あやとり

近江由

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六本の糸~研究ドーム編~

58.六色闘盟

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「ご飯よ。降りていらっしゃい。」

 優しい母の声が聞こえた。

 自分がいる二階の自室から一階にあるリビングに行くと父が新聞を広げていた。

「今日も遅くまで勉強か?」

 父は自分を見つけると笑顔で言った。

「いいことでしょ?自分からやるなんて。でも、遊びたいときは遊んでいいのよ。」

 母は食事をテーブルに載せながら優しく言った。

「大丈夫だって。遊びたい友達もいないし。」

 そう自分は言った。

 その言葉にとてつもなく違和感があった。

「そう。そうよね。」

 母は笑顔だった。

「そうだな。友達いないからな。」

 父も笑顔だった。

 その笑顔が能面のように見えて思わず席を立った。

「どうしたの?ご飯を食べましょ。」

 母はそう言うと自分の手を引っ張り椅子に座らせた。

 その手の力が強く抗えなかった。

「ハクトには友達がいないからね。」

 父と母は笑い合い言うと、食事を始めた。



『違う・・・・俺は』

 思っても喉から先に出てこない。

 何かが足りない。

 父と母との生活。

 当たり前の日々だ。だが、何かが足りない。



 ピンポーン



「ハクトー!!あそぼー」

 呼び鈴が鳴り、外から声が聞こえた。

「ねーえ。ハクト」



 この声は聞いたことが・・・・

 振り向こうとしたとき、俺の手を誰かが握った。

「ハクト」

 母だ。ただ、顔は何故か虚ろだ。

「ハクト?お食事中に立ち上がっちゃいけないわよ。」

 母の顔は虚ろだ。虚ろだ。

 表情ではない。

 顔が虚ろだ。

 その顔の虚ろに飲み込まれそうだ。







 コウヤ達6人以外に部屋の中には

 カワカミ博士、キース、ラッシュ博士、ソフィ、タナ・リード、イジー、シンタロウがいた。

 ラッシュ博士はソフィの手当てをしており、リード氏は拘束された状態で意識を失ったままだった。



 ソフィの処置が終わったようで、ラッシュ博士は立ち上がり歩き始めた。

 ソフィは幾分か顔色が良くなっている気がする。

 処置が終わったのを見て、カワカミ博士はラッシュ博士を見た。

「キャメロン。あなたは医者ですよね。」

 カワカミ博士の言葉にラッシュ博士は呆れたようにため息をついた。

「今更よ・・・・処置はできる。彼女だけでなく彼も?」

 ラッシュ博士は投げやりに言った。

「ええ。シンタロウ君を診ていただけますか?」

 カワカミ博士の言葉にラッシュ博士はシンタロウを一瞥した。



「彼、顔色が悪い。呼吸音も変だし、撃たれた怪我・・・・一方からだとしたら銃弾は体内よね。・・・・まあ、肺は二つあるんだし、どうにかなるでしょう。」

「どうにかできませんか?」

「この子はソフィちゃんと違って内部に怪我があるから、きちんとした器具のあるところで、ちゃんとした医者に診てもらうこと・・・・」

 ラッシュ博士は相変わらず投げやりだった。

「・・・・そんなこと分かりきっています。」

 カワカミ博士は呆れて言うと、次にキースを見た。

「ハンプス少佐。通信はどうなりそうですか?」

