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【花言葉には頼らない】
2話【ルピナスの花言葉は『いつも幸せ』】
しおりを挟む閉店後。
鳥羽井が店の掃除をしていると、田塚は花の手入れをし始めた。
「女子高生、かぁ……。いいよねぇ、ブランドだよねぇ……」
それは、鳥羽井が制服を着ているから零れ出た言葉だろう。
鳥羽井はホウキで床を掃きながら、独り言のようなトーンで語る。
「そういえば今日、クラスの人が『十歳年上はもうオジサンだよね』という話で盛り上がっていました」
「どうしてそれを、キミより十二才年上の僕に言うんだい?」
「店長を見習い、小粋なトークをしようと思いまして」
「ミステイクにもほどがあるよ!」
がっくりと、田塚は肩を落とした。
ちなみに、今の鳥羽井は【他の女子高生を褒めかけた田塚に対して】ムッとしただけだが。……おそらく田塚は、そのことに気付いていないだろう。
掃除を終えた鳥羽井は、深く落ち込む田塚の横をすり抜けて、店から出ようとする。
「それでは、お疲れ様でした。また明日もよろしくお願いします」
そんな鳥羽井を、田塚はすぐに引き留めた。
「あ、待って。僕も一緒に行くよ」
顔を上げた田塚が、ポケットの中から鍵を取り出す。
そんな様子を見て、鳥羽井は無表情ながらに戸惑う。
「あの、店長。いつも思うのですが、毎回家まで送り届けてもらわなくても大丈夫ですよ」
鳥羽井がアルバイトをした日は、田塚は決まって同じことを言った。
いくら毎度のこととは言え、やはり困惑する。静かに戸惑う鳥羽井を見下ろして、まるで対照的な様子で田塚はにこやかに笑う。
「たまたま、キミの家の近くにあるスーパーに用事があるだけだって。……毎回そう言ってるじゃないか」
「そう、ですけど」
「夜道は危ないし、男が隣にいた方が安心でしょ?」
百八十センチを超えた背に、細身ながらも引き締まった体。そして田塚の明るい髪色を見たら、さすがに手を出そうとは思わないだろう。
小柄で黒髪。お世辞にもスタイルがいいとは言えないスレンダーボディの鳥羽井を好き好んで襲おうとする人間が、いるとは思えないが。鳥羽井はいつもそこまで思いかけて、口を閉ざす。
自らの見目を、わざわざ好きな相手に向けて卑下したってなにも始まらない。隣を歩き始める田塚を見上げて、鳥羽井は真剣な口調で語る。
「心配してくださるのは、ありがたいです。ですが店長は仕事終わりで、しかも私が帰ってからも仕事が残っています。それに、いつも女性のお相手をするのは疲れませんか?」
念のため補足すると、今の発言は日頃のナンパ行為じみた田塚に対する嫌味ではない。純粋な、心配だ。
しかしながら当然、鳥羽井はあえて『心配しています』とは言わない。伝えたところで、気恥ずかしいだけだからだ。
だが、田塚はと言うと……。
「だからいつも、僕の代わりに掃き掃除してくれるの?」
「えっ。……いえ、それは……っ」
本来、掃き掃除は鳥羽井の仕事ではない。
だが、できることがあるのならやりたい。……もっと厳密に言うと、できる限り田塚のそばにいたい鳥羽井は、掃き掃除もしてしまう。
そんなことを、鳥羽井が素直に言えるわけもないが。
「店長がいかにだらしないか、示唆しているだけです」
「『示唆』のくせに思いっきり口に出してる! 直接的すぎるよ!」
「あまり大声を出さないでください。ご近所迷惑です」
「十二も年下の子に諭された……!」
またもや肩を落とす田塚から、鳥羽井は顔を背ける。
──赤くなった鳥羽井の顔は、月明りだけではあまりよく見えなかった。
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