あやとり

近江由

文字の大きさ
113 / 126
~糸から外れて~無力な鍵

強い男

しおりを挟む

「軍に向かわず、俺に続け。」

 普段からは想像できないほど閑散としたドームの状況に隊員たちは不安が募っていた。



「許可をするまで銃を持つな。何かあれば俺を盾にしろ。」

 後ろを走る隊員たちにシンタロウは叫んだ。



『少佐!!どこに向かうんですか?』

 一人の隊員が叫びながら訊いた。



「知っている戦士の元だ。周りの警戒を怠るな。」

 シンタロウを先頭として第三ドームに突入した小隊はバイクで走っていた。

 向かう先は、軍部でなく四区の方角だった。







 講堂に着くと、案の定生徒たちが騒いでいた。



「何?今の揺れ・・・外も分からないし・・・」



「家族に連絡を取りたい。」



「誰に聞けばいいの?どうにかならないの?」



「軍はどうなっているんだ?」



 アズマは顔色が悪いまま仕方なさそうに生徒たちの元に向かった。



「お前確か軍人だったな。どうなっているんだ。」

 アズマを見つけると生徒たちは押し掛けるように寄ってきた。

 リコウは慌てて間に入った。



「待てよ。落ち着けって。」

 リコウは他の生徒を制するように宥めた。



「落ち着けるわけないだろ!!軍は何やっている?」



「第三ドーム駐在の軍は全滅だ。みんな殺された。」

 アズマは躊躇う様子もなく断言した。



「え?」

 生徒たちの顔色が悪くなっていく。おそらく最悪の事態を考えているのだ。



「兄さん!!そんなこと・・・」



「ここまで来て助けが来ないのはおかしい。さっきの音はおそらく本部からの応援が来た音だ。だから安心しろ。ただ、お前等の知らない場所で死んでいる者がいることを忘れるな。」