「電波の妨害があったから設定とかリセットされてますね。立ち上がりと設定に時間があと少しかかりますが、問題なく通信できますぜ。」

 キースは通信機器らしきものをいじっている。どうやら通信の設定をしているようだ。

 カワカミ博士は次にソフィを見た。

「そこの彼女は動けそうですか?」

「・・・両足がやられているのよ。」

 ソフィは変わらず笑みを浮かべていた。



 イジーは警戒するような目を向けながらシンタロウをストレッチャーごとラッシュ博士の元に運ぶと、直ぐにキースの元に駆け寄った。

「ハンプス少佐。私にもなにか手伝えることは?」

「イジーちゃん、そしたら、ソフィちゃん連れて来て。」

 キースは笑顔でイジーに言った。

「え・・・はい」

 イジーはそう言うと、座り込むソフィに肩を貸し、立ち上がらせて歩いた。



「ハンプス少佐?私になにか?」

 ソフィは未だに芝居がかったしゃべり方をしていた。

「元フィーネの副艦長だ。こういう通信機器の設定くらいやったことあるだろ?」

「・・・・こんな大事なこと私にやらせていいの?」

 ソフィは大げさな素振りをして言った。



「ソフィちゃんが一番早くできると思ったからだ。」

「リスクを冒すより殺した方が不安もないでしょ?」

 ソフィは挑むようにキースに言った。



 その言葉にイジーはピクリと反応したが、キースは笑った。

「ハンプス少佐?・・・・死線を潜り抜けてきた戦士、兵士ならわかるはずでしょ?」

 ソフィはキースが笑ったことが気に入らないようで、眉を顰めた。



「人は戦力だ。・・・俺が学んだことだ。」

 キースは人差し指を立てた。

「一人の人は・・・・一人の戦力、力だ。だけど・・・・死ぬと・・・ゼロになる。」

 キースはそう言うと人差し指を折った。



「・・・・は?」

 ソフィは話が掴めていないようだ。

「たとえ、お前のせいでどれだけ人が死のんだからといって、ゼロにするには惜しい。今の状況での感情を殺した結果だ。そして・・・・。」

 キースはソフィとラッシュ博士を順に見た。

「死ぬならましになってから死ねよ。・・・・これは俺の感情によるものだ。」

 キースは顔から笑みをなくし吐き捨てるように言った。

「・・・・・へえ・・・・貴方って、素敵な人だったのね。」

 ソフィは芝居がかった話し方ではなく、淡々と言い、通信機器を触り始めた。









「ハクトは将来何になるのかしらね。」

 夢見るように母が微笑んだ。

「ハクトは父さんと違って勉強も運動もできるからな。しかも、母さんに似て顔もいい。なんにでもなれるさ。」

 父は誇らしげに言った。

「俺は、父さんみたいに真面目で母さんみたいなおおらかな人間になりたいよ。」

 自分は当たり前のように言い、両親に笑いかけた。

「あら、ハクトはいい子ね。お母さんうれしいわ。」

「お母さんはおおらかすぎて大雑把になっているところがあるから気を付けなさい。」

 父は声を潜めてハクトに言った。

「あら?お父さん。何か?」

「いや。」

 父は気まずそうに言うと母から目を逸らしハクトの方を見て笑った。



 なにか足りない。

 会話に何かがない。

 足りない何かとの会話が頭をよぎる。

『お前、学者の息子のくせに馬鹿だな。』

『お前言うな!!』

『お前が先にお前言ったんだろ。』

『いけすかねー!!』

『どっちがだよ!?』



 これは何との会話なのだろうか。



「ハクト」

 また聞こえた。この声は誰だ?

