように入ってきた。



「・・・・お前に頼みがある。」

 シンタロウは少女の目を見た。



「頼み?・・・・・もうそろそろ出れるわよ。」

 少女はきょとんとして言った。



「違う。外に出ることじゃなく・・・・」



「じゃあ何?あなたの友達でも探せって?」



「俺をお前の部下にしてほしい。」

 シンタロウの言葉に少女は驚いたのか、一瞬、言葉を失ったように黙った。だが、直ぐに険しい表情をした。



「・・・はあ?あんた地連の兵士でしょ。そんなこと簡単にできるわけないわ。理由もわからないし。」

 少女は呆れた。



「理由は敵を知ることとでも考えてくれ。それに、友達を殺させないためでもある。」

 シンタロウは少女から目を離さなかった。



「・・・そんなこと・・・・ゼウス軍が許すとでも?」

 少女は顔つきを変えた。



「お前の友達の一人って・・・・ハクト・ニシハラ・・・・だろ?」

 少女は動きを止めた。



「・・・・名前は言っていないはずだ・・・なぜそれを?」



「俺を部下にしろ。」



「目的は何だ?」



「ディア・アスール」



「・・・・お前は一体」



「コウヤ・ムラサメ」

 少女の問いに関係なくシンタロウは名前を言い続けた。ただ、知っているのはこの三人だけだ。幸いにコウヤの名前を出した途端に少女の表情は変わった。



「・・・・いいだろう。では、今度から私のことは少尉と呼べ。言葉遣いにも気をつけろ。」

 彼女はなぜか笑っていた。



「いいぜ。では、おたくの名前を教えてください。」



「そうだな、私は・・・・レイラ・ヘッセだ。」

 そう言い少女は、レイラはシンタロウに手を差し出した。



 《ヘッセ・・・・》



「・・・・よろしくな。ヘッセ少尉。」

 シンタロウは差し出された手を握った。



「・・・だが、シンタロウ。お前を私が認めても、他が認めないといけない。」









 複数のゼウス兵に囲まれたシンタロウを見て、レイラは困ったような顔をした。



「お前がスカウトしたとかは言えないのか?」

 シンタロウは囲むゼウス兵を無視して、遠くにいるレイラに言った。



「言った。そしたらこのざまだ。実力を見せろ・・・と。」

 レイラは何かあったら力づくで止める気でいるのか、片手を銃に添えて、シンタロウに心配するなと口の形で言った。



「ごめんなさいね。名前なんだっけ?スカウト君。」

 白衣の女が愉快そうにシンタロウを見ていた。その横ではシンタロウの手当をしたマーズ研究員が興味なさそうに立っていた。



「・・・ロウ・タンシだ。俺の名前はロウだ。」

 自分の名前から適当に言った。



「ロウ君ね。あなたをスカウトしたっていうこの子はゼウス共和国屈指の軍人なのよ。それが連れてきた人材なんて気になるじゃない。」

 白衣の女は愉快そうに口元を歪めていた。



「では、納得させれば自分の補佐としておくのは認めるということだな。」

 レイラは疑うように白衣の女を睨んでいた。



「ええ。これは私の判断じゃなくて、軍の上の方の判断よ。私とマーズ研究員は、特殊なあなたが認めた人材がどんなものか興味があっただけよ。」

 ねえ、と横のマーズ研究員に女は笑いかけた。研究員は特に期待はしていないようだ。



「とうわけだ。ロウ。頑張れ。だが、忘れるな。お前は怪我が治っていない。」

 レイラはまあ、ボコボコにやられても病み上がりだったと言い訳しようと思っているのだろう。



「ヘッセ少尉の心配はごもっともだが、お前が少尉殿の補佐役になるというなら、自分たちのほうがふさわしいと思わないか?」

 一人の兵士が言った。



「そうだ。どこの馬の骨とも知らないやつが。」



「怪我をしていたという。ならお前は休め。少尉には我々が付く。」

 好き勝手に言う兵士たちを見てシンタロウは少し腹がった。



「・・・・馬の骨か。なら、お前らは何の骨だ?」

 馬鹿にするようにシンタロウは兵士たちに笑いかけた。



「・・・あ?」

 さっきとはまるっきり表情が変わった兵士たちがシンタロウを睨んでいる。



「これ、どうすれば認められんです?」

 シンタロウはこの場で一番地位が高そうな白衣の女に訊いた。



「え?私?」



「ええ。だって、あんたがこの中で一番権限があるんですよね。」



