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【足あと売りのアシ】
【深夜・1時26分】
しおりを挟む深夜に、アウィーはそっと目を覚ます。
そしてすぐさま、視界に見覚えのある後ろ姿を見つけた。
『──足あと売りさん!』
すかさず、アウィーは起き上がる。不思議なことに、アウィーがいるのは相変わらず、アウィーが眠った部屋だった。
だが、この不思議な現象はどうだっていい。こんなことを問答している時間は無いのだから。
アウィーに呼ばれた足あと売りさん──アシは、実に楽しそうな様子でアウィーを振り返った。
『また会えたね、可愛いお客様。追加注文かな? ありがとうございます~』
『お願い! あの人をっ、ゲッネを助けてっ!』
『ゲッネ……って、キミが欲しがった足あとの名前かい? いったいぜんたい、どういったご注文で?』
アウィーは、はやる気持ちを抑えつつ。……けれど、興奮気味に。アシへと、事の経緯を説明した。
意外にも清聴してくれたアシに若干驚きつつも、アウィーは全てを話し終える。すると、アシは頷きながら相槌を返してくれた。
『なるほどね~。あの夜、なんだかベッドでやけに盛り上がってるな~とは思ったけど……なるほど、なるほど。それはなんて言うか、残念だったね~?』
『そんな簡単に流さないでっ! そもそも、そっちが請求したお代なんでしょうっ! だったら最後まで責任を持ってよッ!』
『……んん? ボクが請求したお代、だって?』
アシが、小首を傾げる。その反応はアウィーにとって、全くの予想外だ。
そしてまたしても、アウィーにとって予想外の言葉を、アシはあっけらかんと呟いた。
『──キミからのお代は、今晩請求するつもりだよ?』
『──え、っ?』
呆然とするアウィーを見て、アシは『なにか勘違いしていない?』とでも言いたげだ。
しかし、アウィーはアシの態度に構っていられない。
あの悪夢のような出来事が、請求されたお代ではないのなら。それならいったい、これ以上なにを?
アウィーは、ペタリとその場にへたりこんだ。なにも言えずにただただ、座り込むことしかできなかった。
打ちひしがれているアウィーにはお構いなしに、アシはアウィーが使っている枕の下に手を突っ込んだ。そして、一枚の紙切れを引きずり出した。言うまでも無く、アウィーが泣きながら用意した紙切れだ。
『まさか、キミみたいな若い子からクレームが入るなんて思ってなかったからさ~? 普段はクレーム対応なんてしないんだけど、キミは可愛いから特別に来てあげたってワケ! ……でも、なんだかキミの勘違い? だったみたいだね? あ~、良かった!』
『……私の、顔……な、の?』
『ん~?』
アウィーは床を見つめ、生気の無い声で訊ねる。
『足あとの、お代って……私の顔、なの……?』
俯くアウィーの声は、暗い部屋の中に溶けていく。アシはアウィーを見下ろして、それから……。
『──それは、キミが起きてからのお楽しみってことで!』
アシは、無邪気に笑ってみせた。
『そんなに気になるなら、目を覚ませばいいよ。そうすれば、答えはすぐだからさっ』
どこまでも無邪気に、どこまでも楽しそうに。アシはただ、笑っていた。
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