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~糸から外れて~無力な鍵
引く手数多
しおりを挟むウィンクラー少佐が飛行船の傍まで行き、無事を確認するとすぐに戦艦は受け入れ態勢を整えるために動き始めた。
格納庫はドール以上の規模のものの受け入れに少し忙しそうだった。
「あなた・・・なにやっているんですか!?」
イジーは廊下をウロウロしているジュリオを見つけると慌てて駆け寄った。
「少佐が出ているって…邪魔はしないからその様子だけでも見たいんだ。」
ジュリオはどうにかして見たいのか、各部屋のモニターを操作しているたようだ。
「邪魔になっています。」
イジーはジュリオを軽く睨んだ。
「ルーカス中尉。俺は…」
「大方ウィンクラー少佐に憧れて軍に入りたいとでもほざいている輩でしょう。」
イジーはジュリオを冷たい目で見た。
そんな奴を大量に見たとでも言いたげだ。
「憧れて何が悪いんですか?少しでも近づきたいとか、変な意味でなく思うはずです。」
ジュリオはイジーにムキになった。
「別に、私もそれと似たような心理状態で軍に入りました。」
「なら」
「ですが、それとあなたの今の行動は別物です。早く待機場所に行ってください。」
イジーはジュリオの背中を押して、歩き始めた。どうやら言うことを聞かないと思ったようだ。
「・・・」
逆らうこともできずジュリオは大人しくイジーに押されるまま歩いている。
従軍経験があるというのはこういうときに従ってしまうようだ。
「ルーカス中尉は戦士の一人ですよね。」
ジュリオは自分の背中を押して歩く自分よりも明らかに小柄で力の弱い女性を見て訊いた。
「そうです。」
「なぜ、あなたのような人が関わったのかわからないです。だって、どう見てもか弱い女性だ。」
ジュリオはイジーを見下ろしていた。
「作戦前、私はロッド中佐の補佐でした。」
「!?」
ジュリオはイジーの告白に驚いた。
「・・・そして、私は「希望」出身です。避難する船内から破壊されていく、壊れていく故郷を見ました。」
イジーはジュリオを見上げた。
「みんながみんな理由を持っています。きっかけも持っています。それに関してはあなたの尊敬の心も同じだと思います。」
イジーはジュリオの背から手を離した。
「ジュリオ・ドレイクさん。私はあなたが軍に戻ろうが何を思おうが気にしません。ただ、今ここでは命令に従っていただきます。軍の階級でなく、部外者だからこその命令です。」
イジーは笑みも何も浮かべていない機械的な表情をしてジュリオを見ていた。
操舵室は受け入れ態勢を整えるために皆が皆動いていた。
動いていないのはコウヤとリコウぐらいだった。
「…テロリストはクロスが全て足止めした。」
コウヤは頭を抱えて呟いた。
「先輩。そのクロスという人は…どんな人なんですか?」
リコウはマックスの様子と今のコウヤの悩み具合を見て気になっていた。
「俺の親友の一人だ。」
コウヤは顔を上げてそれだけ言うと、また俯いた。
どうやらそれ以上は言う気が無いようだ。
「強い人なんですよね。少佐が勝ったことに驚いていましたから。」
「そうだ。彼も作戦時は戦闘員だった。」
コウヤは俯いたまま言った。
『進路を南に変えろ。合流予定の座標を送る。そこで拾ってくれ。』
ウィンクラー少佐から通信が入った。それと同時にモニターには送られてきた座標が示された。
「少佐はどうされますか?」
オペレータはウィンクラー少佐が合流予定の位置とは逆方向に進み始めていることを気にしているようだ。
『テロリストの母艦の動力をやる。』
「クロスを追うつもりか?」
コウヤはウィンクラー少佐に問い詰めるように訊いた。
『必ず戻る。小型の飛行船についてはそこのコウヤの指示に従え。』
ウィンクラー少佐は深くは言わず、さらにコウヤに全て丸投げして通信を切った。
「わかりました。ハヤセ様。指示をお願いします。」
