短編集[作:ヘタノヨ コヅキ]

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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【俺のカノジョは超一途】

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 叶という女子生徒は、校内でもトップを張れるほどの美少女だ。

 目はパッチリとしていて、口元はいつもにこやかに緩んでいる。なんとも、第一印象から明るく人懐っこそうなイメージを与えてくれる愛らしい容姿だと思う。

 長い黒髪を普段は下ろしていて、個人的にはそんなところが好印象だ。稀に髪を結っている日もあるが、それもそれでありがたい。長髪好きの俺としては、いつも本当にありがたい存在だ。

 背は同年代に比べるとやや低めだが、一部分の発育はご立派そのもの。男女問わず、視線は顔より下に向きがちだった。

 だが俺は、叶の真っ直ぐな目が特に好きで。だからよく、叶の目を見ていた気がする。


なかば先輩、こんにちは。今日はなんの本を読んでいるのですか?』


 ただ本を読んで、ダラダラ過ごすだけの部活。活動らしい活動なんて年に一度、学校祭に向けて小説やら詩やらを書いて製本し、頒布するのみ。たったそれだけの、あまりやり甲斐はない部活動。

 そんな地味すぎる文芸部に、叶は入部した。そして事あるごとに、俺が読む本や俺が書いた作品に興味を持ってくれたのだ。

 俺はそれが嬉しくて、読んだ本の感想や書いた作品に関する裏話や想いを語っていたのだが……そうするとまた、叶の目が輝くから。だから俺は、叶と過ごす時間が結構好きだったのだ。

 そんな叶と部活動を共にするようになって、数ヶ月後。三年の先輩たちが文芸部を引退した翌日に、俺はふたつのことに気付いた。


『──央先輩、好きです。私を、央先輩のカノジョにしてくれませんか?』


 ひとつは、叶苗という後輩が俺のことを好きだという嬉しい事実。
 そして、もうひとつは。


『──こんな俺がカレシでも、いいなら』


 俺こと央そらが叶に向けている感情もまた、好意だったということだ。

 こうして俺と叶は、晴れて恋人同士になったのであった。……これが、つい二日前の出来事だ。

 それから、二十四時間後。叶と恋人になった翌日──つまり、昨日の放課後。俺は、叶が俺以外の男とキスしている場面を見てしまった。
 しかも、一回ではない。まさかの、二回だ。俺は二度目の現場を目撃した後、なにも言えずにその場から走り去ってしまった。

 叶が俺に告げてくれた『好き』という二文字は、その程度だったのか。アイツが俺に向けてくれていた好意は、こんなにも脆いものだったのか、と。俺は一晩中、叶の気持ちを考えていた。

 そうして迎えた、翌日の放課後。つまり、今現在。


「「……」」


 俺はと言うと、叶になにを言えるでもなくただただ、部室の中で二人きりの時間を過ごしていた。

 普段は読まない恋愛小説なんぞを読んで、現状に対するヒントを得ようとしたものの……まぁ、それは無理な話で。なにもできず、そもそもなにをしたいのかも分からないまま、俺は黙って読書を続ける。読書を続けるしか、できなかった。

 しかし、よく考えてみるとこれはいつも通りの放課後だ。叶が話しかけてこない限り、俺は自発的に声をかけるなんてしなかった。

 だと言うのに、昨日見た衝撃的シーンのせいで【いつもの放課後】がこんなにも気まずいなんて。他者との交流を活発に取っていたわけではない俺としては、誰かとこんな気まずさを感じるなんて初めての経験だ。

 ……いや、待てよ? 俺が話しかけないのに、俺と叶がよく話していた理由はなんだ? 俺たちが恋人になれるほど交流を重ねられたのは、叶のおかげだろう?

 となると──。


「──訊かないんですか、先輩。どうして私が、央先輩以外の人をキスしていたのかを」


 やはり、こうなるのか。叶は普段通り、口角を薄く上げて俺に声を掛けた。

 いつだって、俺たちの会話は叶から始まる。ならば、今日だって例外ではないのだ。

 叶が昨日の出来事に対して、まるで悪びれるような素振りを見せないとしても。




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