 俺を引っ張るようなこの声は。









「・・・・ゼウス共和国が・・・・消えた・・・・?」

 愕然と画面に映った映像を見るのは、高そうなソファに腰を掛ける初老の男。

「・・・・これは・・・・一体・・・・」

 手に持ったマグカップを震わせてミヤコ・ハヤセは初老の男を見た。

「・・・・これは加工された映像なのでしょう・・・・ゼウス共和国が・・・・一つの国が、星が消えることなど・・・・」

 初老の男は手を震わせている。

「レイモンドさん。私には・・・・とても加工には見えなかったです。それに・・・・」

 ミヤコは画面に視線を移した。

「・・・・・コウヤの・・・・音声の中に叫び声が聞こえました。」

「・・・・」

 初老の男、レイモンドは俯いた。

「レイモンドさん。コウヤは無事なのでしょうか?」

 ミヤコは目に涙を浮かべてレイモンドに詰め寄った。

「ミヤコさん。」

 息子を心配し取り乱すミヤコに優しい声がかかった。

 しっとりとし、落ち着きを感じさせる声の主は育ちの良さそうな、いかにも貴婦人の女性だった。

「・・・・・マリーさん。」

 ミヤコは婦人を見て何故か顔をほころばせた。

「・・・・・無事です。信じましょう。・・・・私も、息子がいます。今頃あなたの息子さんと一緒に戦っていると思います。」

「マリーさんの息子・・・・」

「私たちにできることはないです。」

 マリーはそう言うとミヤコの傍に来て、彼女の手を握った。

「今はないです。だから、信じましょう。」

「マリーさん・・・・」

 ミヤコとマリーは手を取り合って頷き合った。

 レイモンドはその様子を眩しそうに見ていた。







『コウヤをいじめないで!!』

『いじめていない!!俺は弱いものいじめが嫌いだ!!』

『へ?そうなの?なーんだ。』

『お前はなんだ?』

『お前じゃなくて私はユイ・カワカミだよ。』

『ユイか。コウヤの彼女?』

『へへへ。幼馴染兼彼女兼親友兼恋人兼将来のお嫁さんだよ。』

『・・・・お前もバカだろ。』



「ハクト。忘れ物ない?」

「大丈夫だ。毎日前日に準備しているから。」

 母は心配そうに自分を見ていた。

「本当?学校で変なことない?ほら・・・・この前施設の子がいじめられていたでしょ?まあ、あなたに限っていじめをすることは無いと思うけど、もし巻き込まれたら・・・・」

 母はいじめの心配をしているらしい。

「それは大丈夫だって。俺はこう見えても先生に気に入られている。俺は弱いものいじめが嫌いだ。この前もあいつに・・・・」

「あいつ・・・?」

 母はハクトを睨むように見ていた。

「いや・・・大丈夫だよ。」

 母の異様な空気を察知し急いで家を出た。



『あいつ』

 誰のことだかわからないが、知っているのだろう。



『ずるい』

『何がだよ。』

『パッと来て、私よりコウヤと仲良くなるんだもん。』

『なんだよ。お前だって仲いいだろ。』

『私にしない話沢山してるもん。この泥棒猫!!』

『安心しろ。女子のお前に俺は絶対に敵わないし、逆に言うと、男子の俺にお前は絶対に敵わないから。』

『ハクトの言うこと意味不明!!あーいいなー』

『泥棒猫っていう言葉は知っているのに何でわからないのか・・・』

『ハクトの言っていることは矛盾しているんだよ。』

『矛盾って・・・・何で微妙に語彙力があるんだ・・・』



「ハクト」

 また俺を呼ぶ声だ。

 誰だ。

 純粋でひたむきな子ども。

 俺にない力強さがある声。









「通信機器戻りますか!?」

 テイリーは慌てた様子で訊いた。

「はい・・・・まだ、戻りません。電波を乗っ取られた際に設定がリセットされています。さっきの映像が本物か偽物かもわかりません・・・・」

 機械整備士はせわしなく通信機器を触り、頭を抱えた。

「通信機器の設定とか変更はオペレータがよくやるから私も手伝えるわ。」

 そう言うとリリーは機械整備士の横に付いて、機械を見始めた。

「レスリーさん。さっきの映像は本物ですか・・・・?」

 モーガンは横で腕を組むレスリーに恐る恐る尋ねた。

「俺が気になるのは・・・・映像とともに流れた音声だ。」

 レスリーは右腕を挙げた、だが、その先がないことに気付きすぐさま左手で自分の頭をつついた。顔色が悪いのは傷が大きいせいだろう。マックスはレスリーの後ろに椅子を慌てて持ってきた。



