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【足あと売りのアシ】
【朝・8時17分】
しおりを挟む翌朝。まるでアシに誘われるがままかのように、アウィーは目を覚ました。
そして。……アウィーは、絶望した。
床にへたりこみ、誰もが羨む美貌を表す自らの顔を、両手で覆いながら。
「嘘、よ……っ」
その場にいる誰もが、声を出さない。……否。声を、出せなかったのだ。
この施設にいる、誰一人として。こんなことを、想定していなかったのだから。
「だって、こんなのってありえないじゃない……!」
──お願い。お願い、返して……!
アウィーは、両手で顔を覆ったまま。心の中で、何度も何度も同じ言葉を繰り返す。
「なんでもするから。お願いだから、返してよぉ……!」
譫言のように。……けれど、誰かへの恨みを込めて。
「──私の【一番大切なもの】を返してったらッ!」
アウィーは悲痛な音色で、そう叫んだ。
朝食の時間は、七時三十分。全員で集まってから『いただきます』を言うのが、この施設に定められたルール。
それなのに、今日も時間通りに『いただきます』が言えなかった。つまりそれは【誰かが食道に集まらなかった】ということを意味する。
お願い。お願いだから、返して。アウィーは何度も、心の中で叫んだ。
そして、ついにアウィーは顔を上げる。
──【変わらず美しいアウィーの顔】を、とある少年が使っていた部屋の天井へ向けるために。
「──お願いだから、私の大好きなゲッネを返してよぉおッ!」
アウィーが見上げた、天井。……そこには。
──ゲッネの首吊り死体が、ぶら下がっていた。
* * *
……あっ。やっとお目覚めかな? おはようございます。
いや、もしかしてこんにちは? それとも、こんばんは?
まぁ、どれでもいいや! キミが今日のお客様だね? ふふっ。いらっしゃいませ!
今日はいったいどういった──えっ? 『どうしてアウィーが買った足あとのお代に、ゲッネを持って行ったのか』って?
アウィーって、あの女の子だよね? だったら、答えは分かっているんじゃないの?
──だって【ゲッネ】って子が、あのお客様の一番大切なものだったんだもの。
ゲッネって子はね? あのお客様のせいで、人生がメチャクチャになったんだ。……つまり! ゲッネという少年の未来は、アウィーという少女によって奪われた! ならそれは、ゲッネがアウィーのものになったってことなのさ!
つまりつまり? ゲッネという少年はアウィーという少女のもの! だからボクは、お客様にとって一番大切なものを貰ったって話さ!
……えっ、横暴? 曲解で、極論だって?
いやいや、なに言ってるの? 商売なんて、どこもそんなもんでしょ?
いかに、相手からより高価なものを搾取できるか。それが、プロの商人ってものさ!
……って言うか、そんな話をするために呼んだの? そうじゃないよね? ねっ、違うよね~っ?
さぁ! キミが求める足あとはいったい、誰の足あとだい? ……『お代』? 後払いで結構さ!
大丈夫ダイジョーブ! 手は抜かないよ! キミが購入した足あと以外は、キミが依頼した場所に残さないから!
だけど、本当に足あとを購入したいの? ほんっと~に?
……ふーん。まぁ、いいんじゃない?
それでは……コホン!
──いらっしゃいませ、お客様。ボクは、足あと売りのアシです。
【足あと売りのアシ】 了
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