 アズマは冷たい目で学生を見ていた。



「俺がここに来たのは、お前らが下手に暴れて作戦にあたるであろう軍の者の邪魔をさせないためだ。・・・そして・・・」

 アズマは言いかけて言葉を止めた。



 外から車だろうか、何かが走ってくる音がする。



「・・・応援か。」

 リコウは安心したように息を吐いた。







「違う!!応援じゃない。」

 講堂に飛び込んできたコウヤとマックスが青い顔をしていた。



「じゃあ・・・なんだ?」

 一人の生徒がコウヤを見て訊いた。



「・・・テロリストだ。」

 コウヤはアズマを見た。



「何だ?」

 アズマはコウヤとマックスを見て目を細めた。



「軍の無線を持っているか?」



「撃たれて倒れた時に壊れた。通信機器を使えるようにしてもらえば、端末を使える。」

 アズマは他の学生を見渡した。



「それは危険だ。」

 マックスは首を振った。





「あの・・・俺、従軍経験者です。その、数年前までは軍にいました。協力します。」

 一人の専門大学にしては珍しい体育会系の体格をした生徒が手を挙げた。



「あの、自分も・・・」

 数人の教員と生徒が手を挙げた。



「リコウの兄さん。お前が指示しろ。」

 マックスはアズマを見て言った。その言葉に横にいるコウヤは驚いていた。



「・・・俺が?」



「そうだ。現役軍人さん。」

 マックスは手を挙げ生徒と教員を見て言った。



 アズマは仕方なさそうにため息をついた。



「・・・・バリケードを作る。時間稼ぎが目当てだ。間違っても向かうな。」

 アズマは念を押すように言った。









 手を挙げた生徒と教員だけでなく、全員で講堂にある椅子と机を運びバリケードを作った。



「・・・軍人さん。銃はあなたが持っているものしかないですよね・・・」

 軍経験のあると手を挙げた生徒が不安そうに訊いた。



「銃は使わない方がいい。流れ弾が怖い。」

 マックスは首を振っていた。



「向こうは銃を使わない。とにかく時間を稼げばいい。」

 アズマも頷いて生徒たちを安心させるように言った。









「・・・テロリストらしき気配が・・・四区に集まっている。」

 シンタロウは自分が向かう先に集まり始めている敵の気配に不安を覚えたが、自分の行動の正しさの確信をした。



『少佐。やはり・・・感じるのですか?』

 隊員の言葉にシンタロウは一瞬表情を歪めた。



「動きが大きいからだ。たいそうなことでない。」

 自分の中の何かを振り払うように首を振った。



「向こうの移動は車だ。小回りはこっちが利く。・・・細道を通る。俺に続け。」

 大通りから大きく方向転換をして細い道にシンタロウは入って行った。その動きに隊員たちも続いた。



 《彼でない・・・君なら・・・》

 耳元に囁くような声かかり、一瞬身をすくめた。だが、それだけでバイクの運転をおろそかにすることはせず、方向やスピードはそのままに周りの状況を確認した。



「・・・・なんだ。」

 響いた声にシンタロウは冷や汗をかいた。









 講堂にどんどん車の音が近づく。

 生徒たちは息を呑んで、できる限り頑丈な柱の近くにいた。

「あ・・電波が復活した。」

 一人の生徒が声を上げた。



「え?」

 リコウの隣にいたコウヤが信じられないという顔をした。



 そしてコウヤはマックスを見た。リコウもマックスを見ると彼もコウヤと同じような顔をしていた。



「・・・ネットワークは・・・支配しているはずなのに。」

 マックスは不安そうに周りを見渡した。

 コウヤもマックスに頷いていた。



「・・・何があったんですか?」

 リコウは気になってコウヤに訊いた。



「・・・いや、電波が復活したって・・・マックスがどうにか遮断したのに・・・」

 コウヤは言葉を濁しながら、不安そうな顔をしていた。



「外部の情報が入ってくるようになっているよ。リコウ君。」

 ルリはリコウに自身の端末の画面を見せた。



 ルリの言う通り、外と連絡が取れるようになっていた。



「今は、それどころじゃない。」

 アズマがざわめき始めた生徒たちを軽く叱り付けた。

 アズマの言葉で生徒たちは再び緊張した顔をした。



 それに呼応するように車の音は講堂に近付いていた。

 響くエンジン音。複数の音だ。





「・・・車に・・・何か他の音も聞こえる。」

 リコウは何か異質な音を感じた。



 講堂の外で車を停める音がし、扉を開けてぞろぞろと降りる音。



「・・・マックスがいることがバレているんだろう。いなかったら突っ込んできただろう。」

 コウヤはリコウをチラリと見た。リコウは首を振ってアズマを見た。



 アズマはきちんとさっきから生徒たちに声をかけ続け、しっかりと守ろうとしている姿勢がある。



 リコウはその様子を見続けることで安心していた。

 《兄さんは、やっぱり裏切っていなかったんだ。》

 リコウはアズマを見て何度も頷いていた。





 車を停止させたはずなのに、外から聞こえるエンジン音は止まなかった。



「何だ?」

 他の生徒たちも気付いたようで不安そうな顔をしてた。



 だが、その音を気にする間もなく講堂の扉が叩かれ始めた。



 ゴンゴンゴン



 ガンガンガン



 最初は手加減するようにしていることからどうやら人を巻き込まないような配慮が見られる。

「人を避難させるために今は叩いている。暫くしたら突っ込んでくる可能性がある。」

 コウヤは立ち上がり、アズマの元に駆け寄った。



 アズマもコウヤの様子を見て駆け寄った。



「全員扉から離れろ!!」

 アズマが叫ぶと生徒たちは扉と逆方向の壁に向かって走り出した。