「騒がしかったけど・・・・確かに聞こえた言葉・・・・あっただろ?人のことを呼んでいた言葉・・・・」

「えっと・・・・ギンジと・・・・父さん」

 マックスは首をかしげて思い出しているようだ。しぐさとは別に顔は青ざめている。

「ギンジは・・・・カワカミ博士の名前だ。それを呼ぶのは・・・・俺はムラサメ博士だと思っている。」

 レスリーはムラサメ博士とカワカミ博士が友人で会ったことを話した。



「で・・・・でも、ムラサメ博士って死んだはずでは!?自分は総裁からそう聞いています。」

 テイリーはレスリーの言葉に驚いた。

「何よりも・・・・・父さんと叫んだ声が、コウヤのものだった。」

 レスリーは首を振って言った。

「死者を生き返らすのですか?ドールプログラムというのは・・・」

 驚くのはテイリーと共に戦艦に乗り込んだ衛生兵と機械整備士だった。

「いや、ムラサメ博士は男だ。だが、声の主は女だった。」

「どういうことだ・・・?」

 テイリーは頭を抱えた。

「今はそんなことどうでもいい。ただ、ムラサメ博士が先ほどの映像を流させたという可能性が重大だ。」

 レスリーはそう言うと息を呑んだ。

「どういうことですか?」

 マックスはレスリーに縋りつくように掴みかかった。

 マックスの声に合わせるように全員がレスリーを見た。



「ムラサメ博士はゼウス共和国を憎んでいた。よって・・・・映像は・・・・本物である可能性が高い。」









『なんの本読んでいるんだ?』

『なんだ?興味があるのか?』

『・・・うん、まあ。』

『どっちに興味があるんだ?』

『え?』

『私と本、どっちだ?』

『え・・・え・・・両方!!』

『奇遇だな。私も君に興味がある。』



 寂しい、心の中に何かが足りない。

 でも、これは何なのかわからない。

 知らないものを求めることはないだろう。

 だから、これは自分が知っているものを求めているのだと思う。



「いつも一番ですごいな。ハクトは。」

 名前も覚えていないクラスメイトに言われた。

「勉強しているからな。油断するとすぐに点数を落としてしまう。」

 ハクトは謙遜するわけでもなく、淡々と本当のことを言った。

「変に自慢するわけでないからお前のそういうところいいな。」

「なんだよそれ。気持ち悪いな・・・」

 自分はクラスメイトの言葉に純粋に気持ち悪がった。

「でも、お前を追い抜かすほど頭のいい奴なんていないだろ?」

 クラスメイトの言葉に

「いるだろ。あの子だよ。」

「あの子?・・・・誰だ?」

 クラスメイトは冷たい目で見つめてきた。

「あの子・・・・だよ・・・」

『あの子・・・・誰だ・・・?』

 誰だかわからない。けど、考えると胸がざわつく。

 知らないはずはない。知りたい。



『君は努力家だな。』

『ディアだって・・・』

『私は君ほど努力家じゃない。苦手なことはしない主義でね。』

『そうなんだ。意外だ。』

『はは、それは人づきあいも該当する。』

『え?』

『私は自分の好きな奴としか交流を持たない。子供のうちの特権だからな。』



「ハクト」

 まただ、俺を呼ぶ声。

 誰だ。

 この声は、俺の心に響く。

 優しさとか感じなくても満たされる。

 とても魅力的な、愛しさのある声だ。









「通信機使えます。」

 フィーネの副艦長だった時と同じような声でソフィはキースに言った。

「よし!!」

 キースはガッツポーズを取りカワカミ博士を見た。

「カワカミ博士!!使えます。」

「ハンプス少佐に『天』の軍本部に伝えていただきたいことがあります。」

 カワカミ博士は、横目でコウヤ達の様子を見ながら言った。

「なんですか?」



「宇宙にいるすべての人間を今すぐに地球に移送してくださいと。」



「は?」

 キースは目を丸くした。

「それは・・・不可能に近いですよ。どれだけの人間がいると思うんですか?」

 イジーはそう言うと、額に手を当てて顔を顰めた。



「いえ、それでもやらないといけません。とにかく伝えてください。ロッド中佐からとでも言えばいいでしょう。」

 カワカミ博士は有無を言わせない勢いだった。



「わかった。」

 キースは驚いた顔から深刻な表情になった。



「キャメロンが頭に埋め込んだ機械というのは、扱える情報量が限られているはずです。あんな操作される前提ではないので、ムラサメ博士があの体でさっきのことができるのはまだ先のはずです。ただ、ムラサメ博士はどこに向かうと思いますか?彼は、膨大な情報を操ることはできなくとも頭に入っている情報はあるはずです。」

