短編集[作:ヘタノヨ コヅキ]

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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【足あと売りのアシ】

【深夜・23時34分】

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 約束の時間が近付く。
 いつもなら眠っている時間だとしても、アウィーは気持ちが高鳴ってどうしようもなかった。

 全く、眠れそうにない。ベッドの上でじっと息をひそめ続けるアウィーは、明日の朝がとにかく待ち遠しかった。

 そんな中、かすかな物音が聞こえてくる。アウィーはそっと、意識を研ぎ澄ました。
 もしかして、足あと売りがやって来たのか。アウィーにはそう思える根拠があった。

 この時間に、廊下を歩く者はいない。消灯時間になったら全員、自分の部屋から出てはいけないという施設内のルールがあるからだ。

 しかし、物音は廊下から聞こえた。規則のことを考えると、アウィーに思い浮かぶ犯人候補は足あと売りのアシしかいない。

 確か『誰も現実世界で姿を見たことがない』というミステリアスな面があったはず。アウィーは目を閉じたまま、ミタンが語っていた噂話を思い出した。

 相手がアウィー──少女だと思い、気が緩んでいるのかもしれない。昨晩はプロ根性が云々と言っていたくせに、聞いて呆れる。アウィーは内心でため息を吐いた。

 しかし作業風景を見てしまったら、へそを曲げてしまうかもしれない。アシという少年に対して、アウィーは『ちょっと変わっている人だった』という印象を抱いている。

 ここは無難に、気付いていないフリをしてあげよう。足あとを届けてもらわないと、全ての計画が狂うのだから。アウィーはそっと、目を閉じた。

 物音は次第に、アウィーの部屋へと近付く。そしてアウィーの予測通り、謎の物音はアウィーの部屋の扉をそっと開いた。

 さて。【足あとを残す】という作業は、果たしてどのくらい時間がかかる業務なのだろう。あまり長引かれると気疲れしてしまうなと、アウィーは考える。

 好奇心から目を開いてしまっても大丈夫なように、アウィーは一度だけ身じろぎ、毛布を目深に被ろうとした。

 ──しかし、その瞬間。


「──っ!」


 ──毛布を握るはずだったアウィーの手が、何者かに握られた。

 アウィーはほんの一瞬【起きていたという事実だけ】で、アシを怒らせたのでは、と。そんな危惧をする。
 しかし、違った。そんなもの、杞憂にすらなり得ない。

 なぜなら──。


「──し、静かにしてくださいね、アウィー……っ」


 ──手を掴んできたのは、アシではないのだから。

 かと言って、夢描いていた理想の少年──つまり、ゲッネでもなかった。そもそも、アウィーの手を掴むこの手は【少年の手】ではない。

 この、手は……。


「──マ、マチルチ……施設、長……っ?」


 成人男性の、大きな手。……マチルチ施設長のものだった。

 どうして。なんで。そんな疑問は、全く意味をなさない。
 瞬時にそう理解したアウィーは、大声で叫ぼうとした。

 しかし──。


「お口チャック、しましょうねぇ……っ?」
「んぐ、っ!」


 すぐに、アウィーの口はガムテープで塞がれた。
 そのままマチルチは、下卑た笑みを浮かべながら毛布を剥がし始める。


「今日は、誰もここには来ない。ねぇ、そうでしょう? だから、へへっ。絶好のチャンスだと思いましてねぇ……っ?」
「んんっ、んーっ!」
「大丈夫、大丈夫ですよ? 痛くはしませんから……ねぇ?」


 ──誰か、助けて。そのたった一言すら、アウィーには紡ぐことができなかった。 




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