 ほとんどの者が壁に向かうのに必死な中、リコウはアズマの様子を見ていた。だから気付いた。

 騒ぎのどさくさに紛れてコウヤがアズマの腰から銃を引き抜くのを。



「・・・あいつ。」

 リコウは舌打ちをして二人の元に向かおうとした。



「リコウ君!!」

 ルリが何かに気付いてリコウの手を引いた。



 ゴシャ

 ガガガッガガ



 扉に車が突っ込み講堂に飛び込んできた。

 バリケードは確かに数秒の時間は稼げたが、それだけだった。

 講堂はパニックになっていた。



 これはテロリストも大変じゃないかとリコウは思ったが、マックスを探していた時のテロリストの様子を思い出して寒気がした。

「さっきみたいになるのかな。」

 ルリは震えてリコウの服の袖を掴んでいる。





 講堂に突っ込んできた車からテロリストらしき人が降りようと車の扉が開いた時、その車がエンジン音を上げて動き始めた。



 降りようとしたテロリストは明らかに慌てていた。なにか連絡不足だったのかと思ったが、運転席を見ると運転席にものも慌てている。



 動き始めた車は明らかにテロリストに対して攻撃に意志を持った動き方をした。



 その様子を見て混乱でパニックになっていた生徒や教員たちは呆然とし始めた。



 車にテロリストを乗せたまま再び車は講堂の外に出た。



「・・・何が・・・?」

 ルリの問いにリコウは首を傾げることしか出来なかった。





『・・・・邪魔をするな!!ムラサメ!!』

 金切り声のような機械音が響いた。

 その音の不快さにリコウやルリを始めとした者たちは顔を顰めた。



 アズマとコウヤの方を見ると二人とも耳を塞ぐなり頭を抱えるなりしている。

 リコウは不快な音と感じながらもその音、声に聞き覚えがあった。



 だが、幻聴だったはずだ。

 首を振ってよぎった考えを否定した。



「え?・・・何これ。」

 一人の生徒が何かに気付いたようだ。

 だが、外から聞こえていたエンジン音の正体が明らかになったことによって、他の者は講堂の外に夢中になっていた。



 自分の命がかかっているのにこんな野次馬根性があるのはおそらく危機を本当に感じられないのか、もしくはその危機感から逃避したいのであろう。



 車から複数のテロリストがよろめきながら降りたが、その後ろから数台のバイクが見えた。



「軍だ!!」

 安心するような声が上がった。





「ウィンクラー少佐。」

 アズマが行動の外に飛び出した。

 彼に続くように生徒たちも飛び出した。



「兄さん!!何やっているんだよ!!」

 リコウは慌てて他の生徒を講堂に留めようとしたが数が如何せん多い。



「無理するな。ヤクシジ。」

 リコウが必死になっているのに気付いたのか、コウヤがリコウを制した。



「お前はアズマから目を離すな。」

 コウヤはリコウの肩を叩いてアズマがいる講堂の外を指差した。



 リコウは頷いたが、その時に初めて気付いた。

 コウヤの顔色が悪くなっていることにだ。いつ悪くなったのかわからないが、血の気が無いと言えるレベルで真っ白だった。



「先輩どうかしましたか?」



「それよりも」

 リコウが訊こうとしたが、コウヤはリコウの背中を押して無理やりアズマの方を向かせた。



 確かにアズマの方が優先順位が高い。

 何となく自分を納得させながらリコウは他の生徒や教員たちと同じように講堂の外に出た。







 バイクに乗っていた一人だけが降りて、他は彼の後ろでバイクに乗ったまま様子を窺っていた。



 バイクから降りた人物が彼らのトップだと一目見てわかった。



 彼等に向かい合うようにテロリストたちは銃を構えていた。その銃口は講堂から出てきた生徒や教員たちに向けられていた。

 そして、不敵な笑みを浮かべて軍の応援であろうバイクの集団を見ていた。



 バイク集団のトップのような男は被っていたヘルメットを取り、周りを見渡した。

 慌てた様子は無く、想定内の事態のようだ。

 トップのような男はどんな人物だろうと思ったが、近くで見ないとよくわからないが、おそらく自分とそんなに年の変わらなさそうな外見をした青年だと思えた。



 邪魔なのか彼はヘルメットを地面に置いて後ろに何やらサインを送っている。何となくだが、行動を制止させるようなものだろうとリコウは思った。





「君たちを助けに来ました。」

 ヘルメットを取ったトップらしき青年は学生を見渡しながら言った。言葉の威力的に下手なことをするなというのを暗に匂わせているのは何となく感じ取れた。



 リコウはそれよりもアズマを探した。

 人をかき分け探そうとしたが、簡単に見つかった。彼は銃を向けられる学生や教員たちの先頭に立って、食い入るようにヘルメットを取ったトップらしき男を見ていた。



「とても残酷な場面を見るかもしれないが、できるだけ安全を確保できるように周りを見て欲しいが、できるだけ目を背けて欲しい。」



 トップらしき青年はそう言うと銃を取り出した。そして、それを自分の頭に向けた。



 その行動にテロリストたちは慌てて銃口を彼に向けなおした。

 その動きを待っていたかのように彼の後ろのバイクに乗った軍人たちが銃を放った。

 鈍い音を響かせながらテロリストたちは銃弾を受けていた。



 音や彼らの様子からゴム弾のようだ。



 どんな自信があれば、あんな作戦を実行できるのだろうか、とリコウは考えた。

 それはあまりにもあっけなくて理解するのに時間がかかった。



 痛みに呻くテロリスト達の一瞬の隙をついてトップの青年は一気に距離を詰めて至近距離から今度は実弾を的確に打ち込んだ。それは流れ弾への配慮だろう。その作業のような流れ作業には力があった。動いた強力な機械を止められないような感覚に似ていた。