 カワカミ博士は考え込むように俯いた。



「・・・・頭の機械に関しては時間がかかるだけだから・・・・肉体を維持するために必要なものがそろっているところ・・・・止めた方がいいのでは?」

 キースは首を傾げた。

「先ほど動けなくなったように、下手な接触はできない。できるのはシンタロウ様だけだと向こうもわかっているので、対策は取られます。まして、今は動けないです。それに、下手に殺してしまって、奴をプログラム内に解き放つ方が恐ろしい。」

 カワカミ博士はそう言うと何か考えこんで顔色を変えた。



「ハンプス少佐!!すぐにフィーネに繋いでください!!」

「え?」

「このドームを出るように伝えてください!!そして、操舵能力を一時凍結させてくれと言ってください!!」

 カワカミ博士は声を荒げていた。

「・・・・!?わかった!!」

 キースは何か感じ取ったのか表情を変えた。









『何のよう?』

『やけに辛らつだな。』

『君のことはいけ好かない奴だと認識しているから。』

『お前に言われたくない。』

『そうかな?優等生でドームの有力者と仲良しの可愛げのない奴の君以上にいけ好かないかな?』

『だってお前目立たないように全部手を抜いているだろ?』

『は?』



 口が疲れる。

 ああいえばこう言う。

 言ったことがすべて跳ね返される。

 お互い負けず嫌いなのか、いちいち考える嫌味を受け止められない。

 疲れる。



「ハクト君は大人しいね。もっとたくさんお話できればいいんじゃないか?」

 成績が優秀であれば何も言わないと思っていた教師が急に言った。

「お話って・・・」

「いや、コミュニケーションは最低限取っていると思うけど・・・もっと君とお話ししたいと言っている子もいるから。」

 教師はちらりと教室の隅にいる女子生徒を見た。

 ああ、なるほど。そういうことか、と思ったが取り合うのも面倒くさくなった。

「俺だって話しますよ。だってこの前別のクラスの」

「別のクラスの誰?」

 教師の口調が冷たくなった。

「あの・・・・栗色の」

 そう、栗色のくせ毛の

 言いかけた時に教師の冷たい視線に気づいた。



 大人しい奴。口を開くとものすごくしゃべる。

 大人しくないうえにやたら喧嘩腰なやつ。

 すごく耳障りで返す言葉もいなされる。

 口が疲れる。



『図書室の本だって大体読んでいるだろ。』

『本を読んでいれば優秀だと思っているの?君って予想以上に頭悪そうなこと言うね。』

『可愛げないのはどっちだよ。』

『そうかな?僕ってかわいいと思うけどね。よく言われるから。』

『可愛くない。』

『はは。僕だって野郎に可愛いって言われていい気分はしないよ。』

『可愛くねー』



「ハクト」



 まただ。俺の呼ぶ声。

 この声は・・・・誰だ?

 ただ、この声の主を俺は畏れていた。

 でも不思議と似たものを感じていた。

 そういえば・・・・似ていたのかもしれいない。

 気に入らない奴に









「・・・・さっきの映像は本物の可能性が高いらしいです・・・。これは・・・地連も真っ青だ。」

 テイリーは嘲るように笑っていたが、その顔も真っ青だった。

「・・・・嘘だろ・・・・一つの国が・・・・」

 マックスはさっきまで表情に微かにあった明るさも消えていた。



「・・・・ネイトラルの本部と連絡を取ったのですが、どの機関が試みてもゼウス共和国との連絡が取れないそうです・・・・」

 テイリーはマックスの様子を見て気を遣ってか、言葉を濁しながら言った。



「・・・・『天』近くにゼウス軍のドールがいたよな。そいつらはどうなった?」

 レスリーは自分が紛れ込んでいた軍を思い出した。

「それについてはわからないですが、状況的に宇宙にゼウス軍の戦艦があってもおかしくないですね。『天』の軍本部と通じていたとはいえ、共謀するのに反対するものも多かったはずです。だから、あなた方が反抗できたのでしょう。」