乗組員たちはすんなりとコウヤからの指示を聞く姿勢を見せた。
これがきっと自分だったらこうはいかないだろうとリコウは確信していた。
「というわけだ。二人ともコウヤに従えよ。」
シンタロウは通信をアリアとユイが乗る飛行船に繋げた。
『どうするの?シンタロウ。』
ユイは心配そうに訊いた。
「コウヤがうまく察知できなかったことと引っかかることがある。」
『大丈夫なの?』
アリアは少し冷たい口調で訊いた。
「戦艦にはコウヤと俺の優秀な部下たちが乗っている。大丈夫だ。」
『違う。あんたよ。』
アリアは少し怒った様子だ。
「体は動くし、ドールの調子も悪くない。」
シンタロウはそれだけ言うと急ぐように通信を切った。
シンタロウは、きっと飛行船の中でアリアが怒っているだろうと思い少し苦笑いをした。
言った通り、体の調子は悪くないし、ドールの調子もいい。
これが一年近くドールに乗っていないとは思えないくらいだ。
周りの状況も手に取るようにわかる。テロリストの母艦より遥かに前に自分の追う黒いドールがあることもだ。
過ぎ去る景色は今まででは信じられないくらい速く消える。
静電気に触れたように毛先がピリッとした。
間違いなくここから何かが変わっている。
前に迫るテロリストの戦艦が纏っているものは違う。
動力部分が煙を上げて破壊されたことを告げている。
おそらく黒いドールにやられたのだろう。
今持っている戦力だと制圧もできない。砲台も全部破壊しようかと思ったが、それも面白いくらい壊されている。
これなら心おきなく黒いドールの追跡に専念できると戦艦から離れようとしたとき。
《お前だ》
後ろ髪をひかれるように耳元で囁かれた。
頭を振り、聞こえた声を振り払うように進むと
《お前だお前だお前だお前だお前だお前だお前だお前だお前だお前だ》
繰り返し呼ぶように囁かれ、気が付けば頭の中でずっと響いていた。
「黙れ!!」
息を荒げて怒鳴るように叫ぶと声が止んだ。
ふと鼻についた匂い。
彼が抱えていた瓶の中にあった、彼の好物。
《君だって認めたじゃないか?》
目を開いているのに、見える風景はコックピットでも外を映したモニターでもない。
《なあ。シンタロウ。》
黒い髪の細い男。
最後に会った時から変わらない外見。変わるはずのない外見。
《僕の成功傑作だって、君が…認めただろ?》
頭から血を流して彼は笑っている。
今更怖がることは無いのに、これより悲惨な光景を沢山見てきたし自分で作ってきた。
《今度は僕の誘いを受けてくれるだろ?》
差し出された手は、決して触れることのできないのに、存在感がある。
『シンタロウ!!』
急に入った通信に目の前の男も声も消えた。
『おい。大丈夫か!?』
心配しているのだろう。焦っている。
「何で?お前が・・・?」
シンタロウは通信を入れた人物と、近くにある戦艦に驚いていた。
『大丈夫か?返事は出来るな!?』
シンタロウが返事をしたことに安心したようだ。
「コウヤ。何でお前がここに…それに戦艦まで。」
シンタロウは自分の近くまでドールに乗って来たコウヤと、それをいつでも受け入れれる位置にいる自分の指揮していた戦艦を見て驚いていた。
『何でってお前どれくらい経ったと思っている?』
コウヤの指摘でシンタロウは時計を見た。
「嘘だろ…」
おおよそアリアとユイと別れてから2時間以上経っている。
ならば、声が聞こえてから1時間半以上は経っている。
~恋する乙女「ルー」の切ない呟き~
恋には障害が付き物☆
やっとやっと二人きりになれるシチュエーションになった私を待っていたのは…
王子様の先輩の邪魔だったΣ( ̄ロ ̄lll)ガーン
先輩空気読んでよー
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また更新します
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