「今のうちに講堂の中へ!!」

 だが、その彼の叫びを聞き講堂に戻ろうとするものはまだらだった。

 理由は分かる。好奇心旺盛な世代のものにとっては、彼のこの後の行動が気になるのだ。



「まだいる!!安全なところへ!!」

 流石にまだテロリストがいると聞くと慌てて生徒や教員たちは講堂の中に流れこもうとした。



 人がいなくなってリコウはアズマの元に向かいやすくなった。

 アズマの元に行くと、彼は動く様子もなく青年を見ていた。



「兄さん。早く中へ・・・」

 腕を引こうとすると、怪我人とは思えない力で振り払われた。



「見ろ、あれがウィンクラー少佐だ。」

 兄は目を輝かせていた。



 リコウは何となく最近聞いた名前の青年を再び見た。



 アズマがウィンクラー少佐と説明した青年はバイクから自分の軍備を取り出していた。



 彼が持っていたのは、上下両刃になって真ん中部分が持ち手となった武器だ。ただ、どう見ても重そうだ。

 近くで見たら良く分かったが、彼は結構な重装備をしていた。

 軍服に武器、そして両腰に拳銃と背中には大型の銃火器だ。昔の映画にあったアウトロー集団みたいだった。実際には動きにくいのかもしれない。



 ウィンクラー少佐が言った通り、通りからタイミングを見計らったように車がやってきた。

 生身で立っている彼を確認したのか車からは明らか軍の人間でないものが複数出てきた。



「兄さん!!早く中へ!!」

 リコウは再びアズマの腕を掴んだ。



 アズマは変わらずウィンクラー少佐を見ていた。

 リコウも少し気になりチラリと様子を窺った。敵とにらめっこになったら講堂に逃げにくくなるからだ。



 先ほどウィンクラー少佐の装備が動きにくそうと思ったが、そんな考えは彼が動き出したら消えた。



「捕えろ!!」

 テロリストたちの叫びに彼は気にする様子もなく、走り出した。

 まず動きが速いと思った。そして実はそんなに重くないのではと思うほど持っている武器を軽く振り回していた。



 見ているうちにわかるのは、彼と自分は種類の違う人間なのだということだ。



 空気を漕ぐように軽く武器を振り回す。それに加え、屈んだりと上下に動く。

 刃になっている部分でなく、いわゆるみねうちという感じでテロリストたちを殴り倒す。



 なによりも、車体を大幅に凹ませる薙ぎを放つ。



「・・・すげ・・・」

 講堂に入らず、野次馬根性を安全よりも優先した生徒の一人が呟いた。



 ウィンクラー少佐はテロリスト寄りに移動し、その間にバイクに乗っていた他の隊員が壁になるようにリコウや学生たちの前に立った。あくまでも一般人の命を優先としている。



 そんな彼の気遣いを知りながらもリコウは講堂の中に入ろうと思えなかった。それよりも彼が何の憂いも感じさせずに敵を屠るのを見たいと思ったのだ。



「上だ!!」

 講堂の中から叫び声が聞こえた。声の主はリコウの知る人物だった。



 その声に反応しウィンクラー少佐は攻撃の手をいったん止め、数歩下がり周りを見た。

 何かに気付き、拳銃を取り出して撃った。



 建物の上から銃を構えていた男が落ちてきた。おそらく凄まじいほどの射撃の腕なのだろう。周りの観衆と化した生徒たちが感嘆の声を上げた。



「シンタロウ!!」

 講堂の中から叫び、飛び出てきたコウヤがウィンクラー少佐に再び叫んだ。

 ウィンクラー少佐はコウヤを見て頷いた。



 リコウは思いがけない人物が乱入してきたことに視線はそっち向いた。



 偶然かもしれないが、コウヤが手を挙げるとテロリストが乗っていた車が動き出した。

 そして、周りのテロリストたちに向かってくる。それに対応できない者は轢かれていく。



 ウィンクラー少佐は車が行き交う中、走り込み避けながらテロリストの制圧にかかった。





「右上!!」

 コウヤの掛け声に合わせて少佐は銃を構え何かに気付いて引き金を引いた。



 上空では閃光弾のようなものが破裂した。



 辺りは眩しい光で真っ白になった。

 皆眩しく目を閉じた。リコウもその中の一人だった。





