短編集[作:ヘタノヨ コヅキ]

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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【足あと売りのアシ】

【夕方・16時21分】

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 アウィーは施設で働く女性スタッフと共に、自室で座っていた。

 頭の中では『こんなつもりじゃなかったのに』と。アウィーはひたすらに『どうしよう、どうしよう』と悩み続ける。

 ……いいや。ゲッネを孤立させる気は、確かにアウィーの中にはあった。しかしアウィーはその後、自分だけがゲッネの理解者になろうとしたのだ。そうすることでゲッネの全てを掌握し、ゲッネを自分だけの男にしようとした。

 つまり、アウィーが考えていた筋書きではここまで【酷いことをされる予定】ではなかったのだ。

 ただ『鍵が壊れている自分の部屋に、男の子が一人いた』と。そう証言するだけのつもりだったのだ。決定的に【ゲッネが犯人だ】と言うつもりは、なかった。

 白い目を向けられるゲッネに『自分だけは味方だよ』と。そう、言いたかっただけなのだ。

 アウィーは焦燥感を抱きながら、必死に思考を巡らせた。

 まさか、まさか。足あとのお代として請求されたものが【ゲッネとの幸せな未来だった】とでも言うのか。ワケの分からない選定基準に、アウィーは奥歯を噛み締める。

 施設で、一番。もしかしたら、この国で最も可愛らしい顔。アウィーはてっきり【この顔こそが】お代として相応しいのではないかと思っていた。
 あまりにも予想外な請求に、アウィーは頭を抱える。こんなお代、欠片も想定していなかったのだから。

 アウィーだけが、本当の犯人を知っている。だが、アウィーだけがゲッネに会うことができない。

 ──ゲッネは、アウィーに乱暴をした。そう、施設の誰もが思っているのだから。

 アウィーは、苦悩しながらも考える。『もう一度、足あと売りさんに会えたら』と。
 姿は確認できなかったが、足あとは残されていた。ならば、アシだけはアウィーとマチルチの【過ち】を見ていたのだ。

 アシさえ見つけられれば、真実を告発できる。これは最終手段だが、まるで蜘蛛の糸のようだ。希望としては、あまりに希薄。

 それでも、アウィーは縋るしかない。


「すみません。紙とペンを、お借りできますか?」


 アウィーの申し出に、女性スタッフはすぐさま応じた。

 紙とペンを受け取ると、まるで殴り書きのように、アウィーはアシへの要求を書く。
 お願い。ゲッネを、助けたいの。自分勝手な願いを、書き連ねるために。

 どうして、こんな馬鹿な真似をしてしまったのだろう。いくら後悔しても、もう遅い。

 足あとによって、言い逃れができないほど『犯人はゲッネだ』と証明されている。どれだけアウィー自身がそれを否定したって、ゲッネの足あとしか残っていないのだ。どうしたって、マチルチを犯人にする根拠が無い。

 例え、望み薄でも。可能性が皆無に見えても、アウィーはやるしかなかった。溢れる涙を止めることもできずに、アウィーは泣きじゃくりながら、ただひたすらにペンを走らせる。

 その様子を、女性スタッフは心配そうに眺めていたが……そんなこと、アウィーにとってはどうでもよかった。

 必ずゲッネを救い、マチルチを裁いてみせる。今のアウィーには、それしかないのだから。 




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