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六本の糸~「天」2編~
63.押し
しおりを挟む用意された車の周りもそうだが、下ろされた先にも熱気に満ちた軍人が溢れていた。
慣れたように降りて視線や声援に応えるクロスは流石といえる。続いて降りるハクトは軍人らしかったが、それが好感を持たれるのだろう。
コウヤは縮こまりながら降りた。
「皆、ここにいる彼は私たちを助けてくれた大事な仲間だ。」
クロスはそう言うとコウヤを差した。
「え・・・?」
「ここにいる彼はニシハラ大尉の旧友であり、地球第一ドームに住んでいた。」
クロスはそう言うと何かを確認するようにハクトを見て頷いた。
ハクトは何かを察したようで頷いた。
「彼は、私やニシハラ大尉と同じくドールプログラムの適性が高い。今回の戦いに於いて欠かせない存在だ。」
クロスはそう言うとコウヤの腕を引いて横に立たせた。
コウヤは驚いたがなぜかすぐに平気になった。自分は存外度胸があるのだな・・・と実感した。
「紹介しよう。彼は・・・・」
クロスの言葉を聞く前に
「自分は、コウヤ・ムラサメだ。」
コウヤは断言した。
そうだ。
俺はコウヤ・ムラサメだ。
後ろでハクトがため息をついていた。
横目で見るとクロスが微かに動揺しているのがわかった。
クロスはコウヤの後ろに回り
「ムラサメと名乗ってしまったのなら・・・・この先、下手したら厄介なことになるかもしれない。」
と囁いた。
「かまうかよ。俺はコウヤ・ムラサメだ。」
コウヤは首を振った。
「大丈夫だろ。クロスがどうにかしてくれる。」
ハクトは頼るようにクロスを見た。
「・・・・・面倒臭いなあ・・・・」
クロスはため息をついた。
コウヤは笑った。
ハクトも笑った。
クロスも笑った。
「いつまでも男三人でひそひそ話すのは気持ち悪いな。」
クロスは二人の頭を軽く小突いて言った。
その様子を見ていた彼らを囲む軍人たちが目を丸くした。
3人の男たちが同時に笑った。
それが、この3人の絆を感じさせるものであり、それを感じ取った彼らは熱狂した。
コウヤを歓迎するように、歓声が響いた。
「さあ、仲間入りだな。」
歩きながら意地悪く言うクロスは変わらない。
それはそうと気になっていたことがあった。
「ハクトはもともとそうだったけど・・・・クロス。」
コウヤは横を歩くクロスを見た。
「なんだ?」
「・・・お前、でかくなりすぎ。」
コウヤの身長は174cmである。
ハクトは178cmである。クロスは・・・
「俺は父親の遺伝が強いのか184cmある。」
コウヤとは10cm差がある。
昔は小柄な少年であったが、面影は顔にしかない。
「まさかお前が一番のちびになるとはな。」
ハクトは笑いながら言った。
「昔は俺と同じ身長だっただろ?」
「同じく成長すると思っているのか?そんなにアホだったか?」
ハクトは信じられないと呟いた。
「いや、そうじゃないけどわかるだろ?」
「クロスに関しての感想は分かるが、仕方ないだろう。成長は人によって違うだろ?」
ハクトは当然のことをコウヤに言った。
コウヤ達が歩く後ろから再び歓声が上がった。
振り向くと一台の車が停まった。
車に乗っていたのはディアだった。
そしてユイとソフィも一緒だった。
車から降りたディアが周りを見ていた。そして
「けが人がいる。すぐに病院を手配してくれ。」
そう言うとソフィを車から降ろし、担架を求めた。
「・・・・」
ハクトは思わず笑顔になっていた。
「おい、恋愛脳。今は愛しの彼女を見てにやけている場合じゃないぞ。」
コウヤは冷やかすように言った。
「まあ、いいだろ。ニシハラ大尉の仏頂面は少しにやけていた方がちょうどいい」
クロスはそう言うとニヤリと笑った。
「それに・・・・ディアの行動は私も微笑んでしまった。」
クロスは感心したように言った。
「え?」
「さて・・・・俺たちは裏に回るか。」
クロスはそう言うとハクトの頭を軽く叩いた。
ハクトは恥ずかしさと不満を浮かべたが、直ぐにクロスに続いた。
