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【花言葉には頼らない】
4話【ニゲラの花言葉は『当惑』】
しおりを挟むその日の夜。
「あ、待って。今日も送るよ」
店から出ようとすると、田塚が駆け足で近寄って来た。
「店長、誰かのためにあまり自分を犠牲にしないでください」
「やだなぁ、そんなことしてないよ。ただ、今日はスーパーが特売の日なんだっ! さっ、行こう行こう!」
「あの、ですから……。別にわざわざ用事を見つけて送っていただかなくても──」
「じゃあ、言い方を変えようかな。特売がメインで、キミを送るのはついで。……だったら、僕が一緒に歩くことを許してくれる?」
毎回、どれだけ断っても田塚は引かない。
それが嬉しくて、それでいて少しくすぐったいことを、鳥羽井は口に出さなかった。
いつも女性客を口説いてはいるけれど、店の外までは見送らない。こうして店の外までついて来てくれるのは、自分相手だけ。
それが、鳥羽井は嬉しい。
「じゃあ、はい。……今日も、そのお言葉に甘えさせていただきます。よろしくお願いします」
自分だけは、もしかすると田塚にとってなにかしらの【特別】なのではないか。そんな浮かれた気持ちを抱きつつ、鳥羽井は頭を下げた。
──そう。特別だと浮かれられる、はずだった。
「──キミも大事な【お花】だからね! しっかりと面倒を見なくちゃ!」
鳥羽井が小さく頭を下げると同時に、田塚はそう豪語する。
「お、はな……?」
堪らず、鳥羽井は顔を上げた。
すると。……目の前に立つ田塚は、笑顔で鳥羽井を見下ろしている。
「そう、お花! 女性は皆、二輪とないお花だからね! 僕は女性全員の味方でありたいんだ!」
──足元が、グラついた。
そんな錯覚を起こしてしまうほど、鳥羽井にとっては衝撃的な言葉。
『──この子は、駄目』
『この子は、商品じゃないから』
──数時間前の言葉は、なんだったのか。
鳥羽井は俯き、スカートをギュッと握り締める。
「──……すか、それ……っ」
「ん? ごめん、よく聞こえ──」
「──なんですかっ、それっ!」
──突如。
「お花扱いしないでくださいっ! 私は、お花じゃないっ! 私をっ! ……私を、他の人と一緒には……っ!」
鳥羽井は怒鳴り、あろうことか田塚の体を押した。
ひ弱で、しかも自分より背の低い鳥羽井に押されたところで、田塚はどうともならない。
けれど。
「こんなに、惨めな気持ち……っ。【お花】なら、きっとならないでしょう……っ!」
鳥羽井が駆け出したところで、田塚はすぐに追いかけて来なかった。
* * *
駆け出して、数分後。
「あぁ、最悪。やっちゃった……」
鳥羽井は深く、落ち込んでいた。
少しでも女性として見られようと、大人っぽい振る舞いを心掛けていた鳥羽井としては、あまりにもあまりすぎる痛恨のミスだ。
「どうしよう。明日のバイト、気まずい……」
鳥羽井は鞄を抱え直し、肩を落とす。
「でも、だって……私だけは【特別】なんじゃないかって。そう勘違いさせた店長も悪い」
そんな風に落ち込みながら、鳥羽井はトボトボと歩う。
──その時だった。
「──バイト、お疲れ様」
──背後にいる【誰か】から、呼ばれたのは。
鳥羽井はすぐさま、声がした方を振り返った。
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