あやとり

近江由

文字の大きさ
123 / 126
~糸から外れて~無力な鍵

引く手数多

しおりを挟む
 

 ウィンクラー少佐が飛行船の傍まで行き、無事を確認するとすぐに戦艦は受け入れ態勢を整えるために動き始めた。



 格納庫はドール以上の規模のものの受け入れに少し忙しそうだった。



「あなた・・・なにやっているんですか!?」

 イジーは廊下をウロウロしているジュリオを見つけると慌てて駆け寄った。



「少佐が出ているって…邪魔はしないからその様子だけでも見たいんだ。」

 ジュリオはどうにかして見たいのか、各部屋のモニターを操作しているたようだ。



「邪魔になっています。」

 イジーはジュリオを軽く睨んだ。



「ルーカス中尉。俺は…」



「大方ウィンクラー少佐に憧れて軍に入りたいとでもほざいている輩でしょう。」

 イジーはジュリオを冷たい目で見た。



 そんな奴を大量に見たとでも言いたげだ。



「憧れて何が悪いんですか?少しでも近づきたいとか、変な意味でなく思うはずです。」

 ジュリオはイジーにムキになった。



「別に、私もそれと似たような心理状態で軍に入りました。」



「なら」



「ですが、それとあなたの今の行動は別物です。早く待機場所に行ってください。」

 イジーはジュリオの背中を押して、歩き始めた。どうやら言うことを聞かないと思ったようだ。



「・・・」

 逆らうこともできずジュリオは大人しくイジーに押されるまま歩いている。

 従軍経験があるというのはこういうときに従ってしまうようだ。





「ルーカス中尉は戦士の一人ですよね。」

 ジュリオは自分の背中を押して歩く自分よりも明らかに小柄で力の弱い女性を見て訊いた。



「そうです。」



「なぜ、あなたのような人が関わったのかわからないです。だって、どう見てもか弱い女性だ。」

 ジュリオはイジーを見下ろしていた。



「作戦前、私はロッド中佐の補佐でした。」



「!?」

 ジュリオはイジーの告白に驚いた。



「・・・そして、私は「希望」出身です。避難する船内から破壊されていく、壊れていく故郷を見ました。」

 イジーはジュリオを見上げた。



「みんながみんな理由を持っています。きっかけも持っています。それに関してはあなたの尊敬の心も同じだと思います。」

 イジーはジュリオの背から手を離した。



「ジュリオ・ドレイクさん。私はあなたが軍に戻ろうが何を思おうが気にしません。ただ、今ここでは命令に従っていただきます。軍の階級でなく、部外者だからこその命令です。」

 イジーは笑みも何も浮かべていない機械的な表情をしてジュリオを見ていた。











 操舵室は受け入れ態勢を整えるために皆が皆動いていた。



 動いていないのはコウヤとリコウぐらいだった。



「…テロリストはクロスが全て足止めした。」

 コウヤは頭を抱えて呟いた。



「先輩。そのクロスという人は…どんな人なんですか?」

 リコウはマックスの様子と今のコウヤの悩み具合を見て気になっていた。



「俺の親友の一人だ。」

 コウヤは顔を上げてそれだけ言うと、また俯いた。



 どうやらそれ以上は言う気が無いようだ。



「強い人なんですよね。少佐が勝ったことに驚いていましたから。」



「そうだ。彼も作戦時は戦闘員だった。」

 コウヤは俯いたまま言った。



『進路を南に変えろ。合流予定の座標を送る。そこで拾ってくれ。』

 ウィンクラー少佐から通信が入った。それと同時にモニターには送られてきた座標が示された。



「少佐はどうされますか?」

 オペレータはウィンクラー少佐が合流予定の位置とは逆方向に進み始めていることを気にしているようだ。





『テロリストの母艦の動力をやる。』



「クロスを追うつもりか?」

 コウヤはウィンクラー少佐に問い詰めるように訊いた。



『必ず戻る。小型の飛行船についてはそこのコウヤの指示に従え。』

 ウィンクラー少佐は深くは言わず、さらにコウヤに全て丸投げして通信を切った。



「わかりました。ハヤセ様。指示をお願いします。」

 乗組員たちはすんなりとコウヤからの指示を聞く姿勢を見せた。



 これがきっと自分だったらこうはいかないだろうとリコウは確信していた。









 