コウヤも何かわからないが二人に続いた。
「・・・やあ。やっぱり来てくれたか。」
裏の入り口にはキース、ラッシュ博士、ジューロク、イジー、シンタロウ、レイラ、リード氏がいた。
「表で派手にディアたちを入れて、こっちには目が少なくするためか・・・おまけに、けが人もいれば向こうに更に人が集まる。」
ハクトは何故か誇らしげに言っていた。
「お前が何で偉そうにしているんだ?」
コウヤはまた冷やかすように言った。
「こっちもけが人いるんだから早く手配お願い。中佐さん。」
レイラがシンタロウを指差し言った。
「ハンプス少佐とルーカス中尉は港の出入りを整理するように指示してくれ。もちろん手当てが終わってからだ。ニシハラ大尉はここのメンバー全員の宿泊施設等の手配を全て頼む。カワカミ博士とラッシュ博士は、私と上に対してドールプログラムの脅威について説明頼む。ハヤセ二等兵も来てくれ。」
クロスは淡々と指示を進めていった。
「中佐さん。私は説明の場にディア・アスールがいた方がいいと思うけど?」
ラッシュ博士は表の方を顎で差した。
「そうだな。では後で呼ぼう。」
クロスはそう言うとコウヤ達を手で招いて歩き出した。
「全員分手配か・・・・」
舌打ちしながらハクトは歩いていくクロス達の背中を見た。
「とにかく急ぐか。宿の手配は・・・・ロッド家でいいんじゃね?。」
「そうですね。それよりも、まずは全員手当てですね。」
キースの提案にハクトはキースの彼の傷を見て、言った。
「そうだな。」
キースはニヤっと笑った。
クロスに連れてかれた部屋に入ると、疲れた表情の軍人がいた。
かなり位の高い将校のようだが、やつれており、豪華なはずの軍服はところどころ皺が寄っている。
「一時的にこちらの部屋に呼ばせていただきました。大丈夫ですか?」
疲れた表情の軍人たちにクロスは丁寧な口調で訊いた。
ただ、口調は丁寧でも、圧倒的に自分が上だという意識を滲ませていた。
「ああ・・・・」
軍人たちは疲れを隠すことなくそっけなく返事をした。
「では・・・・ここにいるカワカミ博士とラッシュ博士からドールプログラムの内容について説明をお願いします。」
クロスはラッシュ博士とカワカミ博士を指し言った。
カワカミ博士という言葉に他の軍人たちは反応した。
「・・・・私の口からより、カワカミ博士、お願いします。」
ラッシュ博士はカワカミ博士に譲った。
「ええ、そうしましょう。」
カワカミ博士はクロスの横に立ちお辞儀をした。
彼を見て部屋はざわめきで満ちた。
「ああ・・・あと、コウヤ・ハヤセ二等兵・・・・いや、コウヤ・ムラサメも来てくれ。」
クロスはコウヤを呼んだ。
コウヤの名前にも部屋はざわめいた。
「ムラサメ・・・・だと?」
「死んだはずでは・・・・」
「皆さん」
ざわめく声を静めるようにクロスが呟いた。
クロスの声に部屋は静まり返った。
「説明は静かに聞いてください。」
静まり返ったことを確認してからクロスは強い語調で言った。
コウヤはカワカミ博士と同様にクロスの横に立った。
「コウ、お前は余計なことは言わなくていい。ただ、カワカミ博士の説明に頷いて、らしく何か言えばいい。」
クロスはそっとコウヤに呟いた。
「らしく?」
コウヤは思わず訊き返した。
一番難しい・・・・
「では、『天』の人間を全て地球に下ろそうということについての説明です。」
カワカミ博士は説明を始めた。
話し方はまるで学会で発表するような、学者の気質が出ているのか、淡々と事実と可能性を述べていた。
コンコン
カワカミ博士の説明の途中でノックの音が聞こえた。
「どうぞ。」
カワカミ博士が答える。
「失礼する。」
声のあとに扉が開いた。
「呼ばれたので、私も説明に同席させてもらいます。」
入ってきたのはディアだ。
「どうぞ。では、続けさせていただきます。」
カワカミ博士はディアを招くと、再び説明を始めた。
「現在ゼウス共和国は機能していない。と考えていい。ドールプログラムの最高権限を持つムラサメ博士によって操られている。」
カワカミ博士は疲れた表情の軍人たちの顔を見渡した。
