あやとり

吉世大海(キッセイヒロミ)

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六本の糸~プログラム編~

75.子供騙し

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 ドールの発着口にむすっとした表情のマックスが立っていた。仁王立ちをして、一体のドールを見ていた。



「・・・・何か問題でもあったのか?ディア・アスール。あのポンコツがプログラムを開けなかったのか?」

 マックスは顎をしゃくって馬鹿にしたように文句を言うように言った。

 マックスの声に応えるようにディアはドールから出てきた。

「やけにゆっくりだな。急ぎで来いと言われたから来た。なんだ?」

 マックスはディアに攻撃的だった。レスリーの前とは大違い。



「そう構えるな。・・・・ドアを閉めろ。」

 ディアはマックスの背後を見て言った。



「・・・・は?お前みたいな危険なやつと密室で二人きりとか嫌だぞ。」



「お前を襲うメリットがない。そんなこともわからないのか?」

 ディアはマックスに呆れたように言った。案の定マックスは苛立たしそうにして、素直にドアを閉めた。



「・・・・これでいいか?」



「ああ、マックス。お前に頼みがある。」



「怪我でもしたか?」



「違う。ドールプログラムについてだ。」



 ディアの言葉にマックスは驚いたような表情をした。

「それならカワカミ博士に訊くべきだろ。そうじゃなくてもラッシュ博士もいる。俺に訊くことは・・・・」



「あの二人を信用できない事態になった。詳しくはコウから話す。とにかくお前が適任だ。」



「は・・・?」

 マックスは首を傾げた。



「・・・がっほ!!」

 ディアは何も言わずにマックスに外気用マスクを押し付けた。

「なに・・・・」

 文句を言おうとマックスはディアを睨みつけたが、鬼気迫るようなディアの様子に言葉を呑んだ。



「ちなみカワカミ博士とラッシュ博士は・・・・?」



「二人とも・・・・来たときの戦艦に乗ってどっかに行った。研究施設に行ったんじゃないか?」

 マックスは不満そうな顔をしながらもマスクを整えた。



「・・・・あの二人で行って研究施設を使えるとは思えない。ハンプス少佐やレイモンド・ウィンクラー大将が一緒ならまだしも・・・・」

 ディアの呟きを聞いてマックスは急にむくれたような表情になった。



「どうした?」

 ディアはマックスのあからさますぎる表情変化が気になった。



「大将殿はリード氏とお話に行ってる。ハンプス少佐は外に遊覧船を出して優雅に酒飲んでいる。」

「ああ、あれはハンプス少佐だったのか。」

 ディアは外に出ていた遊覧船を思い出した。



「まあ、問題の二人がいないのならお前を外に連れまわさなくていいな。」

 ディアは片手を挙げてしばらく黙った。



 ガガガガ

 ドールの発着口が開き、外からドール2体とサブドールが入ってきた。

 発着口が締まり、入ってきたドール達が定位置に着いた。



「・・・・お前俺を外に連れまわすつもりだったのか?」

 マックスは何かに気付いたように飛び上がった。



「お前反応遅いな。・・・・来い。みんな。大丈夫そうだ。」





「おい、ディア・アスール。あのドールが持っている機械は何だ?」

 マックスはコウヤのドールが抱える機械を見ると目の色を変えた。



「あれにゼウスプログラムがあった。わかるか?」

 マックスはそれをきいて驚いた表情をした。



「あれに?・・・・もっとスマートな機械だと思っていた。プログラムを開くといってもロックみたいなものだ。・・・・あの機械に似たようなものを俺は扱っていたことがある。ゼウス共和国の実験で・・・・ユイ・カワカミやレイラ・ヘッセに該当以外のプログラムを開かせるために矯正のような作業をするためにな。精神面や人格を大きく曲げるものだからあの二人以外はだいたい壊れた。・・・・まあ、似たような奴だからそれと同じようなものとは・・・・」

