短編集[作:ヘタノヨ コヅキ]

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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【足あと売りのアシ】

【朝・7時57分】

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 朝食の時間は、七時三十分。全員で集まってから『いただきます』を言う。これも、施設内のルールだった。

 それなのに、アウィーが一向に食堂へ来ない。規則を破るような子ではないと周りからの評価も高いがゆえに、アウィーの行動は謎を呼んだ。
 不思議に思ったミタンは友人代表としてアウィーを呼びに、食堂からアウィーの部屋へと向かった。

 そこでミタンは、目の当たりにする。


「──キャァアアッ!」


 ──あまりにも悲惨な、アウィーの姿を。

 ベッドは激しく乱れ、それ以上に、アウィーの衣服が無残なほどに乱れている。叫んだミタンがいくら色恋沙汰に疎くたって、これだけは分かった。

 ──アウィーは何者かに【乱暴】された、と。

 誰がどう見ても、そう推測できてしまうほどに。アウィーのベッドとアウィー自身は、酷いありさまだったのだ。

 アウィーは虚ろな瞳で、叫ぶミタンを見つめる。そして、アウィーは気付いた。

 そうだ。今すぐミタンに昨晩のことを話せば、きっとミタンは昨日の朝と同様に、大きな声で叫んでくれるはずだろう。マチルチという男を、糾弾するための言葉を。

 アウィーはなんとか上体を起こし、ミタンに近寄ろうとした。
 しかしそこで、アウィーは気付いてしまう。

 ──己の過ちに、気付いてしまったのだ。


「──この足あとが犯人だよッ!」


 いつの間にか食堂から集まっていた子供たちに向かって、大粒の涙を零すミタンはそう叫んでしまったのだ。

 ミタンが言う『足あと』とは、いったい? 考えるよりも先に、アウィーは恐ろしい結末を想定した。

 しかし、どこかで冷静だったアウィーが、慰めるように囁く。

 いいや、よく考えてみよう。昨晩、アウィーとマチルチ以外に、誰もこの部屋には来なかったのだ。仮に魔法みたいにゲッネの足あとを残していたとしても、必ずマチルチの足あとも残っているはず。

 思考をフル回転させたアウィーは、震える自らの体を必死に抱いた。
 仕方がない。こうなっては、筋書きを変えるしかないだろう。【マチルチに襲われていたところを、ゲッネが助けに来てくれた】と。


「ミタン、聴いて? 実は私、昨日の夜中に──」


 想定していた未来とは違うが、こうなってしまっては仕方がない。結果的にゲッネを掌握できる道が残っているのなら、そちらに舵を切るしかないのだから。アウィーは筋書きをハッキリと決め、友人であるミタンに縋ろうとした。

 アウィーは期待を込めて、床に視線を向ける。二人分の足あとを、その両目で目視するために。

 ──しかしアウィーは、愕然とするしかなかったのだ。


「そ、んな……っ」


 ──小さな足あとしか残っていない現実に、絶望した。

 床に残された足あとは、どう見ても子供のもの。どう足掻いても、成人男性──マチルチの足あとだとは、告発できない。

 そして、その足あとは? ……注文通り、廊下まで続いている。

 ──つまり。


「──この足あと、ゲッネの部屋からのびてるぞ!」


 床に刻まれた足あとは、言い逃れなんてできないほどに【虚偽の犯人】を作り出していた。


「──なっ、なんで、俺の部屋に……っ?」


 ──ゲッネが犯人だ、と。痛烈なほどに、施設内全員に伝えていたのだ。

 そしてその日、ゲッネは友人を失った。




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