「というわけだ。二人ともコウヤに従えよ。」

 シンタロウは通信をアリアとユイが乗る飛行船に繋げた。



『どうするの?シンタロウ。』

 ユイは心配そうに訊いた。



「コウヤがうまく察知できなかったことと引っかかることがある。」



『大丈夫なの?』

 アリアは少し冷たい口調で訊いた。



「戦艦にはコウヤと俺の優秀な部下たちが乗っている。大丈夫だ。」



『違う。あんたよ。』

 アリアは少し怒った様子だ。



「体は動くし、ドールの調子も悪くない。」

 シンタロウはそれだけ言うと急ぐように通信を切った。





 シンタロウは、きっと飛行船の中でアリアが怒っているだろうと思い少し苦笑いをした。



 言った通り、体の調子は悪くないし、ドールの調子もいい。



 これが一年近くドールに乗っていないとは思えないくらいだ。



 周りの状況も手に取るようにわかる。テロリストの母艦より遥かに前に自分の追う黒いドールがあることもだ。



 過ぎ去る景色は今まででは信じられないくらい速く消える。





 静電気に触れたように毛先がピリッとした。



 間違いなくここから何かが変わっている。



 前に迫るテロリストの戦艦が纏っているものは違う。



 動力部分が煙を上げて破壊されたことを告げている。

 おそらく黒いドールにやられたのだろう。



 今持っている戦力だと制圧もできない。砲台も全部破壊しようかと思ったが、それも面白いくらい壊されている。



 これなら心おきなく黒いドールの追跡に専念できると戦艦から離れようとしたとき。



 《お前だ》

 後ろ髪をひかれるように耳元で囁かれた。



 頭を振り、聞こえた声を振り払うように進むと



 《お前だお前だお前だお前だお前だお前だお前だお前だお前だお前だ》



 繰り返し呼ぶように囁かれ、気が付けば頭の中でずっと響いていた。



「黙れ!!」

 息を荒げて怒鳴るように叫ぶと声が止んだ。



 ふと鼻についた匂い。

 彼が抱えていた瓶の中にあった、彼の好物。



 《君だって認めたじゃないか?》



 目を開いているのに、見える風景はコックピットでも外を映したモニターでもない。



 《なあ。シンタロウ。》

 黒い髪の細い男。



 最後に会った時から変わらない外見。変わるはずのない外見。



 《僕の成功傑作だって、君が…認めただろ?》

 頭から血を流して彼は笑っている。



 今更怖がることは無いのに、これより悲惨な光景を沢山見てきたし自分で作ってきた。



 《今度は僕の誘いを受けてくれるだろ?》

 差し出された手は、決して触れることのできないのに、存在感がある。











『シンタロウ!!』

 急に入った通信に目の前の男も声も消えた。



『おい。大丈夫か!?』

 心配しているのだろう。焦っている。



「何で?お前が・・・?」

 シンタロウは通信を入れた人物と、近くにある戦艦に驚いていた。



『大丈夫か?返事は出来るな!?』

 シンタロウが返事をしたことに安心したようだ。



「コウヤ。何でお前がここに…それに戦艦まで。」

 シンタロウは自分の近くまでドールに乗って来たコウヤと、それをいつでも受け入れれる位置にいる自分の指揮していた戦艦を見て驚いていた。



『何でってお前どれくらい経ったと思っている?』

 コウヤの指摘でシンタロウは時計を見た。



「嘘だろ…」

 おおよそアリアとユイと別れてから2時間以上経っている。



 ならば、声が聞こえてから1時間半以上は経っている。







 



 ~恋する乙女「ルー」の切ない呟き~

 恋には障害が付き物☆



 やっとやっと二人きりになれるシチュエーションになった私を待っていたのは…



 王子様の先輩の邪魔だったΣ( ̄ロ ̄lll)ガーン



 先輩空気読んでよー

 その先輩っていうのもすごい人なんだけど、前に話した素敵な軍人さんと知り合いだったうえに…今話題の人間だったのだ!!



 でもでも、そんなことがルーの恋路を邪魔していい理由ではないのだ



 いくら強くてほどほどにかっこよくて頭のいい人でも王子様には負けないぞ☆



 外見はぶっちゃけ軍人さんの方がタイプ。

 闇を抱えた人って何か痺れるよね。



 王子様も今は絶賛闇を抱え始めているのだ



 これは私が支えていく展開だよね



 頼って色々話してほしいのに、そんなタイミングが無いなんて悲劇だよ。



 今だって臨戦態勢みたい。



 恐いから王子様の傍にいたいのに、彼は連れて行かれちゃった。



 もっとみんなには聞いて欲しいことがあるけど、今はルーも精一杯☆



 また更新します

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

処理中です...