7 / 49
3話【入院生活】
2
しおりを挟む
リハビリは、かなり過酷なものだった。
一応言っておくが、リビングデッドには疲労がない。だからこれは身体的な意味での【過酷】ではなく、精神的な意味での【過酷】だ。
意識を失う直前――人間だった時は普通に歩けた筈なのに、勝手が全然違う。足が痺れた時よりもっとたちが悪い。何度も馬男木先生や近くに居た別の誰かに手を貸してもらった。
それでもリハビリを頑張らないと、社会復帰できない。まずは一週間以内に一人でリハビリルームに辿り着ける程度の歩行が目標だ。
食事は必要ないと言われたが、リハビリも兼ねて用意してもらった。スプーンとか箸を使って、指先の特訓だ。
「無痛症の気持ちが凄く分かる」
知り合いにそんな症状を持つ人はいないが、いたら絶対優しくする。ゾンビとリビングデッドの知り合いができたり、会社でそんな後輩が入ってきたりしたら物凄く甘やかす。今の俺はそんな気分だ。
「む、無理はしないでくださいね……っ」
弱音のつもりはないが、思わず独り言を言っても馬男木先生は嫌な顔をしない。そばに居る時は凄く励ましてくれるし、困っていたらすぐに手を差し伸べてくれる。まさに、医者の鑑だ。
主治医なこともあり、馬男木先生とは色々話した。
「馬男木先生って、夏はどうやって過ごしてるんですか」
リハビリを始めて数日目……リハビリルームへの移動中、車椅子を押してくれる馬男木先生に、そんなことを訊いてみる。
馬男木先生が歩く度に、細かい雪がハラハラと降ってくるが冷たくはないので気にしない。綺麗だから若干、車椅子が特等席な気もしている。なかなか俺はポジティブかもしれないな。
俺の質問に、馬男木先生がオロオロしながら答える。
「えっと、その……こ、この白衣……特注で。う、内側に……その、いっぱい……ポケットが、ありまして」
「フム」
「そ、そこに……その、えっと……ほ、保冷剤を、入れてます」
やはり夏はそのままだと溶けてしまうのか。ちなみにこの会話をした時の季節は秋だから、そんな心配はないのだろう。……いや、時々ゴトゴト聞こえる。院内は暖房が効いているから、今も保冷剤を常備しているのだろう。難儀だ。
「なるほど……スーツとかは濡れたりしないんですか」
「服は、全部……特注、です。内側が、えっと……濡れないように、ゴム製で」
他種族に優しい街ならではだ。そんな服をオーダーメイドできる店があるのか。
リハビリルームが見えて来た時、俺は馬男木先生の顔を見上げた。
「見た目、自分で変えられるんですよね。……その容姿って、馬男木先生の趣味ですか」
「えっ、あ……試行錯誤の、結果と言いますか……へ、変、でしょうか……」
馬男木先生が眉を八の字にしている。今のはちょっと失礼な質問だったかもしれない。
だから俺は嘘もお世辞もない、ありのまま思っていることを伝えた。
「いえ。綺麗だと思います」
「…………ッ! き、きれ……あ、や、えっと……っ」
チラチラと舞っていた雪が、形を変える。
「た、体温を、上昇させないでください……と、融けます……っ」
なるほど、溶けるのか。どうやら雪が形を変えて水滴に変わったのはそういうことらしい。
馬男木先生はオドオドしているけれどとても真面目だ。そして、照れ屋でもある。
一応言っておくが、リビングデッドには疲労がない。だからこれは身体的な意味での【過酷】ではなく、精神的な意味での【過酷】だ。
意識を失う直前――人間だった時は普通に歩けた筈なのに、勝手が全然違う。足が痺れた時よりもっとたちが悪い。何度も馬男木先生や近くに居た別の誰かに手を貸してもらった。
それでもリハビリを頑張らないと、社会復帰できない。まずは一週間以内に一人でリハビリルームに辿り着ける程度の歩行が目標だ。
食事は必要ないと言われたが、リハビリも兼ねて用意してもらった。スプーンとか箸を使って、指先の特訓だ。
「無痛症の気持ちが凄く分かる」
知り合いにそんな症状を持つ人はいないが、いたら絶対優しくする。ゾンビとリビングデッドの知り合いができたり、会社でそんな後輩が入ってきたりしたら物凄く甘やかす。今の俺はそんな気分だ。
「む、無理はしないでくださいね……っ」
弱音のつもりはないが、思わず独り言を言っても馬男木先生は嫌な顔をしない。そばに居る時は凄く励ましてくれるし、困っていたらすぐに手を差し伸べてくれる。まさに、医者の鑑だ。
主治医なこともあり、馬男木先生とは色々話した。
「馬男木先生って、夏はどうやって過ごしてるんですか」
リハビリを始めて数日目……リハビリルームへの移動中、車椅子を押してくれる馬男木先生に、そんなことを訊いてみる。
馬男木先生が歩く度に、細かい雪がハラハラと降ってくるが冷たくはないので気にしない。綺麗だから若干、車椅子が特等席な気もしている。なかなか俺はポジティブかもしれないな。
俺の質問に、馬男木先生がオロオロしながら答える。
「えっと、その……こ、この白衣……特注で。う、内側に……その、いっぱい……ポケットが、ありまして」
「フム」
「そ、そこに……その、えっと……ほ、保冷剤を、入れてます」
やはり夏はそのままだと溶けてしまうのか。ちなみにこの会話をした時の季節は秋だから、そんな心配はないのだろう。……いや、時々ゴトゴト聞こえる。院内は暖房が効いているから、今も保冷剤を常備しているのだろう。難儀だ。
「なるほど……スーツとかは濡れたりしないんですか」
「服は、全部……特注、です。内側が、えっと……濡れないように、ゴム製で」
他種族に優しい街ならではだ。そんな服をオーダーメイドできる店があるのか。
リハビリルームが見えて来た時、俺は馬男木先生の顔を見上げた。
「見た目、自分で変えられるんですよね。……その容姿って、馬男木先生の趣味ですか」
「えっ、あ……試行錯誤の、結果と言いますか……へ、変、でしょうか……」
馬男木先生が眉を八の字にしている。今のはちょっと失礼な質問だったかもしれない。
だから俺は嘘もお世辞もない、ありのまま思っていることを伝えた。
「いえ。綺麗だと思います」
「…………ッ! き、きれ……あ、や、えっと……っ」
チラチラと舞っていた雪が、形を変える。
「た、体温を、上昇させないでください……と、融けます……っ」
なるほど、溶けるのか。どうやら雪が形を変えて水滴に変わったのはそういうことらしい。
馬男木先生はオドオドしているけれどとても真面目だ。そして、照れ屋でもある。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる