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【俺のカノジョは超一途】
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しおりを挟む俺以外の男とキスをしていた理由を、叶は続けて語った。
「私、男の人って嫌いなんです。顔が可愛い女の子にデレデレして、胸が大きかったら露骨にそこばかり見て、汚い欲求を隠そうとしているくせに駄々漏れで。だから、憂さ晴らしをしているんです。私が大嫌いな【間接キス】で」
「憂さ晴らし、か」
「えぇ、そうです。……愉快ですよ? キスをした後に『私はあなたとキスをする前に、別の男の人とキスをしました。これで、あなたはあなたが知らない男と間接キスをしましたね』と伝えた後の顔は。どうせなら昨日、そこまで見届けてから去ってほしかったです」
なるほど。本人からの説明でようやく、叶が取った行動の理由が分かってきた。
「だから、央先輩とはキスをしません。私にとって、キスは遊びです。でも、私は央先輩に対して本気ですから。だから私は、央先輩とはキスをしません」
微笑んでいた叶の表情に、暗い影が差す。
「それに、央先輩は私だけの央先輩です。私とキスをしてしまったら、央先輩は他の人と間接キスをしてしまいます。そんなの、嫌に決まっているじゃないですか」
美人の真顔は、恐ろしい。今、身をもって知った。
暗い瞳で俺を見つめる叶は、俺を揶揄っているわけでも騙そうとしているわけでもないらしい。叶の話は全部本気で、叶は自分の価値観を信じているのだ。
だから俺は、一先ず最も気になる点を口にした。
「なんで、俺のことはそんなに本気でいてくれるんだ? 俺だって、叶にとったら【大嫌いな男】なんじゃ──」
「──ッ! 冗談でもそんなことを言わないでくださいッ! 央先輩は違いますッ!」
……なんということだ。さすがに驚いたぞ、これは。
「央先輩は私の目を見てくれました! 央先輩は私と話す時、央先輩の好きなものの話をしてくれました! 私といい雰囲気になろうとか、必要以上に物理的な距離を詰めようとか、そんなことしなかったんです! 下心まみれで汚い他の男と一緒にしないでください!」
叶の怒鳴り声なんて、初めて聞いた。俺は思わず目を丸くしてしまいながらも、叶を見る。
「お、おぉ? そ、そっか?」
「あっ。……す、すみません。取り乱し、ました」
「いや、その。……えぇっと、そうだな。ありがと、な?」
「いえ。お礼を言われるような話では……」
俺の態度を受けて我に返ったのか、叶が唐突に恥じらい始めてしまった。
「と、とにかく。私にとって央先輩だけは、特別なんです。だから、周りが娯楽として提唱しているキスはしません。私は央先輩にとって、誠実な女性でいたいんです」
叶の弁明、と言うより思想を聴き遂げた俺は、腕を組んで目を閉じる。
どうやら俺と叶は、根本的な部分で【キス】という行為に対する価値観が違うらしい。だが一先ず、そこは置いておこう。そこにガミガミと噛みついていると、たぶんこの話は平行線だ。ヘタすれば、関係性だって悪化する。
つまり……一度整理すると、だ。
叶にとってキスは浮気でもなんでもなく、むしろ『なにがそんなに大事なのか分かりません』ということらしい。驚愕だが、これが事実だ。そんな価値観の人間がいることに本気の本心から驚愕だが、現実として目の前にこうしているのだから、納得しよう。
しかし、そこでなにが困るのかと言うと? そうだな、問題がふたつあるよな。見つけてくれたか?
ひとつは当然ながら、叶がこれからも俺以外の男とキスをする可能性があるということだ。そんなもの、フツーに嫌だろ。
叶は俺のカノジョなんだぞ? なにが楽しくてカノジョの唇を他の野郎に吸わせてやらにゃならんのだ。
それと、もうひとつ。
「──それでも俺は、叶には『俺とだけキスをしてほしい』って思うぞ」
シンプルに、俺は叶のことを守りたいし、独り占めだってしたい。叶のことが、本気で好きだからだ。
となれば、どうなる? ……そう。
「……えっ? な、なんでそうなるんですか? それって、つまり……央先輩にとって私は、遊びってことなんですか……っ?」
──【キス】という行為に対する解釈の不一致で、交際して初めての喧嘩が勃発だ。
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