短編集[作:ヘタノヨ コヅキ]

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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【滴り注げ、双翼の愛】

6話【誓おう、双翼の愛】

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 ──右翼には、眷属がいる。

 その噂が左翼の耳に入るのに、時間はかからなかった。


「おにい、さま……っ! 嘘だ、と。嘘だと、おっしゃってください……っ!」


 泣きじゃくる左翼のことを抱き締めながら、右翼は黙って左翼の言葉を聴く。


「どうして、どうして……っ? 人間なんて、弱くて気味が悪いではありませんか……っ! なのに、なのにどうして……っ!」
「左翼、泣かないで」
「だって右翼お兄様がっ! 右翼、お兄様が……っ!」


 涙で顔を濡らしながら、左翼は右翼を見上げた。
 情けない顔を浮かべる妹に、右翼は優しい笑みを向ける。


「大丈夫。人間の眷属なんて、作っちゃいない。噂の出どころはどこか分からないけれど、左翼の勘違いだよ」
「か、ん……ちが、い? ……ん、っ」


 戸惑う左翼の唇に、右翼がキスを落とす。
 そうされることで、平静さを取り戻したのか。左翼は俯き、さらに涙を流した。


「そう、とは……知らず。みっともなく、嫉妬をして……っ。浅ましくて、醜悪で、情けない……っ! こんな私じゃ、いつか、いつか……っ。……右翼お兄様に、嫌われてしまいます……っ!」


 たった一言『勘違い』と言われただけで、右翼がそう告げる根拠は提示されていない。それなのに左翼は、素直に右翼の言葉を信じた。それだけの信頼感が、右翼と左翼の間にはあるのだろう。


「こんなの、人間みたい……っ! そんな私じゃ、駄目……っ!」
「駄目じゃない。ぼくは左翼が好きだから、全部許すよ」
「右翼お兄様はいつも──」
「それにだよ、左翼。よく考えてごらん」


 左翼の唇に、右翼は人差し指を添える。

 ──そして……魔法の言葉を、囁いた。


「──人間なんて、血を吸い尽くされたら死ぬ生き物さ」


 ピタリ、と。左翼が動きを止める。

 しばらくの、沈黙。……ようやく左翼が口を開いた時に、浮かべていた表情は──。


「……そう、ですよね。そう、そうです……っ。右翼お兄様に近付く人間は、全て、全て私が……ふ、ふふっ、あは……っ!」


 ──笑顔だった。

 左翼の笑みを見て、右翼も素直な笑みをこぼす。


「良かった。左翼が、笑ってくれて」
「あっ、す、すみません、右翼お兄様っ!」
「ううん。ぼくの方こそ、母様に嘘なんて吐いたせいで、それが誰かの口から噂として広まって……。結果、左翼が泣いてしまうほど不安な思いをさせてしまった。駄目なお兄ちゃんで、本当にごめんね」
「そんなっ、そんなこと……っ!」


 懸命に首を横に振る左翼を見て、右翼はなおさら笑みを輝かせた。
 破顔する右翼に対し、左翼は自分の大袈裟な反応を恥じたが……右翼の笑みの前では、そんな恥じらいも消える。


「それにしても、お母様も案外抜けているのですね。右翼お兄様の嘘に、コロリと騙されるなんて」
「そうだね。でも、母様は今まで誰かと関わった回数が少ないから。だから、嘘とかを見破れないんだろうね」
「ふふっ。そうかもしれませんね?」


 お互いに笑みを浮かべた後、右翼と左翼はどちらからともなく顔を寄せた。
 互いの熱を唇で感じながら、左翼は幸福を感じる。

 ──だからこそ、左翼は知らない。『母親は、嘘なんか吐かれていない』ということを。

 ──嘘を吐かれているのが、自分自身だということすらも。 




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