 テイリーはいつもの頼りない表情ではなく、冷静な声と表情だった。



「あれ?通信が入りました。」

 リリーは通信が入ったことを身振り手振りで知らせた。



『フィーネ!!いるか!?』

 キースの慌てた声だった。

「はい!!ハンプス少佐!!」

 リリーは頼りにしている上官の声に安心したのか、笑顔になった。

『今すぐこのドームを出て宇宙に漂え!!それにともなって操舵能力も凍結させろ。』

「え?」

『いいから!!ムラサメ博士が乗り込んでくる恐れがある!!』

 キースの言葉にレスリーは素早く動いた。

「ネイトラル総裁。勝手に動かさせてもらう。」

 レスリーはそう言うと椅子から立ち上がり、左手で戦艦の操作盤を触り始めた。



『こっちは全員無事だ。ただ、ひと段落するまでこのドームに近付くなよ!!』

「わかった。ハンプス少佐。宇宙にでる準備はあと数秒でできる。そっちはどうやって宇宙に出ますか?」

 レスリーはキース達を心配しながらも淡々と出港の準備をしていた。

「・・・・手伝います。こっちの方から方向を定めます。」

 モーガンは慌てて動き始めた。

『・・・・とにかく落ち着くまで・・・・』

「戦艦ではないが、『天』からイジーとシンタロウが乗ってきた電車がある。月の地上を走るやつです。機能が生きているならそっちを使った方がいい。線路だから乗っ取られても道が変わることはない。」