 マックスは機械に近寄って行った。

「ここに降ろせ。アスールは接続できる端末を持ってこい。」

 マックスはディアに指示するとすぐにその場に座り込んだ。



 ガタン

 機械はマックスの傍に降ろされた。ただ、指示された場所より少しずれた。



「へたくそ。もっとこっちにしろよ。さてはお前コウヤ・ムラサメだな。」

 マックスは体の向きを少し調整して機械を眺めた。



「誰だ?これ撃ったのは?」



「私だ。これが止まったらコウヤが元に戻った。」

 ディアは答えると端末をマックスに投げた。



 マックスは端末を受け取るとまじかよと呟いた。



「おい、アスール。これは完全に矯正する機械と同じようなものだ。・・・・俺が扱っていたモノよりも遥かにいいものなのは確かだな。・・・・ただ、似てるな。」

 マックスは端末を繋げ、何やら操作を始めた。



「・・・・・これを作ったのは、カワカミ博士なんだと思う。ラッシュ博士にはここまでのものはできない。ゼウスプログラムが入っていた時点で彼以外いないと思うが・・・・ただ、これがカワカミ博士の作ったモノなら・・・・一つ問題がある。」



「問題って何?」

 すでにドールから降りたユイがマックスを真剣に見ていた。

 彼女の後ろにはレイラとコウヤもいた。



「俺もわかったぞ。お前らがカワカミ博士にこれを見せる前に俺に見せた理由・・・」

 マックスは口を動かしながらも端末を操作していた。



「おお、権限が開いている。俺は入れないがゼウスプログラムは開いているな。・・・待てよ、アスールが撃った場所を補助するように組みなおしている。」



「どういうことが問題なの?」

 ユイはマックスに再び訊いた。



「研究施設でのことがあった後で父親を疑うことのできるお前を尊敬するぞ。ユイ・カワカミ」

 マックスは手を止めてユイを見た。



「・・・・さっき、使っていた機械と同じようなものって言っていたわよね。」

 レイラは片眉を吊り上げていた。



「ああ、同じようなもの。いや、使っていた機械はこれの前のバージョンと考えたらいいな。中身の構成が似ている。・・・・これがどういうことかわかるか?」



「・・・・矯正の機械はカワカミ博士の開発ということか?」

 ディアの言葉にマックスは頷いた。



「ゼウス共和国の機械についてもカワカミ博士が作ったモノで間違いないだろう。あんな人格崩壊の機械を作るとは、信じられなかったが、かつてマッドサイエンティストと言われたのは本当の様だな。・・・・これにゼウスプログラムを入れておくなんて、鍵を無理やり変えることを考えていたのかもしれないな。・・・・まあ、鍵同士でしかできないと思うが、最悪コウヤ・ムラサメがいなくても全てのプログラムを開くことができるようにしていた様だ。」

 マックスはそう言ったあと、何かを考えるように黙り込んだ。



「・・・・コウがいなくてもってことは、もし、コウが生きていなかったとしても6つのプログラムを開くことができるような状態だった・・・ということよね。」

 レイラは何かを確認するように呟いた。



「考えすぎだと思うが、そうだろうな。ただ、プログラムの根源はコウヤ・ムラサメがカギを握っていると聞いている。完全なドールプログラムの完成はお前なしではできないということだ。ムラサメ博士を止められても・・・・な。」



 コウヤは複雑そうな表情をしていた。

「・・・・あれに触るな・・・・って、ドールプログラムの根源だったのか。」

 コウヤの呟きを聞いてマックスは興味深そうにコウヤを見た。



「俺が問題だと言ったことは・・・・ゼウス共和国に技術を持ち込んだのはラッシュ博士でなくカワカミ博士だったのではないかということだ。あくまで仮説だ。それも「希望」破壊前の話だ。」

 マックスはユイを見て首を振った。どうやら彼なりの気づかいの様だ。



「聞かせろ。何があったのか・・・・詳しく。他の二人には言わない。」

 コウヤはマックスの言葉に嘘がないことを確認すると強く頷いた。










 

 1つの戦艦はかつてフィーネが戦い、コウヤがユイを庇った研究施設の前にいた。

 戦艦の中には二人の男女しかいなかった。



『・・・・制圧完了・・・・侵入します。』



「・・・・手軽にできるのはいいですね。」

 カワカミ博士は艦長が座る椅子に腰を掛けてモニターを眺めていた。



「ここは血気盛んな兵士たちに制圧されていたのに、あなたの手にかかればこんなに簡単に落ちるのね。」

 ラッシュ博士は拍手をしながら言った。その声に感動は無かった。



「私の力ではないです。ドールプログラムをここまで成長させてくれた適合者の皆さんがあってこそです。」



『・・・・施設の電源確保、使用可能です。』



「では、制圧した兵士たちは安全な場所に移動するように動かしてくれ。」

 カワカミ博士は響く機械音に指示した。



『わかりました。』

 機械音が応えたあと、何やら地響きが聞こえた。



「変な誤解されていなければいいわね。」

 ラッシュ博士は冷やかすようにカワカミ博士を見た。



「誤解をされるのは分かっています。ゼウスプログラムを搭載した機械は矯正装置が入っています。勘のいいディア様やレイラ様は何か不審に思うでしょう。今は距離を置いていただくためにも疑ってもらうしかないのですよ。」

