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【星巡り】
【四季のある星】
しおりを挟むその星で出会ったのは、草や花で体を覆うひとりの少女だった。
「四季! わたしたちには四季があればそれでいいの! だって、四季って素晴らしいもの! ……ねぇ、お姉ちゃん? お姉ちゃんもそう思う?」
愛らしい少女は、沢山の花を抱き締めながら、その中のひとつを私に差し出す。
この星は、四季で満ちている。少し瞳を動かせば、あちらこちらから色々な匂いがした。
──貴女は四季の、なにが好きなのですか?
少女に訊ねると、無邪気な笑みが向けられた。
「全部! 春の花も、夏の雨と日差しも、秋の涼しさも、冬の雪も……全部好きだよ!」
──【全部】?
周りをぐるりと見渡してみると、少女の言っていることが分かる気がする。
冬眠から目覚めた動物達が大地を踏み、小麦色の肌をした子供たちは葉の赤くなった木々を登り、そして、積もった雪を掴んでいる。……どうやら、この星は四季に溢れている星らしい。
──貴女は今、夏の花々を抱いていますよね?
──それらが枯れることを、やるせないとは思いませんか?
少女は、小首を傾げた。
「『やるせないかどうか』って? そんなことないよ! だって、お花は枯れちゃうからキレイなんだもん! それに、お花がなくても葉っぱがあるし、その後は雪もあるもん。だから、これ以上にステキなことなんてないと思うよ?」
──なるほど。
この星で重要なのは、四季があるかどうか。四季があるならそれで良くて、ないならそれまでらしい。
飽きのこない星だとは、思う。ここで暮らしたなら、私はきっと二度ない毎日を大切に思えるかもしれない。
──もうひとつ、質問してもいいですか?
「もちろんだよ! なんでも訊いて!」
少女の笑みに頷いた後、私は訊ねた。
──貴女も貴女の両親もお金がなくて、偉い人になれなくても。……それでも、貴女は今みたいに笑っていられますか?
少女は……やはり、笑みを崩さなかった。
「──もちろんだよ! だってわたし、お金のおかげで四季を感じたこと、一回もないもん! えらくなりたい~って思ったこともないし、お金があったって四季をどうにかできるわけでもないし! お金とえらさだけじゃ、つまんないもん!」
──どういうことでしょうか?
少女はハキハキと、まるで両親に今日あった楽しかったことを聞かせるかのような興奮ぶりを見せる。
「お金があって、楽しいこともたしかにあるって思う。でも、それは四季じゃないもん! お金があったって本物の雨は降らせられないし、雪をいっぱい降らせることもできない。それに、どれだけえらくてもキレイなお花をキレイって思えないなら、ヤッパリつまんない! 意味ない! ……ちがうかな?」
それは……私にとって目から鱗が落ちるような話だった。
それが、この星の【四季】。この星の、全てなのだ。
──お金がなくても、四季があるのなら。……貴女は、幸せですか?
私の呟きに対する返事は、私に対するものではなかった。
「──あっ! お姉ちゃん、たいへん! お母さんが『今日は吹雪よ』って言ってたのわすれてた!」
不意に。
私は風と雪に、体を押された。
足を踏み外した私は。……そのまま、星から落下した。
「あぁっ、ねぇねぇ! そう言えば、お姉ちゃん……どうして──」
少女の声が、よく聞こえない。
四季のある星が、どんどん遠ざかっていく。
……もしも、もしも。
あの星の人々が、自然に触れられなくなったら。少女たちは、どう思うのだろう。
あの星から落下していく私には、到底分かるはずもない話だけれど。
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