リビングデッドと雪男

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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12話【告白】

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 顔を合わせる勇気が出なくて、固く目を閉じる。

 ――だから俺は、すぐに気付けなかった。


「麒麟さん。顔を、上げてください」


 声が聞こえたから、恐る恐る目を開ける。

 ――そうして、やっと気付いた。

 ――いつの間にか……雪豹さんがその白い手で、俺の手を握っていたのだと。


「麒麟さんはこれからも――今まで以上にもっと、他種族として扱われることになると思います。これは、ボクにはどうしようもできないです。ごめんなさい」
「そんなこと――」
「でも、ボクは絶対に貴方を差別しない。ボクにとって貴方は、貴方です。人間だとか他種族だとか……そんなこと一切関係ありません」


 どのくらいの力で、俺の手を握ってくれているのかは……分からない。それが凄く、悲しい気がする。

 だけどどうしてか……それ以上に心強い気もするから、不思議でたまらない。


「ボクは、貴方が好きです。人間だったからとか、他種族に変わったからとかじゃなく……あの日、病院で声を掛けてくれたあの時から……その。ずっと、ずっと……通院している貴方を見て、慕っていました」


 同僚の言っていた『夢に出てくるのは相手が自分を想ってるから』という言葉を、今思い出さなくたっていいだろう。

 頭の片隅でどこか冷静な自分がいて、煩わしい。


「あ、で、でも。その、気持ち悪い……ですよね、ごめんなさい。あの、その……言うつもりは、なかったんですけど……えっと。スミ、マセン……っ」


 ハッキリとした口調が、いつもの自信なさげな小さいものに変わっていく。それを聴いていると『この告白は、間違いなく雪豹さんからのものなんだ』と、実感する。

 だから俺も、真摯に……俺らしく、対応したい。


「リビングデッドになって、目が覚めたあの日……俺は雪豹先生を見て、本当に、とても。……安心、しました」


 小さく震えている手を、握り返す。そうすると雪豹さんが息を呑んだものだから、思わず笑ってしまいそうになった。

 雪豹さんはいつも、分かり易すぎるくらい分かり易い反応をしていたじゃないか。気持ちを知った今、過去のやり取りを思い出すと……やはり笑いが込み上げてくる。

 口角を上げたまま、不安そうに俺を見上げる雪豹さんを見つめた。


「貴方は……化け物なんかじゃ、ない。俺にとって貴方は……素敵な、大切な存在です」


 こんなことを言う資格、俺にはないかもしれない。
 どこかで冷静な自分が……またも脳裏で思い起こす。


『夢に見るほど想ってる~ってやつ!』


 ――それなら、随分とロマンチックだな。


「――俺も、雪豹さんが好きです」


 リビングデッドになった俺の心臓は、もう自分では動かせないけれど。

 ――今だけは、早鐘を打った気になってもいいだろうか。

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