 カワカミ博士はモニターを凝視していた。



「あながち、疑いも間違いじゃないものね。」

 ラッシュ博士は愉快そうに笑った。



「ここの施設はこれで使えます。何に使うのかわからないですが、あなたの頼みを聞きましたよ。」



「わかっているわ。だからあなたの頼みも聞くわよ。」



「やるんでしょ?・・・あなたが。」

 ラッシュ博士は当然のことのようにカワカミ博士に訊いた。



「平和のためですよ。」

 カワカミ博士は感情もなく呟いた。








 



「何で何も言わずに帰ってきたの!?」

 ミヤコはドールの発着口で話し込むコウヤに怒鳴りこんできた。



「え・・・え・・・!?何で母さんここに・・・・」

 コウヤは思いがけない乱入者に飛び上がった。



「俺じゃない!!」

 マックスは全力で首を振った。



「コウヤの気配したのに何も連絡ないんだもん。そこの女性方の気配もしたのに音沙汰ないし・・・・けどマックスもいるし。」

 密告者はモーガンの様だ。



「モーガン・・・・お前そこまで・・・」

 コウヤは頬を膨らませるモーガンを見て驚いた表情をした。



「彼、適合率92%だからレーザーを撃てるぞ。まあ、ドール要員じゃないから関係ないかもしれないが、無視できないレベルで適応している。」

 ジューロクはモーガンの頭を掴んで言った。



「俺に任せろー!!」

 モーガンは調子に乗って叫んだ。



「若い分、研究施設の影響を受けやすいんだろうな。」

 マックスは少し羨ましそうにモーガンを見た。



「羨ましーか?どうだ?マックス!!」

 モーガンはマックスを挑発するように両手人差し指を立てて自身の頭を指差した。



「何言っているのモーガン。マックスが羨ましいのはレスリーさんとお酒飲んでいるハンプス少佐でしょ?」

 リリーは呆れたようにモーガンを見ていた。



 コウヤ達はマックスを無表情で見た。



「な・・・・違う!!そんな子供みたいな」

「子どもじゃん。」

 リリーは真顔だった。

「お前よりずっと年上だ!!」

 マックスは大人げなく叫んだ。



「もっとタチ悪いぞ。」

 モーガンはにやにやしていた。



「俺はそんなことが羨ましいんじゃない!!もっと大人だ!!ほら!!あの二人にしかわからないという感じが羨ましだけ・・・・」



「それはちょっと気持ち悪い。」

 コウヤは思わずマックスから目を逸らした。



「友人が取られたようで寂しいわけでしょ?私だってあったからいいじゃない。10歳くらいの時だけど」

 レイラはマックスを庇っているようで庇っていない発言をした。



「そうだ。コウヤ。いつ出発するの?」

 ミヤコは何か心配そうな顔だった。



「出発するにしても今日はまだ出れないだろ。宙で戦うアリアや二人には申し訳ないが、俺の準備もできていないし、コウヤも今日はもう休んだ方がいい。」

 シンタロウは心配そうにコウヤを見ていた。



「そうだ。それに・・・地球のゼウス兵をどうにかしたい。それの助力をシンタロウと准将殿に頼みたかった。」

 レイラはチラリとシンタロウを見たが、彼を心配そうに見て言えるイジーを見て首を振った。

「お前は怪我を治すことだな・・・」

 レイラはシンタロウに頷いた。



「レイラ嬢。俺が手伝おう。」

 手を挙げたのはジューロクだった。



「ジューロクさん・・・?大丈夫なの?」

 コウヤは驚いたようにジューロクを見ていた。

「ああ。こう見えても元はヘッセ総統の秘書の部下だった。下っ端に近いかもしれないが、政治は傍で見ていたし、俺はまあ、昔のゼウス共和国で言うとエリートコースだったしな。」

