短編集[作:ヘタノヨ コヅキ]

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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【足あと売りのアシ】

【早朝・5時23分】

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 アウィーは、目を覚ました。先ほどと全く同じように、寝起きだというのにどこか上品さを感じさせる優雅な目覚めだ。

 動きを止めること、数秒。アウィーはようやく、さっきまで見ていたはずの【夢】を思い出した。


「足あと売りさん!」


 思い出すがまま飛び起きると、アウィーは慌てて枕の下に手を突っ込んだ。


「本当に、なくなっているわ……」


 なにもない枕の下に手を差し込んだまま、そう呟いた。


 * * *


 ある日、アウィーの友人が誰かから聞いた、小さな噂話。

 決してアウィーは、噂話や不可思議な話を好むタイプではなかった。それなのにアウィーは、なぜだかその話がどうしても忘れられなかったのだ。

 枕の下に、発注書を用意する。発注書として使う紙は、なんだっていい。
 シャーペンでも、ボールペンでも。黒でも赤でも、発注書に使う文具はなんでもいいし、どんな書き方だって構わない。

 だけど【書かなくてはいけないことだけ】は、きちんと決まっている。

 ひとつは【誰の足あと】が欲しいのか。【誰】に該当する情報は、明確であればあるほど良いらしい。

 もうひとつは【足あとを届けてほしい日時と場所】。相当細かく書かないと、要望通りに足あとを届けてもらえないようだ。

 たった、ふたつ。このふたつさえ綿密に書かれていれば、後は枕の下に発注書を忍ばせるだけ。これだけの作業で、欲しい足あとを手に入れることができる。

 ……そんな【足あと売り】というお店の話。まるで、童話かなにかのような話だ。

 アウィーはその話を聞いた時、真っ先に疑問が浮かんでしまった。


『足あとに対するお代は? いくら支払わないといけないのかしら?』


 アウィーの友人──ミタンという少女が答える。


『これも本当か分かんないんだけど、購入者の【一番大切なもの】が代金の代わりなんだって』
『一番、大切なもの?』

『なんか、とある社長は会社を持っていかれた~とか。どこかの妊婦さんはお腹の中にいた赤ちゃんを持っていかれた~……とかって聞いたよ』
『そうなのね。【商売】と噂されているくせに、お代は抽象的なのがさらに不気味ね……』


 金銭のやり取りではなく、本当に大切なもの。苦言のような言葉を呈したアウィーを見て、ミタンは苦笑した。


『きっと、アウィーちゃんはその【顔】を持っていかれるね』
『顔?』
『だってアウィーちゃん、この施設でいっちばん可愛いもん!』


 アウィーはそっと、自分の頬を撫でてみる。そうしたところでなにが分かるわけでもないが、アウィーは反射のように自らの顔を手で触れた。

 もしも、本当に。本当に、顔が持っていかれるのなら。


『だけど、足あとなんて買ってなにに使うんだろうね~?』


 ミタンの疑問に、アウィーは微笑む。


『確かに、不思議なお話よね。……でも、ミステリアスだからこそ魅力的だと思うわ』


 アウィーの笑顔を見て、ミタンもつられて、笑う。

 ……もしも、本当に。本当に、アウィーが足あとを購入して、その代金として顔を持っていかれるのなら。醜く、この世のものとは思えない顔に変えられてしまうのだとしても。

 そうなっても、構わない。可憐に微笑むアウィーは誰の目にも見えない野心を募らせた。

 ──アウィーは、どうしても【ある少年の足あと】が欲しいのだから。 




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