そんなに可愛がらないで

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照

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9章【そんなに依存させないで】

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 数名の女性客は、ヒソヒソと小声で話をしている。
 表情から察するに、カナタとツカサのやり取りに歓喜しているようだ。

 おそらく女性客は、リンと似た嗜好を持っているのだろう。


「あっ、あのっ、ツカサさん。少し、恥ずかしいです……っ」


 なんとか声を上げると、ツカサは振り返らずに淡々と言葉を返す。


「『少し』? なら、別にいいでしょ?」
「っ! ……訂正しますっ。『少し』じゃなくて『だいぶ』ですっ」
「ふぅん? そうなんだぁ?」


 すると、ツカサの手がカナタから離された。
 しかしそれはカナタの要望を聴き遂げたわけではなく、単純に空いている席まで案内し終えたからだ。

 だが、なんにせよひと段落したのには変わりない。カナタは一瞬、本気でそう考えた。

 しかし相手は、たった数時間とは言えカナタをっていたツカサだ。


「こちらの席にどうぞ?」


 そう言い、ツカサは仰々しく椅子を引いた。
 これでは【お客様】と言うよりも【お姫様】扱いだ。

 再三言うが、カナタは可愛いものが好きなだけで、決して女の子になりたいわけではない。
 プリンセスに憧れがあったとしても、それはドレスだけ。

 つまり、こうしたツカサの行動には純粋な【困惑】しか生まれない。


「ツカサさん、こういう女の子扱いは──」
「【女の子扱い】じゃなくて、俺のは【特別扱い】だけど?」
「……ずるい、です」


 しかし、どうしたって最後にはツカサへの気持ちを深めるだけ。

 カナタは赤い顔を隠すこともできず、引かれた椅子に座る。
 すると当然、ツカサの手によってそっと、椅子の背が押された。

 周りの女性客が「キャーッ!」と、黄色い声を上げている。
 リンは相変わらず、指の隙間からカナタとツカサのやり取りを見ていた。
 厨房にいるマスターは──怖くて、カナタには確認できない。

 ツカサはカナタの背後に立ち、そのまま突然、距離を詰めた。


「はい、メニュー表」


 カナタにメニュー表を手渡すため、身を乗り出したのだ。

 またしても、女性客が色めきだった声を出す。
 これでは、まるでコンセプトカフェだ。思わず、カナタはそう考えてしまう。

 しかもよく見ると、周りにいる女性客はカナタも何度か見たことがある人ばかり。
 つまるところ、周りにいるのは【常連客】ということ。

 そしておそらく、カナタの読みが間違えていなければ【ツカサのファン】だ。
 仮に読みが間違えているとしたら、周りの女性客は全員、リンと同じ嗜好なのだろう。

 どちらにせよ、この状況がカナタにとって【恥ずかしい状況】だということに変わりはないが。

 今後彼女たちの接客をする場合、カナタはいったいどんな顔をしたら良いのか……。


「ツカサさん、あの……っ」
「どうかした?」
「近い、です……っ。ツカサさんは他のお客さんに、こんなことしませんよね?」


 カナタにしては、なかなか攻めた方だ。
 しかし、いつだって結果は同じ。


「ウン、しないよ? だって俺、さっき言ったでしょ? カナちゃんのことは【特別扱い】しているって。【お客様扱い】じゃないんだよ」


 カナタはどうしたって、ツカサには勝てないのだ。
 



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