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【俺のカノジョは超一途】
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しおりを挟む本を撫でていた俺の指が、ピクッと跳ねる。
叶への返答として瞬時に思い付いた選択肢は、ふたつ。誤魔化すか、認めるか。指以外を咄嗟に動かせないまま、俺は選択肢の中から……。
「──俺が見ちまってたって、気付いてたのか?」
後者を、選んだ。
本から顔を上げた俺と目が合っても、やはり叶の笑顔は普段通りだった。
「えぇ、気付いていました。先輩、足音が大きいんですもん」
「そ、そうか。それは、悪かった」
「どうして先輩が謝るんですか? たぶんですけど、央先輩はなにも悪いことをしていませんよ?」
「そう、なのか? ……いや、そうかもな」
言われてみると、それはまぁ、確かにそうなのだが。叶の笑顔を見ながら、俺は本を閉じた。
「随分、堂々としてるんだな。カレシに、浮気現場を見られたのに」
「『浮気現場』ですか? ……そっか。央先輩は、あれを【そう】捉えるんですね」
なぜだろう。叶の態度が【開き直り】ではなく、どこか妙な違和感を纏ったものに見えるのは。
俺がどう捉えるかという限定的な話ではなく、前提問題として、叶の取った行動は【浮気】のはず。
それなのに、叶はなにを言っている? これではまるで、叶にとって【恋人以外とのキスは浮気ではない】というトンデモ理論が展開されているような……。
「──でも私、央先輩とはキスしませんよ。だって、央先輩のことだけは大好きですから」
どうしたものか。理解ってやつが、仕事をしてくれない。
堪らず俺は、自分のこめかみをトントンと指で叩いてみた。頭に刺激を与え、どうにか叶の主張を理解するために。
そんな俺が滑稽だったのか、はたまた愉快だったのか。叶はなぜか、ほんのりと嬉しそうに目を細めた。
「私に『浮気現場』って言うのに、央先輩は『別れよう』とは言わないんですね」
「それは、そうだろ。まだ俺は、叶から事情を聴いてない」
「それって裏を返せば、央先輩は私に『なにかあった』と思ってくれている。私があっさりと浮気をするようなクズ女だとは思っていない、ということですよね」
「一応、俺の中の叶はそういう女の子だからな」
だから、理解できない。なんで叶は、俺以外の男とキスなんて──。
「──だから私は、央先輩が大好きです」
……こいつは、驚きだ。この状況でまさか、俺の胸がドキドキと高鳴るとは。微笑んだ叶から視線を逸らし、赤くなりかけた頬をどうにか冷ます。
すると、叶は俺を見たままか、若しくは視線を外したのか……ポツポツと、語り始めた。
「央先輩は小学生の頃、クラスの子たちが【間接キス】で盛り上がっているのを見たことがありますか?」
俺の理解を、そもそも叶は求めていないのだろうか。思わずそう疑ってしまいそうになるほど、叶が選んだ話題は突拍子もないものだ。
「同じストローを使っただけで、大はしゃぎ。箸やスプーンを共有しただけで、大盛り上がり。……私はアレ、大嫌いだったんです」
もう一度、叶に目を向ける。
そこで俺は、ふたつの発見をした。……つまり、気付いたことがあるのだ。
「気持ち悪くて、吐き気がして……。間接キスで騒ぐ人たちに共感できなくて、とてもとても不愉快でした。だってそうじゃないですか? たかが、間接的に唇が触れただけ。それのどこが面白いんです? それのどこが、楽しいんですか?」
ひとつは、叶が意外にも冷たい人間で。
「だから昨日の放課後、私は【嫌がらせ】を目的として、あまり話したこともない男の人にキスをしました」
ことキスに関しては、悲しくなるほど冷めた感性の持ち主だということだ。
「ほら、よく考えてみてください。みんなは【誰がストローに口を付けたか】は気にするけど、そもそもの【ストロー自体】には興味を持たないじゃないですか」
「つまり、叶にとって叶の口は【ストローと同じ】ってことか?」
「それはさすがに語弊がありますけど、そうですね。私はきっと、大前提に【キス】という行為に関心はおろか興味もないんだと思います」
前述した通り、俺には発見がふたつあった。
その、もうひとつと言うのが……。
「……そっか」
どれだけ叶の思想が冷めていようと、口にした理論がとんでもなかろうと。
そんな叶のことが、やはり俺は好きなままだということだ。
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