 ジューロクは自分を指差した。



「そんなやつが何でモルモットに・・・」

 マックスは首を傾げていた。



「上が失脚すると、部下もろともだ。」

 ジューロクは何でもないことのように笑って言った。

 マックスは顔を青くしていた。



「・・・わかった。ジューロク。頼めるか?」

 レイラはジューロクを探る様に見た。



「頼まれますよ。レイラ嬢。」

 ジューロクは少し嬉しそうに頷いた。



「さて、準備が終わったら、休むべきだ。」

 ディアはコウヤ達を見た。

「イジーちゃんとシンタロウ、レイラも怪我をしているのだから無理な動きはするな。」

 ディアはそれぞれの怪我したところを目で追っていた。



「あの・・・・少し、母さんと話してもいい?」

 コウヤはユイ、ディア、レイラを見た。



「そんなこと、止めるわけないだろ?時間があるときに話すべきだ。戦艦を乗って行かれている今は、私たちは宙に上がる術がない。・・・・ここの船は全部地球仕様・・・・・」

 ディアは両手を広げたが、少し言葉を止めた。



「フィーネがある。けど、シャトルを付けないと宙に行けないわ。」

 レイラは補足するように言った。



「・・・・どのみち・・・・お父さんの知識と準備が必要だよ・・・」

 ユイは父親への不信感を滲ませ、やるせないように呟いた。



 その様子を見てシンタロウ達は首を傾げた。



「・・・じゃあ、母さん。シンタロウも・・・・少し話そう。」

 コウヤは二人を手招きしたあと、ユイの方を見た。

「ユイ・・・・大丈夫?」



「うん。大丈夫。それよりコウはきちんとお母さんに話さないといけないでしょ?」

 ユイは強く頷くとコウヤを指差した。



「話す場にユイも・・・・」



「あの子でしょ?ひと悶着起こした子って・・・・・その子の話は私のいない所の方がいいでしょ?」

 そう言うとユイはコウヤから離れ、レイラ達のところに向かった。



「はあ?ひと悶着?」

 横でシンタロウはゴミを見るようにコウヤを見ていた。












「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」

 レスリーは義手で舵を取りながらキースを見た。

「・・・・教えるも何もないさ。ただ作戦を実行するのに全力なだけだ。」



「・・・・ジューロクとラッシュ博士とは何を話していた?」



「年上だから学べることも多いだろ?」



「ハンプス少佐。あなたは思っているほど無力ではない。あなたは自分を過小評価しすぎている。」

 レスリーはかしこまった口調で言った。



「いや、今となったらシンタロウに戦闘能力も負けている。あいつの着地跡を見て確信した。あの6人は特別だから・・・・とか自分より優れているものが出て来ても言い訳出来ていた。その考えの時点で俺はだめなんだろうな。」



「世間知らずで甘ちゃんそして頑固。コウヤやニシハラ大尉のそういうところ、そしてそれを越えてしまったクロスやシンタロウ・・・・彼等に昔のあなたの面影がある。そういう人間だったと聞いている。」

 レスリーの言葉にキースは悲しそうに笑った。



「昔か・・・・・昔と変わったといっても同一人物だ。面影も糞もねーさ。」



「昔、父が言っていた言葉がある。『過去の自分、未来の自分は他人だ。今の自分の言うことを聞いてくれない。』過去の自分が言うことを聞いてくれないのも、未来の自分が把握できないことも全て他人のことだからだ・・・・と」

 レスリーは呟いた。



「へー・・・・確かにそうだな。」



「ただし、これは自分のことに限ると・・・・他人から見たら俺は俺、変わらない。」

 レスリーはそう言うと少しかっこを付けてキースを見た。



「だよなー」

 キースは大げさに笑った。



「・・・・過去の自分に引きずられる必要は無い。自分以外に引きずる他人がいないなら尚更だ。」

 レスリーはキースに向き直り言った。



「引きずられまくっていた奴が言うセリフか?」



「そう言われると弱いな・・・・・痛いところを突くな・・・・」

 レスリーは頭を掻きながら俯いた。



「今日は楽しかったぜ。お前とは一度ゆっくりと話したかった。・・・・それが叶ってうれしい。」

 キースはレスリーに片手を差し出した。



「・・・・俺もだ。」

 レスリーは自分の手でキースの手を握った。



「・・・・レスリー、少し大陸の方に行けるか?」

 キースはモニターを動かして、地図を表示した。



「・・・・燃料が持つなら・・・いいのか?飲酒運転だ。」



「大丈夫だろ。」

 キースは清々しい顔をしていた。










 

