リビングデッドと雪男

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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11話【雨】

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 暫く黙って睨み合っていると……先に雪豹さんが身じろいだ。


「お願いします。この手を、離してください」
「離したら、また水を吸うでしょう」
「当然です」
「だったら離せません」


 誰が好き好んで雪男を融けさせるものか。

 雪を吸収するように、どうやら雪男は水も吸うことができるらしい。だが、おそらくそれは自殺行為だろう。

 水分を吸収したら、きっと雪豹さんは内側から融けてしまう。そんなこと、許容できる筈がない。

 本人が一番分かっている筈なのに……何故か雪豹さんは引こうとしなかった。


「ボクはどうなったって構いません。だから、この手を離してください」
「確かに、雪豹さんは俺の担当医です。そして俺は、貴方の患者です。だけどここは病院じゃない。貴方がそこまでする必要、ない筈です」


 これは誰が聞いたって、正論だろう。

 ――だけど雪豹さんは、それを良しとはしてくれない。


「麒麟さん。……ボクは、バケモノです。貴方の言った通り、ボクはバケモノなんです」


 いつもと同じく、どこか自身の無さそうな瞳。それでも雪豹さんは引かない。
 雨に怯えているくせに、唇だって震えているのに。

 雪豹さんは、決して引かない。


「誰かを救いたくて、必死に勉強しました。だけどどんなに成績が良くたって、ボクは人間からすると他種族です。等しく、バケモノなんです。そこに学歴も性格も関係ない」


 同じ他種族になった俺だからこそ、その言葉は痛い程よく分かった。
 だけど、それは今の状況とは何の関係もない筈だ。

 ――その考えを、雪豹さんは両断した。


「――でも、貴方だけは違った」


 降りしきる雨の中、小さなその声だけが……やけにハッキリと聞こえる。


「書類を運んでいるボクに、手を差し伸べてくれた。人間じゃないボクを、対等に扱ってくれた。怖がらずに、握手を求めてくれた。貴方だけは、ボクをバケモノ扱いしないでくれた。だから……っ」


 思わず手の力を緩めると、雪豹さんはその隙を見逃さなかった。
 手を引いて、俺の濡れた服に触れる。


「だからボクは、どうなってもいい……っ。貴方が、好きだから……貴方を守れるなら、ボクは融けたっていいんです……っ」


 ――そんなの、いい筈ない。

 雪豹さんはそう言いながら、俺の服や肌に付いた水気を吸っていく。その体は依然ガタガタと震えていて、怯えている。


「――で、す」


 思わず、声が出た。


「それは、俺が……嫌、です」


 このままもし、俺の為に雪豹さんが融けたら。
 そう思うと、寒さを感じていない筈の体が……ガタガタと震えた気がした。

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