「ムラサメ博士が動かしているからといって・・・なぜ危険なんだ?」
一人の軍人が口を開いた。
「あなた方がゼウス共和国と共謀していた事実はお忘れでは?」
クロスは冷たく言った。
「う・・・」
その言葉に軍人たちは言葉を詰まらせた。
「しらばっくれてもいいです。私たちがどう思うかではないです。体面とかでもないですよ。ムラサメ博士がどう考えているかです。」
カワカミ博士は最後の部分を強調した。
「あの人、ゼウス共和国を使って関係者全て消すんじゃないかしら?でも、あの人は徹底している人のはず・・・・」
ラッシュ博士はそう言うと横目でコウヤを見た。
「・・・・父さんが何をすると思うんだ?キャメロン。」
コウヤは息を呑んだ。
「同じ過ちを繰り返さないようにドールプログラムを使う。すべての人間をお人形のように管理するってことよ。」
ラッシュ博士は人差し指を立てて言った。
「・・・・なんだと・・・・それは我々が」
「聞かされていた、弾圧方法だ・・・・ですね。」
軍人の呟きにクロスが口を挟めた。
「・・・・・」
軍人たちは黙った。
「では・・・・続けさせていただきます。」
カワカミ博士は静まったのを確認すると説明を続けた。
「ムラサメ博士を止めることは、今の時点だと不可能です。」
「!?」
カワカミ博士の言葉にコウヤと軍人たちは驚いた。
「今は・・・・です。彼を止めるためにはどうしても必要なプログラムの権限があります。それを得るまでに間の限られた阻止は可能です。」
カワカミ博士はそう言うと横に立っているクロスに目を移した。
「・・・私が止める。補給さえしてくれれば、ゼウス共和国から洗脳電波が放たれるときに全て受けよう。ただし、完璧に止められるかはわからない。」
クロスは珍しく弱気な発言をした。
「こちらのロッド中佐が『天』付近の宇宙空間で電波を身代わりに受ける」
カワカミ博士とクロスの言葉にざわめいた。
「もちろん。謀略で殺すこともできますよ。この前のように後ろから狙えば私は今度こそ倒れるでしょう・・・・」
クロスは片頬だけ吊り上げて笑った。
クロスの言葉に息を呑む音が聞こえた。
「そうなれば・・・・ムラサメ博士を止める手段は永遠に失われる。彼の洗脳におびえながら暮らす、いっそ操られた方が幸せかもしれないが・・・・」
カワカミ博士は俯いていた。
「・・・・なぜ、ロッド中佐が殺されることでムラサメ博士を止められないと・・・」
軍人たちは不満そうにロッド中佐を見ていた。
「ドールプログラムの開発者であるムラサメ博士の権限はほぼトップです。それに対抗するために私は特別体質のものにそれぞれのプログラムの適合者という形を取り、権限を分けました。あなた方のようによからぬことを企むのを避けるため・・・・」
カワカミ博士はレクチャーするように身振り手振りで言った。
「特別のことは聞いている。そこのムラサメ博士の息子を始めとした6人だろ。ニシハラ大尉。ディア・アスール。レイラ・ヘッセ。あなたの娘のユイ・カワカミとクロス・バトリー」
軍人の中でもひと際偉そうな男、ライアン・ウィンクラー総統は不満を顔に表していた。
「・・・・・ばらした方がいいのでは?」
カワカミ博士はクロスを見た。
「・・・・」
クロスは無言でサングラスを取った。
「!?」
サングラスの下の赤い瞳に軍人たちは驚いた。
「さ・・・・・そして、残るプログラムを手に入れるために地球に降りる必要がある。地球に降りるために戦艦が欲しい。そして、宇宙に残る軍人を選定する。あなた方には地球側からの協力に動いてもらいたい。」
仕切りなおすようにカワカミ博士は切り出した。
「もし、従わなければ・・・・?」
一人の軍人が意地の悪い顔をした。
その顔を見てコウヤは腹が立った。
自体の深刻さを分かっているのか、いや、こんな時でも優位に立とうとしている。
「そんなことしたら・・・」
「父さんは徹底している。あなた方を赦しはしないだろう。俺にはわかる。」
コウヤはカワカミ博士の言葉に割り込んだ。
その様子にクロスとディア、ラッシュ博士は驚いた。
「それだけだ。」