 レスリーは思い出したように言った。

『・・・・影・・・・』

「俺はレスリー。あんただって知っているでしょう?」

 レスリーは口元に気安い笑みを浮かべていた。

『ああ、レスリー。ありがとう。』

「・・・・それはこっちのセリフです。あんたがいたから俺はここまで来れた。」

『・・・・照れるな。』

「照れないでください。事実です。」



「レスリーさん。出港します。」

 テイリーは準備できたのか大声でレスリーに言った。

「わかった。・・・・というわけです。また会いましょう。」

 レスリーはそう言うとみているわけではないのに、力強く微笑んだ。

『ああ。また会おう。』

 キースもおそらくレスリーと同じ表情をしているのであろう。そんな声だった。

「フィーネ。出港します。」

 慣れた声でリリーが言う。



 ゴゴゴ

 懐かしい振動が船に響いた。



 フィーネはレスリー、リリー、モーガン、テイリー、マックス、ネイトラルの衛生兵、機械整備士の7人を乗せて宇宙に出た。





『あなたが最近ずっとクロスに絡んでるのは知っているのよ』

『誰だお前?』

『私はクロスの特別よ。』

『なんか、結構前にお前に似たようなテンションの女子に絡まれた。』

『それってユイ・カワカミのこと?ちょっと同じにしないでよ!!あんな馬鹿と』

『よくわかったな・・・・・俺誰とはいってないぞ』

『・・・・・』

『似たようなテンションって自覚あるのか』

『うるさい!!だから同じじゃない!!』



 こいつは耳が疲れる。

 自分の発言が失言であっても気力と迫力でなかったことにする。

 とにかく上から物を言うことが多い。

 何てわがままな奴だ。

 俺が何か言うと全力で跳ね返そうとする。

 理詰めでは決して跳ね返ってないのに、力づくで俺に反発する。

 何を言っても無駄だ。



「隣のクラスの子がかわいいんだけど、すごく性格が悪いんだよね。」

 愚痴るようにクラスメイトが俺に話しかけてきた。

 どうやらこのクラスメイトは隣のクラスに気になる子がいるようだ。だが、その少女の性格がすこぶる悪いようだ。

 なんで俺に言うのかわからないが俺は無視するわけにもいかない。

「どんな性格なんだ?」

 俺が質問すると待ってましたと言わんばかりに顔を輝かせた。

「とにかく陰口が多いんだ。外面はいいらしいんだが、女友達に探り入れたら評判が悪くて」

 俺は呆れた。こいつは他人の意見を聞いて判断したのか。

「お前が関わって知ったことじゃないのかよ。」

「だって緊張するだろ!!表面がいいってのは知っているけど、陰口言われたらとか・・・」

「初っ端からけんか腰よりかはましだろ。」

「そんな奴いるのかよ。」

 クラスメイトは呆れたように笑った。

「いるだろ。どのクラスかは知らないけど、金髪の・・・」

「金髪の?」

 クラスメイトの口調が冷たくなった。

「あの・・・・生意気な」

 そう、金髪の生意気な

 言いかけた時にクラスメイトの冷たい視線に気づいた。



 とてもうるさく、他人の言ったことに全力で反撃する奴。

 でも、攻撃性の中に一定の人物への想いが垣間見える。



『俺は他人をいじめるようなことはしない。』

『本当?クロスとあんなに話すなんていじめが目的としか思えないわ。』

『決めつけはよくない。だいたい何でそう思うんだ?』

『だって彼は沢山お話ししたいと思える子じゃないもん。』

『そうだな。』

『やっぱり!!クロスをいじめてるのね!!なんてひどい!!』

『お前の発言の方がひどいだろ』



「ハクト」

 また俺を呼ぶ声だ。

 この声は誰だろう。

 なぜか一言なのにその中にうるささがある。

 攻撃的な声。

 優しさのある凶暴さ。







「・・・・・つ・・・・・」

 頭が痛いのか少女は屈んだ。

「・・・・くそ・・・・機械がしばらく使えないか。無理をし過ぎた・・・・」

 少女は、見た目に似合わないしゃべり方をしていた。

「・・・・まあいい。止められるものは、いないに等しいのだか・・・・」

 自分を安心させるためか、独り言を呟いた時



 ゴゴゴ

 地鳴りのような音が響いた。



「・・・!?」

 少女はその音を聞き、顔を上げた。



「・・・・・フィーネが出たか・・・仕方ない。別の船を使うか。」

 そう言うと少女は別の方向に歩きだした。



「・・・・ギンジか、まあ妥当だな。」

 少女はそう言うと口元に笑みを浮かべた。

 しばらく歩くと少女は思い出したように呟いた。

「・・・・・止めに来るのだな・・・・コウヤ。」

 その声色は寂しそうだった。







『ハクト。』

『なんだよ。』

『何でいつも勉強しているんだ?遊ばないのか?』

『逆にお前は勉強しないのか?親が学者だったらもっと勉強しようとか考えないのか?』

『父さんが言っていた。何事も勉強だって。』

『は?』

『だから、俺は遊びを勉強している。』

『・・・・アホっぽい』

『アホじゃない。俺は好きなことを探しながら遊んでいる。それに、そこまで馬鹿じゃないって。』

『好きなこと・・・・』

『父さんが言っていた。好きなことに出会えれるのは幸せなことだって。その幸せを掴めない人も多いって。だから、俺は少しでもその幸せを掴めるために遊ぶんだ。』

『・・・・いい加減だな。』

『だから、遊ぼうぜ。』

『今の誘い言葉か?』

『そうだ。』

『どうして俺と?』

『お前優等生だし、遊んだら俺も賢くなるかなって・・・・』

『なるわけないだろ。』

『うそ!?まじか・・・・じゃあ、ディアとか誘っても・・・』



 自己中で頭の少し悪いガキ。

 そんなやつだ。

 でも、いつも俺たちを引っ張って行った。



「ハクト!!」

 声が響いた。

 アホじゃないか?そんなに俺を誘ってもお前は賢くならないぞ。

「ハクト!!」

 声が響いた。

 また、コウヤと仲いいからって俺を妬んでるのか?

 ・・・コウヤ・・・?誰だ。

「ハクト!!」

 声が響いた。

 そんなに俺の名前を必死で呼ばなくてもいい。俺はお前が呼ばなくても傍に行く。

 ディア・・・!?

