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【足あと売りのアシ】
【深夜・1時13分】
しおりを挟むふと。アウィーという少女は、深夜に目を覚ました。
辺り一面は、見覚えのある景色。当然だろう。ここは、アウィーの私室なのだから。
アウィーはベッドからゆっくりと上体を起こし、目を擦った。そうすると暗い部屋の中が、僅かばかりではあるが徐々に見えてくる気がしたからだ。
そんなアウィーに、ひとつの影が近寄る。
『──はじめまして! ボクは、足あと売りのアシ!』
ひょっこりと姿を現した影は、実に軽快な様子でアウィーに近付いた。
『アーちゃんでもアシ君でもアシたんでも、好きに呼んでいいよ! ……あ、だけどアッシーだけはやめてね? なんか、使い勝手のいい雑用係みたいじゃない?』
影──少年は自身のことを『アシ』と名乗り、アウィーに微笑んだ。
未だに意識が覚醒しきっていないアウィーは、アシのことをぼんやりと眺める。そして、返すべき言葉を探した。
だが、アシという少年はアウィーの様子なんてお構いなし。ペラペラと、そして淡々と会話を続行していく。
『キミみたいに若い女の子がお客様だなんて、嬉しいなぁ。最近は政治家とか、借金まみれの人とか……まぁとにかく、そこそこ年季の入ったオジサンばっかりだったからさ~』
お客様。その単語を受け止めてようやく、アウィーは自分が発すべき言葉を理解した気がした。
『あなた……本当に、足あと売りさんなの?』
『やだな~、さっきそう名乗ったでしょ? まったく、寝坊助ちゃんだな~。そんなところも、とっても可愛いよ!』
アウィーはゆっくりと、ベッドから降りた。それからクルリと、辺りを見回す。
『ここって、間違いなく【私の部屋】よね?』
アウィーが目を覚まし、アシという少年が笑っているその場所は。……何度見ても、疑いようがない。間違いなく、アウィーの私室だ。
『そうだよ。ここは、キミの部屋。ボクの営業スタイルは【出張】なんだよ。求められて、そして呼ばれたら、どこにだって飛んで行く。それがボクの商人魂ってやつさ!』
『じゃあ、あなたが本当に……?』
半信半疑だったアウィーの瞳が、輝く。
その瞳の輝きに応えるよう、アシは微笑んだ。
『──キミが欲しがっている【足あと】を売りに来たよ』
アウィーは慌てて、ベッドへ戻る。そして、先ほどまで自分の頭を乗せていた枕の下に手を突っ込んだ。
そこから取り出したのは、一枚の紙切れ。アウィーはどこか焦った様子で紙切れを手に取って、アシに突き出した。
『こっ、この通りにっ。ここに書いてある通りに足あとが、欲しいのっ』
『了解!』
アシはアウィーから、一枚の紙切れを受け取る。
可愛らしい便箋に、可愛らしい文字。アシは一度だけ、アウィーから渡された紙切れに目を通した。
そして流れるように、アシはアウィーを見つめる。
『でも、本当にいいの? 自分で言うのもなんだけど、ボクが売る足あとってかなり高いよ?』
『えぇ、かまわないわ!』
『へ~? ……ふぅん、そうなんだ?』
アシは渡された紙切れを、もう一度眺めた。
そして──。
『──分かったよ、契約成立。今回は足あとのご購入、ありがとうございましたっ!』
アシはわざとらしいほど恭しく、アウィーに向かって礼をした。
『絶対……絶対、その通りに足あとを用意してちょうだいねっ?』
『勿論だよ、可愛いお客様! ボクのプロ根性に誓って、必ず希望通りの足あとを用意するさ!』
頭を上げたアシが、もう一度微笑む。その微笑みを、アウィーが見届けた時。……そこで、アウィーの意識は。
「──ん、っ?」
夢の世界から現実へ、引き戻された。
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