65 / 78
【足あと売りのアシ】
【朝・7時57分】
しおりを挟む朝食の時間は、七時三十分。全員で集まってから『いただきます』を言う。これも、施設内のルールだった。
それなのに、アウィーが一向に食堂へ来ない。規則を破るような子ではないと周りからの評価も高いがゆえに、アウィーの行動は謎を呼んだ。
不思議に思ったミタンは友人代表としてアウィーを呼びに、食堂からアウィーの部屋へと向かった。
そこでミタンは、目の当たりにする。
「──キャァアアッ!」
──あまりにも悲惨な、アウィーの姿を。
ベッドは激しく乱れ、それ以上に、アウィーの衣服が無残なほどに乱れている。叫んだミタンがいくら色恋沙汰に疎くたって、これだけは分かった。
──アウィーは何者かに【乱暴】された、と。
誰がどう見ても、そう推測できてしまうほどに。アウィーのベッドとアウィー自身は、酷いありさまだったのだ。
アウィーは虚ろな瞳で、叫ぶミタンを見つめる。そして、アウィーは気付いた。
そうだ。今すぐミタンに昨晩のことを話せば、きっとミタンは昨日の朝と同様に、大きな声で叫んでくれるはずだろう。マチルチという男を、糾弾するための言葉を。
アウィーはなんとか上体を起こし、ミタンに近寄ろうとした。
しかしそこで、アウィーは気付いてしまう。
──己の過ちに、気付いてしまったのだ。
「──この足あとが犯人だよッ!」
いつの間にか食堂から集まっていた子供たちに向かって、大粒の涙を零すミタンはそう叫んでしまったのだ。
ミタンが言う『足あと』とは、いったい? 考えるよりも先に、アウィーは恐ろしい結末を想定した。
しかし、どこかで冷静だったアウィーが、慰めるように囁く。
いいや、よく考えてみよう。昨晩、アウィーとマチルチ以外に、誰もこの部屋には来なかったのだ。仮に魔法みたいにゲッネの足あとを残していたとしても、必ずマチルチの足あとも残っているはず。
思考をフル回転させたアウィーは、震える自らの体を必死に抱いた。
仕方がない。こうなっては、筋書きを変えるしかないだろう。【マチルチに襲われていたところを、ゲッネが助けに来てくれた】と。
「ミタン、聴いて? 実は私、昨日の夜中に──」
想定していた未来とは違うが、こうなってしまっては仕方がない。結果的にゲッネを掌握できる道が残っているのなら、そちらに舵を切るしかないのだから。アウィーは筋書きをハッキリと決め、友人であるミタンに縋ろうとした。
アウィーは期待を込めて、床に視線を向ける。二人分の足あとを、その両目で目視するために。
──しかしアウィーは、愕然とするしかなかったのだ。
「そ、んな……っ」
──小さな足あとしか残っていない現実に、絶望した。
床に残された足あとは、どう見ても子供のもの。どう足掻いても、成人男性──マチルチの足あとだとは、告発できない。
そして、その足あとは? ……注文通り、廊下まで続いている。
──つまり。
「──この足あと、ゲッネの部屋からのびてるぞ!」
床に刻まれた足あとは、言い逃れなんてできないほどに【虚偽の犯人】を作り出していた。
「──なっ、なんで、俺の部屋に……っ?」
──ゲッネが犯人だ、と。痛烈なほどに、施設内全員に伝えていたのだ。
そしてその日、ゲッネは友人を失った。
20
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる