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1話【死後生命保険加入】
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前略。一ヶ月前、秋が始まった頃。
俺――山瓶子麒麟はリビングデッドになった。
……おそらくこれは経緯を略してはいけないと思うので、詳細を表記しよう。
全容は、こんな感じだ。
人間とそれ以外の他種族が暮らす街。そんな街に住む山瓶子麒麟……つい数週間前に腱鞘炎を患い絶賛不調中な俺には、保険会社で勤める友人がいた。
俺は決して、保険に無頓着というわけではない。だからこそ生命保険とがん保険、火災保険や車両保険……色々と人間が生きていくうえで必要そうな保険の説明を受けていた、ある日のこと。
「『ノルマ達成の為に契約してほしい』?」
言われたことを復唱すると、友人――女妖精【バンシー】という他種族である半司鷭は慌てて自分の口元に指を押し当てる。
「しーっ! そ、そんなに大声で言わないでよ!」
「ム、すまない」
昨今、保険について何かと厳しい世の中だからな。客がノルマ達成を強要されていると誤解させてしまう発言だっただろう。圧倒的に俺のミスだ。
つられるように声を潜めると、鷭が一枚のパンフレットを手渡してきた。素直に受け取り、目を通す。
「『【種族・人間限定】死後生命保険』?」
他種族にも保険というものは適用される。
あまり詳しくはないが、例えばそう……スライムが不慮の大雨に打たれた時、膨大な水分を吸って肥大化した体を病院で安全に治療してもらう保険とか、ケンタウロスが公道を走って車とぶつかった時に適用される車両保険ならぬケンタウロス保険とか。
体の作りが全く違う他種族の目線に合わせた、他種族ならではの保険だ。
だから別に【人間限定】と書いてあるのは不思議なことじゃない。
ただ、その後の名称が――不穏だ。
「死後なのに、生命保険……詐欺か?」
「そんなもの勧める保険会社があるわけないでしょ! よく読んで!」
「ム……」
百聞は一見に如かず。まずは読もう。鷭に見守られる中、俺は数分かけてパンフレットを上から下までしっかりと読み込んだ。
そして確認後、口を開く。
「なるほど。契約した人間を死後、リビングデッドにして第二の生を保証する保険か」
「そ! 突然、不慮の事故で死んじゃっても後悔しないようにって、一回だけ人生をリトライできる保険、みたいな?」
「なかなか不道徳的な保険だな」
「アンタは相変わらず歯に衣着せぬ物言いね……」
詳しく読むと、協力してくれるのはデュラハンとリビングデッド、そして天使らしい。――いや、天使よ……それでいいのか。
メカニズム的には、デュラハンが死者の魂を現世に留まらせ、その間にリビングデッドが死体に牙を立て、自身の仲間になるよう感染させるらしい。人間がリビングデッドに噛まれたら仲間になるとは知っていたが、死体にも適用されるのか……なるほど。
そしてその人間の運命を弄って第二の生を送れるように手続きするのが天使……というわけだ。
フム……なかなかに不道徳的。
「保険料は契約時に十万払うだけ! その後は何にも取られない、良心的な価格だと思うわよ?」
パンフレットに小さく書いてある文字を読むと……なるほど、その保険料――収益は、天使協会に入るのか。人の命を司っているであろう天使が良しとしているのなら、良しなのかもしれない。
――いや、天使よ……それで本当にいいのか?
俺――山瓶子麒麟はリビングデッドになった。
……おそらくこれは経緯を略してはいけないと思うので、詳細を表記しよう。
全容は、こんな感じだ。
人間とそれ以外の他種族が暮らす街。そんな街に住む山瓶子麒麟……つい数週間前に腱鞘炎を患い絶賛不調中な俺には、保険会社で勤める友人がいた。
俺は決して、保険に無頓着というわけではない。だからこそ生命保険とがん保険、火災保険や車両保険……色々と人間が生きていくうえで必要そうな保険の説明を受けていた、ある日のこと。
「『ノルマ達成の為に契約してほしい』?」
言われたことを復唱すると、友人――女妖精【バンシー】という他種族である半司鷭は慌てて自分の口元に指を押し当てる。
「しーっ! そ、そんなに大声で言わないでよ!」
「ム、すまない」
昨今、保険について何かと厳しい世の中だからな。客がノルマ達成を強要されていると誤解させてしまう発言だっただろう。圧倒的に俺のミスだ。
つられるように声を潜めると、鷭が一枚のパンフレットを手渡してきた。素直に受け取り、目を通す。
「『【種族・人間限定】死後生命保険』?」
他種族にも保険というものは適用される。
あまり詳しくはないが、例えばそう……スライムが不慮の大雨に打たれた時、膨大な水分を吸って肥大化した体を病院で安全に治療してもらう保険とか、ケンタウロスが公道を走って車とぶつかった時に適用される車両保険ならぬケンタウロス保険とか。
体の作りが全く違う他種族の目線に合わせた、他種族ならではの保険だ。
だから別に【人間限定】と書いてあるのは不思議なことじゃない。
ただ、その後の名称が――不穏だ。
「死後なのに、生命保険……詐欺か?」
「そんなもの勧める保険会社があるわけないでしょ! よく読んで!」
「ム……」
百聞は一見に如かず。まずは読もう。鷭に見守られる中、俺は数分かけてパンフレットを上から下までしっかりと読み込んだ。
そして確認後、口を開く。
「なるほど。契約した人間を死後、リビングデッドにして第二の生を保証する保険か」
「そ! 突然、不慮の事故で死んじゃっても後悔しないようにって、一回だけ人生をリトライできる保険、みたいな?」
「なかなか不道徳的な保険だな」
「アンタは相変わらず歯に衣着せぬ物言いね……」
詳しく読むと、協力してくれるのはデュラハンとリビングデッド、そして天使らしい。――いや、天使よ……それでいいのか。
メカニズム的には、デュラハンが死者の魂を現世に留まらせ、その間にリビングデッドが死体に牙を立て、自身の仲間になるよう感染させるらしい。人間がリビングデッドに噛まれたら仲間になるとは知っていたが、死体にも適用されるのか……なるほど。
そしてその人間の運命を弄って第二の生を送れるように手続きするのが天使……というわけだ。
フム……なかなかに不道徳的。
「保険料は契約時に十万払うだけ! その後は何にも取られない、良心的な価格だと思うわよ?」
パンフレットに小さく書いてある文字を読むと……なるほど、その保険料――収益は、天使協会に入るのか。人の命を司っているであろう天使が良しとしているのなら、良しなのかもしれない。
――いや、天使よ……それで本当にいいのか?
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