「天」の軍本部では未だ冷めぬ熱気に満ちていた。

「ニシハラ大尉の砲撃指示・・・・見たか?」

「すごいんだ。最後の指示はロッド中佐にだったけど・・・・二人で順にレーザー砲で」

「ニシハラ大尉とロッド中佐がいれば・・・・」



 二人を戦いの神のごとくあがめる言葉で溢れかえっていた。



 数回目の交代の際に

『戦いの神・・・・か。該当プログラムで言うとユイとディアが軍神の名前だったな。』

 クロスは思い出したように呟いた。



「お前は冥王で俺は海王だっけ?」



『知っていたのか。まあ、お前なら意外でもないけど』



「当然だろ。それよりも、戦況は?」



『ああ、全体に報告している通り変わりない。見張りのような状態だ。よほどさっきのニシハラ大尉のショーが効いているようだ。』

 クロスはクックと笑いながら言った。



「そうか。じゃあしっかり休んでくださいよ。ロッド中佐。」

 ハクトは安心したように言うと、クロスの横を通り過ぎた。



『お前こそ、無理はするな。ヤバそうだったら呼べ。』



「回復している。先のことを考えて中佐殿を休ませるのが一番だ。」



『お互い様だ。・・・・ロッド中佐。ニシハラ大尉と交代した。本部に戻る。』

 クロスは通信を繋げるとそのまま本部に戻って行った。





 






 コウヤはミヤコにアリアがどうなったのかと、シンタロウは研究施設で手を汚したことは伏せて自分のことをそれぞれ話した。

 シンタロウの話を聞いているときミヤコはたまに涙ぐみ、コウヤは過酷な環境にいても負けなかった親友の心の強さを改めて認識して心強い気持ちになっていた。

 コウヤの話を聞いているときシンタロウはたまにゴミを見るようにコウヤを見た。



「・・・・アリアちゃんが・・・・」

 ミヤコはため息をついて困った顔をした。



「話してみてなんとなくわかったけど、アリアが復讐に飛び込んだのは半分以上俺のせいなんだ。俺が彼女に深く関わったせいで・・・・」

 コウヤは自分が何かを誤魔化すようにアリアと馴れ合った結果だと強く思った。彼女を深く自分に関わらせなければ、彼女は自分に深い感情を持つことなく自制できたかもしれない。



「それは否定しない。だがコウヤ。今戦い続けているアリアを否定するな。」

 シンタロウは少し怒っていた。いや、かなり怒っていた。



「そうよ。シンタロウ君の言う通り。なかったことにしたいと思って今の彼女のことを否定するのは・・・・・」

 ミヤコはそこまで言いかけて止めた。



「なかったことになんて・・・・俺はただ、アリアに申し訳ないと思っている。」



「ならお前はムラサメ博士を止めてアリアを救い出す。それからだろ?行動が決まっているなら、先のことは行動してから考えろ。」

 シンタロウはコウヤに言いきった。



「・・・・シンタロウ君・・・・なんか、すごく頼もしい・・・・」

 ミヤコは感動していた。



「そうでもないです。ただ、最近ちょっと色々ありすぎて、昔よりも決断を迫られるときが多かったんです。」



「そうなの・・・・大変だったわね。」

 ミヤコはシンタロウを労うように肩を叩いた。

「・・・・・ありがとう。シンタロウは頼りになるな。」

 コウヤは5人の親友と違った親友に心強さを感じた。



「じゃあ、俺はもう休むからコウヤはミヤコさんと話せばいいとおもう。」

 シンタロウはそう言うと立ち上がり廊下に出て行った。



「・・・・いい友達ね。シンタロウ君。」

 ミヤコはシンタロウが出て行くのを目で見送って微笑んでいた。

「・・・・そうだね。」



 ミヤコはコウヤに向き直り少し気まずような顔をした。

「母さん・・・?」



「ずっと聞こうと思っていたの・・・・その、本当のご両親のことも・・・。言いにくいなら言わなくていい。辛い思いをしたのは聞いているから、私に話せないかもしれないけど・・・・」