「ハクト!!」

 声が響いた。

 貴方がそんな必死な声を出すなんて意外でした。俺よりはるかに上にいる存在。

 中佐・・・・いや、貴方は

「ハクト!!」

 声が響いた。

 全くお前にはてこずった。俺は知っているからな。散々俺らの船を追い回し、挙句俺をボロボロにした。お前が相手だったってわかっているからな。レイラ。





「ハクト!!」



 そんなに呼ばなくてもいいだろ。



「うるさい!!」

 叫ぶと目の前に5人の親友がいた。







「ハクト」

 笑顔でいう少年。俺らのリーダ。最近は頼りないが、どうしても頼りにしてしまう。

「ハクト」

 笑顔でいう少女。無邪気で天真爛漫。俺らのムードメーカーだが、それを自覚していない。

「ハクト」

 笑顔でいう少女。賢い少女。俺の大切な存在。すべてが大好きで愛しい人。

「ハクト」

 笑顔でいう少年。悪知恵の働くやつ。性格が悪く賢いが、爪を隠し続ける油断ならないやつ。

「ハクト」

 笑顔でいう少女。プライドが高く、攻撃的な奴。でも、友達想いで実は優しい。



「なんだよ。お前等。」

 思わず笑ってしまう。



「こっちのセリフだ。」

「お前が一番うるさかったぞ。コウ」

「でもでも、ハクトはうるさいぐらいがちょうどいいでしょ?」

「相変わらずコウにべったりだな。ユイ」

「ハクト。よかった。」

「・・・・・ディア・・・・・」

「いい感じのところ悪いが、私たち・・・・僕らがいること忘れるな。」

「・・・・クロス。お前、ずっとだましていたのか?」

「クロスのこと悪く言うもんじゃないわ。相変わらず二人で話すと不穏な空気ね。」

「音量はさておき、お前は一言にうるささがつまったような声だったぞ。レイラ。」

「なっ」



「口げんかをしている場合じゃないな・・・・」

「クロス・・・・いや、中佐どの。止めてくださってありがとう。」

「いちいち引っかかるな。ハクト。いい加減にしろ。戻ったらいいだけ殴っていいから、今はこれからの相談をしよう。」

「言ったな?今の言葉忘れるなよ。クロス。」

「で、これからどうすればいいの?私わかんないから。」

「大丈夫。あんたに期待していないからユイ。」

「私もレイラにそんなに期待していないからねー。」

「ハクトとクロスだけでなくて・・・二人も止めろよ・・・どうする?コウ」

「とにかく戻ろう。俺らはプログラム内から出て行こう。外にカワカミ博士がいる。あの人に相談しながら・・・・」







「待て、コウ。」

「ん?なんだいクロス。」

「お前だけプログラムを開いていない。カワカミ博士の言っていることから考えると・・・・6人揃ってるだけでは意味がないのでは?該当者がそれぞれのプログラムを開いてこそ力が発揮される。なら、お前がゼウスプログラムを開く必要がある。いま、開くことはできないのか?」

「え?・・・・・クロスは開いたの?」

「・・・・・たぶん私が一番先に開いたであろうな。プログラムを開いてからというもの・・・察知能力が随分と高くなった。」

「・・・・開くときって、どんな感じだったんだ?」

「強制的にプログラムに接続させるという手もあるが・・・・どこに存在しているのかわからないものだ。自分で見つけるしかない。該当者なら向こうから勝手に来る。」

「・・・・今開ければいいが、ムラサメ博士のこともある。クロスの言い分も最もだが、それを含めてカワカミ博士に訊こう。」

「ディア・・・・」

「俺も状況がわからない。何があった?」

「ハクトは蚊帳の外だもんね。」

「よく知っているわね。そんな言葉。」

「ユイ、レイラ。喧嘩はするな。」

「キリがない。早くもど・・・」

「ハクト」

「なんだ?急にみんな真顔にな・・・」



「「「「「おかえり。」」」」」



「・・・・ただいま。」
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