BL短編集[作:ヘタノヨ コヅキ]

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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【恋バナ】

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 タカユキの微笑みを受けて、アツシは腕から手を離す。


「……まぁ、タカユキさんは、違ったみたいですけど」


 そう言い、アツシは瞳を伏せた。『落ち込んでいる』と言うより、アツシの目は『拗ねている』ようで。


「もしかして、僕はあなたを傷つけてしまいましたかね?」
「そうですね。俺の純情なハートはバッキバキです」
「それは、僕が『初恋なんて疾うの昔に終わっている』と言ったのに対し、あなたの初恋が高校生の頃だったからでしょうか?」
「……そういうところですかね」


 頭にタオルを乗せたまま、アツシは項垂れた。


「別に、いいですけどね。タカユキさんの初恋が俺だとか、そんなメルヘンすぎる展開は期待していませんでしたから」
「でしたら、機嫌を直してくれませんか? ほら、芸能人の初恋トークでもどうです? なかなか愉快ですよ?」
「それって、基本的に失恋しているからじゃないですか?」


 完全に、アツシは拗ねてしまっている。
 タカユキはソファの前へ移動し、アツシの隣に腰を下ろした。


「そんなに落ち込まないでくださいよ。初恋なんて、結局は過去のことではありませんか」
「こっちは現在進行形なのですが」
「それは……。……純情ですね」
「言葉に詰まった挙句、愛想笑いを向けられる方がしんどいです」


 なにを言ったところで、アツシの機嫌は直らない。
 そもそも、こうして拗ねているアツシを見て、タカユキは楽しんでいる。そんな相手が、アツシの機嫌を直せるはずがないのだ。

 しかし、こうして拗ねたままでいられると困るというのも事実。なぜならこの場には、タカユキとアツシしかいないのだから。

 タカユキはポンと手を叩き、柔和な笑みをアツシに向ける。


「明日は休日ですし、映画でも見ませんか? 気を落としていないで、楽しく夜更かししましょうよ」
「……ちなみに、どんな映画ですか?」
「人と人とが騙し合い殺し合う、精神と肉体を極限まで痛めつける年齢制限尽きのグロテスク──」
「タカユキさんって、人を慰めるのが壊滅的にヘタですね」


 どうやら、外したらしい。
 アツシは大袈裟なほどわざとらしいため息を吐き、タオルを掴んだ。


「だけど、夜更かしには賛成です。なので、別の映画にしていただけると嬉しいです」
「映画でいいのですか?」


 タオルを肩にかけた後、アツシは眉を寄せた。


「それ以外になにもないじゃないですか。タカユキさんの家って、ゲーム機とかひとつもないですし」
「それもそうですね、失礼いたしました。お詫びに、なにか飲み物を用意しましょう」


 タカユキは小さな笑みを浮かべ、立ち上がる。
 そのまま冷蔵庫へ向かうのだろうと、アツシは特段タカユキの行動を気にも留めずに、意味もなくテレビを眺めた。

 すると、隣から移動したタカユキが、どことなく声を弾ませながらアツシへ訊ねる。


「それとも、お詫びに別のトークテーマでお話でもしましょうか?」


 タカユキのことだ。きっと、ろくでもない話題だろう。
 直感的にそう気付いたアツシは、タカユキを振り返る。


「いえ──」


 ──結構です。

 そう、アツシが言い切る前に。


「──【初恋の相手】については、生憎と語れませんが。……【今好きな男】についてなら、いくらでも語れますよ?」


 【恋人】の涼やかな目が、アツシの動揺を映した。

 アツシは口を開き、言葉を紡げずに閉じる。
 そしてもう一度、アツシは口を開いた。


「……そっ、それじゃあ、それで……っ」


 顔を真っ赤にしながらリクエストするアツシを見て、タカユキは目を細める。
 そして、クルリと背を向けた。


「冗談ですよ」


 背を向けたタカユキに対し、アツシはあんぐりと口を開く。


「な、っ」
「本当に、あなたの直情は分かりやすいですね。えぇ、実に愚か──もとい、愉快です」
「今『愚か』って言いましたよねッ! 絶対に言いましたよねッ!」
「飲み物はなににしますか? お醤油一本でいいです?」
「それは飲み物じゃないですからッ!」


 キャンキャンと吠えるアツシに背を向けたまま、タカユキは肩を揺らして笑う。

 ……初恋の相手が誰かなんて、くだらない。大事なのは、タカユキの【過去】ではなく【現在】好きな相手だというのに。
 それでも、名も知れぬ過去の相手を素直に妬むだなんて……。


「本当に、愚かですね」


 そう呟いたタカユキは、知っている。
 本当に愚かなのは、そんなアツシが愛しくて仕方ないと思っている自分自身なのだと。

 ……当然、アツシはそのことに気付いていなかったけれど。





【恋バナ】 了




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