「・・・・そうね。どうすれば納得すると思う?」

 逆に女に訊かれた。



「脳筋の考えていることなんか知りませんよ。」

 シンタロウの言葉に兵士たちが更に切れた。だが、マーズ研究員はシンタロウを興味深く見始めた。脳筋わからんというのに同意見の様だ。



 兵士たちは4人だ。どうやらヘッセ少尉ことレイラに憧れている者の様だ。強くて美人の父を亡くして傷心中である悲劇のヒロインにどうしてもお近づきになりたいのだろう。



「教えてやるよ!!お前を動けなくなるまでボコボコにしてな!!」

 堪忍袋の緒が切れたというより、もともと堪忍するほど忍耐もなく、感情そのままストレートの勢いで一人の兵士がシンタロウウに襲い掛かってきた。



 今までのシンタロウであったなら、瞬殺であっただろう。だが、人体改造もどきと多数の脱落者を出したドーピングと訓練を贔屓されていたにしろ潜り抜けていた彼は今までのとは違った。



 襲い掛かった兵士の攻撃を避けると、彼の顔面を躊躇いなく鷲掴みにし、そのまま彼の後頭部を床に叩きつけた。襲い掛かった勢いの衝撃はシンタロウの手と兵士の顔面に吸収されたが、顔面の方が重症になるのは目に見える。



「ぐおっ」

 うめき声がかかると同時に彼の腹をシンタロウは思いっきり踏んだ。



「ガホッ」

 兵士が何やら吐き出す音が響いた。



「体現してくれるのか。」

 訓練所にいた時のように無感動な表情でシンタロウは呻き、仰向けで嘔吐する兵士を見下ろした。



 シンタロウの表情に一瞬ほかの兵士は驚いたが、やられた仲間を見て表情を変えた。



「て・・・てめえ!!」

 もうお構いなしに残りの三人がかかってきた。



 シンタロウは呆れた表情をして、倒れている兵士を跨いだ。



 直進で飛びかかった三人の兵士は一瞬倒れている兵士を踏まないように周りを見た。



「周りは先に見ろよ。」

 倒れている兵士の丁度真横辺りに屈み、対面にいる3人の兵士の内の、シンタロウから見て一番左側の兵士の顎を、躊躇いなく拳で殴り上げた。



 顎を殴られてよろめいたところを、右足を軸にして左足で横へ蹴り飛ばす。その際に隣の兵士を少し巻き込ませ、よろめかせていた。



 シンタロウは蹴り出した足に重心を移すように、倒れている兵士を跨いで残りの二人兵士の近くに向かった。



 とくに小細工も必要ないと判断したのか、最初の兵士のように右手と左手それぞれで兵士の顔面を鷲掴みにして、後頭部から叩きつけた。



「お前らは鳥の骨くらいか?」

 シンタロウは無感動な顔で叩きつけた兵士たちを見下ろし、最初の兵士同様に腹を躊躇いなく踏んだ。



「なめんな!!」

 蹴り飛ばされた兵士は立ち上がれるようで、殴りかかろうとしていた。



「どっちだ?」

 シンタロウは、どの兵士から分からないが、4人のうちの誰からか抜き取った銃を殴りかかろうとした兵士に向けた。



 一瞬二人は睨みあったが、表情を変えないシンタロウを見て、兵士は青い顔をしてその場で両手を上げて座り込んだ。





「なるほど・・・・目利きね。」

 白衣の女は呆然としていたが、レイラを冷やかすように拍手を始めた。



「・・・・・」

 マーズ研究員は青い顔をしていた。怯えているようだ。



「さて、これで認めてもらえるだろうか?」

 レイラは白衣の女を見た。



「当然よ。・・・どこで拾ったの?」

 白衣の女は興味深そうにシンタロウを見ていた。



「秘密だ。だが、間違いなく戦力になるだろう。」

 レイラは白衣の女に言うと、倒れて呻いている兵士たちに目を向けた。



「お前らも、分かっただろう。」

 レイラは未だに銃を構えるシンタロウに近寄り、銃口を自分に向けてから下ろさせた。



「お前・・・・何者だ?」

 聞かれないようにレイラはシンタロウの耳元で囁いた。



「あんたの部下ですよ。ヘッセ少尉。」

 そう言うと、安全ロックをかけて銃を横たわる兵士に投げつけた。



 シンタロウは自分が負かした4人の兵士を眺めて、予想以上に人体改造もどきで身体能力と判断力が向上していたことを実感した。なによりも、人を攻撃するのに躊躇いを殺すことができるのが大きい。ここであの苦痛しかなかった訓練所に感謝するとは思わなかったが、とりあえずグスタフには感謝した。









