短編集[作:ヘタノヨ コヅキ]

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
36 / 78
【星巡り】

【空のある星】

しおりを挟む


 その星で出会ったのは、地面に寝転がっている少年だった。


「空だよ。ボクたちには空があればそれでいい。だって、空って素晴らしいじゃないか。……ねぇ、お姉さん? お姉さんもそう思うでしょう?」


 こちらを一切見ない少年は、空を眺めたまま囁くように言う。

 この星は、空で満ちている。少し上を向けば、あちらこちらに雲や星が映った。

 ──貴方は今、空のどこを見ているのですか?

 少年に訊ねると、静かな声が返された。


「全部だね。あの雲も、太陽も月も、星も……ボクは空の全部を見ている」


 ──【全部】?

 もう一度空を見上げてみると、少年の言っていることが分かる気がする。
 燦然と輝く太陽を雲が覆い、月と星々がその輝きを増す。……どうやら、この星は空に溢れている星らしい。

 ──広大な空に、色々な表情がありますよね?

 ──貴方はそれを、息苦しいとは思いませんか?

 少年は、眉を寄せた。


「『息苦しいかどうか』って? そんなことはないよ。だってお姉さんも言った通り、空は広いんだよ? それに、ボクは強要されて空を見ているわけじゃない。そして、空も強要されて輝いているわけじゃない。だったら、これ以上にステキなことなんてないと思わない?」


 ──なるほど。

 この星で重要なのは、空があるかどうか。空があるならそれで良くて、ないならそれまでらしい。

 とても大規模な星だとは、思う。ここで暮らしたなら、私はきっと肩身の狭いを思いをしないのかもしれない。

 ──もうひとつ、質問してもいいですか?


「モチロンだよ。なんでも訊いて?」


 少年の笑みに頷いた後、私は訊ねた。

 ──貴方と貴方の両親がお金も地位もなくなって、住んでいる家を追い出されたとしたら。……それでも貴方は、こうして寝そべっていられますか?

 少年は……やはり、笑みを崩さなかった。


「──当然だよ。だってボクは、お金があるから寝そべっているわけじゃあない。両親が偉いから、寝そべることを許可されているわけでもないからね。ボクの幸福に、お金も地位も関係ないよ」


 ──どういうことでしょうか?

 少年は淡々と、まるで空に輝く星座の説明をするかのような冷静さを見せる。


「お金があるから空を見上げる人なんて、きっといないよ。地位もそう。そういうものに固執する人ほど、空も他のものも見ない。目の前のリアルしか見ないで、空にある輝きを見ようともしない。それって、当たり前のなにかを見落とすこととイコールだって思うんだ。……違うかな?」


 それは……私にとって目から鱗が落ちるような話だった。
 それが、この星の【空】。この星の、全てなのだ。

 ──お金がなくても、空があるのなら。……貴方は、幸せですか?

 私の呟きに対する返事は、私に対するものではなかった。


「──あぁ、そうだお姉さん。そろそろ流星群がくるから、なにかに捕まった方がいいよ」


 不意に。
 私は流星群に、捕まった。

 足を踏み外した私は。……そのまま、星から落下した。


「あぁ、そうだ。そう言えば、お姉さん……どうして──」


 少年の声が、よく聞こえない。
 空のある星が、どんどん遠ざかっていく。

 ……もしも、もしも。
 あの星の人々が、どこまでも空から引き離されてしまったら。少年たちは、どう思うのだろう。

 あの星から落下していく私には、到底分かるはずもない話だけれど。 




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...