コウヤは吐き捨てるように乱暴に言った。
「まあ・・・・信じられない。この怪我わかりますか?これ、銃創ですからね。弾丸だって無理やり抜いて・・・・本当は肺を洗うぐらいでいいんですよ。」
看護師はシンタロウの怪我を見て呆れていた。
「それよりも・・・あなた何者ですか?鎧みたいな体しているわ。」
看護師はシンタロウの体をべたべた触りながら感心していた。
「あなたもですよ。足を撃たれているのに歩くなんて・・・・ああ、あなたも。」
看護師はレイラとソフィを順に見て言った。
「ハンプス少佐は?まだ腕の怪我見ていないんですけど・・・・」
看護師はキースを捜しているようだ。
「キースさんなら、『俺は大丈夫だ』て言ってさっき港の方に行きましたよ。」
シンタロウは体に巻かれた包帯を整えながら言った。
「はあ?・・・・仕方ないわ。ルーカス中尉は・・・」
「イジーなら、『添木をしてるから大丈夫』とか言ってキースさんと行きましたよ。」
近くにあった病院着を持ち、袖を通しながらシンタロウは言った。
「はあああ!?」
看護師は素っ頓狂な声を上げた。
「それより・・・出かけたいところあるんですけど・・・・行っていい?」
シンタロウは発狂している看護師に恐る恐る訊いた。
「だめです!!肺って臓器ですよ!?」
「いや・・・激しい運動はしないですから・・・」
「そう言う問題じゃないです!!」
シンタロウと看護師の話を聞きながらレイラはため息をついていた。
「お前はどうする?」
レイラはソフィを見て訊いた。
「あら?私?」
「ああ。お前はこれからどうする?」
レイラは頷き改めて訊いた。
「優しいのか・・・・馬鹿なのか、私に選ばせてくれるの?」
ソフィは挑戦的に笑った。
「選ばせるさ。これから先は迷いや言い訳が邪魔になる。士気も下がる。だから選ばせる。」
レイラは淡々と言った。
「それに、お前は元副艦長だったのだろう。オペレーターで役に立つこともできるだろ。だから訊いている。」
レイラは付け加えるように言った。
「選ぶも何もないわよ。最終的に私は軍法会議で死刑でしょ?」
「私は地連じゃないからわからない。」
「わかっているはずよ。今の地連の支配者は甘くない。」
ソフィはレイラに何かを含めて言った。
「・・・・・彼は」
「彼が優しいのはあなた方に対してだけよ。」
ソフィは断言するように言った。
「・・・・どうする?」
レイラは表情を歪めて会話を無理やり戻した。
「そうね・・・・見届けるわよ。でも、前線で戦うのは赦されないでしょうね。」
「地球まで来るか。」
「さあ?でも、手伝うことがあればやるわよ。」
レイラはそれを聞いて笑った。
「なら覚悟しておけ。」
「あっさり聞いてくれたな。」
コウヤは思ったより早く終わった説明とこれからの指示に驚いていた。
「クロスに逆らうメリットがない上に、ドールプログラムの恐ろしさは知っているのだろう。行動しないと後でもっと叩かれることもある。・・・・まあ、最後の一押しは予想外だったが・・・・」
ディアは目の前のクロスを見て言った。
「そうだな。ネイトラルの有力者がいるのも大きかったかもしれないが、最後の一押しがな。」
クロスはディアに笑いかけた後コウヤをチラリと見た。
「さて、私たちは地球に降りてからの話とその先の対策を立てましょう。研究者同士でです。皆さんは英気を養ってください。」
カワカミ博士はチラリとラッシュ博士を見た。
「ムラサメ博士を止めてから・・・・私の仕事というわけね。」
「思った以上にあっさりと聞いてくれるのだな。」
カワカミ博士は驚いた顔をした。
「まあ・・・・・私にメリットもないからね。」
「私もいますから下手に動こうとしたらバレますよ。」
カワカミ博士とラッシュ博士のやりとりを見てコウヤは立場を忘れて微笑んだ。
クロスはそんなコウヤを黙って見たあと、歩きだした。
「どこ行く?」
ディアはクロスを呼び止めた。
「ハクトの手伝いをしてくる。・・・・ニシハラ大尉は意外とポンコツだからな。」
そう言うとクロスは歩き去った。
