短編集[作:ヘタノヨ コヅキ]

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
42 / 78
【花言葉には頼らない】

4話【ニゲラの花言葉は『当惑』】

しおりを挟む



 その日の夜。


「あ、待って。今日も送るよ」


 店から出ようとすると、田塚が駆け足で近寄って来た。


「店長、誰かのためにあまり自分を犠牲にしないでください」
「やだなぁ、そんなことしてないよ。ただ、今日はスーパーが特売の日なんだっ! さっ、行こう行こう!」

「あの、ですから……。別にわざわざ用事を見つけて送っていただかなくても──」
「じゃあ、言い方を変えようかな。特売がメインで、キミを送るのはついで。……だったら、僕が一緒に歩くことを許してくれる?」


 毎回、どれだけ断っても田塚は引かない。
 それが嬉しくて、それでいて少しくすぐったいことを、鳥羽井は口に出さなかった。

 いつも女性客を口説いてはいるけれど、店の外までは見送らない。こうして店の外までついて来てくれるのは、自分相手だけ。
 それが、鳥羽井は嬉しい。


「じゃあ、はい。……今日も、そのお言葉に甘えさせていただきます。よろしくお願いします」


 自分だけは、もしかすると田塚にとってなにかしらの【特別】なのではないか。そんな浮かれた気持ちを抱きつつ、鳥羽井は頭を下げた。

 ──そう。特別だと浮かれられる、はずだった。


「──キミも大事な【お花】だからね! しっかりと面倒を見なくちゃ!」


 鳥羽井が小さく頭を下げると同時に、田塚はそう豪語する。


「お、はな……?」


 堪らず、鳥羽井は顔を上げた。
 すると。……目の前に立つ田塚は、笑顔で鳥羽井を見下ろしている。


「そう、お花! 女性は皆、二輪とないお花だからね! 僕は女性全員の味方でありたいんだ!」


 ──足元が、グラついた。

 そんな錯覚を起こしてしまうほど、鳥羽井にとっては衝撃的な言葉。


『──この子は、駄目』

『この子は、商品じゃないから』


 ──数時間前の言葉は、なんだったのか。

 鳥羽井は俯き、スカートをギュッと握り締める。


「──……すか、それ……っ」
「ん? ごめん、よく聞こえ──」

「──なんですかっ、それっ!」


 ──突如。


「お花扱いしないでくださいっ! 私は、お花じゃないっ! 私をっ! ……私を、他の人と一緒には……っ!」


 鳥羽井は怒鳴り、あろうことか田塚の体を押した。

 ひ弱で、しかも自分より背の低い鳥羽井に押されたところで、田塚はどうともならない。
 けれど。


「こんなに、惨めな気持ち……っ。【お花】なら、きっとならないでしょう……っ!」


 鳥羽井が駆け出したところで、田塚はすぐに追いかけて来なかった。


 * * *


 駆け出して、数分後。


「あぁ、最悪。やっちゃった……」


 鳥羽井は深く、落ち込んでいた。

 少しでも女性として見られようと、大人っぽい振る舞いを心掛けていた鳥羽井としては、あまりにもあまりすぎる痛恨のミスだ。


「どうしよう。明日のバイト、気まずい……」


 鳥羽井は鞄を抱え直し、肩を落とす。


「でも、だって……私だけは【特別】なんじゃないかって。そう勘違いさせた店長も悪い」


 そんな風に落ち込みながら、鳥羽井はトボトボと歩う。

 ──その時だった。


「──バイト、お疲れ様」


 ──背後にいる【誰か】から、呼ばれたのは。

 鳥羽井はすぐさま、声がした方を振り返った。 




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...