 ミヤコはコウヤの目を見た。



「・・・・コウヤ。母さんはあなたをいつも想っている。あなたの苦しさを少しでも負担させて。それしかできないから。」



「母さん・・・」



「私は宙に行けないし、邪魔になるから残るわ。」





 懐かしい母親の気配が振動と音を立てて遠ざかる。

「行かないで・・・・母さん。」

 手を伸ばしても何もなかった。

 昔、握ってくれた手も握ってもらえなかった。



 薄目で見上げた空には飛ぶ鳥のような影が見えた。



 あの時、孤独に負け、記憶を放棄した。



 その後に俺の前に現れてくれた。



「母さん」



 何も記憶のない俺を引き取って育てて孤独じゃなくしてくれた。

 あの時寂しくて辛くて放棄した記憶も、今なら向き合える。



「すごく・・・・寂しかったんだ。」

 一言いうと雪崩のように涙が出てきた。



「コウヤ・・・・もう大丈夫。」

 ミヤコはコウヤを包み込むように抱きしめた。



「ありがとう。ありがとう。母さん。」



 二人の母親。

 コウヤを守り、地球まで届けてくれた母。

 一人のコウヤを一人でなくしてくれた母。





 






 地球の夜明け、空が徐々に明るくなるころ

 ドームの入り口、山肌の入り口が開き一つの船が入ってきた。

 ゆっくりと船は収容されるべき位置に留まった。



 船からゆっくりと降りてくる人影があった。



 足取りがおぼつかない。酔っぱらいの様だ。



「遅かったですね。少佐は一緒じゃないんですか?」

 人影に話しかける青年がいた。



「マックスか・・・・遅くまで起きていていいのか?」



「それはこちらのセリフですよ。レスリーさん。」

 おぼつか無い足取りのレスリーは苦笑いした。



「たまにはいいだろう。こんな日があっても。」



「カワカミ博士とラッシュ博士がいないのですよ。何かご存じで・・・?」



「・・・・お前がいたことあるか知らないが、コウヤが倒された研究ドームにハンプス少佐を送って行った。・・・・使用可能の状態だったから、あの二人が何かやったんだろうな。」

 レスリーの言葉を聞いてマックスは顔色を変えた。



「・・・・あの二人が・・・・・」



「どうした?」



「・・・いえ。レスリーさんはもちろん作戦に参加しませんよね。」

 マックスは期待を込めて言った。



「いや、参加する。」

 レスリーはマックスの期待を断ち切るように答えた。



「え・・・?腕がそれだと戦いも・・・・」



「俺はレスリー・ディ・ロッド中佐として、主体となる戦艦の艦長をする。腕は関係ない。」



「戦艦にはどんな人材が乗るんですか?」

 マックスは目の色を変えていた。



「・・・・操舵にモーガン。リリー・ゴードンにもオペレーターとして乗ってもらう。モーガンに操舵をやってもらう都合でリオとカカも乗ってもらう。・・・・お前は無理して乗ろうとするな。ここで母さんの傍にいてくれ。」

 レスリーはマックスの頭を軽く撫でた。



「・・・・医者は・・・・医者は?俺はドールプログラムにも詳しいし、機械整備もできる。手術だってできます。」



「無茶するな。それぞれ役目はある。お前の役目は作戦が終わってからが大きい。」

 レスリーはマックスの目を見て言った。



「今を全力で乗り切らないと先のことなんて見えません。いや、見えないんだ。ロッド中佐。」

 マックスはレスリーを睨んだ。



「そうだな。」



「あんたは俺に言っていることと自分に課していることが矛盾している。」



「はは、揚げ足取るなよ。」

 レスリーはマックスの気迫に思わず笑った。



「俺も乗せろ。ドールの整備もオペレーターでもけが人の手当て、応急処置もやる。ここまで来たなら参加させろ・・・・・弟のためにも俺が見届ける。」

 マックスは、地球に戻ってきたから初めて弟の話を出した。



 マックスの弟の話が出た瞬間レスリーの表情が変わった。



「・・・・・そう言われたら俺が断れるはずない・・・狡いな。」



「あんたに言われたくない。」



「作戦の責任者に掛け合う。これでいいか?」



「ああ。頼む。」

 マックスは改めてレスリーに頭を下げた。



「じゃあ、レスリーさん。お休みなさい。お酒はほどほどに。・・・・ガキが。」

 マックスは口調を元に戻し、レスリーに捨て台詞の様に軽口を吐いて立ち去った。



「でっかいガキのくせにな・・・・」

 レスリーはマックスの後姿を見送りながら苦笑いをしていた。



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