リビングデッドと雪男

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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3話【入院生活】

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 それでは、リハビリ生活一ヶ月後の今日に話を戻そう。

 前略……と言いながら経緯は全て説明したが、とにもかくにも一ヶ月前、俺――山瓶子麒麟はリビングデッドになった。

 一ヶ月のリハビリで、完璧に人間の頃と同じ生活ができるかどうかと問われると……自信はない。

 だが、歩行できる。階段の上り下りも可能だし、物も持てるようになった。事務仕事だから、タイピングと電話さえできれば問題ないだろう。それ以上のスキルはちょっとずつ磨いていこう。


「馬男木先生……一ヶ月間、お世話になりました」


 事故から一ヶ月経ち、季節は冬に変わった。

 病室から出る前、リビングデッドとして今後の通院スケジュールを確認した俺は、説明を終えた馬男木先生へ頭を下げた。

 頭を上げると、相変わらず落ち着きのない馬男木先生が視界に入る。


「と言っても、週に一回は通院するのでこれからもお世話になりますが」
「そ、そう、ですね……えっと、ボクが勤め続けている限りは……ずっと、お世話、します……っ」
「それは心強いですし、馬男木先生なら安心です」
「っ、あ、は、はい……っ」


 どうしたのだろう。粉雪が水滴に変わっている。保冷剤を用意し忘れたとか……だろうか。

 リビングデッドになったことで腱鞘炎は見事完治したのに、病院とは一生お付き合いしないといけないが……生きているだけいいだろう。

 そこで不意に、保険加入を勧めてきた友人が思い出された。

 死の予告……叫ぶことはバンシーの習性だから、殺意があったわけじゃないと知っている。決して、鷭を責めるつもりはない。


「また一週間後に、よろしくお願いします」


 物思いに耽りかけた思考を一旦現実に戻し、久し振りの我が家に戻ろうと歩き出した。

 ――その時だ。


「山瓶子麒麟、さん」


 突然、馬男木先生が俺を呼んだのは。


「貴方は、他種族に嫌悪感を持たない……素敵な人、です。だけど今の貴方は……他種族、です」
「……はい」
「中身が全く変わっていなくても、世間――人間から向けられる視線は……変わってしまうと思います。仲のいい友人や、同僚や先輩や後輩……その全てが、例外ではありません」
「理解しています」


 両手でカルテを抱くようにして握る馬男木先生が、真っ直ぐに俺を見上げる。

 その赤い瞳は……いつものように、揺れていない。


「だけど、忘れないでください。……ボクは、貴方の味方です。誰が何と言っても、ボクは貴方の理解者でありたい」


 俺より小さな歩幅でゆっくりと近付いて、正面に立つ。

 普段は全く合わない視線が珍しく……もしくは初めて重なり、何故だか胸の辺りがソワソワと落ち着かない。


「何でも相談してください。一人で抱え込まないで……一緒に、頑張りましょう」


 それはきっと、馬男木先生にとったら何回目か分からない常套句だろう。何故なら彼は、医者だから。そんなことくらい、俺にも分かってる。

 ――なのに、俺は……。


「はい。ありがとうございます、馬男木先生」


 ――止まった筈の鼓動が跳ね上がりそうなほど、嬉しかった。

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