『また邪魔をするのか。ならば、こちらも・・・』



 先ほど聞こえた金切り声のような不快な機械音が響いた。







 その響きが消えていくのと同じようにリコウの目も眩しさに慣れた。

 見える景色は安全になったことを告げる制圧されたテロリストたちとそれを見張る先ほどまで壁となっていた隊員たちだ。



 力を振るっていたウィンクラー少佐が見当たらずリコウは辺りを見渡して探した。



 ふと視線を下げるとしゃがみこんでいる彼が見えた。

 その様子が先ほどまでとギャップがあり、リコウは心配になった。



「ウィンクラー少佐!!大丈夫ですか!!」

 我先にという様子でアズマが彼に駆け寄った。確か彼は大きなけがをしていた。だが、それを感じさせないほど、おそらく全力疾走だろう。



 ウィンクラー少佐はアズマに片手を挙げて大丈夫であると示したが、アズマは彼に肩を貸そうと屈んだ。少佐はアズマの怪我に気付いたのか首を振り自分で立ち上がり、アズマと共に制圧されたテロリストを見張っている隊員や呆然と見ている学生たちの方に近寄った。



「・・・・助かった。ありがとう。」

 ウィンクラー少佐は途中で行動から飛び出してきたコウヤを見て言った。



「こちらこそ。助かった。」

 コウヤは首を振って笑った。



「君たちも・・・ここまでよく耐えてくれた。軍の制圧も時間の問題だ。今しばらく講堂で待機してくれ。」

 ウィンクラー少佐はリコウや学生たちの方を見て言い、近付いてきた。



 遠くで見たときの評価と同じく彼はリコウよりも何歳か年上の青年のようで、だいぶ若いことがわかる。



 硬い毛質の茶色の髪と虚ろで冷たい黒い目。寝不足なのか目の下の隈が顔にただでさえ見える影を際立てている。何となくインテリというべきか、理知的な賢そうな顔立ちをしているが、体型はもりもりな筋肉というわけではないが、屈強そうな筋肉が付いており、いわゆる脳筋を連想してしまう。

 背はリコウの方が高いが、アズマよりも高いからおおよそ175センチ以上だろう。



 何やら講堂の方が騒がしくなってきた。

 制圧したことが伝わり、安堵しているのかと思ったが、様子が違う気がした。



「さて・・・安全が確認されたら、ドームの機能回復に・・・」

 ウィンクラー少佐が隊員たちに何やら指示をしようとしているとき



「大変だ!!コウヤ!!」

 講堂からすごい勢いでマックスが飛び出してきた。

 その後には複数の学生たちが続いていた。



「マックス。お前大人しくしていないと・・・」

 リコウはテロリストを見て一瞬慌てた。



「心配ありがとな。それよりも・・・コウヤ。通信が。」

 マックスは青ざめた顔をしていた。

 その様子を見て隊員たちに指示をしていたウィンクラー少佐は眉を顰めた。



「何があった?」

 とマックスに話しかけた。どうやら知り合いのようだ。



「・・いいから。これを・・・」

 マックスは片手に持っている端末を差し出した。それはルリが持っていたもののようで、慌てて借りたようだ。



『知らねばならない。偉大なる戦士たちを・・・我々は・・・』

 ナレーションが流れながら十数人の名前が映っていた。



 コウヤ・ハヤセ

 ハクト・ニシハラ

 クロス・バトリー

 ユイ・カワカミ

 レイラ・ヘッセ

 ディア・アスール



 シンタロウ・コウノ

 レスリー・ディ・ロッド

 キース・ハンプス

 ジョウ・ミコト



 モーガン・モリス

 リリー・ゴートン

 イジー・ルーカス

 マウンダー・マーズ

 リオ・デイモン

 カカ・ルッソ



 ギンジ・カワカミ

 キャメロン・ラッシュ



『彼等「フィーネの戦士」たちこそ、世界を導く存在だ。』



「・・・これ以外の放送が入らない。・・・コウヤ。」

 マックスは呆然とするコウヤを見て言った。



 リコウは画面に連なる名前と目の前にいる大学の先輩を見比べていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...