「・・・・ポンコツか。それはそうと、コウ。お前はユイとゆっくりしたらどうだ?」
ディアはカワカミ博士をチラリと見た。
「あ・・・・あの、ちょっとユイと・・・・・・」
「私に止めたり説教をする権利はないです。」
カワカミ博士はコウヤの言葉を止めた。
「ただ、ユイを泣かせる真似は許しません。」
ワントーン低い声でカワカミ博士は言った。
「は・・・はい。」
コウヤは姿勢を正した。
「ユイは今・・・・」
コウヤはディアの方を見た。
「ユイは病院じゃないのか?あと・・・お前探せるだろ?」
ディアは頭を指差した。
「そうだった。」
そう言うとコウヤは走り出した。
廊下にいる軍人たちがコウヤを見てひそひそと話している。
その視線は嫉妬、羨望とコウヤには痛いほどわかる。
《・・・・邪魔だな・・・・》
視線に含めた感情がコウヤの感覚を濁らせる。
コウヤはユイを捜した。
「あれ・・・?」
ユイの気配が病院じゃないところにある。
「・・・・ここって・・・・」
コウヤは走り出した。
港は未だ混乱にあった。
戦艦と輸送船の艦長があちこちで言い争いをしていたり、数人が軍人に連れられ話し合いをしてる。
「イジーちゃん大丈夫?手首腫れてきているだろ?」
キースは横に立つイジーに目線を合わせるようにかがんだ。
「大丈夫です。シンタロウは肺に弾が入ったまま戦っていたんですよ。」
「いや、手当てできるのなら手当てしよう。」
キースは冷静に言った。
「ここの軍病院って・・・・看護師が外出をなかなか許してくれないって有名なんです。」
イジーは開き直った。
「どこか行きたいのか?」
「・・・・ええ。港の状況がひと段落したら・・・・」
イジーはそう言うと未だ出入口が戦艦や輸送船でふさがった港を見た。
「・・・イジーちゃん。行ったらいいよ。」
「いえ、ここが落ち着くまで・・・」
イジーは頑なな表情だった。
「いや・・・行ってくれ。若い女の子相手だったら艦長はつけあがる。舐められるしな。」
キースは真面目な顔で言った。
「ハンプス少佐。」
「これは命令だ。」
イジーはキースに向き直り敬礼をした。
「折れてんだから無理しない。」
キースは真面目な顔から変わって微笑んだ。
「ありがとうございます。」
イジーはそう言うと走り出した。
「気を付けろよ。」
キースはイジーの背中に叫んだ。
せわしない軍の施設のある部屋に、書類の山と机と、二人の軍人がいた。
「何の用だ?」
「手配できているかどうかの心配だ。」
「生憎、もう終わった。」
ハクトは両手を広げて嫌味な顔をした。
「これはこれは・・・・予想より使えるやつだったか。」
クロスはハクトと同様に嫌味な顔をした。
「どうせ腹に溜めているものを見破られないように逃げて来たんだろ?」
「君の彼女は変に聡いからね。」
クロスは素直に認めた。
「変には余計だ。」
「コウはどうせユイのところに行くだろうし、僕はハクトの仕事ぶりを見ようと思って。」
クロスは幼く笑った。
「終わったぞ。残念だったな。」
「まあ、いいけど。」
クロスはハクトの意地の悪い顔を見て鼻で笑った。
「そうだ。クロス。」
「なんだい?」
「実は行きたいところがあるんだ。」
ハクトはクロスの肩を組んで馴れ馴れしく聞いた。
「気持ち悪いな・・・・」
クロスは肩に架けられたハクトの腕を見て眉を顰めた。
「ロッド中佐モードじゃないんだな。」
「気色悪いぞ。ニシハラ大尉。」
クロスは表情を口元だけで表情を変化させて言った。
「腹立つ。」
ハクトは面白くなさそうに言った。
「ははは・・・・なんだい?どこだ?」
クロスはひとしきり笑うとサングラスを直しながら訊いた。
「ああ・・・それは・・・・」
ハクトが言いかけた時
「失礼します!!ニシハラ大尉!!」
勢いよく数人の軍人が入ってきた。
「・・・・・」
気が緩んでいたのか、部屋の外の存在に気が付かなかった二人は気まずそうに肩を組んだまま固まっていた。
「・・・・」
二人と同様に入ってきた軍人たちも固まっていた。
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