リビングデッドと雪男

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

文字の大きさ
21 / 49
6話【招待】

2

しおりを挟む
 心配そうに俺を見上げる馬男木先生へ、俺は軽く手を振ってみる。


「先日同僚に誘われまして……その時、アルコールが平気なのか答えられなかっただけです」
「な、なるほど……」


 納得してくれたのか、馬男木先生が机に体を向き直した。そのまま手を動かし、診察結果を記入する。

 ……が、何故か水滴が滴っているではないか。


「馬男木先生、暑かったら冷房効かせてもいいですよ」
「え……あ、ち、違いますよ……っ!」


 慌てた様子で髪を握り、水滴を押さえ込む。今まで何度か粉雪ではなく水が滴っている様子を見てきたけれど、恥ずかしいことなのだろうか。

 馬男木先生は後れ毛の辺りを押さえながら、視線を彷徨わせた。


「そ、その……た、試して……みます、か?」
「何をでしょう」
「ア、アルコールを……っ」


 まさか医者にアルコールを勧められるとは思っていなかったぞ。

 いや、違う。馬男木先生はそんなことを言う医者じゃない。

 おそらく……リビングデッドになって機能が低下した肝臓で、どこまで飲めるのかを試してみるかという良心からだろう。


「そんな検査もできるのですか」


 まさかそんな至れり尽くせりな診察があるのか……思わず訊ねると、今度は髪を掴む手が融けている。


「け、検査……じゃ、なくて……そのっ」


 モゴモゴと口を動かし、何かを言いかけているようだ。急ぐものでもないし、黙って待とう。

 数分間、黙って待っていると……ようやく決心がついたのか、馬男木先生が蚊の鳴くような声で呟いた。


「――飲み、の……お誘い、です……スミマセン……っ」
「馬男木先生とですか」
「ひっ! あ、あの、ご不快でしたらどうぞお断りしてくださいっ! あ、でもできれば直球ではなく、遠回しにさり気なく断っていただいた方が、その、メンタルへのダメージが少ないと申しますか、あのあのっ」
「不快だなんて、まさか」


 ただ、馬男木先生にお酒を飲むイメージが無かっただけだ。有り体に言ってしまえば『驚いた』ということで。

 そもそも、誘われるとも思っていなかった。だからなのか、妙に嬉しい。


「馬男木先生こそ、俺と飲み会……嫌じゃないですか」
「イヤなわけありません……っ!」


 おぉ、嬉しいぞ。

 何だかんだと一ヶ月ビッシリ関わっていたし、その後も週に一回は顔を合わせているわけだからな。他人と言えば他人だが、そこらの他人よりは付き合いが長くて深いだろう。


「じゃあ、付き合ってほしいです。馬男木先生の都合に合わせますので、いつか――」
「今日でも、ボクは構いません……っ!」
「いいですね。俺も、今日は空いてます」


 そんなわけで、今日はリビングデッドになって初めてのアルコール摂取だ。

 担当医に見張ってもらいながら酒を飲めるとは……他種族に優しい病院と先生だな。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

三ヶ月だけの恋人

perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。 殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。 しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。 罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。 それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

彼は当て馬だから

藤木みを
BL
BLです。現代設定です。 主人公(受け):ユキ 攻め:ハルト

処理中です...