 彼女の冷たい手が忘れられない。



 自分はとてつもなく無力だ。何も思い出せない上に、助けられないのだ。



 ドールに乗ってから生まれた感情ではない。これは、自分の手に、自分の心に刻まれた感覚だ。



 間違いなく思い出してきている。そして、それはドールがきっかけではない。



 ドールに乗ることによって思い出したことは多いし、事実だと思っている。



 だが、両親の死んだ瞬間を思い出したときは違った。



 心が感情についていっていないのではない、何かが湧き上がるような感覚だった。

 ドーム内はどうやら夜の様だ。空は暗く、街灯が仕事を果たして地面を照らしている。



「・・・・誰か、教えてくれよ。」

 ふとハクトの顔が浮かんだ。だが、彼に頼るわけにはいかない。何故か知らないが、彼は自分を助けられないと思った。



 今は、いいだけアリアに頼っているのだろう。いや、誤魔化すようにアリアの望みに応え続けているのだろうか。彼女が大切なのは変わらない。



「お前は、憎い気持ちをどうしたんだよ。どんな気持ちで、俺と接していたんだ?シンタロウ。」







「ソフィさん・・・・コウヤ君遅いですね・・・・」

 リリーは少しむくれながら言った。



「そうね。」

 ソフィも不機嫌そうだった。



「二人ともむくれないの!!また来れるって!!任務は急だけど、仕方ないって。戦艦乗りってそんなもんだろ?ですよね。」

 とモーガンはなだめるように言った。



「別に・・・・町を回りたかったわけじゃないって!!」

 リリーはモーガンを怒鳴った。



「そうよ。ただ、何でこのタイミングなのかと」

 ソフィは首を傾げていた。



「コウヤ・・・・遅いな・・・・」

 アリアは心配そうにコウヤのことを思っていた。



「でも、なんでこんな急な出発なんですか?」

 モーガンは丁度出入り口に様子見に来たハクトを見つけて訊いた。



「近くに変な基地が見つかったらしいので様子を見に行け・・・・だそうだ。」

 ハクトは珍しく面倒そうに言った。



「艦長珍しいっすね・・・仕事を面倒そうにするなんて。」

 モーガンは窓に張り付きながら言った。



「ねえ・・・モーガン、あなたは機材のチェックはいいの?」

 ソフィはモーガンの耳たぶをつねった。



「痛い!いいじゃん!!艦長だって同い年の同性がいた方が気が楽でしょ。」

 モーガンはハクトの方を見た。



「仕事に支障がなければ大丈夫だ。だが、俺はここには今様子見に来ただけだ。」

 と淡々と言った。



「・・・・艦長・・・・その基地ってどんなところです?」

 リリーは不安そうに訊いた。



「さあ・・・・詳しくは知らないが、どうやらゼウス共和国のドール実験をやっているらしい。」



「地球上にそんなところがあったんですか?・・・・ずっと地球外で活動していたのに・・・・」

 ソフィは信じられないという表情で言った。



「だから、調べるんだろうな。・・・・・おそらくずっと前から潜ませていた物だろう。」





 誰かの足音が聞えた。

 ゆっくり歩いてくる音だ・・・・



「コウヤ!!!お帰り!!」

 アリアは嬉しそうに叫んだ。



「二等兵遅かったな。」

 帰ってきたコウヤを出迎えるようにハクト達はコウヤを囲んだ。



「・・・・はい・・・・」

 コウヤは元気がなさそうに言った。



「元気がなさそうなところ悪いが・・・・・夜が明けたらすぐに戦艦を出すことになった。」

 ハクトは淡々と伝えることを伝えた。



 コウヤの顔色が変わった。



「え?」



「どうした?」



「・・・・いえ」

 コウヤはそういうと自分のドールの置いている格納庫に走った。いわゆるモーガンの待機場所にあたるが、今は、モーガンはここにいるのでほぼ無人だ。



「待ってよ!!コウヤ」

 アリアはそれを追うように走った。



「・・・・・あの二人って・・・・デキているんだよな・・・・?」

 モーガンが疑問を浮かべながら訊くと



「そうね。アリアちゃんはコウヤ君にぞっこんだもんね。・・・・・コウヤ君の方はわからないけれどね。」

 人差し指を顎につけ悩むようなポーズをとりソフィは得意げに言った。



「でも、あれは長続きしないな・・・・」

 その会話に割って入るようにキースがやってきた。一瞬ハクトを睨むように見た。



「ハンプス少佐。」

 部屋の全員が彼に敬礼をした。



「そんなかしこまるなって」

 キースは苦笑いしながら手を横に振った。



「でも、なんで長続きしないってわかるんですか?」

 気になるようなのかリリーは目を光らせていた。



「だって、見てりゃわかるだろ。コウヤ君はアリアちゃんと良い仲になることで自分の中の寂しさと虚しさを埋めている。いわゆる誤魔化しだろ?」



「うわ、最低。」

 リリーはあからさまに顔を顰めた。



「それに、コウヤ君にはどうやらそれ以上に気になる人でもできたのかもしれない。」



「どう考えても態度がおかしいからな。」

 キースはさらに付け加えるようにハクトの方を見て言った。



 それを見た乗組員たちは



「・・・・艦長、なんて罪づくりな・・・」

 と少し引きながらも同情するように言った。



 ハクトは表情を固めて



「違うに決まっているだろう!!!」

 と大声で言った。



 キースは笑いながらハクトに駆け寄った。



「あながち・・・・嘘でもないけどな。」

 ハクトにだけ聞えるようにキースは囁いた。



 それを聞いたハクトは顔色を変えた。



「そんな顔するなって!!冗談だって。」

 キースはハクトの肩に手をかけ、引っ張ってその場を離れた。







 戦艦内の空き部屋にハクトを引っ張り込み、キースは表情を変えた。



「言うつもりで待っていたな。やめろ。」

 キースは厳しい口調でハクトに言った。



「言わずに済ませられるのなら、一番ですが、彼にこれ以上不誠実に接したくない。」

 ハクトはコウヤに何も言えずに過ごしていることを思っていた。



「お前は艦長として誠実だ。何を言っている?あいつは今とんでもなく不安定だ。感情だけで走っている。この任務がひと段落したら・・・・俺から伝える。俺が勧めた結果だからな。」

 キースは諦めたように部屋から出ようとした。



「待ってください。ハンプス少佐。」



「ニシハラ大尉!!任務の成功率を考えろ。」

 キースは厳しい声で言った。



「任務の後にあいつがまた打ちのめされるのを見たくないです。」



「誰も見たくないし、打ちのめされたくないだろ。お前は早めに打ちのめされろと言いたいのか?」



「任務を終えても不安定には変わりません!!」



「これはお友達ごっこじゃないんだよ。ニシハラ大尉!!」

 キースはハクトに怒鳴った。



「ハヤセ二等兵もそうだが、お前も充分おかしい。壊れ物のように彼を扱いすぎのくせに、これは言おうとしているのはおかしい。俺から見ると、お前は彼をドールに乗せられない理由を作りたいだけだろ?これだと言えるもんな。ショックにより正常な判断ができない可能性がある。自分で強制できるくせに理由を作ろうとしている。」



「理由づくりと・・・言いたいのですか?」



「何を恐れている?お前は上層部から何を言われている?」

 キースの言葉にハクトは顔色を変えた。



「何か、心当たりでも・・・・あるのですか?」



「・・・・ない。だが、ハクト。俺はお前もコウヤ君も結構好きなんだよ。昔の俺を見ているみたいでな・・・・」

 キースは消え入りそうな声で言った。











「コウヤ。何があったのか知らないけど・・・・大丈夫だよ。」

 アリアはドールのそばで呆然と座っているコウヤのそばに行き優しく話しかけた。



「・・・・・アリア?」

 コウヤはアリアの方を見た。アリアはそっとコウヤの顔に手を添えた。



「・・・・だから、私を頼って。」

 そう言い顔を近づけた。



 コウヤは自分の顔の前に手を出しアリアとの顔との間に壁を作った。



「・・・・コウヤ・・・?」

 アリアは驚いた表情をした。



「アリア。これ以上お前を傷つける真似はしたくない。」

 コウヤはアリアの目を見た。



「・・・・・やっと私の目を見てくれたのに・・・・」

 アリアは表情を歪めた。



「・・・・・お前だって気づいていたんだろ?俺がただ、自分の傷を癒したいだけで・・・・」



「それでもいい。私はコウヤのこと好きだよ。だから、一時的な慰めでもいい。」

 そう言いアリアはコウヤの手を握った。



「だめだ・・・・シンタロウに悪い。」



「・・・・なんで?コウヤは私のこと嫌い?」



「そうじゃない!!・・・・・お前を傷つけることを続けるのは、同じように親友であるシンタロウを裏切ることと等しいんだ。」



「私は傷ついていないよ。・・・・・何言っているの?コウヤ」

 アリアは離れていくコウヤの歩み寄った。



「・・・・・記憶が戻ってきている・・・・・」

 その言葉にアリアは固まった。



「友人を何人か思い出した・・・・」



「何言っているの?・・・・・だから私はもう大切じゃないの?」



「そうじゃない!!聞いてほしいんだ。・・・・友人として」

 コウヤはアリアの目を見た。



「ひどいよ。コウヤ。私はずっと・・・なのに、友人って。今更じゃない!!」

 アリアはコウヤの肩を掴んだ。



「お前とはずっと友人でありたい・・・・・」



「・・・・コウヤだって私の気持ちを知っていたくせに、それに、シンタロウに悪いってどうして?」

 アリアはコウヤを責めるように見た。



「わかっている・・・・・全て俺が悪いんだ。シンタロウにも・・・」

 コウヤは謝るように俯いた。



 アリアは首を振った。そして

「だってシンタロウは死んだんだよ!!」と大声で言った。



「え・・・?」



「聞いたんだよ。研修の時に・・・・シンタロウがいた施設ね、壊滅状態にさせられて生存者は・・・・いないって!!もうみんな死んだんだって!!」

 アリアは更に大声で言った。



「・・・・死んだ?」



「そうだよ。だからコウヤはシンタロウに悪いとか思わなくて・・・」

 アリアは笑顔でコウヤの顔に手を添えようとした。



「だめだ!!」

 コウヤはアリアの手を跳ねのけた。



「俺たちは・・・・こうなるべきじゃなかったんだよ・・・」

 拒絶するようにコウヤはアリアから目を逸らし、逃げるように走り去った。



 死んだ死んだ・・・死んだ



 コウヤの頭の中で意志とは関係なく繰り返し響いた。



「嘘だろ。嘘だろ。違う。違う。」

 繰り返されるたびに否定した。



 アリアの手を払った瞬間、もう縋れる人間はいなかった。そして、コウヤはもう、アリアに縋ることは出来ないのだ。



「また、会うんじゃなかったのかよ・・・・」

 走りつかれたコウヤは崩れ落ちた。










「それが・・・・ユイの近くにいた少年は知らないと暴れまして・・・・・」

 黒い服装の目立たない男が言った。



「そう・・・・やっぱり生きているはずないのよ・・・・」

 彼とは正反対の真っ白な服を身にまとった女性が煙草をふかせた。



「どうします?ユイの方は・・・・」



「仕方ないわ・・・・・彼女にはもう意志なんて持ってもらっちゃ困るのよ。」



「そうですか・・・・では・・・・」



「ちょうどいいわ。・・・・・次に敵軍が現れたらユイをあれに乗せて出動させて。レイラちゃんは暴走したから、あのプログラムはユイが鍵なのはわかったわ。」

 女性は口に笑みを浮かべて言った。



「では、本格的にプログラムが助ける状態でドールを動かせるというわけですか。」

 後ろに立っていたマックスは首を傾げていた。



「そうね。レイラちゃんを乗せたドールに搭載したプログラムをユイのに移しておいて。」

 白衣の女はタバコでマックスを指して言った。



「わかりました。」

 マックスは淡々と応えると黒い服装の男に目配せをした。男はそれに応えるように急いで出て行った。



「気の毒ね・・・・ユイと戦うことになる敵さんは・・・・」

 女性は不敵に笑っていた。
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